狩り
ントゥの本体がスフィンクスの割れた顔の中に入っていく。砂だからいいけど、実際の人とかで想像したら、なんかこうグロテスクな感じだな。
スフィンクスの顔が閉じると、顔が私の方へ向いた。表情は変わらないが、なんとなく怒りを感じる。私のせいで創造主を殺す羽目になったとか言っていたが、どう考えても逆恨みだ。
スフィンクスの口が開く。そこに魔力が集まる気配がした。直後に何かがこちらへ飛んでくる。かなりの高速なので転移で躱す。
躱した場所を見ると、硬質化した砂の槍のようなものが刺さっていた。それを口から撃ち出したようだ。あんなスピードで刺さったら私でも危ない。確実に避けないと。
『役に立たぬ魔王など、砂の中に封印してくれる!』
いや、ものすごく殺しに来てただろう。殺さないというのは慈悲なのだろうか。いや、苦しませることが目的なのかな。陰険な奴だ。それに私だって言いたいことがある。
「役に立ってないのはお前だろう。しかも人族を殺そうとするなんて、役に立たないどころか迷惑過ぎる」
『増えすぎた人族はいつか滅亡する! そうなる前に人族の人数をコントロールするべきなのだ!』
いつも思うが管理者達のその思考がよくわからない。なんとなく分かる気もするんだけど、一体何を恐れているのか。
それはどうでもいいか。まずは魔王様を救出しないと。
ントゥは巨人の時と違って今は敏捷性に優れている感じだ。サテラなんとかで攻撃するにしても一度動けなくしておきたい。手っ取り早いのは横転させることだろう。
でも、今は四本足で立ってる。安定感は抜群だ。どうやって横転させるか……皆に聞いてみよう。ントゥの狙いは私だけだから、他の奴らは結構余裕があるだろう。
『ントゥが動けないように転ばせたいのだが、いい案はあるか? 私は考えている暇がない』
スフィンクスの攻撃を躱しながら、回答を待つ。オルドとドゥアトからは自分達には無理という旨の回答がきた。だが、アビスからは返答がない。なにか案があるのだろうか。
『アビスはどうだ?』
『うまくいくかは分かりませんが、案はあります』
『本当か? 何をするんだ?』
『具体的な事はフェル様も知らない方がいいでしょう。その、色々バレる可能性が高いので』
私に演技力が無いという事だろうか。まあ、そうだけど。
『簡単に言うとフェル様を囮にします。ントゥの狙いはフェル様のようなので、普通に戦っていてください。私が何かしていると気づかれないくらいにお願いします。用意が終わりましたら、合図しますので、その時は転移じゃなく走って逃げてください』
『そうなのか? 分かった。ならアビスに全部任せるから頼むぞ』
『よろしくお願いします。オルド様とドゥアトはントゥの右前足を狙ってください。動きを止めようとしている、と思わせれば十分ですので』
オルドとドゥアトから肯定の返事があった。さて、それじゃ暴れようか。
転移して、スフィンクスの頭、その真上へ転移する。そして頭にロンギヌスを放った。少しだけ穴が開いたがすぐに塞がる。
『愚かな。お前の攻撃で我が本体を壊そうとしているのか? 無駄だ、砂の装甲を奥まで貫くことはできん』
アビスが何かしていることをばれないようにしないといけない。無駄なことをしているわけじゃないと思わせないと。
「それはどうかな? 私の攻撃が効いていないと嘘を言っているだけだろう? 本当は怖いんだな? そんなブラフに付き合うつもりはない」
ちょっと馬鹿っぽさを演出。名演技だ……と思う。
『なるほど。魔王なのに職務を全うしないのはその知性の低さからか。魔王の候補を選ぶシステムに不具合があったようだな』
ものすごい馬鹿にされている気がする。演技だとは言っても、ちょっとイラッするな。
でも、魔王の候補を選ぶシステム? もしかして勇者候補みたいに、魔王にもそういう物があるのか?
いや、それは後。今は戦う事が先決だ。
何度も頭にロンギヌスを放つ。魔力の消費は激しいが、魔力高炉から魔力が溢れてくる間は大丈夫だろう。何度でも撃ってやる。
『効かぬとはいえ、煩わしい!』
スフィンクスの頭が左右に振られる。振り落とされたが、空中で体勢を立て直し華麗に着地する。転移でも良かったけど、ちょっと魔力を使い過ぎた。回復するまで温存しよう。
『なるほどな。そういうことか』
何かに気付いたのだろうか? まさかアビスの対策がバレた?
