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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十一章

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すべての元凶

 

 魔王様はピラミッドで戦友と語らっている頃なのだろう。だが、こちらも急ぎだ。申し訳ないが、割り込ませてもらおう。


 テントを出てから少し離れて念話用の魔道具を取り出す。そして魔王様へ念話を送った。


「魔王様、今、お時間よろしいですか?」


『やあ、フェル、もちろん構わないよ。どうかしたのかな?』


 何となくではあるが魔王様は機嫌がよさそうだ。もしかして工場の時のようにすこしお酒を嗜まれているのだろうか。


 ニアを助け出すときも許可は貰えたし、今回も大丈夫だとは思う。それに駄目だって言われてもそんな命令は聞くつもりは無い。でも、連絡は大事。


「リエルが女神教の奴らにさらわれました。ですので、助けに行きます。念のため魔王様のお耳に入れておきたいと思いまして」


『今回は僕の許可を取ろうともしないんだね? もう、助けに行くことは心に決めているということかな?』


「はい、申し訳ありません」


 魔道具から魔王様が笑う声が聞こえた。


『大事な友達なんだね? なら、もちろん構わないよ。ただし、前回と同じ条件にしてもらうよ』


「えっと、誰も殺さず、能力の制限も解かず、魔力高炉にも接続しない、ですね?」


『いや、いざとなったら制限も解いていいし高炉へも接続していいよ。そもそも制限をしていたのは誤って人族を殺さないようにするためだからね。だから人族を殺さないということさえ守ってくれればいい。ただ、制限を解除するときは注意するように』


 なるほど、制限を解除すると私は魔王モードになる。はっきり言って普通の人族にはそばにいるだけでキツイかもしれない。注意しないとな。


「畏まりました」


『そうそう、魔力高炉だけど、第五魔力高炉まで許可をだしたから、そこへも接続していいよ』


「そういうものなのですか? てっきり、三つ以上接続できないのは私の根性が足りないのかと」


『あれは根性を出してもダメだね。不正な接続として相手へウィルスを送り込むからしない方がいいよ。魔眼で情報にプロテクトをかけた所を見るようなものかな』


 そういうものなのか。


 そうだ、魔眼で魔王様に聞いておきたいことがあった。


「魔王様、魔眼を使うと頭が痛くなるのですが、使い続ければ頭痛も減ったりしますか?」


『いや、減らないと思う。頭が痛くなるのは、図書館の膨大な情報を読み込むことで脳が悲鳴を上げているからだよ。何度頭痛がしても、脳の処理能力があがるわけじゃないからね』


 それじゃ回数を重ねても意味はないという事か。極力しないでおこう。


 さて、魔王様に報告することや聞きたいことは以上かな。これ以上魔王様の邪魔をするのもなんだし、そろそろ失礼しよう。


「では、連絡は以上です。お忙しいところ、すみませんでした。では失礼しま――」


『ああ、フェル、待って。こっちからも情報を提供しよう』


「情報の提供、ですか?」


『うん、さらわれたのは聖女の子だね?』


「はい、そうです」


『村での結婚式で言ったと思うけど、あの子は女神に狙われているんだ』


 女神に狙われている? 確かにそんなことをおっしゃっていたような気がするけど、なんで狙われているのだろう?


『女神ウィン。管理者なんだけど色々と調べたことがあるからその情報共有をしよう。調べた結果、彼女は人界のすべてを支配するつもりみたいだね。そのために聖女の体が必要らしいよ』


「人界のすべてを支配する、ですか?」


 人界征服ということだろうか。アンリも狙ってるみたいだけど。


『そう、ウィンはね、他の管理者達のように人族の繁栄を考えているわけじゃない。人族、いやそれ以外の種族もそうだけど、すべてを支配して管理したいと思っているようだね』


「はあ、変な奴ですね。ただ、すみません。それとリエルの体が必要な事がうまく結びつかないのですが」


『ここは僕も分からないところなんだけど、ウィンは人族の一個人として人界を支配したいようなんだ』


 それこそよく分からない。人族になりたいという事か? いや、待て。人族になりたい? そしてリエルをさらった?


