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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十一章

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レプリカ

 

 アビスは私がやってほしいことをやってくれた。その後、何をしようと別に構わない。だが、確認はしておこう。今後の付き合いが変わってくるからな。


「アビス、お前、ここへ来たかっただけか? 獣人達を治すのは二の次だったのか?」


「心外です。最優先の目的は獣人達を治すことです。ただ、偶然にも、このダンジョンが近くにあったので、行きたいと思っていたのは間違いありません」


 本当だろうか。信じたい気もするが、アビスってやりたい事のためなら平気で嘘とかつきそうだからな。なんというか、効率重視で感情とか考えないタイプ。


「魔素暴走を治すにはお前しかできないんだな? お前がここへ来るために嘘をついたとかじゃないんだな?」


「もちろんです。そこの疑似永久機関に聞いてください」


 アビスが槍を持った人族の方を見ながらそう答えた。


 疑似永久機関。ということはアビスと同じようにダンジョンコアか。なら、その人族の体は作り物ということだな。


「私は魔族のフェルだ。お前の名前は?」


「……ただの魔族ではないな? 私の権限では、お前の事が分からない。その理由を先に説明しろ」


 ただの魔族じゃない? そうか、魔王の情報が見えないという事だろう。ならちゃんと言っておくか。


「確かにただの魔族ではない。魔王をやってる」


「魔王? なるほど。納得のいく説明だ。なら自己紹介をしよう。私の名はドゥアト。創造主を守る、最高の疑似永久機関だ」


 ドゥアトの言葉にアビスがピクリと動いたのが目に入った。もしかして、最高という部分に反応したのか?


 だが、そんなことはどうでもいい。ドゥアトは創造主を守ると言った。創造主達は魔王様を残して皆、亡くなってしまったのではないだろうか。


「創造主を守っていると言ったが、生きているのか?」


「なぜ、その質問ができる? 創造主が何なのか分かるのか? それに、死んでいることを前提とした質問をしたな? ……まあいい、理由は後で聞かせてもらおう」


 勝手に決めないでもらいたいが、魔王様に許可なく理由を答えてもいいのだろうか? 魔王様を紹介した方が早いかもしれないな。


「話がそれてしまったが、先程の質問に対する回答だ。オリジナルは亡くなっている。だが、創造主の記憶を継いでいる方がいらっしゃる。その方を便宜上、創造主と言っているだけだ」


 オリジナルは死んだ? どういう意味だ?


「クローンが生きているという事か?」


 私が考えていると、アビスがドゥアトに質問した。クローンってなんだ?


「クローンではない。どちらかと言えばレプリカだ。お前達が創造主に害を成すものではないと分かったので、後で引き合わせよう。まずはピラミッドにいる獣人達に安全になったことを伝えてくる」


 ドゥアトはピラミッドの方へ足を向けた。だが、すぐにこちらを振り返る。


「まず、礼を言っておくべきだったな。獣人達を助けてくれて感謝する。獣人達を守る様に命令されていたが、匿う程度のことしかできなかったのだ。先程話をしていた通り、魔素暴走はそこにいるアビスか管理者レベルでないと治せないと思うぞ。少なくとも私には無理だった」


 アビスの顔は無表情だ。だが、「どうです?」という顔に見える。私がそう思っているだけだろうか。


 ドゥアトは移動しようとして、また立ち止まった。そして腕を組み思案顔になる。なにか言いたいことがあるのだろうか?


「お前達は食べ物を持ってきているか? 避難していた獣人達はここのところロクな物を食べていない。生体エネルギーを譲渡することで生命を維持していたが、それもそろそろ尽きるのだ」


「ルハラからの贈り物として食べ物を持ってきている。一応、大量に持ってきたから全員に行き渡るだろう。オアシスに戻らず、ここで振る舞ったほうがいいか?」


「できればそうしてくれ。では、ピラミッドへ戻る。しばらく掛かるかもしれないから、食事の準備をしていてくれ」


「分かった。こっちも連れてきている者がいるから呼ぶぞ」


 ドゥアトは頷いてからピラミッドへ戻って行った。


 私とアビスだけが取り残された。アビスは嘘をついていなかったようだ。なら謝らないとな。


「ドゥアトの言葉でアビスが嘘を言っていないことは分かった。疑ってすまない。謝罪しよう」


 アビスに向かって頭を下げる。だが、アビスは「私もピラミッドへ行きたい事を言ってなかったので謝る必要はありません。今後は報告します」と言ってくれた。なら、これで手打ちだ。


