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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

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幸せの定義

 

 食事をした後、部屋へ案内された。


 案内したハインが「何かあればベルを鳴らしてください」と言って部屋を出て行く。それを見届けてから、ベッドに腰かけた。そして仰向けに倒れる。両手を左右に放り出して大の字だ。


 このまま眠ってしまいそうだが、そうもいかない。色々やらなくてはいけないし、この後、皆で大浴場へ行く予定だからな。アンリとスザンナが背中を流してくれるらしい。まあ、付き合いは大事だ。


 前回泊まった時はリエルがいた。初対面だったのに遠慮のない奴だった気がする。今頃リエルはどうしているだろう。意識を奪われているから眠っている状態なのだろうか。


 女神教、いや、女神の奴め。下らないことにリエルを巻き込みやがって。人族になりたいなら、アビスみたいに魔素で体を作ればいいんだ。他人の体を乗っ取ろうとするなんて何を考えているのだろう。


 まあいい、どんな理由があろうとも、今回ばかりは怒り心頭だ。ただ、相手は腐っていても管理者。私に倒せるはずがない。魔王様にボコボコにしてもらおう。


 さて、考えるのは後だ。風呂までに色々とやっておこう。


 まずはメノウに連絡してどんな状況か確認だ。そろそろ情報が集まった頃だろうし、明日にはメーデイアに到着することも伝えておかないとな。


 念話をメノウのチャンネルに送る。ちょっと間が空いてから反応があった。


『フェルさんですか? メノウです』


「ああ、フェルだ。今、大丈夫か?」


『はい、大丈夫です。こちらも連絡しようと思っていました。調べた情報をお伝えしますね』


 メノウと情報交換をした。


 どうやらリエルを乗せた馬車は、まだ聖都へは到着していないようだ。馬車の中は見えないが、リエルが居るのは探索魔法で判明しているようで、今もメイド達が馬車の近くで気配を消して同行しているらしい。


 頼んでおいてなんだけど、メイドってそんな事できたっけ? いや、早めに常識という物を頭から追い出しておこう。


『行先は聖都エティアにある大聖堂という場所で間違いないと思います。ただ、今、聖都は……」


「なにかあるのか?」


『そうですね。今、ちょうど聖都の上空に空中都市が来ています。女神教徒の話では、女神が降臨される日とされているようですね。その期間は巡礼の日、とも言われていて、人界中の女神教徒が集まってくるとか』


 空中都市、確か管理者の女神がいるところだな。そっちは魔王様にお任せすればいいだろう。私はリエル奪還だけに集中すればいい。


 それにしても、女神教徒が集まってくる日、か。女神教徒が多いのは面倒な気もするが、ちょうどいいかもしれない。女神教が潰れて、新しい宗教が作られる日にしてやる。


「大体分かった。そのまま情報収集を続けてくれ。明日にはメーデイアに到着するから、そこで合流しよう」


『はい、では、お待ちしています』


 メノウの方はこれでいいだろう。


 メイドギルドにも女神教についての声明を出してほしいけど、それはもっと後だからな。


 他には――そうだ。まず、セラに説明しておくか。魔族として女神教を潰すけど、ちゃんと理由がある行動だと知ってもらわないと。後から言うとこじれる感じがする。根回しって大事。


 以前教わったセラへのチャンネルに念話を送る。


「セラか? フェルだが、いま話しても大丈夫か?」


 数秒待ったが、反応がない。おかしいな、チャンネルは間違っていないと思うんだけど。


『フェル……久しぶりね』


 なんだ、聞こえているじゃないか。


「ああ、久しぶりだな。話したいことがあるんだが、いまいいか?」


『女神教を潰すという話?』


 なんでそれを知っているんだ? このことは村の皆とクロウ達くらいしか知らないと思うんだけど。メノウもメイド達にはそんなことは言わないと思う。どこから知ったんだ?


