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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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 昨日はついカッとなってやった。反省せねば。


 よく考えたら、私だってドラゴニュート達の性別は分からない。向こうも同じように魔族の性別なんて分からないだろう。ちゃんと謝罪しないとな。でも、ドラゴンの肉は返さない。


 野営セットのテントから外に出ると、近くにいたドラゴニュート達がなぜか整列した。


「フェル様! おはようございます! 今日もいい天気ですね!」


「ああ、うん。おはよう……?」


 ものすごくビシッとした感じで挨拶された。もしかして昨日叩きのめしたからこんな感じになっているのだろうか?


「族長がお待ちです! お帰りになる前にぜひお会いください!」


「そうだな。族長に挨拶してから帰るか。あの洞穴みたいなところにいるんだな?」


 そう聞くとドラゴニュートは「はい!」と元気よく言った。


 昨日、あれだけ暴れたから怯えられるかと思ったんだけど、そんなことなかった。魔王様の言うことに間違いはないな。叩きのめした方が話は早かったのかもしれない。いまさらだけど。


 洞穴に着くまで会ったドラゴニュート全員に頭を下げられた。さらに一部のドラゴニュートには拝まれた……取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。


 洞穴に入ると族長のコアト、巫女のアトリ、そしてムクイが座っていた。たき火を挟んで族長の正面に座る。そうすると三人が頭を下げた。


「おはようございます、フェル様」


「おはよう。昨日、敬称はいらないと言っただろ。フェル、でいい。それにそんなに丁寧に挨拶するな」


「それはできません。ええ、できませんとも」


 ものすごく拒否された。何が族長をそこまでさせるのだろうか。


「昨日はちょっと暴れ過ぎたと思って謝罪に来たんだ。あと、帰る前の挨拶をな」


「謝罪など必要ありません。百人近い我々をいとも簡単に制圧するなど、どれだけの者ができますでしょうか。神のごとき力、しかと目に焼き付けました。そんなフェル様に失礼があってはドラゴニュートの名折れ」


 ものすごく面倒くさい状況になっている。まあ、いいか。多分、ここへ来ることはしばらくないだろうし。


「そうか。でもやり過ぎたとは思っているから、お詫びの品を受け取ってくれ」


 亜空間からリンゴをいくつか取り出す。人数分はないけど、四分の一くらいに切れば全員に行き渡るだろう。


「おお、噂に聞くリンゴですな。ムクイから美味しいと聞いております。謝罪の必要はありませんので、これはフェル様からの贈り物としてありがたくいただきましょう。贈り物を返すような無粋な真似は致しませんぞ」


「そうか、受け取ってくれるならそれでいい。私もドラゴンの肉を返すつもりは無いからな」


「ええ、もちろんですとも。ただ、一つ願いを聞いてもらえないでしょうか?」


「願い?」


「はい、フェル様にお願いしたいことがありまして」


 これはどう答えるべきだろう。面倒な事はしたくないんだが。とはいえ、龍神の事や昨日暴れた件で罪悪感はある。リンゴは渡したけど、それだけだとちょっと足らないか。


「私は色々とやらなくてはいけないことがある。なので、そのついででいいなら引き受ける」


「おお、もちろんです。では……」


 族長がムクイの方を見た。そしてムクイが頷く。


「俺ともう二人、外界へ連れて行って欲しいんだ」


「……勝手に行けばいいんじゃないか? 私が必要だとは思えないんだが」


「外界へ行くだけならそうかもしれませんが、ムクイには外界で他種族と交流を図ってほしいと思っているのです。次期族長として見聞を広めてもらいたいということですな。それに宴の時にフェル様がおっしゃっていました。魔族である自分を受け入れてくれるような村があって感謝していると」


 ……確かにそんなことを口走った気もする。ドラゴンの肉を食べ過ぎて気分が高揚してたからかな。今更ながらそんなことを言ったのが恥ずかしくなってきた。


「フェル様がそう感じている村なら我々ドラゴニュートも受け入れてくれるのではないかと思いまして、ぜひともフェル様に同行させてもらいたいのです」


 これはどうなんだろう。ソドゴラ村なら大丈夫な気はするけど、村長に意見を聞かないとダメだな。


「ちょっとだけ待ってもらえるか。連絡して聞いてみる」


 ジョゼフィーヌへの念話を経由して村長にドラゴニュートを連れて行っていいか聞いてみると、「フェルさんが大丈夫だと思うのなら構いませんぞ」と返答がきた。


 ジョゼフィーヌ経由だから何とも言えないけど、ものすごく軽い気がする。何で聞くの? くらいの雰囲気が伝わって来た。村長なんだから危なそうな奴を連れて帰っちゃいけないと思うんだけど。


 三人がこちらをジッと見つめている。仕方ないな。ちゃんと伝えておくか。


「どうやら私が問題ないと思うなら構わないらしい」


「おお、では、フェル様から見てムクイはどうでしょうか?」


「村で暴れたりしなければ問題ない。ただ、村で問題を起こしたら追い出す」


「暴れないってフェルさんに誓うぜ!」


 返事はいいんだけどな。まあ、暴れる前にジョゼフィーヌ達が制圧しそうだから大丈夫だろう。


「もう二人は誰なんだ? ソイツらも暴れないと誓えよ?」


「ムクイの教育係です。フェル様がいらしたときにムクイと一緒にいた二人ですな。あの者達ならムクイよりも数段賢いので問題ないと思います」


「親父ぃー、だからそういう事は俺のいないところで言ってくれよ!」


「ああ、あの二人か」


 もう一度会っても顔は分からないだろうけど。だが、ムクイよりは安心できるタイプであることは間違いないだろう。


 でも、どうするかな。ソドゴラ村へ行くならここから南へ行く方が早い。


 私の予定としては、東のエルリガまで戻って、リーンに行き、そこからソドゴラ村へ戻る感じだ。はっきり言って遠回り。ムクイ達を連れて行くよりも、三日くらいしてから境界の森へ来てもらった方がいいかもしれない。


