従魔
教会をでると、スライムちゃん達の一体、エリザベートがいた。看板を持って民家を一軒一軒訪問しているようだ。
民家の戸を叩いて、人が出てくると看板を見せている。
看板の内容をみて、エリザベートに大銅貨と何か渡したようだ。その何かをエリザベートが体内に取り込み分解した。お礼を言われているようだし問題はなさそうだが、いったい何をしているのだろうか。
エリザベートを呼び止めて、看板を見た。
『ゴミを分解しマス 十キロ毎に大銅貨一枚 分別不要』
ゴミ回収の仕事をしているのだろうか。
聞いてみると、「仕事中なので後にしてください」と言われた。お前もか。
なんとなく従魔との壁を感じる。一度皆で食事でもするべきだろうか。でも、食事を強制したらパワハラとか言われたらどうしよう。立ち直れないかもしれない。
仕事熱心なのはいいのだが、もっと主人に敬意を払ってほしい。それとも、敬意を払える主人ではないということなのだろうか。無職だしな。
敬意を払ってもらうためにも、気を取り直して仕事を探そう。次は畑だ。
畑に着いて最初に目についたのはカカシだ。いつの間にかカカシが増えている。さらに全部ゴーレム化が済んでいる。誰がやったのかはわかるが、なんでこんなことに。
「このカカシはどうしたんだ?」
「やあ、フェルちゃん。スライムちゃんが大銅貨五枚で作ってくれたよ。メンテナンスに大銅貨一枚掛かるらしいけど。これはフェルちゃんの指示じゃないのかい?」
「私は指示していない。多分、自分で考えて実行してる」
「頭がいいスライムなんだね」
頭がいいで済まされるレベルなのだろうか。魔力による強化をし過ぎたか。なんというか、すでにスライムではないような気がする。今度、スライムちゃん達をちゃんと見てみよう。
「ところでウェイトレスをクビになったから新しい仕事を探している。何かないか?」
何かを地面に落とす音が聞こえた。周囲を見ると畑仕事をしている奴らが、鍬を手から落としていた。驚いた顔でこちらを見ている。
「ゆるせん」とか「癒しが」とか「絶対領域が」とか聞こえる。もしかして、私がウェイトレスをクビになったことを怒ってくれているのだろうか。いい奴らだな。
「フェルちゃんがクビになったのかい? もしかして、ヤトちゃんも?」
「いや、ヤトは継続だ。クビは私だけだ」
周囲の奴らが鍬を取って仕事を再開した。もう、誰も私をみていない。どうした。
「ヤトちゃんがいるならいいや」とか「何の問題もない」とか「猫耳があれば十分」とか聞こえてきた。
前言撤回、こいつらは駄目な奴らだ。
「ははは、皆、冗談で言っているからそんなに怒らないでくれよ」
怒ってはいない。殴りたいだけだ。
「それと仕事の件だけど、やっぱりないね。お金を出せるほど稼げているわけでもないからね。フェルちゃんは報奨金でしばらくは問題ないんだろ? 自分の畑をしっかり見たらどうだい?」
なるほど。そういう手もあるのか。村の奴らに仕事をくれと話をしたし、なにかあれば相手から仕事の依頼が来る可能性が高い。それまでは畑仕事に精を出すというのもアリだな。
「それに、フェルちゃんの畑がすごいことになっているからね。しっかり管理してほしいんだよ」
どういうことだろうか。ヒマワリとマンドラゴラとアルラウネの種を撒いただけだが。ちゃんと見てみよう。
畑にはスライムちゃんの一体、ジョゼフィーヌがいた。嫌な予感がする。いや、確信がある。
見た限りでは、畑で水をあげたり、踊ったりしている。豊穣の舞かな。
邪魔すると「仕事中だから」と言われそうな気がする。邪魔しないように畑を確認しよう。
ヒマワリはすでに花が咲きそうだ。成長が早いな。それにうねうね動いている。随分活発だ。育った時に種をくれるだろうか。
マンドラゴラを撒いた付近はすでに葉っぱが出ているな。これも成長が早い。抜くときはどうするかな。犬を犠牲にするのは嫌だし、スライムちゃんにやってもらうか。
アルラウネはすでに蕾状態だ。血を吸うとか聞いたことがあるけど水でも大丈夫なんだろうか。獲物を捕らえてくれば血抜きとかしてくれるかもしれない。今度試そう。
全体的に成長が早いな。魔界と違って大地に栄養が沢山あるのだろうか。もしくは「豊穣の舞」の効果が高いのかな。
畑を観察していたら、ジョゼフィーヌがこちらに気付いた。「邪魔です」とか言われたらどうしよう。
こちらに近寄ってくると「畑の管理は私だけで問題ありません」と進言してきた。
なんだろう。私っていらない子なんだろうか。ちょっと落ち込んでいると、鍬や柄杓、桶を要求してきた。「使わないなら貸してください」と言われた。渡すのが嫌なわけではない。だが、なんというか、私が役立たずのような扱いなのがキツイ。無職だけど頑張っているのに。
渡すのを渋っていたら「従魔の仕事環境を整えるのが主人の仕事です」と言ってきた。もう、ぐうの音もでない。亜空間から鍬と柄杓と桶を取り出し、ジョゼフィーヌに渡す。ジョゼフィーヌは頷くと畑に戻っていった。
今度、従魔と主人の関係を良くする本とか読んでみよう。
ここにいても仕方ないので、まずは向こうの畑に戻るか。
「どうだった? なんかすでに色々育っていただろ。魔界の植物ってのはすごいな」
「そうか? ヒマワリもすごかったぞ」
「え? ヒマワリは無かったと思うけど?」
なにか大変なことになっているかもしれないが、もう遅いかもしれない。よし、放っておこう。問題は発生した時に悩めばいい。今悩んでも仕方ないからな。現実逃避って良い言葉だ。
さあ、お昼を食べよう。