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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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心理戦

 

 ラジットがババを引かない理由は、私と同じ眼を持っているかもしれない。


 魔眼や神眼は身体能力みたいなものだと魔王様はおっしゃっていた。それに魔眼で見えるスキルの内容には存在しない。ラジットを魔眼で見ても神眼を持っているか確認できないが、おそらく間違いないだろう。


 そうなるとまずい。これは五回勝負だ。次にカードの山を選べるのはラジット。ババがない山を取るに決まっている。ラジットが三回勝って勝負は終わりだ。


 ちらりと婆さんを見た。相変わらず怒ったような顔をしている。そして私の視線に気づいたようだ。


「なにか用なのかい?」


「負けてもいいか? ラジットは強い。私じゃ勝てないかもしれない」


 婆さんが一瞬驚いた顔になったが、ラジットに負けないくらいに口角を上げて笑った。


「言っとくけどね、私は賭け事で負けたことはないよ。その私がアンタに賭けたんだ。勝つに決まってるさ」


 そんなこと言われても困るんだが。


「でもね、アンタが負けちまったなら、それは私の賭けが負けただけさ。アンタが気にすることじゃないよ」


「そうか。なら負けても気にしないようにする」


 口ではそう言ったが、これは負けられないな。私を信じて賭けているならその期待に応えないと。仕方ない。頭痛がするかもしれないが、やるしかないだろう。勝負に勝つまで意識を保っていれば十分だ。


 念のため、相手が神眼を使っている裏付けをとらないと。他の方法だったら意味がないからな。


「ちょっと聞いてもいいか?」


「最後の勝負を前に怖気づいたか? 今更約束を反故にするなんて言うなよ?」


「そうじゃない、お前の事を知りたいだけだ」


「俺の事? 何を知りたい? 冥途の土産じゃねぇが答えられる事なら答えてやるぜ?」


 ラジットは余裕の表情だ。次の勝負は先手だし、すでに勝った気分でいるのだろう。今なら口も軽そうだ。勝ったと思っている奴ほど饒舌だからな。


「ラジット商会という名前から考えて、お前が作った商会なんだな?」


「もちろんだ。主にロモンで商売をしているが、海を越えてトランでも商売をしている。今度はオリンへ進出するぜ。そしてここはその足掛かりにする予定なんでな。そう簡単には引き下がれねぇ」


「野心家だな。見た感じ三十代前半くらいだし、その若さで大きな商会を作れるのなら商才があるんだろう」


「おいおい、俺を褒めてどうするんだ? 悪いが店の件で何かを譲るつもりはねぇぜ?」


「いや、私も商売を始めようと思っていてな。先輩にご教授願いたいと思っただけだ。どうやって店を大きくしたんだ?」


 苦しい言い訳だ。だが、勝負に勝ちそうな今なら色々と口を滑らすに違いない。


「……何を企んでやがる?」


「企む? 本当に商売の秘訣を聞きたいだけだ。それに私が何かをしたところで、この勝負に支障は出ないだろう? まさかイカサマがバレるのが心配なのか?」


「イカサマなんかしてねぇよ。運がいいだけさ」


「ならラジット商会が大きくなったのも運だけか?」


「それは運じゃねぇ。俺は目利きが優れているんだ。物だけじゃなく人物もな。優秀そうな人材を集めて、価値ある物を見つけることが得意なだけだ」


 目利き、か。鑑定スキルや分析魔法の可能性はあるか? ……いや、少なくとも鑑定スキルはないな。魔眼でラジットを見てもそんなスキルはない。断定はできないが分析魔法もそれを使えるだけの魔力がなさそうだ。


 よし、私を囮にしてみよう。


「なら私はどうだ? そうだな……掃除が得意だぞ?」


「ああ? 掃除? ……フン、レベル一じゃねぇか。それよりも格闘の方が得意そうだぜ?」


 かかった。コイツは神眼持ちだ。スキルのレベルは普通の奴は知らないと以前ノスト達に聞いた。スキルのレベルが見えたということは私と同じ種類の眼を持っているということだ。


