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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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相談

 

 目の前に大量の料理が並んでいる。


 周囲を見渡しても誰もいない。そして料理が並べられているテーブルには椅子が一つ。もしかしたら私の席なのかも。


 とくに疑問にも思わず座った。ちょうどお腹が減っていたんだ。食べてしまおう。私のための料理じゃなかったら謝ればいい。


 何の肉なのか分からないが、食べ応えがありそうな骨付き肉がある。まずはこれからだな。


「いただきます」


 誰もいないので大きな口を開けて噛んだ。


「いでででで!」


 誰かの叫び声が聞こえたと思ったら、急に景色が消えてしまった。


「ちょ、フェル、噛むな! それは俺の腕だって!」


 意識がはっきりしてきた。どうやらさっきのは夢だったようだ。そして今、ベッドの上で寝たままリエルの腕を噛んでいる。


「おはよう。何やってんだ?」


「それは俺のセリフだろうが。だいたい、目が覚めて最初に言うセリフがそれか? いや、間違ってはいねぇけど、状況を把握しろ。どう見ても俺の腕を噛んでんだからまずは謝れ。うお、歯型が残ってんじゃねぇか! 【治癒】」


 リエルは治癒魔法を自分の腕に使っているようだ。みるみるうちに歯形が消えていく。


「そうか、それはすまなかった。でも、なんで私の目の前に腕を置いたんだ? ここは私のベッドだぞ?」


「さあ? 俺、寝相が悪いし、腕がフェルの顔に当たったのかも?」


「お前が私に謝れ」


 そんなどうでもいい会話をしながら亜空間から服を取り出して着替えた。でも、ちょっと汗でべたべたする感じだ。まずはシャワーを浴びたい。


「リエルちゃん! 大丈夫!」


 部屋へヴァイアとディアが飛び込んできた。多分、リエルが叫び声をあげたからだろう。


「おう、俺は何ともねぇぜ。フェルの朝食になりそうだったけどな!」


 ヴァイアとディアはリエルの回答に首を傾げたが、私の方を見て笑顔になった。


「あ、フェルちゃんも目が覚めたんだ! よかったぁ!」


 ヴァイアがものすごい勢いで抱き着いてくる。これはタックルと言うのではないだろうか。そして苦しい。


「フェルちゃんが苦しそうだから手加減してあげて! ヴァイアちゃんはいざと言う時に馬鹿力なんだから!」


 ディアがヴァイアを引きはがしてくれた。あのままだったら窒息死してたかもしれん。そういう意図はなかったろうから怒るに怒れないけど。


「迷惑を掛けたな。とりあえず体調は良くなった。もう、問題ないと思う」


 色々と体の確認をしたが、特に問題はない。それに頭痛もしない。どういう理屈なのかは分からないが、寝れば回復するのだろう。しいて言えば腹が減ったくらいか。


「目が覚めたのかい?」


 今度は部屋に婆さんが入って来た。相変わらず眉間にしわが寄っている。


「ああ、良く寝れた。迷惑を掛けたな」


「迷惑なんかかけられてないよ。それにこれは礼だって言っただろ? こんな老人よりも物忘れが激しいのかい?」


「そうだったな。じゃあ、お礼ついでに浴室を借りられないか? 汗でべとべとしていてちょっと気持ち悪い」


「ならこっちだよ」


 婆さんに案内されて浴室まで移動した。


「アンタがシャワーを浴びている間に食事の用意をしておくよ」


「そうか、何から何まですまな――いや、ありがとう。助かる」


 婆さんは「ふん」と言いながら浴室から出て行った。


 婆さんの食事は美味いからな。これは楽しみだ。よし、食事の前に体を洗ってさっぱりしよう。




 しっかり汗を流してから浴室を出た。


 話し声が聞こえる部屋へ行くと、全員が集まっていたようだ。それよりも、ものすごくいい匂いがする。テーブルにある料理は全部食べてもいいのだろうか。


「腹が減ってるんだろ? 早く食べな。冷めちまうよ」


「分かった。全部食べる」


「いや、俺らの分もあるんだから全部食うなよ」


「いいかリエル。今の私にそんな理屈は通じない。私は腹をすかせた獣。食うか食われるかだ。分かったか?」


「フェルに腹を空かせさせちゃいけないという事だけは分かった。腹が減り過ぎておかしくなってんのか?」


「否定はしない」


 皆の目が呆れている感じだがそんなことはどうでもいい。まずは食事だ。余計な事を考えるのは腹を満たしてからだ。




 テーブルにある料理を片っ端から食べた。


 色々美味かったが、スープは別格だったな。魚介類を使った出汁だとか言っていた気がする。今度ニアに作って貰おう。


「フェルちゃん、落ち着いた?」


 ヴァイアがコップにお茶を入れてくれた。それほど熱くないお茶なので一気に飲む。うん、落ち着いた。


「若いからと言っても食べ過ぎじゃないのかい?」


「婆さんの料理は美味いからな。それに遠慮しなくていいと言っていたから、本気を出したまでだ」


 それにワサビトラップも無かった。私の無双状態だったと言えるだろう。


「ふん、それでもおかわりの三杯目は皿を遠慮がちに出すもんだよ!」


「そんなマナーは知らない。食事の時はいつだって全力だ」


「そうかい。まあいいさ、それくらいの事をしてもらったんだからね……それじゃ改めて礼を言わせてもらおうか。昨日はありがとうよ。アンタ達のおかげで助かった」