『お前が気を引いている間にオルド達が私の右前足を壊すつもりだったのだろう? 下らん作戦だ。そもそもオルド達に外装を壊せるものか』
スフィンクスは右前足で軽く払うと、オルドとドゥアトが吹き飛ばされた。多分、死にはしないだろう。でも、これからどうすればいいのだろうか。まだ戦うのか?
『フェル様、今です。こう、情けない感じで、そのまま背中を向けて逃げてください』
無茶な注文をしてきやがった。情けない感じってどうするんだよ。まあいい、とりあえず、言われた通りに逃げよう。情けない感じ……こうか?
「た、たすけてー」
屈辱だ。ントゥに普通に負けるよりも屈辱。作戦の成否にかかわらず、後でアビスを殴ろう。
しかも砂まみれで走りづらい。靴に砂が入ったままだし、汗で砂が体にへばりついてる。もう嫌だ。
『哀れなり。魔王としても魔族としてもお前に存在価値はない。砂漠の地中へ封印してやる。世界の終りまで永遠に眠っているがいい』
どうやら、私を追って来たようだ。くそう、言いたい放題言いやがって。こっちだってやりたくてやってるんじゃない。作戦だから仕方ないんだ。
『おい、アビス。私がここまでやったんだからちゃんとした結果が出るんだろうな? これでントゥの動きを止められなかったら、覚えてろよ』
『問題ありません。大昔の人間はこうやって狩りをしていたそうですよ』
何を言っているか分からないが、信じるしかない。全速力で走ろう。だが、どう考えてもントゥの方が速い。本当に逃げるだけでいいのだろうか。
背後から私を追ってくるントゥの足音というか、地響きが聞こえる。それがどんどん近寄ってきた。
『アビス、まだなのか? どこまでいけばいい? もう、追い付かれるぞ?』
『もう走らなくて大丈夫ですよ』
『え?』
アビスに聞き直そうとした瞬間、轟音が聞こえた。なんだ?
『なっ! なんだこれは!』
ントゥの声が聞こえたので、走るのをやめて後ろを振り向く。だが、ントゥはいなかった。ただ、私が走ってきたところに大きい穴が開いている。もしかして落とし穴か?
『フェル様、逃げられる前にサテライトレーザーを撃ちこんでください。穴の中で使うのがいいですね。使ったらすぐに脱出を』
ここはアビスの指示に従っておこう。
穴の中に飛び降りる。そしてスフィンクスの頭に乗った。ここは何だろう? ちょっとだけ地質が違うのか? いや、それよりもサテラなんとかだ。
『き、貴様! これを狙っていたのか!』
「まあ、そういう事だ。ここなら逃げられまい。魔王様を返してもらうぞ?」
スフィンクスの外装は壊れていないようだが、変な体勢で穴にハマっている。このままの外装じゃ動けないだろうな。だが、変身すれば逃げられる。そうなる前に撃ち込もう。
そうだ、魔王様にも連絡しておかないと。
『魔王様、これからサテラなんとかを撃ちます。衝撃にご注意ください』
『分かったよ。それにしても落とし穴とは。アビスは面白いね』
それはいいんだけど、私が情けない感じに逃げる必要があったのかは問い詰めておきたい。
メテオストライクだったと思ってた魔道具を使用する。
その瞬間周囲が青い光に包まれた。
メテオストライクで見た青い光の中はこんな感じなのか。綺麗な感じはするが、ここは危ない。とっとと逃げよう。
落とし穴から外へ転移して、さらに遠くへ転移する。近くにいたら危ない。
結構距離を取った場所から落とし穴の方を見た。
はるか上空から青い光の柱が何本も見える。それがどんどん細くなり、消えそうになる瞬間に轟音が聞こえた。
全部で七回。落とし穴の付近へ私では理解できないような攻撃がされたのだろう。
そんなことよりも、だ。
『魔王様、ご無事ですか?』
魔王様へ念話で問いかける。大丈夫だとは思うが心配だ。
『うん、大丈夫。外にも出れたし、ついでだからむき出しになったコントロールコアも壊しておいたよ。それにントゥ本体も動けないようにしたからこれで終わりだね』
仕事が早いな。さすが魔王様。
『それじゃ皆こっちへ来てくれるかな。ントゥとご対面といこう』
 




