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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

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使徒アムドゥア

 

 聖都は大騒ぎだ。


 当然だな。いきなり色々なところから邪教扱いされた上に、南門が破壊された。理解が追い付いていないだろう。


 それに爺さんたちが魔族の襲撃だと、言いふらしているようだ。慌てて行動して怪我とかしないで貰いたいが大丈夫だろうか。


 念話用魔道具から声が聞こえてきた。教皇の声か?


『皆、落ち着くのだ。魔族が攻め込んできたとしても、この聖都には結界が張ってある。魔族や魔物が入ってくれば、即座に拘束できるだろう。女神の力を信じるのだ』


 騒ぎが収まったと思ったら、今度は歓声が上がった。逆に士気を上げてしまったかな。結界が無くなれば、また士気は下がると思う。それまで待機しよう。


 念のため、結界がどれほどのものなのか確認しておくべきか。従魔達の事は信用しているが、いざと言う時のために知っておく必要はあるだろう。


 破壊した南門の近くへ歩き出す。瓦礫を押しのけて、聖都へ入ろうとしたら、ドレアに止められた。


「フェル様、ここは結界内に入るなら私が行きます。こんなところでフェル様に何かあったら大変ですからな」


 嬉しい事を言ってくれる。でも、ドレアは自分自身で試したいだけだと思う。ルハラでも私のユニークスキルもワザと受けていたし。でも、そんなことは言わないでおこう。


「分かった。ならよろしく頼む」


 ドレアが頷いてから聖都へ足を踏み入れた。


 するとドレアが苦しそうに呻きだす。


「大丈夫か!? 急いで外へ出ろ!」


 ドレアがこちらを見て、苦しそうにしながらも右手を上げた。大丈夫、ということだろう。


 見たかぎり倒れそうにはない。でも、結構苦しそうだ。研究したいからと言っても、長く結界内にいるのは体に悪いと思う。


 ドレアがゆっくりとこちらへ戻ってきた。結界の外に出てから、大きく深呼吸をする。


「これは驚きましたな。フェル様のユニークスキル並みの効果がある様です。毒や麻痺などの効果はありませんが、その分、弱体効果が激しいですな。我々の身体能力が人族並み、もしくはそれ以下になるでしょう」


 そこまでか。自分のユニークスキルには結構自信があったんだけどな。努力して手に入れたスキルでもないので、そこまで悔しくはないが、負けるというのは嫌な気分だ。


 でも、その嫌という気持ちはすぐに解消されるだろう。各施設を従魔達が襲撃しているんだ。結界が解けるのは時間の問題のはず。


 それを待っていたら、魔道具から声が聞こえてきた。ジョゼフィーヌの声だ。


『フェル様、施設の破壊、完了致しました』


「早いな。助かる。聖都へは入らず、近くで待機していてくれ」


『畏まりました』


 これで残りは三つか。ジョゼフィーヌは別格だから、他はまだ掛かるかな。


 連絡を待っていると、大聖堂の方から、数十人の人族がこっちに向かってきた。青と白を基調にしたおそろいのローブを着ている。


 ただ、その中に黒いコートを羽織った男がいた。アイツがアムドゥアだろうか。


 その男が、一人でこちらに歩いて来た。十メートル手前くらいで立ち止まる。


「俺は四賢の一人、使徒アムドゥアだ」


「そうか。私は魔族のフェルだ。リエルを取り返しに来た。邪魔をするなら容赦しない。だが、邪魔をしないなら何もしないぞ。どうする?」


「もちろん邪魔をする。そもそもお前達はこの結界の中に入れないだろう? いや、入った瞬間に動けなくなるはずだ。諦めるんだな」


 さっきドレアが試したから動けなくなることはない。それに結界を維持している施設もすぐに破壊される予定だ。いちいち言ったりはしないけど。


「一つ聞いていいか?」


「俺は何も答えない。門を破壊したことは不問にする。とっとと失せろ」


 はて? アムドゥアはそもそもリエル側だったはずだ。リエルが教皇になることを望んでいるのか? それともリエルが乗っ取られている事を知らない?


