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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十章

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 ドラゴニュートの村で宴が盛り上がっている。


 音楽に明るくはないが、あれは太鼓というものだろう。何人かのドラゴニュート達が車座に座って両手で交互に叩いている。そのリズムに合わせて踊っているようだ。踊ると言ってもキャンプファイヤーの周囲を、両手を上げたり下げたりして回っているだけのようだが。


 踊りか。私もソドゴラ村で魔王様と踊った。あれはいい思い出だが、不満がある。ドッキリかと思って純粋には楽しめなかった。


 そうだ。今度、魔王様に踊りを要求するというのはどうだろう? それくらいのことを要求しても問題ないくらい頑張ってる……はずだ。


「おい、フェル、さっきから肉食ってるだけじゃねえか? 踊らねぇのか?」


 ムクイが近寄って来た。意外と気さくな奴だな。私が大狼の隣に座って肉を食べているだけなのを気にかけてくれたのかもしれない。


「私は踊らない。見てるだけで十分楽しいからな。表情は分からないが楽しいような感情は伝わってくる」


「そうか? ゾルデさんなんかは、俺達と一緒に踊っているけどな」


 確かに踊っている。ただ、全くリズム感がないというか、太鼓の音に合ってない。適当に笑顔で踊っているだけのように見える。楽しそうだから別にいいと思うけど。


「ああ、そうか。この後、ゾルデさんと戦うから緊張してるんだろ? あの人は強いからな!」


 そんな心配は全くしていない。そんな事よりももっと重要な事がある。


「別に緊張していない。それとは関係ないが、このバジリスクの肉、焼いただけか? 味付けはないのか?」


「塩が振ってあるだろ? 塩は貴重なんだぞ? 客人がいるから使ってるんだからな?」


 そうなのか。確かにほんのり塩味だ。ものすごく味は薄い。およばれされた身分だからもっと味付けを濃くしろとは言えないな。


「そうか。もてなしてくれて感謝しよう」


「いいっていいって、もしかしたら最後の晩餐になるかもしれないからな!」


 最後の晩餐? なんでそうなる?


「どういう意味だ?」


「ゾルデさんと戦うんだろ? あの人、マジヤバイ。小さいのにものすごく馬鹿力なんだよ。俺達ドラゴニュートは鱗が硬いからあの斧を食らっても怪我するぐらいで済むけど、フェルは一刀両断じゃねえのか?」


