プロポーズ
馬車とかで連行されるかと思ったら徒歩だった。別にいいけど手錠をかけるならなにか用意してほしい。両手を前で揃えたままだと歩きにくい。
村から西に行けばエルフの森があるはずだ。だが、エルフ達は道に沿って南西に向かっているようだ。
「まっすぐ西に向かわないのか?」
「エルフの村には結界を張っているから特定の入り口からしか入れない。とくに今回はお前を連れているから、バレてもいいように汎用的な入り口を使う」
警戒しているのか。エルフは結構強いらしいから気にしなくてもいいような気がするが。かなり慎重な種族なのかもしれないな。
「随分、人族に心配されていたようだが、たった数日で信頼を得られたのか? 人族に魅了の魔法でも使ったのか?」
女神教じゃあるまいし、洗脳まがいなことはしない。だが、食事中の笑顔が信頼を得られた主な原因とは言えないし、言いたくない。
「そんなことはしない。人徳だ」
「なにか秘密があっても言えないか。人族には効いても、エルフ族には無駄だと知るがいい。それに変なことをすればすぐに首をはねるぞ」
確かに笑顔のことは言えん。それにエルフ達にも食事中の顔は見られたくないな。食事をするときは気を付けよう。
「警告に感謝しよう」
そう言うと、エルフは「ふん」といって、先に歩いて行ってしまった。容疑者を置いていかないでほしい。
しかし、歩いているとはいえ、暇だな。森は何日か彷徨っていたから特に目新しいものもないし。話し相手をしてくれるような奴はいないだろうか。
「なあ、あんた。魔族なんだろ?」
なにか軽そうなエルフに話しかけられた。肩まである金色の髪を掻き上げている。そして歯がちょっと光った。チャラい。
「そうだが、なにか用か?」
「魔族の女性って美人が多いのか? だれか紹介してくれよ」
ディアとは違った形でうざい。しかし、話が出来そうなのはコイツだけか。ここは取引するべきだな。
「紹介は出来ないが質問には答えよう。ただ、こちらの質問にも答えてもらう。一問につき一問、答えてもらうぞ」
「おー、いいぜ。じゃあ、まず、魔族の女性って美人が多いのかどうかだ」
どうだろう? そういう感覚で魔族を見たことがない。どちらかというと強さでしか見ないからな。
「正直わからん。美人が多いとは思うが、魔族が評価するのは強いかどうかなので、強い奴ほど美しく見える」
「ほー、ということは、魔族に強さを見せつければモテモテになれるのか?」
「そうだな。魔族は種族に関係なく強いものに敬意を払う。モテモテかどうかは知らんが、意識はしてもらえると思うぞ」
ただ、タイマンで魔族に勝てるだろうか? 勇者とかならともかく、その辺に居る奴に勝てるとは思えない。つまりモテない。残念だったな。
「さて、お前の問いに二問答えた。二問答えてもらうぞ」
「二問? 一問だろ?」
「美人が多いのかという問いと、モテモテになれるのかという問いの二問だ」
「うわ、汚ねー」
「どこがだ。こちらの質問だが、世界樹が枯れたというのはどういうことなんだ?」
そもそも世界樹を見たことないし、枯れたってどういう状態のことなのだろうか。もしかして折れたとか?
「知らねー」
殴りたい。
「お前、約束を反故にする気か?」
「いやいや、本当に知らねーんだよ。俺みたいな下っ端エルフが世界樹を見れるわけがねーよ」
世界樹というのは、エルフならだれでも見れるというものじゃないんだな。でも、それならどうやって魔族の私が枯らせると言うのだろうか。もしかして魔王様は関係ないのかな?
「誰なら分かる?」
「長老達だな」
エルフ達の長老か。これから会いに行く奴らだな。大体そういう奴らは悪い奴なんだ。本で読んだことがある。
「二問答えたぞ。今度はこっちの番だな」
知らない、と、長老なら分かる、という答えしか貰ってないんだが。コイツに質問することに自体に意味がないのかも知れない。騙された。
「質問というか、あんたの名前を聞いてなかったよ。なんて言うんだ?」
「村で私の名前を呼んだ奴がいたのに気づかなかったのか? まあいい。フェルだ。お前は?」
「俺はミトルだ。よろしくな。村で名前を呼んだっていうのは、あの可愛い子か。今度紹介してくれ。隣の子も可愛かった。獣人の子も」
女性なら何でも良いのか? あと、ディアはお勧めしない。多分、貢がされるぞ。
「お前たち何を騒いでいる。下らん話などするな」
先に行ったと思ったエルフが戻ってきて、そんなことを言った。行ったり来たり大変だな。
「女性の話は下らなくありません」
何をキリッとした顔で言ってんだ。あ、拳骨を落とされた。痛そう。
「お前みたいのがいるから、エルフの尊厳が損なわれるのだ。外の世界に毒されやがって」
「隊長こそ、いつまで森に引きこもっているんですか、もっと森の外に目を向けましょーよ」
「我々には世界樹を守るという使命がある」
「枯らしておいて、守るも何もないでしょーが」
その返しは駄目じゃないのか。思っていても言ってはいけないことってあると思うぞ。隊長と呼ばれた奴が苦い顔をしている。その後、私の方を見た。
「だからこの魔族を捕まえたのだ。こいつを世界樹に捧げて元に戻す」
村でも言っていたが、世界樹に捧げるって、魔族でもいいのか? 捧げるというのがどういう行為を指すのか分からないが、魔族を捧げたら悪化するような気がする。それに有罪になったらの話だよな。有無を言わさず捧げられたら困る。
「そんなんで戻るわけないでしょーが」
「やってみなければわからん」
そんな状態なのか? エルフ達も世界樹のことを良くわかっていない気がする。それなら、世界樹を枯らせたのは魔王様ではないのだろうか? でも、魔王様ならエルフよりも世界樹に詳しいかもしれないからな。
色々と考えていたらいつの間にか昼だった。お腹がすいた。
「全体、止まれ。ここで食事をすることにしよう」
考えるのはここまでだ。食事にしよう。弁当を持ってきているが、もしかしてエルフ達が用意してくれるのだろうか。
「私の食事はどうなる?」
隊長と呼ばれた奴に聞いてみると、ミトルに「用意してやれ」と言って離れて行った。態度にイラッとするが、食事をくれるなら許そう。
ミトルは「あー、肉を食いたい。森の奴らは肉を食わねーからな」とか言いながら、食事の用意している。肉もいいが、食事はバランスだぞ。
出来上がった料理は、野菜スープだろうか。見た目は悪くないと思う。量はかなり足らないが。
「手錠を掛けられていてもなんとか食べられるよな?」
「問題ない。早くよこせ」
ううむ、魔界に居る頃の食べ物に比べれば美味いとは思うが、なにか物足りない。いや、かなり物足りない。素材を活かした素朴な味ということだろうか? 明らかにニアの作った料理より数段落ちる気がする。
しまった。エルフの前で料理を食べてしまった。笑顔がバレる。
「おいおい、美味そうに食えとは言わないが、眉間に皺を寄せて食うなよ。これでもマシな方だぞ」
なんと、こいつの料理で笑顔にならなかった。昔は魔界の食べ物でも笑顔だったらしいのに。もしかして、ニアの料理を食べ続けてグルメになったかもしれない。よし、エルフの森にいる間はこいつの料理だけ食べよう。
「エルフの森に居る間、私のために料理を作ってくれ」
「プロポーズか? モテる男はつらいな。だが、俺はもっとグラマーな子と結婚したい」
手錠が邪魔で殴れなかったので蹴った。




