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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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立体映像

 

 扉を開けて中に入るとそこそこ広い部屋だった。


 正面の壁は大きなガラスのようで、なにかしらの映像が表示されている。なんとなくだが、この施設内の映像だろうか。それがいくつも分割されて表示されているように見える。


 そしてガラスの手前には横長いテーブルがある。さらにその手前には大きい卵のようなものが三つほどあった。後ろから見ても分からなかったが、視線をずらすとなにか分かった。背もたれのある大きな椅子だ。


 魔王様は真ん中にある椅子に近寄り、覗き込むように椅子の正面にまわる。


 無表情、ではないな。何とも言えないような顔をされている。


「魔王様。どうかされましたか?」


「ここに僕の戦友がいる。もう、亡くなっているけどね」


 そう言うと、魔王様は手を合わせて目を瞑った。弔いのポーズだ。魔王様の戦友は私の位置からは見えない。正面に回ってみよう。


 どうやら椅子の正面はガラスで覆われているようで、これまでみた円柱のようになっている。中にいる人は男性で座ったままのポーズで目を瞑っていた。私も手を合わせて目を瞑る。


「フェル、君はそんなことをしなくていい。君やセラが魔王や勇者となって辛い目に遭っているのは、僕も含めて仲間たちのせいだ。弔う必要はないんだよ。いや、そんなことをされる資格がないと言った方がいいかな」


「辛い目に遭っているとはなんでしょうか?」


「自覚がないのかい? 魔王は勇者に殺される運命だろう?」


 そういう意味か。魔王様がいなければ私は魔王としてセラに殺される運命だった訳だな。


「しかし、魔王様が助けてくれましたので、それほど辛い目にはあっていませんが?」


 魔王様のおかげでちゃんと生きてる。


「フェルは魔族なのに人がいいね? そこは怒るところだと思うけど?」


 褒められたのかな? ちょっと違う気もするけど。


「辛い目というのは他にも色々とあるけど、それは後だね。どうやら立体映像が残されているみたいだ。日記のように何か情報があるかもしれない。確認してみよう」


 魔王様はテーブルに置かれている六角形の物体を手に取った。掌に乗るくらいの大きさで、魔王様はそれを床に置く。しばらくするとそれが光の柱を作った。光が収まると、そこに人が現れる。


 よく見ると、ここに座っている魔王様の戦友だ。


「魔王様、これは一体?」


「これは立体映像を保存しておく物でね。亡くなる前に残しておいてくれたんだろう。質問は後で聞くから今はこのまま聞いてくれるかい」


 よく分からないが、ヴァイアが作った魔道具みたいに映像を残せる物なのかな?


『これを見ているってことは誰かが来てくれたんだな?』


 映像が喋った。映像自体はうっすらと透けて見えるから本物じゃないのは分かるけど、遠目にみたら分からないと思う。


『どういう理由があってここに来たのかは分からないが、状況の説明をしておく。ドスの奴がおかしなことを始めそうだったので機能を停止させた。だが、それと同時に俺の不老不死の機能も停止させられたようだ。もって二、三日だろう』


 世界樹にいた魔王様の戦友と同じような状態なのだろう。


『魔族が人族を襲わなくなったことで人族の人口が増えた。ドスは文明が進み過ぎる事を危惧してドラゴニュート達を魔族の代わりにしようと考えたようだ。その考えに至るのは分かる。だが、あまりにも早すぎる決断だ。おそらく誰かに唆されたのだろう』


 魔族による人族の間引きがなくなったから、ドラゴニュート達にやらせようとしていたのか。


 そして龍神は誰かに唆された可能性がある、と。その誰か、というのはイブかな。


『こんな状態になった原因は魔王のシステムにトラブルがあったからだと思う。ここ数十年、魔王が存在するにもかかわらず、エデンに攻め込む様子はない。その件について、向こうに問い合わせても返事はなかった』


 魔王のシステムにトラブル? それはともかく、私が魔王になるまで魔王はいなかったぞ? どういう意味だろう?


