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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

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優秀の証明

 

 バルトスとシアスの二人に魔王様が対峙している。


 バルトスは聖剣を構え、シアスは少し後ろに下がった。


「シアス、儂に支援魔法を」


「言われなくとも分かっておる。【全能力強化】【全能力強化】【全能力強化】」


 シアスが魔法を唱えると、バルトスの体全体が薄く輝いた。


 なんだ、あの魔法。筋力向上とか加速を全部使う魔法か? 普通ならどれかを三つしか使えないのに、全部乗せを三つやったのか?


 バルトスが剣を両手で持ち、前衛姿勢になる。


「『痛覚遮断』『限界突破』『身体ブースト』『虚空領域接続』『疑似未来予知展開』」


 なにかものすごいことを言っている。魔王様も驚いているようだ。


「そんなことをしたら、いくら改造しているとはいえ、君の体がもたないよ?」


「儂の心配をしてくれるのか? だが、心配無用だ。死ななければ女神の涙でいくらでも回復できる。それに先程の戦いで分かった。手加減して倒せる相手ではないとな」


 そう言った次の瞬間には、バルトスは魔王様の目の前だった。


「チェストォォ!」


 バルトスの横薙ぎが魔王様を襲うが、甲高い音が聞こえて聖剣が弾かれた。魔王様の結界だろう。あれはセラでさえ壊すのに強力な技を使用した。バルトスが天使並とは言え、そう簡単には壊れないだろう。


 と、思ったのだが、薄く見える結界にひびが入り、直後に砕け散ってしまった。そこへバルトスの追撃が入る。


 だが、流石は魔王様。高速の攻撃を苦もなくさばいている。いつの間にか持っていた黒いナイフを逆手に持って、攻撃を弾いているようだ。


「驚いた。君は天使よりも強い。人族と機械のハイブリッドだからかな? それとも天使達よりも状況判断が早いということかい?」


「何を言っているのか分からんが、これを食らっても余裕でいられるか! 【絶壊】!」


 バルトスの持つ聖剣が黒く染まっていく。その剣による攻撃を魔王様がナイフで受けると、ナイフは粉々に砕け散った。


「魔素を分子レベルで分解する攻撃かい? そんなこともできるんだね」


「次は貴様だ! 【絶壊】!」


 バルトスの黒い聖剣が魔王様を襲った。だが、魔王様はその攻撃を左手で受け止められてしまった。


「魔王様!」


 腕が破壊されてしまうと思って叫んでしまったが、魔王様はバルトスの剣を掴んだままだ。左手が砕け散るどころか、まったくダメージを受けていないようだ。


 いまさら思い出す。魔王様なら何でもありだ。だが、当然というか、バルトスは目を見開いて驚いている。


「き、貴様! 一体何をした!? 儂の絶壊を受け止めるだと!?」


「いや、危なかったね。ギリギリで君と聖剣の解析は終わったよ。もう君の攻撃は僕に効かない」


「な、なんだと……?」


「君の辛さは良く分かる。だが、それは僕や管理者である女神のせいだ。魔族の責任じゃないんだよ」


「何を言っている? 管理者? 女神様のせいだと……?」


「眠るといい。その間に、少しだけ世界を良くしておこう」


 魔王様は右手をバルトスの腹に当てた。直後に右手が光る。


「ガハッ」


 バルトスはその場で膝をつき、崩れ落ちてしまった。


「バルトス!」


 シアスがバルトスの名を叫んだが、反応はない。うつ伏せで地面に倒れたままだ。


「安心するとい。殺してはいない。ちょっとだけ眠らせただけだ」


「馬鹿な! バルトスは女神様から睡眠が不要な体にしてもらったのだぞ! 起きろ! そして戦え、バルトス!」


「ウィンはどこまで馬鹿なのだろうね。人族の体をここまでいじるなんて、許される事じゃない」


「貴様、なぜ、ウィン様の名前を……? それは儂らしか――いや! 貴様! 追放された創造主か!」


 シアスは創造主の事を知っているのか? なら女神が管理者であることも知っている?


 あれ? どうしたのだろう。魔王様がシアスを見て考え込んでいる。


「君……改造されていただけだと思っていたけど、そうじゃないようだね? 僕の事を追放された創造主と言えるのは管理者か天使だけだ。ウィンが人族に教えることはない。本物はどうしたんだい?」


「……私としたことが失敗したな」


 いきなりシアスの口調が変わった。もしかして、魔王様が言う通り天使なのか?