「そんな危険な戦いをさせる気なのか。というか、素手の勝負とかじゃないのか? あの斧で戦う気か、アイツ?」


「余興でも真剣勝負だろ? 大体、フェルの力を見るためにやるんじゃねぇか。あまりにも無様な戦いだったら、祠に行かせてもらえないんじゃないのか?」


 なんてことだ。そんな面倒な結果になることもあるのか。


 仕方ないな。ゾルデには悪いがそこそこ本気を出して倒そう。一番美味しい肉も欲しいから負けるつもりは無かったけど、圧倒的な差で勝ってやる。


「フン、あのドワーフがどれだけ強かろうとフェルの相手になるものか」


 大狼がこちらを見ながらそんなことを言い出した。さっきまで寝そべって肉をかじっていたのに、話は聞いていたんだな。


「へぇ? ナガルさんはフェルが勝つと思っているのか?」


「当然だ。フェルの強さを知っていて、フェルが負けると思うヤツなどどこにもおらんわ」


 強さに関しては信頼しているということかな。悪くないが、ちょっと背中がかゆい。


「ナガルさんがそこまで言うなんてな。よし、じゃあ、やっぱり俺と手合わせしようぜ! 余興の前座だな!」


「やるわけないだろ。ゾルデと戦う前に疲れてどうする。それに面倒な事はしたくない。やるならむしろゾルデとやってこい。向こうを疲れさせろ」


「はあ、情けねぇ。そんな姑息な手を使おうとするなんて」


 お前が余計な提案をしなければ言わなかったぞ。


 そんな話をしていたら、いつのまにか音楽が終わっていた。そして族長がキャンプファイヤーのそばに近づく。


「皆の者、聞くといい。知っているとは思うが、今日は珍しい客人がいる。魔族のフェル殿だ」


 こういうところで紹介しないで欲しい。ディアじゃあるまいし、目立つのは嫌いだ。とはいえ、その言葉を無視するわけにもいかない。立ち上がって、軽く頭を下げた。


「魔族のフェルだ。お邪魔している」


 周囲がざわついた。知らない奴もいたのかな。


「そしてしばらく前から滞在しているドワーフのゾルデ殿。今日の余興として二人が戦うことになった」


 今度は歓声があがる。ドラゴニュートは思ったより狂暴じゃなかったけど、戦うのが好きなのだろうか。なんとなく嬉しいような感情が伝わってくる。


「では二人ともこちらへ」


 見世物的なのは嫌だが、ギルド本部でも似たような事をしたから、多少は耐性がある。我慢してやろう。美味い肉のためだ。


 族長の方へ近づくと、ゾルデも近寄って来た。大きな斧を担ぎ、表情は笑顔だ。


「では、戦ってもらうが相手に致命傷を与えるような攻撃はしないように。フェル殿の方は武器を持っていないがいいのか?」


 致命傷を与えてはいけないのに武器を使っていいのか。今更だけど。


 仕方がない。さすがにあの斧を素手で受けるのは分が悪すぎる。愛用のグローブを使おう。亜空間から取り出してグローブを右手に着けた。


「へぇ、空間魔法が使えるんだ? じゃあ、ベースは魔法使い? あれ? でもグローブってことは格闘スタイル?」


「殴るのが得意だ。魔法も使えるがな」


「そうなんだ。私と似たような感じだね!」


 似ている? どちらかというとゾルデはパワータイプで魔法なんて使いそうにないけど。


「ふむ、準備は整ったようだな。こちらも戦う場所の準備が整った」


 族長の視線を追ってみると、かがり火が四つ置かれていた。


「あのかがり火に囲まれた場所で戦ってもらう。勝敗は降参するか気絶するか、もしくはかがり火で囲まれた場所から外に出た場合だ」


 なるほど、あの中で戦え、ということか。十メートル四方と言ったところかな。


 私とゾルデがその中へ移動すると、かがり火の外側にドラゴニュート達が座りだした。ムクイはものすごく近い。かぶりつきと言うヤツだ。戦いに巻き込まれないかな?


 大狼は少し離れてこちらを見ている。私が負けるとは思っていなかったようだが、興味はあるんだろう。私とゾルデのどっちに興味があるのかは分からないけど。


 かがり火で囲まれた場所にゾルデと二人きりになった。


「では試合開始だ!」


 族長がそう言うと、歓声が上がった。盛り上がってるな。私はそうでもないけど。


「危なくなったらすぐに外へ逃げてね。立っている以上は攻撃するから」


 ゾルデが斧を構えながらこちらを見つめている。意外と隙が無い構えだ。


「そうか。お前も勝てないと思ったらすぐに降参してくれ」


 そう言った直後にゾルデが斧で薪を割るみたいに攻撃してきた。それを慌てて後方へ躱す。


 あんなものが当たったら死ぬと思う。でもモーションが大きくてがら空きだ。それに斧が地面に刺さった。これはチャンス。


 殴ろうと思ったら、ゾルデが地面に刺さった部分を軸にして回転した。そしてもう一度薪割りで襲ってくる。縦回転による連続攻撃か。


 これは後ろに逃げると追ってくるだろうから左に躱した。そして距離を取るためにバックステップ。


 ゾルデの攻撃がまた地面に刺さる。そして地面に突き刺さった斧を軽く引き抜くと肩に乗せた。


「一撃目はともかく二撃目は躱せないと思ったんだけどなー」


「躱せなかったら死ぬだろうが。そんなデカい斧が当たったら魔族だって死ぬからな?」


 私は多分大丈夫。ものすごく痛いだけで。


 しかし、あの斧。結構な業物だと思う。両刃の斧だからラブリュスとかいう名前だったかな?


 それにそれを振り回せるだけの筋力があるとは。ちょっと面倒だな。


「聞きたいのだが、その斧は大事なものか?」


「なんでそんなことを聞くの?」


「いや、壊してもいいのかなって」


 武器を破壊すれば私の勝ちでいいと思う。


「面白い事を言うね。壊せるものなら壊すといいよ!」


 よし、許可は貰った。壊そう。


 ゾルデがまた薪割り攻撃をしてきた。そこへ迎撃用右パンチを当てる。フルパワー右アッパー。


 鈍い音が響いた。


 おお、私のパンチが弾かれた。向こうも同じように斧を弾かれて驚いている。そして周囲から歓声が爆発した。


「すごいね! 私の攻撃を弾くとは思わなかったよ!」


「お前の斧も凄いな。ひびくらい入れるつもりだったんだが、刃こぼれもしていない」


「ふふん、これは親父が作った業物だからね。そう簡単には壊れないよ!」


 そういう類のものか。それは壊しちゃまずいような気がするな。それはともかく、刃こぼれしない程の強度ってなんだ? 念のため魔眼で見ておくか。


 ……嘘だろ。不壊スキル付きか。絶対壊れないじゃないか。ゾルデの父親は相当腕のいい鍛冶師なんだろうな。


 だが、どうしたものか。壊せないのなら別の作戦を考えないと。簡単なのは場外にふっ飛ばすことかな。


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