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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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馬鹿力

 

 なぜか周囲が静かになってしまった。私のせいじゃないと思いたい。


 とりあえず、ムクイと戦うなら戦力を確認しておこう。負けるとは思わないが、変な怪我をしてもつまらないからな。


 ムクイはオーソドックスな感じのロングソードと丸い盾を装備している。鎧はつけていない。というか裸、なのだろうか? 盾はバックラーとかいう種類だったかな。持っているというよりは腕にはめているようだ。見た感じどちらも鉄製でゾルデが持っていた斧のようにレアな感じではない。


 これなら特に警戒する必要はないかな。ただ、これ以上戦うのは嫌だ。肉という賞品があるからやっているだけで、必要以上に戦いたくない。ちゃんと確認を取らないとな。


「最初に断っておくが戦うのはこれで最後だぞ? あと、盛り上がりとかそういうのは関係ないからな? 盛り上がらないからと言って何度も戦わせるなよ?」


 族長に向かってそう言うと、頷き返してくれた。


「もちろんだ。ゾルデ殿との戦いでフェル殿の強さは確認できた。これは……まあ、余興の余興みたいなものだ。ムクイに色々と教えてやってくれ」


「私に何かを教えるなんて無理だぞ? 何を期待しているのか知らんが、変な期待はするなよ?」


「コイツは歳の割には強いから調子に乗っている部分がある。そういうプライドをへし折ってやってくれればいい」


「親父ぃ、そういうのは本人のいないところで言ってくれよ!」


 なるほど。そういうのなら得意だ。


「よし、教育してやる。先手は譲ってやるから掛かってこい」


「力は強いみたいだけどな、それだけじゃ勝てない事を教えてやるぜ!」


 それはお前に言いたい。


「よし、では二人とも準備はいいな? では始め!」


 族長の掛け声に合わせて、ムクイは武器を構えた。そしてこちらを見つめている。


「行くぜ!」


 なんの捻りもなく剣を構えて突撃してきた。それなりの威力はありそうだが、そんなんじゃ当たらないと思う。


 ……でも、躱せなかった。慌ててガードしたけど、すこしふっ飛ばされた。結構痛い。


「お前、ふざけんなよ。剣を持って頭突きかますとはどういうことだ。反応が遅れただろうが」


「何言ってんだ? 攻撃は全身を使うもんだぞ? 大体、剣を持ってたら頭突きしちゃいけないなんてルールはないだろ?」


 その通りなんだけど、せこい真似すんなと言ってただろうが。そっちの方がせこいじゃないか。


 まあいい、先手は譲った。次は私の番だ。


 すぐさまムクイの正面に踏み込んでパンチを繰り出す。


「それはさっき見せてもらったぜ!」


 意外にもバックラーを使ってパンチを防いだ。しかも無理に受けず、受け流す感じだ。なかなかの技術じゃないか。


「驚いた。やるじゃないか。まともに盾で受けてたら貫いていたぞ?」


「こっちは毎日戦士長達と練習してんだ! それくらい余裕だぜ! それに驚くのはまだ早いぞ!」


 今度はちゃんと剣で攻撃してきた。でも、雑だな。かなり隙だらけだ。大振りしたら剣を躱した後、カウンターを食らわしてやる。


 何度か攻撃を躱した後、左から右へ大振りな横薙ぎをしてきたのでしゃがんで躱した。ムクイは勢い余って体が泳いだ。チャンスだ。


 立ち上がりながら殴ろうとしたら、左側から衝撃を受けた。想定外でちょっとよく分からなかったが、横にふっ飛んだようだ。


 でも、なんだったんだ? 剣を躱したはずなのに別の攻撃がきた?