「私はウィン様に仕える天使だ。シアスが力を望んだのでな、私が力を貸しているわけだ」


「体を乗っ取ったのかい?」


「違う。共有している、ということだ。普段はシアス本人だが、今は私が体を動かしている」


「そうか。エネルギー結晶体に君の思考をダウンロードして、シアスという人族の体に埋め込んだんだね?」


「正解だ。人族の体は脆いが、結晶体を埋め込むことでより多くの魔力を引き出すことができるからな。おっと、勘違いするなよ? これはシアスが望んだことだ。無理やり埋め込んだりはしていない。まあ、魔石に私の思考がダウンロードされているのは言わなかったがな」


 エネルギー結晶体ってなんだ? でも思考をダウンロードってどこかで聞いた気がする。それに結晶体を埋め込んで体を共有する?


「まさか、リエルにも同じことをするつもりか!」


「あの女にそんなことはしない。あの女の精神波長は、ウィン様が操るのに最も適した波長だからな。魔石など埋め込まずとも精神を乗っ取ればいいだけの話だ」


「乗っ取られたリエルはどうなる?」


「最も適した精神波長だからな、乗っ取られた本人の意識は永遠に戻ることはない――ほう? 恐ろしいほどの殺気だな?」


 こぶしをにぎりしめて一歩前に踏み出す。そうしたところで急に肩を掴まれた。魔王様だ。


「落ち着くんだ、フェル。例え乗っ取られても、僕が治すから」


 そうだ。魔王様がいる。例え乗っ取られたとしても魔王様なら何とかしてくれる。落ち着くんだ。怒りに身を任せちゃだめだ。


 そんな私を見ていた天使はニヤリと笑った。


「そう上手くいくかな? これにはイブ様も協力している。例え創造主といえども、元に戻せる保証はないぞ?」


「イブが協力、ね。それは僕よりもイブの方が優秀だといいたいのかい?」


「違うと言うのか? なら、死んでいった創造主達は誰に殺された? その答えが、管理者は創造主よりも優秀だという証明だろう? それはお前も例外ではない」


「創造主を殺せることが優秀な証明だと思っているのかい? 彼らは管理者をどうとでもできた。だが、大半はそのまま何もせず死んでしまうか、管理者を止めただけ。それは彼らが管理者達を子供のように思っていたからだ。それにいつか直ってくれるとも思っていただろう。君達がいまだに活動できているのは、彼らが非情になりきれなかっただけだ」


「非情になれない、そんなことだから楽園計画が失敗するのだ。魔王が動かないと判明した時点で手を打てば、いくらでもやり直せたものを、創造主達は人族を信じるなどと言って傍観していたからな。だが、そんなことはもうどうでもいい。すべての創造主と管理者がいなくなった今、ウィン様が人界のすべてを管理してくださるからな。すべてが整然と管理された秩序のみの世界……そんな素晴らしき世界を作ることが創造主よりも優れていたことの証明になるだろう」


 何を言っているのかさっぱりだ。だが、一つだけ分かる。そんな風に管理された世界なんて素晴らしいどころか最悪だ。


「君の考えは分かったよ。じゃあ、お喋りはここまでにしようか」


「私を倒す気か? だが、この体は勇者候補の体を改造したものだ。タダの天使よりもはるかに強い。バルトスはダメだったようだが、私は違うぞ?」


「そうか。なら本気を出してあげよう。君には友人を馬鹿にされたからね。ちょっと怒りが沸いているんだよ」


「そんな感情に振り回されているから創造主は愚か……なの……だ?」


 いつの間にか魔王様が右手に大きめの魔石を持っていた。シアスはその魔石と自身の胸元を見て驚く。


「い、いつの間に! 馬鹿な! や、やめ――」


 魔王様は魔石を握り潰して破壊すると、シアスは糸が切れたように地面に倒れこんだ。よく見るとシアスが着ているローブの胸部に穴が開いており、胸には何かを引きちぎった様な跡があった。


 魔王様はすぐさまシアスのローブを探って試験管を取り出す。そしてそれをシアスに飲ませると、胸部がみるみるうちに修復された。


「あの、今のは一体……?」


「うん、まあ、色々。結晶体を無理やり引きちぎったからね。怪我が治るようにエリクサーを飲ませたんだ。さて、これで二人は倒した。まずは二人がおかしくなっている部分を治そう。それに記憶も戻してあげないとね。そうしたら、すぐに大聖堂へ向かおう」


 誤魔化された気がする。でも、なんだったんだ? 早いとか遅いとかじゃなくて、本当に一瞬だった。自分の時間が飛んだような……いや、まさかな。


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