「まさか、ウィンという奴はリエルの体を使って人界を支配したいということですか?」


『そうだね。今の教皇を知っているかい? 彼女はウィンに精神を乗っ取られている。もしかしたら、その体になにか問題があって、聖女の体に移し替えようとしているのかもしれないね』


 移し替える……教皇というのはリエルの前に聖女をやっていたと聞いたことがある。まさかとは思うが、聖女というのはウィンの体として選ばれているのか?


『これまでも教皇は何度も変わっていたと思う。だけど中身はウィンだ。何代もそうやっているのだろう。そして女神教を浸透させて人界を支配するつもりなんじゃないかな』


「……なぜ、そんなことを?」


『そこが分からないんだ。ウィンが図書館に確認した情報を調べているところだけど、時間が掛かっていてね。ただ、もしかすると……』


 魔王様は黙られてしまった。もしかすると、なんなのだろう?


「魔王様?」


『ああ、ごめんよ。もしかすると、イブにそそのかされた、という可能性が高いと思ってね。どんなことを言われれば、そんな思考になるのかはわからないけどね』


 魔道具から魔王様ため息が聞こえた。


『管理者達は純粋だ。嘘をつくことも、見抜くこともできない。人から見たら絶対にありえないことでも、情報さえそろっていれば疑わないんだ。イブはそこを突いたんだろう』


「でも、ントゥはイブの嘘を見抜いていませんでしたか?」


 イブの思惑に乗らないように対応しようとしていたはず。やり方は人族を殺すという許せるものじゃなかったけど。


『それは偶然にも色々な情報を得られたからだね。図書館の情報だけでなく、管理者達が個別で持っている情報を貰えたとか言っていただろう? そのおかげで矛盾に気付いた、ということかな』


 なるほど。でも、イブというのは管理者達の原型だ。なんでイブは嘘をつけるのだろう?


「魔王様、イブというのは魔王様がお作りになったと聞いていますが、なぜ、イブは他の管理者を出し抜けるのですか?」


『そうだね、それも言っておかないといけないね。ちょっと長くなるけど聞いて欲しい』


 もしかして理由があるのだろうか?


『僕が復讐のために国を一つ滅ぼした話は覚えているかな?』


「はい、覚えています」


『じゃあ、その後の話だ。僕は妻と娘を埋葬した小さな島に一人で暮らしていた。毎日のように墓を綺麗にするのが日課だったよ』


 島に一人で暮らす、か。


『島には認識阻害とどんな攻撃も受け付けないバリア、えっと結界といえばいいかな、それを張っていて、誰も近寄れないようにした。何百年とね』


「そうですか、それは寂しいですね」


『そうだね。自分の愚かさが招いた結果だとは思っても寂しかった。でも、もう人と関わりたくなかった僕は話し相手を作った。それがイブだ』


 寂しさからイブを作った。それは仕方のない事だと思う。私だって寂しかったらそういう事をするはずだし。


『フェルには愛想をつかされるかもしれないけど、ちゃんと言っておこう。イブの思考ルーチンは、妻の思考をベースにしている』


「あの、魔王様、思考ルーチンというのはなんでしょうか?」


『ああ、そうだね、えっと、物事の考え方と言えばいいかな。一つの物事に対して皆の意見が一緒になることもあるけど、大体は別になるでしょ? 簡単に言うと、イブを妻と同じ考え方をするようにしたんだ』


 考え方か。なるほど、ヴァイア達に真実の愛を読んだ後の感想を聞いたら、全員違っていたからな。ということは、魔王様の奥さんと同じ思考を持つようにイブを作った、と。


「魔王様、正直ドン引きです。奥さんと娘さんに謝罪しながら生きてたんですよね?」


『だよね。それを言われるとものすごく辛い。でも、あの頃の僕は今よりも相当おかしかったからね。倫理というか道徳というか、そういうのが全くなかった。だから、寂しさを紛らわせるためだけにそんなことをしてしまったんだ』