 よし、ヤト達を呼んで、料理でもしてもらうか。なにか消化に良さそうなものがいいだろうな。




 念話でヤト達をこちらへ呼び、ヤトに料理の依頼をした。


「任せるニャ! ニア様のところで修行した技術を目に焼き付けるといいニャ!」


 ヤトは亜空間からテーブルとか巨大な鍋とか、火が出る魔道具とかを取り出した。結構本格的だ。ならヤトに全部任せてしまおう。


「よし、ヤト以外は倒れている獣人達を並べるぞ。山積みになっていると下の奴が危ないからな。それにうつ伏せだと鼻に砂が入るかもしれない」


 アビスが寄ってくる奴を片っ端から治したから、結構重なり合って倒れている。それにうつ伏せが多い。圧迫死とか呼吸困難になったら大変だからな。


 手分けして倒れている獣人達を仰向けに寝かせていった。


 アビスの話では、一時間ぐらいで目を覚ますそうだ。人族と違って獣人は頑丈だから、という理由だった。確かに人族よりは頑丈だろうけど、他に言い方があるのではないだろうか。


 ちょうど並べ終えたところに、ドゥアトがやって来た。ピラミッドから出てきたのだろう。そしてドゥアトの後ろには、ちょっとやつれ気味の獣人達が五十人くらいいた。


 獣人達はおそるおそるという感じだったが、仰向けになっている獣人達の無事を確認すると、安堵の息を漏らしていた。


「大丈夫だと言ったのだが、なかなか信じてもらえなくてな。時間が掛かってしまった」


「別に問題はない。腹が減っているだろうから、あそこで調理をしているヤトに取り分けてもらうといい。一気に食べずにゆっくりよく噛んで食べろと伝えてくれ」


 ドゥアトは「分かった。恩に着る」と言って、連れてきた獣人達の方へ向かった。


 ドゥアトに説明を受けた獣人達がヤトの方へ歩いていく。そしてヤトの前でなぜか土下座した。いや、謝っているんじゃなくて、礼を言っているのか? なんかこう、恐れ多いという感じでヤトに接しているようだ。


 そして、ヤトが作った「トロトロかき卵あんかけ・オン・ザ・ご飯」を受け取ると泣いた。


 大げさ、でもないのかな。どれくらいピラミッドの中にいたのかは知らないが、料理が久しぶりなのだろう。量に限りがあるから沢山という訳にはいかないが、噛みしめて食べて欲しい。


 さて、どうしようかな、と考えていたら、ドゥアトがやって来た。


「あの料理を振る舞っている獣人は誰だ? 少なくとも私の情報にはない獣人なのだが」


「ああ、アイツはヤトと言って、魔界から来た獣人だ。私の部下だな」


「なるほど、五十年前に魔族と共に人族と戦った部族の子孫か。生き残っていたのだな。皆が起きだしたら騒ぎになるかもしれんぞ。英雄の子孫が帰って来たとな」


 英雄扱いになるのか。まあ、悪い事じゃない。


「さて、創造主に会わせたいのだが、時間はあるか? 今、創造主はピラミッドの中にいる。そこまで案内するが」


「ああ、お願いする。だが、こっちも呼びたい方がいる。ちょっと待ってくれ」


 念話用魔道具を取り出した。魔王様へ連絡しよう。


『やあ、フェル。もしかしてピラミッドの結界を解いてくれたのかな?』


「はい、それもありますが、ピラミッドのダンジョンコアが創造主に会わせたいと言っていまして――」


『生きているわけがないよ。なにか勘違いしているんだろうね、そのダンジョンコアは』


 食い気味に否定されてしまった。しまったな。ちゃんと説明しないと。


「申し訳ありません。理解はしていないのですが、聞いた話によれば、オリジナルは死んでいて、創造主の記憶を受け継いだ奴がいるとか――」


『本当かい!』


 おう、魔王様にしては珍しく興奮されているようだ。


「私も聞いただけでして、これから会いに行くのですが、魔王様も一緒にどうでしょうか?」


『分かった。すぐに向かうよ』


「はい、お待ちして――」


 途中で念話が切れた。なんかこう、初めて見る魔王様、という感じだ。


 たとえ袂を分かったとしても、仲間なのだろう。いや親友だったのかもしれない。記憶を受け継ぐ、というのはよく分からないけど、おそらく本人ではないと思う。例えそうでも会いたいという事なのかな。


「一体、誰が来るのだ? それに魔王様? お前が魔王なのだろう?」


 ドゥアトは私を不思議そうに見ている。こっちにも説明しないとダメだな。


「魔王様は創造主だ。色々あって魔王様と呼んでいる」


「端折り過ぎだろう。まあいい。どこの創造主だか知らないが、ここに来るのだな? なら、創造主との話の中で色々と分かるだろう。ちなみにアビスも呼ぶのか?」


「そうだな。アビスも創造主に会いたいと思うだろうから呼んでおく」


 ピラミッドを触っているアビスに声を掛ける。何かを調査しているのだろうか。


 事情を説明すると、「行きます」とノータイムで答えた。


 よし、魔王様は後から来られるだろう。先にピラミッドへ入っておくか。


「案内を頼む」


「分かった。では、連れて行こう。創造主、獅子王オルド様のところへな」


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