 婆さんはそう言って、頭を下げてきた。その行動に皆が照れだす。だが、ちょっと待ってほしい。


「残念だが昨日追っ払っただけの話だ。私達がいる間は大丈夫だろうが、ずっといるわけじゃない。その後が心配だ」


「何言ってんだい。この店は私の店なんだ。これ以上、アンタ達に頼らなくたって守って見せるさ」


 それは難しいだろうな。今、ラジットは捕まっているがそれ程長くは拘束できないと思う。町でちょっと暴れたくらいで二、三年も拘束するわけない。


 ラジットの拘束が解けて、私達がいないと分かればまたこの店を買おうとするだろう。本当に金を出すならまだしも、金なんか払わずに奪い取りそうな感じがする。


「これはあれだ、乗り掛かった舟。婆さんが店を売りたいというなら構わないが、そうじゃないんだろう? なら最後まで面倒を見ないと、こちらとしても枕を高くして寝れない。そういう訳で、ラジットがここを諦めるような作戦を相談させてくれ」


 婆さんはなぜかため息をついたが嬉しそうだ。そしてヴァイア、ディア、リエルは悩みだした。よく見るとゾルデがいない。食事中、全く気付かなかった。


「話を振っておいてなんだが、ゾルデはどうした? 昨日、一緒に泊ったよな?」


 腕を組み下を向いて悩んでいたディアがこちらを見た。


「それなら夜中に襲ってきた奴らを縛り上げて冒険者ギルドへ連れて行ったよ」


「本当に夜中に襲撃してきたのか」


「うん。襲ってきたのは異端審問官だったね。ムクイ君達が叩きのめしたんだけど、どうすればいいか分からないから朝まで待ってたみたい。そしてついさっきゾルデちゃんと一緒に冒険者ギルドへ連れて行ったよ」


 ゾルデはアダマンタイトだからな。冒険者ギルドでも話を通しやすいだろう。


「ディアは受付嬢だよな? 一緒に行かなかったのか?」


「今、私は休暇中なんだよね。今はタダの美少女ってことさ!」


「ああ、そう」


 いつも通りのディアでちょっとホッとする自分がいる。これはディアに毒されているのだろうか。


「あ、それでね、一つ思いついたことがあるよ」


 ディアがドヤ顔している。何かいい案が浮かんだのだろうか?


「商会には商会をぶつけるのがいいと思うんだ。ヴィロー商会の手を借りたらどうかな?」


「ヴィロー商会か」


 確かにその手段はあるな。頼んだところで、何をどうするのかまったく想像つかないけど。ただ、アイツらに借りを作るのは嫌だな。


「アイツらの世話にはなりたくないが、選択肢の一つとして考えてみるか。他には何かあるか?」


 ヴァイアが手を挙げた。自信がありそうな顔をしている。


「商人ギルドに相談してみたらどうかな? おばあさんも商人ギルドには加入してるでしょ? 商人同士の諍いを中立的な立場で仲裁してくれるんじゃないかな?」


 婆さんは顔を横に振った。


「残念だけど、それは無理だね」


「何でだ?」


「うちの店とラジット商会じゃ格が違うのさ。商人ギルドは中立、という立場だけどね、やっぱり金がある方に協力するよ。それにこの町にショッピングモールができれば、この町のギルドも儲けられるだろうしね。それを止めたりはしないさ」


 そういう仕組みは良く知らないが、婆さんが言うならそうなんだろうな。


「なら、ラジット商会よりもおばあさんの店の方が有益だと思わせれば、商人ギルドも味方してくれるかも」


「それこそ無理さ。うちはタダの雑貨屋だよ? ラジット商会と言ったら、海を越えてトランと取引しているような大商会だ。逆立ちしたって有益だとは思われないね」


「そっかぁ、いい手だと思ったんだけどなぁ」


 ラジット商会よりも有益だと思わせれば商人ギルドが味方してくれるのか。なんとかならないかな。


 そんな作戦会議をしていたら、下の階から階段を登ってくる音が聞こえた。婆さんの娘か孫だろう。店番をしている女性だ。


「婆ちゃん、エルフの皆さんがまた来てるけど、通していいかい?」


「そう言えば、フェルの知り合いだったね。昨日も助けてくれたようだし、お礼をしないといけないか。じゃあ、案内しておくれ」


 女性は頷いてから階段を下りて行った。これからミトル達を呼んでくるのだろう。


「そう言えば、アンタね。エルフが来るなら最初からそう言いなよ。どこか辺境の人族が来ると思ってたからびっくりしちまったよ」


「そういえばエルフとは言ってなかったな。でも、大して変わらないだろ?」


「全然違うじゃないか。それにリンゴと木彫りの置物を交換してくれって言われたよ。店の在庫を全部出したってリンゴ一個と釣り合うもんか。あれは私を馬鹿にしてんのかい?」


 リンゴ一個が小金貨一枚くらいだからな。多分、木彫りの置物なんて沢山買える。でも、馬鹿にしているわけじゃない。


「そもそもエルフにはお金という概念がないんだ。木彫りの置物や装飾品を見せて、向こうが提示したリンゴで交換してやってくれないか? ここの置物はエルフの間で結構人気らしいぞ」


「もしかしてアンタが以前買っていったものってエルフへ売ったのかい?」


「そうだな。リンゴと交換してもらった」


 婆さんに呆れた顔をされた。なぜだ。


「いい事思いついたぜ!」


 急にリエルが声を上げた。どうしたのだろう? 男の話だったら殴る。


「この店でリンゴが買えるってことにすれば、商人ギルドも味方してくれんじゃねぇか? そんな店、ソドゴラ村以外はどこにもねぇだろ? レアだぜ、レア!」


 なるほど。それはいい手かもしれないな。隊長やミトルに相談してみよう。


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