「そうか。掃除には自信があったんだがな。おっと、時間を取らせたな。勝負の続きといこう」


「まあ、うちで雇ってやってもいいぜ? 俺の下につくことになるがな」


「考えておく」


 考えたけど、絶対に嫌だという結論に達した。一秒くらいで。


「では、最後のゲームを開始します」


 リエルがそう言ってカードを切り始める。二つの山ができた。ラジットは山を一度扇形に開いてから片方の山を手に取った。


「じゃあ、こっちの山を取るぜ」


 当然ババのない方を取ったな。私はラジットにババを引かせないといけないわけだ。


 残った方を手に取り、揃ったカードを捨てていく。


 ……危ない。最初に全部そろう可能性を考えてなかった。私が三枚、ラジットが二枚まで減ってた。これは運がいいと思っておこう。


「引きな」


 とりあえず、一枚引いて揃った物を捨てる。これで残り二枚。ラジットは一枚だ。


 ここでババでないカードを引かれたら私の負けだ。神眼なら間違うことはないだろう。だが、逆に使っているなら間違いなく罠にかかる。


「じゃあ、引かせてもらうぜ?」


 ニヤニヤ笑っているラジットを殴りたいが我慢。


「まあ待て。これで私の負けが決まるかもしれないからな。ここは駆け引きをしたいところだ」


 カードをテーブルの下に隠す。ラジットからは見えない位置だ。よし、今のうちに罠を張っておこう。


「おいおい、ババ抜きで駆け引きなんて意味ないだろ? 早く引かせろよ」


 まだダメだ。慣れていないからもう少し時間が掛かる。それまでなんとか引き延ばさないと。


「落ち着け。こっちも必死なんだ」


 まだか……?


「チッ、早くしろよ。大体この状況でどんな駆け引きがあるんだよ?」


 来た。念のため魔眼で確認……よし、大丈夫だろう。


 テーブルの上に伏せた状態でカードを二枚置いた。そして一枚をラジットの方へ移動させる。


「こっちがオススメだ。取るといい」


「ああ?」


「これが駆け引きだな。私を信じるか、それとも信じないか。心理戦の一種だな」


 そう言うとラジットは笑い出した。大笑いだ。そしてしばらく笑った後にこちらを見た。


「なるほどな、なかなか面白い心理戦だ。だが、俺にはそんなの効かねぇよ。分かった。お前を信じてオススメのカードを貰うぜ」


 ラジットはオススメしたカードを伏せたまま自分の方へ引き寄せた。


「これであがりだ――何だと!」


 伏せたカードをめくったらババだった。まあ、そうだよな。私のオススメなんだからババに決まってる。


「すまんな。信用してくれたのに」


「イ、イカサマだ! こんなことありえん! 何をしやがった!」


「証拠は?」


「な、なに?」


「イカサマの証拠だ。『イカサマをしていると思ったならその時に証拠を押さえろ』と言ったのはお前だぞ。イカサマだと言うなら証拠を出せ。そんなものはないがな」


 ラジットは勢いよく立ち上がり、顔を赤くして眉を吊り上げている。


「テ、テメェ! ふざけるな! こんな勝負は無効だ!」


「そうはいかない。ここにいる奴ら全員が証人だ。それにこの勝負は聖女リエルの立ち会いのもと行われている。それを反故にする気か?」


「ぐ、ぐぐ!」


 歯ぎしりが聞こえてくるほど悔しいのか。婆さんの店を脅して買い取ろうなんてする方が悪い。怒っているのはこっちも同じだ。同情の余地はない。


「席につけ。勝負を再開させるぞ。ババを引いただけで負けたわけじゃないだろう? それともなにか? お前はカードの内容が分かっていたのか?」


「く、くそ!」


 ラジットは怒りながらも席についた。そしてババのカードと持っていたカードを手にする。


「なぜ……! なぜだ……!」


 ラジットは神眼に頼り過ぎているんだろう。それに私がカードの情報を書き換えたことも分かっていないんだろうな。そもそも書き換えるという知識もないと思う。


 魔王様に教わっておいて良かった。自分の情報を書き換えたり保護したりするのはできるようになってたけど、他の情報を書き換えるのは初めてだったからな。ぶっつけ本番だったけどうまくいった。


 でも、代償として頭痛が酷い。倒れる前に決着をつけよう。


 まずは書き換えた情報を元に戻す。ババのカードと自分が持っているカード。情報を取り換えていたので二つとも元に戻さないとな。


 そしてラジットの持っているカードを見る。魔眼で確認してババじゃない方のカードを引いた。


 うん、間違いなくババじゃない。揃ったカードを捨てた。


「あがりだ。これで私の三勝。私の勝ちだ」


 そう宣言すると、こちらの陣営から歓声が上がった。


 婆さんの方を見ると大きく深呼吸してから頷いてくれた。よし、これで一件落着だ。


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