「セラ、なんでそれを知っている?」


『……ちょっと伝手があってね。女神教を潰すというのなら、別に構わないわよ。私は女神教に関わるつもりもないから』


 なんだ? 随分と物分かりがいいな。というよりも、なんだか元気がないように思えるが。


「そうか。ならそうさせてもらう」


『もういいかしら?』


 なんだかな。張り合いがないというか、以前と変わり過ぎじゃないだろうか。心配しているわけじゃないが、こうも物分かりがいいと、逆に不安になる。


「私の話は終わりだが、セラの方はなにかあるか? その、元気がないようなので、別の意味で心配だ」


『……そんなことはないわ。ちょっと疲れているだけ。でも、ありがとう』


「そうか、ならいいんだが」


 疲れる? 勇者であるセラが?


 なんだろう、声を掛けづらいな。セラも同じなのか、何か言いたそうな雰囲気がある。なにもしゃべっていないのに念話を切ろうとしない。私の方からも切りづらい。どうしようかな。


『フェル……』


「なんだ? 言いたいことがあるなら何でも言ってくれ」


 蚊が鳴くような声で名前を呼ばれた。本当にどうした?


『私、いえ、私達はどうやったら幸せになれると思う?』


「はぁ?」


 何を言っているのだろう、この勇者は。セラの事は知らないが、私まで幸せじゃない感じで言われた。幸せかどうかと聞かれたら、答えは分からない、だ。でも不幸だとは言わないぞ。


「あのな、幸せの定義なんて本人の匙加減だろう。私なんか朝食に卵を使った料理がでるだけで幸せだぞ」


『ふふ、そういう話じゃないんだけどね……でも、フェルらしくていいわね』


 なんとなく、儚げな笑い方だ。本当にどうした。


「おい、なにか悩み事があるのか? 私で良ければ聞いてやるぞ。一応、女神教を潰す件の許可を貰えたし、それくらいのカウンセリングはしてやる」


『そうね、なら、教えて欲しいことがあるわ。永遠に会えない人に会いたいとしたら、どうすればいいかしら?』


 永遠に会えない人? 誰か亡くなったという事か? セラは七十年も生きているとか魔王様は言っていた。その間に誰かを亡くしたのだろうか。そういえば、魔王様は恋人がいたかもしれない、とも言っていたな。もしかしたらその関係かもしれない。


「これは私の意見だが、永遠に会えないなら諦めろ。その人を想うことは無駄じゃない。だが、絶対に会えないのに会おうと努力するのは無駄だ。すっぱり諦めるのが一番いい」


 魔王様は諦めきれなかったのだろう。だから奥さんと娘さんを蘇らせた。でも、それがもっと深い悲しみに繋がってしまった。諦める、ということは重要だと思う。まあ、同じ立場だったなら難しいだろうけど。


「偉そうに言ったがな、同じ立場だったら私も諦められないだろう。だから、なにが正しいのかは分からない。あくまでもその立場でない者の意見として聞いてくれ」


『そう……ね。なにが正しいかは分からない、か。ありがとう、フェル。色々と決心がついたわ』


「そうか、それなら何よりだ。他には何かあるか?」


『いえ、ないわ……それじゃ、フェル、久しぶりに声を聞けて嬉しかった。今日はもう眠いから休ませてもらうわ。おやすみなさい』


「ああ、おやすみ」


 セラとの念話が切れた。


 元気になった、のかな? まあ、声に力が戻っていたようだし、大丈夫だろう。でも、もう寝るのか? まだ、時間が早すぎると思うんだけど。


 まあいいか。アビスの中にいた時も結構寝ていたし、寝るのが好きなのかも知れない。うん、セラのどうでもいい情報をゲットしてしまった。


 さて、今日やることはもうないかな。なら、明日のためにゆっくりしよう。いざという時に力を出すためにも休むことは重要だ。


 ベッドに仰向けになると、扉を叩く音が聞こえた。


「フェル姉ちゃん、お風呂に行こう。一番風呂は譲らないけど、代わりに九大秘宝の一つ、ジェット大王イカを見せる」


「たとえアンリでも一番風呂を譲る気はないぞ。それよりもジェット大王イカってなんだ?」


「魔力でお風呂を泳ぐ大王イカ。その姿はまるでタコ。必見」


「いや、イカなんだよな?」


 これは見ないといけない気がする。仕方ない、ヤトから借りているおもちゃのアヒルと勝負させるか。


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