合流
砦からエルリガの町に向けて優雅な空の旅だ。
到着は三時頃だろうか。帰る連絡をしたところ、今日はエルリガに泊まり、明日、リーンへ向けて出発する予定と聞いた。
ディアとリエルから、早く帰って来てくれと切実にお願いされた。ヴァイアとノストが作り出す空間がすでに災害レベルらしい。聞いても良く分からないが、ものすごくウザいという事なのだろう。
リエルは「俺の前でダーリンとかほざいたら、ヴァイアとは縁を切る」とまで言っていた。よほどの事なのだろう。すこしだけ帰りたくないという気持ちになってしまった。
「おー、すげぇ、空から見る景色ってこんな感じなのかよ!」
優雅な旅なのは間違いないが、ちょっとうるさい。さっきからムクイがはしゃいでいる。ゾルデも似たような感じでずっと外を見て「おー」とか言っていた。
パトルとウィッシュに関しては怯えた感じで元気がない。大丈夫だろうか。
「ムクイ、危ないだろう? ゴンドラが落ちたらどうする。大人しく座っていろ」
「そうよ、落ちたらどうするの? この高さから落ちたら私達だってタダじゃ済まないわよ」
二人は現実的だな。確かにゴンドラが落ちたら危ない。変な事をしないようにムクイをなだめているようだ。
「ご安心ください。その程度でゴンドラを落とすようなことはしませんよ」
カブトムシは余裕そうにそんなことを言っている。
飛ぶ前にドラゴニュート三人を乗せても大丈夫か聞いてみたら「それは私に対する挑戦ですか?」とか言われた。とくに挑戦させたわけじゃない。
ドラゴニュートは結構重いから心配したんだけど、カブトムシからしたら特に問題ないようだ。さらに、この状態にヴァイア達が乗っても全く問題ないらしい。
なんと頼りになるカブトムシなのだろう。問題はゴンドラが狭くなることくらいか。でも、ゴンドラに乗るのはエルリガからリーン、リーンからソドゴラ村の二日間だけだ。ちょっとくらい我慢しないとな。
そんなことを考えていたらエルリガの町が見えてきた。
色々と疲れたからな。今日はゆっくり休もう。
町の外でカブトムシと別れた。また、明日の朝に来てくれるようだ。
ムクイ達は砦を見て驚いていたが、この町にも驚いているようだ。見るものすべてが新鮮な感じなんだろうな。
町の入り口に近づくと門番がいた。ギルドカードを取り出そうとして、ふと思った。ムクイ達は身分を証明するものがない。入れるのだろうか。
「あ、あの、そちらにいる方達はドラゴニュートでしょうか?」
案の定、門番に恐る恐る聞かれた。
「そうなんだが、町に入っても大丈夫か? 身分を証明するものがないんだが」
「王都から連絡がありました。その、フェル様が連れてくるドラゴニュートなら、フェル様の責任において問題ない、と」
ものすごく丸投げされている。私も良くやるけども。
「じゃあ、町に入っていいか?」
「はい、問題ありません。ですが、フェル様のギルドカードは確認させてください」
ギルドカードに魔力を通すと青く光った。そして門番に見せる。
「確認しました。冒険者ギルド所属、ヒヒイロカネのフェル様で間違いないようです。どうぞお入りください」
なんか変な事を言わなかったか?
「えっと、今、なんて言った?」
「え? どうぞお入りください、と言いましたが?」
門番が不思議そうな顔をしている。あれ? 私がおかしいのか?
「ねえねえ、フェルさん、今、ヒヒイロカネって聞こえたんだけど? それってフェルさんを倒すとなれるランクの事じゃないの?」
ゾルデにそう言われて、ギルドカードを見た。ランクの部分がブロンズからヒヒイロカネに変わっている。いつの間に。
「なんでだ?」
「い、いえ、私に聞かれましても……町に冒険者ギルドがありますので、確認されてはどうでしょうか?」
そうだな、それが手っ取り早い。ディアを引きつれて冒険者ギルドへ乗り込もう。
「なあ、フェルさん、なにか問題か? 俺達はここへ入れなかったりするのか?」
ムクイ達が興味深そうにこちらを見ている。
「お前達は問題ない。どちらかと言うと問題があるのは私の方だな。いつの間にか冒険者のランクが変わってた」
「ふーん? よく分かんねぇけど、入っていいなら入ろうぜ、すっげぇ楽しみだ」
そうだな。まずは町に入ろう。そしてヴァイア達と合流して、その後に冒険者ギルドだ。
宿に着くまでものすごく見られた。狂暴とされているドラゴニュートが三人もいるからな。怖がらせてしまったかもしれない。
そして宿では主人は顔が引きつっていた。
「えっと、泊らせてもいいか?」
「……ベッドとか壊れないですよね? というか、ベッドが小さいかもしれませんが」
