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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

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魔王の部下

 

 目の前でサルガナが正座をしている。


 少し前にメイドに連れられてディアとサルガナが帰って来た。全員がサルガナと距離を取っている感じだったな。怖がられてはいないようだが、なんというか微妙な感じだった気がする。何したんだ。


 クロウにお願いして、部屋を一つ借りた。説教ということでサルガナを正座させているが、私よりも年上であるサルガナを正座させるのは、なんというか居心地が悪い。


 だが、やらなければいけないだろう。私は魔王だし、サルガナは部下だ。なら年上でも言っておかないと。


「サルガナ、人族と友好的な関係になると言っただろう。具体的に何をしたのかは知らないが、やり過ぎだと言われたぞ。力加減を間違えるな。人族は我々と違って脆いのだからな」


「フェル様、心外です。やり過ぎていません」


 やり過ぎていない? おかしいな。オルウスはやり過ぎないで欲しいと言っていたけど。でも、どっちも嘘をついている様には見えない。ちゃんと確認しておくか。


「具体的に何をしたんだ?」


「はい。教会へ行ったところ、入り口のところで異端審問官という者達に囲まれました。隠れていたようでしたがバレバレでしたね」


 異端審問官か。女神教が送った刺客みたいなものだろうか。でも、異端審問官のトップはアムドゥアなんだよな。襲ってこないように、審問官達を抑えて欲しいのだが。まあ、それはいいか。今は、サルガナが何をしたかが重要だ。


「それでどうしたんだ?」


「異端審問官を全員気絶させました。誰も殺してはおりません。大きな怪我もないはずです」


「そうなのか? 特にやり過ぎたというほどでもないが……サルガナ、どうやって気絶させた?」


「はい、スザンナさんのマネをして影のドラゴンを作ってみました。それで異端審問官を飲み込んだ感じですね」


 しまった。サルガナは影使い。ヤトのような影移動とは全く異なり、影その物を操れる感じのユニークスキルだった。


「もしかして、それを周囲の人達にも見られたのか?」


「おそらく見られたと思います。異端審問官が三十人近くいましたので、それを飲み込めるだけの大きさにしましたので。あ、ドラゴンと言っても影なので食あたりとかはありません」


「そんな心配はしてない」


 迂闊だったな。護衛をしろとは言ったが、何をしてもかまわないという話じゃない。住民に怖がられない程度の強さで護衛してもらう必要があったのだが。


 急に廊下が騒がしくなった。そして勢いよく扉が開く。


「フェル様! このオリスア、異端審問官とやらを五十人ほど捕まえました! 褒めてくださっても構いませんよ!」


「……五十人?」


「はい! ヴィロー商会とやらの支店に行く間、妙な視線を感じましたので、女神教の奴らだと確認してから叩きのめしました! あ、もちろん峰打ちですので、誰も死んでおりません!」


 峰打ち……? オリスアの腰に差してある剣を見る。それって魔剣「狂喜乱舞」じゃないのか? 傷をつけられると、どちらかが死ぬまで戦い続けてしまうという魔剣だと思うけど? いや、峰打ちだから平気なのか? でも、両刃だよな? どうやって峰打ち?


「えっと、そうか。オリスア、よく……やった? ところで捕まえた奴らはどうした?」


「詰所とやらに運びました!」


 運んだ? 五十人を?


「どうやって運んだ?」


「運んだ方法ですか? もちろん引きずってですね。こう、ヤトが持っていたアラクネの糸を網のようにしまして、その網にまとめて入れてから、引きずるように町の大通りを歩きましたが?」


「オリスア、サルガナの隣に正座しろ」


「なにか褒美を頂けるのですか? 分かりました! 正座します!」


 ポジティブ過ぎないだろうか。なんで正座をして褒美がもらえると思ったのだろう?


 しかし、コイツらルハラで何をしていたんだ? 魔族が人界で普通に過ごしたら驚かれるというか怖がられるだろうに。ルハラでそういう事は学べたと思うのだが。


『フェルちゃん、ちょっといいかな?』


 ヴァイアの声が頭に直接響いた。念話か?


「ヴァイアか? どうした?」


『うん、あのね、ドレアさんが町の外へ行っちゃったんだけど、どうしよう?』


「……なんでだ?」


『よく分かんないけど、町の外がちょっとうるさいから黙らせて来ますって言ってたよ』


 町の外がうるさい? 黙らせてくる? ヴァイア達の護衛の任務をほったらかして何やってんだ。


「分かった。ヴァイア達の対応は終わったか? 終わったなら屋敷の方へ戻って来てくれて構わないぞ。ドレアには私から連絡しておくから」


『うん、分かっ――え、なに、ノストさん? 上? うわぁ!』


「どうした!」


 ヴァイアが驚きの声を上げている。何があった?


「返事をしろ! どうした!」


『あ、う、うん、ごめんね。ドレアさんが戻ってきたんだけど……』


「そうなのか? なら、何に驚いたんだ?」


『うん、空を昆虫がいっぱい飛んでいてね、その昆虫達が異端審問官の服を着ている人達を運んでいるみたい。太陽が隠れるほどだったからびっくりしちゃったよ』


 昆虫……あの馬鹿。大量の虫を呼び出すなよ。大量の虫がわさわさしていると生理的に辛い……うお、想像しただけで鳥肌が立った。


 それに太陽が隠れるほどの虫って、町がパニックになるだろうが。


「すぐに虫をしまえと伝えてもらえるか? あと、急いで帰って来るようにも伝えてくれ」


『うん、伝えておくよ。こっちもお婆さんの店で食べ物を買い終わったから帰るね。そうそう、お婆さん、フェルちゃんに会いたがってたよ』


「何か文句があるとかじゃないよな?」


『あはは、どうかな? 今もお店は人でいっぱいだから、忙しくなったって怒っているかも? 嬉しそうに対応していたから文句じゃないと思うけどね』


 忙しくなった文句ならエルフに言って欲しい。私のせいじゃない。だが、婆さんは元気でやってたか。今のところはその情報だけで十分だ。今度会う時はリエルを救い出した時だな。