「おい、もしかして知らないのか? リエルは乗っ取――」


「何も答えないと言ったはずだ」


 食い気味に遮られた。余計な事を言ったり、聞かれたりしたくない、という事か? よく見ると苦虫を噛み潰したような顔をしている。アムドゥアにとっても不本意なのかもしれない。


 だが、状況が分からん。なんでアムドゥアは女神側に付いているのだろう。なんとか状況を聞きだしたい。念話ができればいいのだが……こういう時はヴァイアに相談だ。


『ヴァイア、聞こえるか?』


『フェルちゃん? 何か問題?』


『今、目の前にいる奴と念話で話をしたい。チャンネルが分からないんだが、何とかできるか?』


『腕輪を渡せれば、この念話ネットワークを使えるんだけど、それじゃダメかな?』


 その手があったか。でも、どうやって渡す? いきなり腕輪を投げつけても拾って身につける訳はない。それに周囲には知られたくないようだし、説明する訳にもいかない。


『フェル様、私がやりましょう』


『サルガナ? やるって何をだ?』


『どうやらフェル様はあの男と念話で話をしたいご様子。影を使って、私の予備の腕輪をあの男に着けさせましょう』


 なるほど。影なら結界の中に入っても大丈夫と言う事か。もし弱体化しても、腕輪を着けるだけなら問題ない気がする。


『分かった。頼む。私はアムドゥアの気を引こう』


『よろしくお願いします』


 改めて、アムドゥアの方を見る。辛そうな顔をしているが、何か理由があるのだろう。念話でそれを聞けば余計な戦いをする必要もないはず。なんとか理由を聞いてこちらの味方になって貰いたい。


「私はリエルを助ける。悪いが引くつもりはない」


「結界がある以上は無理だ。お前達に勝ち目はないぞ。この場にとどまってもいいが、リエルが教皇になるところを見ることになる。それは……お前にとって辛いものになるはずだ」


 何も答えないと言った割りには話はしてくれるようだ。質問が駄目だという事なのだろうか。


 それと最後は小声だった。周囲に聞かれないようにしたのだろう。私に気を使っているのかもしれない。胡散臭いがいい男とリエルは言っていたが、概ね正しい評価のようだ。


 なら少し動揺させてやろう。気を引かなければいけないし、ちょうどいいはずだ。


「今、結界を維持している施設を破壊しようとしている。悪いが結界が無くなるのは時間の問題だぞ」


「なんだと? いや、ハッタリだ。施設の場所が分かる訳がない」


「認識阻害の事か? それは特に問題なかったぞ」


 メイドギルドのメイド達が調べてくれたみたいだからな。他の従魔達からの連絡もないし、教わった場所にちゃんとあったのだろう。


「そんなはずは――なんだ?」


 アムドゥアが右腕を気にしている。


『フェル様、終わりました。魔力も込めておきましたのですぐに使えます』


 サルガナが任務完了の報告をしてきた。影移動のように腕輪を移動させて、アムドゥアに付けてくれたのだろう。よし、すぐに念話だ。


『アムドゥア、聞こえるか? お前の腕に念話用魔道具を付けた。気付かれないように普通にしろ』


 アムドゥアの方を見ると、目を見開いていた。そして慌てて、右手を下げる。


『馬鹿な、どうして念話ができる? 聖都の中は特定のチャンネル以外念話はできないはずだぞ?』


『私の親友に優秀な魔法使い、いや、優秀な魔女がいるんでな。この程度なら余裕なんだよ』


 ヴァイアから嬉しそうな声が聞こえてきたけど、今は無視。


『そうか。だが、どうしてこんなものを?』


『いや、お前、リエル側だろ? 理由があって女神教の奴らに従っているんじゃないのか?』


『お見通しだったか。その通りだ。家族を人質に取られた。リエルが教皇になるまで解放してもらえない。リエルの事は何とかしてやりたいが……すまん』


 そういうことか。おそらく教皇がそうさせているのだろう。女神教は本当にどうしようもないな。というか女神がどうしようもない。


『俺がお前達との戦いで、手を抜いたりしたら家族が殺される。結界内なら俺でも魔族に勝てるはずだ。お前達を殺したりしたらリエルにあわせる顔がない。すまないがこのまま帰ってくれ』