「どうよ、俺の尻尾は? かなり効いたはずだぜ?」


 ムクイの尻尾が器用に動いている。アレにやられたのか。


 なるほど、剣での攻撃は囮か。本命は尻尾。くそ、やられた。さらに周囲が盛り上がっているから余計にイラっとする。


「ドラゴニュートの戦い方というのはこんな感じなのか? さっきのゾルデもそうだったが、随分とトリッキーな戦い方だ」


「とりっきー? よく分からないが、俺達はどちらかと言うと体術の方が得意だからこんな戦い方しかしないぜ?」


 体術か。確かに武器とか使うよりもそっちの方が強力そうだ。身体能力は高そうだし、持ってる武器はおまけみたいモノなんだな。


「分かった。それを頭に入れて戦ってやる。改めて掛かってこい」


「言われなくてもそうするぜ!」


 今度は前転しながら近づいてきた。体が柔らかいというかなんというか。転がっている姿は本当にボールみたいだ。蹴っ飛ばすぞ。


 体当たりをしてくるかと思ったら、手前で剣を突き出してきた。なんというか、予想がつかない感じだな。やりにくい。


「オラオラ、どうしたぁ!」


 ムクイは攻撃がのってきたのか、連続で攻撃してきた。雑だけど、剣だけじゃなくパンチや蹴り、頭突きや尻尾もあるから実際は隙が無い感じだ。


 言うだけあってそれなりに強いようだな。だが、それだけじゃ強者には勝てない。


「よし、ちょっとだけ本気を出してやる。指導代は取らんから安心しろ」


「言ってろ!」


 懲りずに剣と体術の攻撃を仕掛けてきた。それなりに早いし、威力もある。だが、来ると分かっていればそれほど脅威じゃない。


 大振りの横薙ぎを躱した。次に尻尾がくる。だが、それを躱さずに踏み込んだ。


 ダメージを気にせず、右ストレート。重い物がぶつかった様な音がしてムクイがふっ吹っ飛んだ。残念ながら私も左腕にダメージを受けた。でも、平気だ。


「背中がいてぇ!」


「さすがに背中の鱗は硬いな。それなりの力を込めて殴ったんだが」


「相打ち狙いかよ!」


「尻尾の攻撃も来るのが分かっていれば耐えられる。だが、私のパンチは分かっていても耐えられないだろう? さあ、掛かってこい。全部反撃してやる」


「よーし、そういう戦いなら望むところだ!」


 ムクイはそう言って、剣と盾を放り投げた。そして四つん這いになる。


「竜の力を見せてやる! 行くぜ!」


 ドラゴニュートだからな、竜と言えば竜だ。それに四つん這いの方が様になってる。でも、その姿で地面を這う感じに来るとちょっとキモイ。


 うお、噛みついてきた。それを躱して顔を殴る。当たったのにムクイは関係ないとばかりに飛びかかってきた。


 だが、近づかせない様に振りの短いコンパクトな攻撃で迎撃。それでもムクイは私に近づこうとしている。それは無謀じゃないか?


 何度か殴ると勢いがなくなってきた。やっぱり無謀だったか。


「捕まえたぜ?」


「なに?」


 いつの間にかムクイの尻尾が私の足に絡まっていた。しまった、こっちが狙いか。


「オラァ! 飛んじまいな!」


 尻尾で勢いよく投げ出された。どうやらかがり火の外側へ投げ出されたようだ。なるほど、放り出して勝つつもりだったか。でも、その勝ち方でいいのだろうか。せこい訳じゃないけど、どういう勝ち方なら盛り上がるのかよく分からん。


 それに作戦はいいんだけど、私の魔法を忘れてないか?


 空中からムクイ背後に転移した。


「あ、あれ? どこ行った?」


「後ろだ。惜しかったな。私が転移できることをちゃんと覚えておけ」


 ムクイの尻尾を掴んで振り回す。そしてかがり火の外側へ放り投げた。


「あー!」


 ゾルデと同じように弧を描いて飛んだ。そして地面にぶつかる。


 でも、また歓声がない。別にいらないけど、何が不満なんだ。


「私の勝ちでいいんだよな? もう、これ以上は戦わんぞ?」


 族長に確認しよう。これでダメなら暴れるぞ。


「も、もちろんだ。しょ、勝者フェル!」


 そこそこの歓声とそこそこの拍手。コイツらの求めるモノがよく分からん。こういう勝ち方じゃダメなのか?


「それにしてもフェル殿は、その、馬鹿力だな」


 族長が近づいてきてそんなことを言った。


「馬鹿力っていうな」


 これでも思春期の乙女だぞ?


「そうは言ってもな、ムクイを片手で振り回すなんて誰にもできないぞ? 魔法による強化を使うならともかく、あのゾルデ殿でも無理だと思うがな」


 もしかしてそれで歓声がなかったのか? なんだ、驚いていただけか。


 まあ、もうどうでもいいや。肉を大量に貰えるし、明日は鍵も借りられる。何の問題もない。馬鹿力と言われてちょっと傷ついただけだ。


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