 しばらくすると、ドレアがやって来た。どうやらヴァイア達と帰って来たようだな。


「フェル様、急いで帰ってくるように聞きましたが――どうして二人は正座しているのですかな?」


 ドレアが正座しているサルガナとオリスアを見て、不思議そうに言った。


「ドレア、お前も正座だ。そこに座れ」


 ドレアは首を傾げながらオリスアの横に座った。左からサルガナ、オリスア、ドレアの順番に並んで座っている。


「まず、ドレア。なんで虫を呼び出した?」


「町の外に女神教の奴らがいましたので捕まえに行きました。結構おりましたぞ、おそらく百人近いでしょう。全員武器を持って今にも町へ襲って来るようでしたからな、武装を解除して冒険者ギルドの方へ運んでおきました」


 町の外へまで異端審問官達を捕まえに行ったのか。夜中に襲われても困るからありがたいと言えば、ありがたいけど。


 ドレアの話を聞いた後、オリスアがドレアを睨んだ。


「ふん、ドレアよ。私より捕まえた人数が多いからと言っていい気になるなよ!」


「いい気になどなっておらん。だが、どちらが上かは理解できただろう? 強いだけでは、フェル様の役に立てんぞ?」


「ぬう! なら、今からもっと捕まえてくる! 吠え面かくなよ!」


「やめろ」


 なんだろう。頭痛い。もしかして私に命令されたから、ちょっと張り切ってる? むしろ、いつもより手を抜いてもらった方がいいのだろうか。


 それよりも、だ。もうちょっと人族の事を理解してくれないかな。人族と友好的になろうとしているのに、魔族の力を見せつけてどうする。怖がられてしまうだろうが。まあ、私もよくやるけど。


 ちゃんと説明しないとダメなんだろうな。私もよく分かっているわけじゃない。だが、コイツ等よりは人族を分かっているつもりだ。それを教えてやろう。


「お前達、いいか? 我々魔族は人族と友好的な関係になる。これは村でも伝えたな?」


 三人が頷く。言葉として理解はしているのだろう。でも、それだけじゃダメだ。


「勇者以外の人族は弱い。何百人いようと私達の敵ではないだろう。そんな人族が、魔族の力を見たらどう思うかちゃんと考えてくれ」


 三人とも考えているようだ。そしてサルガナが手を挙げた。


「我々に恐怖を感じる、と?」


「その通りだ。人族は魔族とは違う。魔族ならそんな力を見たら相手に敬意を払うだろう。だが、人族が恐怖を感じたときの行動は、服従するか、排除しようとするかだ。少なくとも友好的な行動はないと思う。もちろん、そのどっちでもない場合もあるが、それは相手と信頼関係を結んでいる場合だけだ」


 私はルハラでユニークスキルをヴァイア達に見せた。ヴァイアとリエルは怖かっただろう。でも、スキルを使った後も普段通りにしてくれた。信頼関係の賜物だと思う。ヴァイアには怒られたけど。


「いいか? 何をするにも人族の目を気にしてくれ。力を使うなとは言わないが、必要以上に見せつけたり、簡単に使ったりするのはダメだ。人族は魔族に攻め込まれた過去がある。またいつ攻め込まれるかもしれないという恐怖があるだろう。私達が力を振るうことでその恐怖が蘇ってしまうかもしれない。それだけは避けたいからな」


 三人とも頷いた。多分、分かってくれたと思う。これからは大丈夫だろう。


 問題はもうやってしまった後だという事だ。町へ行ってフォローしないとダメかな。クロウに相談してみるか。


 えっと、確かこのベルを鳴らすとオルウスが来てくれるとか言ってたな。


 ベルを手に取って振ると、チリンチリンと音が鳴った。すると扉が開き、オルウスが入ってきた。早すぎるだろう。外で待ってたのか?


「お呼びでしょうか、フェル様」


「コイツらが町でやり過ぎたようだから、魔族は怖くない、というアピールをしておきたい。何かいい手はないだろうか?」


 オルウスは微笑むと、「その必要はございません」と言った。いや、必要だよな。私の今までの努力が無くなりそうなんだけど。


「町の住人は怖がっておりませんよ。フェルさんの部下だという情報を流しましたので、特に騒動にはなっていません」


「私の部下だという情報が流されて、怖がらないってどういう意味だ?」


「フェルさんの部下が意味もなくそんなことをすることはない、と思っているようですね。フェルさんはこの町で色々な事をされましたから、その信用があるという事ですよ。町の皆さんは最初こそ不安がっていましたが、フェルさんの部下だという情報が伝わったら、すぐに普段の生活にもどったようです」


 私がこの町で信用されているという事か。なんというかくすぐったい感じだ。


 すこしだけ身もだえしていると、オリスアが立ち上がった。正座を解いていいとは言ってないんだけど。


「なるほど! 流石フェル様! こういう事を見越して信頼を得ていたのですか! 暴れてもフェル様の信頼がある限り問題ないようですので、これから異端審問官を捕まえてきます!」


「やめろ。今日はもう大人しくしていてくれ」


 オリスアとは、いや、三人とはもっと話をしないといけないようだな。誰が一番私の役に立てるのか競い合っている気がする。余計な手間を掛けさせないで欲しいのだが……まあいい。まだやることはあるが、コイツらの意識改革は重要だからな。


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