『おそらくだが、魔王のシステムに介入をした奴がドスを唆した奴だろう。だが、そんなことをできるのはアイツだけだ』


 アイツ。おそらくだが、魔王様のことだろうな。世界樹にあった日記にも魔王様を疑う内容が書かれていたし。


『それくらいの事をされる理由はある。でも、アイツがそんなことをするだろうか。新しい人類の誕生を誰よりも喜んでいたのはアイツだ。復讐のために管理者達を操り、今の人類を危険にさらすような真似をするとは到底思えない』


 魔王様は疑われてもいるが、信頼もされているんだな。ちらりと魔王様を見たが無表情だ。


『なら考えられるのは一つ。アイツの管理者だろう。あれは普通の思考プログラムではない。そもそものベースがアイツの……いや、それはいいな。重要なのはアレがもっとも人間に近い思考を持っているということだ。主人と言えるアイツを強制的に眠らせたことに俺達全員を恨んでいたとしてもなんら不思議はない。そして、そのためなら何でもするだろう』


 イブが魔王様以外の創造主を恨んだ? そういう可能性があるのか。


『俺にはそれを調べるだけの権限も時間も無くなってしまった。すまないが先に逝かせてもらう。非科学的だが、向こうで待ってる。十中八九、地獄の方だがな』


 地獄……死後の世界の話か。


『こう言ってはなんだが、死を迎えることで少し肩の荷が下りた気がする。無責任だと怒るか? でもな、長く生き過ぎて色々と疲れた。分かるだろ? 科学が発達して神と言えるほどの事ができたとしても、思い通りにいくことなんてほとんどなかったからな』


 映像の男は随分と穏やかな顔になった。


『間違っていたのは俺達の方かもしれない。人を管理するというのは無理だった、いや、俺達が望む通りに管理するのが無理だったのだろう。望みどおりに発展せず、あの後、二度も同じことを繰り返した。そして現在、何かしらの介入があったとしても、その程度で破たんする管理だったわけだ。これならば俺達は何も介入せず、最初の人類をもっと長く見ておくべきだったのではないかと今更ながらに思う』


 あの後二度も同じことを繰り返す……調整のことかな。最初の人類というのは、第一世代のことだろう。


『もし、アイツに会ったら俺が謝っていたと伝えてくれ。そして虫のいい話だが今の世代の事をよろしく頼むとも。アイツなら何とかしてくれると思うからな』


 魔王様は無表情のままだ。大丈夫だろうか。


『それともこれを見ているのはお前か?』


 もしかして魔王様向けのメッセージがあるのかな?


『お前は今どう思っている? それ見たことかと笑っているか? それとも同情や憐れみか感じているのか? まあ、どっちでもいい。それはお前がこっちに来た時に聞かせてもらうよ。遅くなっていいから、それまではエデンの事を頼む。じゃあな』


 その言葉を最後に姿が消えてしまった。


「ああ、じゃあな」


 魔王様が小さな声でつぶやいた。笑ってはいない。そして同情や憐れみも抱いていない気がする。寂しい、という感じだろうか。


「魔王様――」


「すまないフェル、少しだけ一人にさせてくれないか?」


 そう言いながら魔王様は亜空間から瓶と二つのコップを取り出した。そのコップをテーブルに置き、瓶から液体を注いだ。少しアルコールの臭いがする。あの瓶の中身はお酒だろうか。


 二人で飲む、という意味かな。なら邪魔をしてはいけないだろう。


「分かりました。外におりますので、終わりましたら呼んでください」


「悪いね」


 入って来た扉を開けて部屋の外へ出た。


 戦友と言っていたが、親友だったのかもしれない。邪魔をしないように少し離れてこの施設を見てみよう。


 そう思った直後に何かが近づいてくる音が聞こえてきた。カツンカツンと金属同士が当たるような音だ。


 そして姿が見えた。なんだアレ? 大きな金属の犬、だろうか? いや、犬かどうかは分からないけど、四本足で立っていて、目は一つだけ。その目は赤く光っている。


 もしかしてエデンにいたキマイラのようなものか? この施設を防衛しているような奴なのかも。


「スキャン開始……超重要個体『魔王』……捕縛モードへ移行」


 犬が変形した。あれはドラゴンか? いわゆる四本足で立つトカゲのようなドラゴン。捕縛というよりも倒す感じなんだけど。


 だが、どうでもいいか。襲ってくるということが分かったなら十分だ。


 背後の扉を見る。魔王様達の邪魔をさせる訳にはいかない。速やかに排除しよう。


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