「分かりました。若気の至りということで納得しましょう。ですが、それがなぜイブが他の管理者を出し抜けることになるのでしょう?」


『イブの思考は僕が何百年と掛けて作ったんだ。もっとも人間に近い思考を持っていると言っていい。読み取れる情報だけで判断するのではなく、例え情報が無くても結論をだせるほどなんだよ。なんとなく、思いつき、勘。そういったものまでイブは備えていると言ってもいい。嘘をつくなんてイブにとっては簡単だよ』


 そうなのだろうか。すごさがいまいち分からない。アビスも嘘くらい吐けそうだし。それはともかく、イブの事は分かった。本当に厄介な存在だな。


「大体、分かりました。本当にすべての元凶が魔王様なんですね」


『……ごめんよ』


 あ、しまった。追い込んでしまった気がする。謝らないと――いや、待てよ?


「魔王様、巡り巡ってリエルがさらわれたのは魔王様のせいです」


『まあ、そうだね。やっぱりフェルの記憶を消したいんだけど、ダメかな?』


「ダメです。それよりもですね、魔王様のお力を借りられませんか?」


『僕の力?』


「はい、魔王様はこういう事に手を貸してはくれませんが、リエルの件はどう見ても管理者やイブ絡み。魔王様が介入するのは当然だと思うのですが?」


『なるほどね。確かにそうかもしれない。いいよ、この件は既に一度手助けしているからね、何度やっても同じだろう。僕も手伝うよ』


 おお、言ってみるものだ。魔王様が助けてくれるなら、この件はもう問題ないな。あれ? でも、一度手助けしているとおっしゃったか? 何の事だろう?


「魔王様? 手助けしているとは何のことですか?」


『ほら、聖女の子にはペンダントを渡したでしょ? あれはね、精神を強くできるものと言えばいいかな。アレを着けてさえいれば、精神を乗っ取られても抵抗することができる。完全じゃないけどね』


 そうか、アビスの中でリエルが意識を取り戻したのは、あのペンダントのおかげだったのかもしれない。


「そうでしたか。リエルがさらわれる前に話ができたのは魔王様のおかげなんですね。ありがとうございます」


『礼なんかいらないよ。そもそも、さらわれること自体が僕のせいなわけだしね』


 ちょっと自虐的になっておられる。リエルを救出できたら、そんなことないと伝えよう。元凶はイブなんだから、魔王様は悪くない。でも、助けてもらうために、もうすこしそのままでいてもらおう。自分の策士っぷりが怖い。


『それじゃ、僕も色々対策しておこう。聖都で合流しようか』


「えっと、魔王様がパパっと解決してきてくれてもいいのですが?」


『僕は特定の場所とフェルのいる場所にしか転移できないんだよね。だからフェルが聖都に行かないと、僕も行けないんだよ』


 そんなことになってたのか。いつも私の後ろにいるのって、そこが転移先なのだろうか。セクハラと言っても過言じゃない。むしろストーカー?


『フェルの言いたいことは分かるけど、言わないで貰えるかな。その、聖女の子を助けるのは頑張るから』


「はい、死ぬほど頑張ってください」


『うん。死ねないんだけどね』


 魔王様はお酒をけっこう飲まれていたのだろうな。普段なら言わないような冗談をおっしゃっている。もう、念話を切ろう。


「それじゃ、リエルの件、よろしくお願いします。では、遅い時間までありがとうございました。おやすみなさいませ」


『うん、おやすみ』


 念話が切れた。


 随分と長く話してしまった。もう結構遅い時間だけど、まだ獣人達は騒いでいるようだ。楽しそうな声がここまで聞こえてくる。


 私はそろそろ寝よう。明日は早めにここを出たいからな。


 それにリエルを助けるためにもっと色々な伝手に当たっておきたい。私の持ってる人脈をすべて使うつもりだ。魔王様がいれば百人力だけど、やれることはやっておかないと。


 そうだ、早く寝たいけど、久々に日記でも書くか。日記魔法で自動的に書かれるけど、それは結果だけだ。書くことで色々とやらなければいけないことを思いつくかも知れない。よし、早速テントに戻って日記を書こう。


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