「状態保存の魔法を使っておくから大丈夫だと思う」
「部屋の備品、すべてにお願いします」
「……分かった」
これは仕方ない。そもそも私の責任で連れて来ているわけだから壊さないようにしないと。
「お前達、何か壊したら弁償しないといけないから絶対に壊すなよ? 一応、お前達が泊る部屋には状態保存の魔法をかけておくけど、だからと言って、はしゃいでいいわけじゃないからな?」
「俺達なら外で野宿していてもいいぜ? ちょっと寒いけど」
「お前達が外にいる方が心配だ。大人しくこの宿で寝ろ。ゾルデ、すまんが四人部屋を取ったから一緒の部屋に泊ってコイツらを見ていてくれないか? 可能な限り常識的な事を教えてやってくれ。部屋代は私が出すから」
「もちろん構わないよ。お金には困ってないけど奢りだと思うと嬉しいからね。でも、その前にさ、フェルさんの連れを紹介してよ。この宿にいるんでしょ? そこが食堂になってるから、お近づきの印に一緒にご飯食べようよ」
そうだな。二日は一緒に行動するわけだから、食事でもして打ち解けた方がいいか。
「分かった。部屋に行って連れてくる。食堂で待っていてくれ」
ゾルデとムクイ達は頷いてから食堂にある大き目のテーブルに移動した。慌てて座ろうとした椅子に状態保存の魔法をかけた。危ない。
「フェルちゃん、おかえり!」
部屋をノックして名前を告げると、ヴァイアが扉を開けて出てきた。
「えっと、ただいま」
ヴァイア越しに部屋の中を見ると、ディアとリエルが椅子に座っていた。こちらを見て「おかえり」と言っている。うん、なんとなくだが、帰って来た、という気がするな。
部屋に入って中を見るとノストがいない。
「ノストはいないのか?」
その言葉にディアが呆れたような顔をした。
「やだな、フェルちゃん。さすがに男性と一緒の部屋に泊らないよ」
「私がノストさんと一緒の部屋に泊っても良かったけどね!」
おう、ヴァイアのウザさが増してる。恋人アピールか。リエル、部屋の壁を殴るな。怒られるぞ。
まあ、それはいい。まずはゾルデやムクイ達に会わせないとな。
「念話で話したと思うが、ドワーフ一人とドラゴニュート三人を連れてきた。紹介したいから食堂まで来てくれないか。一緒に食事をしようと提案を受けたんだが」
「ああ、そんなこと言ってたね。いいよ、まだ早いけど、夕食を一緒に食べようか」
ディアがそう言うとヴァイアとリエルも同意してくれた。
さっそく食堂へ向かうことにしよう。
途中ノストの部屋に寄り、全員で食堂に来た。そして絶句。
「ドワーフ殺しを追加で持ってきてー」
「これは美味いな。それに何となくふわふわする」
「いいわねぇ、外界はこういう物がいっぱいあるのかしら?」
「なんで俺は飲んじゃダメなんだよ。ずりーじゃねぇか」
ドワーフとドラゴニュート三人が酒盛りをしている。宿の客らしき奴らはそれを遠巻きに見ているようだ。そして宿の主人は泣きそうな感じになっている。
「なんで酒を飲んでいるんだ?」
「いいじゃん、いいじゃん。ドワーフにとって酒は水と一緒だよ。それにひと月くらい禁酒してたんだからちょっとくらい飲ませてよー」
お酒の瓶を三本も空にしておいて、ちょっととは言わないと思うんだが。それに話を聞いた感じ、ムクイ以外は飲んでいる気がする。
「お前達も飲んだのか?」
「うむ、私とウィッシュでコップ一杯だけな。なんとなくだが気分が高揚する感じだ。不思議な飲み物だな」
「俺には飲ませてくれねぇんだ。年齢制限とかで。水なら村でも飲めるっての」
年齢制限。ということは二十歳未満なのか。
「ムクイはいくつなんだ?」
「最近、十五になったぜ」
「年下かよ」
体がデカいから私よりも年上かと思ってた。
「あはは、ムクイは子供だなー」
ゾルデは見た目が子供なのにな。
だが、そんなことはどうでもいい。まずは紹介だ。
「お前達聞け。私の連れだ。左からヴァイア、ノスト、ディア、リエルだ。そしてコイツ等はゾルデ、ムクイ、パトル、ウィッシュだ」
「おー、おー、よろしくねー。それにしても可愛い子がばっかりだね! こっち座ってお酒を注いで!」
ゾルデが親父くさい。
「えっと、後は任せていいか? 私はギルドへ行く必要があってな。すまんがディアは一緒に冒険者ギルドへ来てくれ」
「そうなの? それはいいけど、ヴァイアちゃん達は大丈夫?」
「フェルちゃんの知り合いなんでしょ? なら大丈夫だよ」
「おう、問題ねぇぜ……さすがにドラゴニュートは見た目がちょっとなぁ……もうちょい見た目が人に近ければアリなんだが」
「はい、こちらはお任せください」
酒が入っているけど大丈夫だろう。さて、ギルドへ行って確認するか。