『家族の場所はどこだ?』


『なに?』


『家族の場所だ。どこかに捕らわれているのだろう? 助け出すから場所を言え』


『場所は聖都の中だぞ? お前達魔族は入れない』


『さっき言っただろう? 結界を維持している施設は破壊工作中だ。しばらくすれば結界はなくなる』


 ヴァイア達に任せるという方法もあるが、危険すぎる。やるなら従魔達にやって貰おう。それに、そろそろ破壊完了の連絡が来るはずだ。


『本当……なのか? だが、施設は五ヶ所もある。全部を破壊できるのか?』


『待て。今、なんて言った? 施設は五ヶ所? 聖都の東西南北以外にもあるのか?』


『そうか、これは四賢しか知らない事だな。調べても分かる訳がない』


『もう一つはどこにある?』


 急いでジョゼフィーヌをそこへ向かわせよう。


『閉鎖された遺跡だ。パンドラ遺跡。そこを立ち入り禁止地区にしてその中に施設を作った。他の四つとは違い遺跡の機能を使って魔力を自給自足しているから無人の施設だがな』


 くそ、ここに来る途中に通ってきた遺跡か。しかし、どうする? ここからじゃ遺跡まで一日掛かる。今から戻るという訳にはいかない。


『も、申し訳ありません!』


 いきなりメノウの声が聞こえた。そうか、念話は皆で共有している。アムドゥアとの会話を聞いていたのだろう。


『メイドとしてなんてあるまじき失敗! 全員でギロチンに――』


『やめろ。言ったはずだ。失敗しても私が何とかする。結界の中で戦えばいいだけの話だ』


 簡単な話だ。例え人族並みの身体能力になったとしても魔力が落ちるわけじゃない。戦えないという訳ではないだろう。


『しかし! そうしなくては私達の気が――』


『やめなさい、メノウ。主人が許しているのです。それ以上の罰を求めるのは、主人の命に逆らうことですよ』


 メノウを叱咤する声が聞こえた。メノウは『メイド長?』と言っている。なんでこの念話に入って来れるんだ?


『ステアだよな? どうやってこの念話に?』


『実はメーデイアでヴァイアさんから腕輪を頂いておりました。そして、町にお客様がいらっしゃいましたので、一緒に聖都へ向かっていた所なのです』


 客? 誰の事だ?


『困っているようだな? こんな楽しそうな事に我を呼ばんからそうなるのだ』


 この偉そうな声。ふてぶてしいというか、なんというか。


『もしかして大狼か?』


『久々に村へ顔を出したら、大半の者がいないではないか。詳しく聞いたら村が襲われたとか。しかも我が配下の狼に重傷を負わせるとはな。我も女神教に復讐する権利があるのだから、大急ぎで追って来たのだ』


 確かに連絡しなかったけど、修行中だと思ったからな。それに私は大狼のチャンネルを知らない。


 いや、そんなことはどうでもいいな。


『今、どのあたりにいる?』


『ふん、ステアの話では、ちょうど話題に出ていたパンドラ遺跡と言うところにあと少しで着くらしい。詳しくは知らんが施設とやらを壊せばよいのだろう? それは我に任せるがいい……我が来ていることは、聖都に乗り込む時に言いたかったのだがな。我の計画が台無しだ』


『いえ、私の計画ですよ、ナガルさん』


『そこを張り合うな。というか、なんでステアは魔物の言葉が分かるんだ?』


『それは、この念話用魔道具がバイリンガル対応だからだよ!』


 ヴァイアの嬉しそうな声が聞こえた。色々すごいが、それは後で褒めよう。今はこっちに集中しないと。


『どうやら、大狼のおかげで結界は何とかなりそうだ。アムドゥア、ほったらかしで悪かったな。家族の場所はどこだ。助け出してやる』


『すまない。北東にある貴族街だ。その中で一際大きな家がある。そこに人質として捕まっている』


『分かった。結界が解けたら、私の従魔達を向かわせる』


『頼む。だが、助け出すまでは俺と真剣に勝負しているように見せてくれ。手を抜いている事がバレたら家族が危ない。家族が無事なら俺は死んだってかまわないから遠慮なくやってくれ』


『お前が死んだら、私が家族やリエルに謝罪しなきゃいけないだろうが。そんな面倒な事をするつもりはないぞ。サルガナ、殺さない程度に戦えるな?』


『お任せください。多少は怪我をさせてしまいますが、死には至らないでしょう』


 色々と話はまとまった。後は結界が無くなるのを待つだけだな。


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