「私が滞在している村はソドゴラ村と言ってな、ここから南にある森の中にある。私は用があって東へ行くから遠回りなんだ。ムクイ達はしばらくしてから直接村に来る方がいいか? 遠回りでもいいなら連れていくけど」


 カブトムシのゴンドラに乗れるかな? ダメなら歩かせよう。


「なるほど、そう言えばナガル殿は南の森から来たと言っておりましたな。ううむ……」


 族長は考え込んでしまった。私としてはどっちでもいいけど。


「族長さん、いるー?」


 背後からゾルデの声が聞こえてきた。


「あ、フェルさんもいたんだ? ちょうど良かったよ」


「ゾルデ殿、何か御用ですかな? 今、フェル様と話をしている最中なのですが」


「ああ、ごめんね。村を出るからその挨拶に来たんだ。そろそろ別のところへ拠点を移そうと思って」


 ゾルデも村を出るのか。そう言えば昨日、そんなことを言っていた気がする。


「フェルさんも村を出るんだよね? 私も連れて行ってくれない?」


「お前もか。でも、なんでだ?」


「なんか面白そう。フェルさんはトラブルに巻き込まれる体質と見たけど、どうかな?」


「その聞かれ方で肯定するわけないだろ」


 例えそうであっても自分では認めたくない。


「あ、それなら俺や二人もフェルさんについていくぜ! ゾルデさんも一緒なら楽しそうだし、見聞を広めるならそのソドゴラ村以外の奴とも交流できないか試したいしな!」


「ふむ、フェル様はどうですかな? ムクイと二人、そしてゾルデ殿の四人が増える形になるのですが」


 カブトムシのゴンドラに乗るのは無理っぽいか? いや、ギリギリ行けるか? ゾルデはちっこいし。


「私は乗り物に乗っている。でも、ムクイ達は体が大きいからそれに乗れないかもしれない。乗れなかったときは徒歩になるけど、足は速い方か?」


「おう、ドラゴニュートは走るのが得意だぜ! 山道で鍛えているからな!」


 なら大丈夫かな。よし、連れて行くか。旅は道連れだ。


「分かった、なら連れて行こう。すぐに出るつもりだが、準備は大丈夫なのか?」


「すぐ準備するから待っててくれ!」


 ムクイはそう言って洞穴を出て行ってしまった。


「それじゃ私も準備してくるよ。族長さん、巫女さん、今までありがとうね! お世話になりました!」


 ゾルデは笑顔でそう言うとこの場を後にした。


 残っているのは、族長と巫女、そして私だけだ。


「それじゃ世話になったな」


 そう言うと、巫女が顔を横に振った。


「何をおっしゃいますか。世話になったのはこちらです。龍神様の声が聞こえなくなって我々は途方に暮れていました。ですが、フェル様が龍神様を救ってくださったのです。今も龍神様は眠っておられますが、それが分かっただけでも未来に希望を持つことができます」


 微妙に違うんだけど、絶対に言わないでおこう。大体、龍神はもう自力では目覚めない。でも、魔王様がイブを倒された時は元に戻すかもしれないな。そうなる様に私も頑張ろう。


「そうか、私も龍神がいつか目覚めることを期待している。それまではよろしく頼む」


「はい! お任せください! ……はぁ、フェル様はなんで女性なのですか?」


 私が男性だったとして何かあるのか? ……いや、なんとなく聞いてはいけない気がする。見える地雷は踏まない。これは鉄則だ。聞こえない振りをしよう。


 その後、三人で外へでた。どうやらムクイや、付いてくる二人が皆に別れの挨拶をしているようだ。同じようにゾルデもドラゴニュート達に別れの挨拶をしている。


 それらを見ていたら大狼が近寄って来た。


「どうやらあの者達と一緒に行くようだな?」


「ああ、ムクイは見聞を広めに、ゾルデは私が面白そうだからと言ってた」


「面白そう、か。確かにそうだな……我はここに残る。まだ、村には帰れん」


「そうなのか? 進化はしていないがあの頃よりも強くなっているだろう?」


「そうかもしれないが、ジョゼには勝てんからな。それに、この山には古代竜という意思の疎通ができるドラゴンがいて、相当な長生きらしい。もしかしたら進化の事について何か知っているかもしれん。戦いになるかもしれないが話を聞きに行くつもりだ」


 なるほど、本気なんだな。なら邪魔しちゃいけない。


「頑張るのはいいが無茶するなよ? 生きて帰ってくることが一番重要だからな?」


「もちろんだ。泥水をすすってでも生き延びて見せる。次に会う時を楽しみにしていろ」


「そうだな。楽しみにしている」


 大狼と話をした後、ドラゴニュート達からも別れの挨拶をされた。誰が誰だかわからないけど。


 そうこうしているうちに、ゾルデやムクイ達の準備が終わったようだ。


「それじゃあ、行くか」


 そう言って村を出た。五人の大所帯だ。来た時は一人だったのにな。


 しばらく歩いたところで、村の方から感謝や応援の言葉が聞こえてきた。振り返ってみると皆が手を振っている。大狼はそんな事してないが、こちらをずっと見ているようだ。一度だけ手を振ってからまた歩き出した。


 さて、ここでの対応は終わった。ヴァイア達と合流してソドゴラ村へ帰ろう。


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