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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第九章

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恋のキューピッド

 

 ノストがいきなりやって来て、ヴァイアと結婚を前提にお付き合いしていると言い出した。


 名指しされたダイアンはもとより、クロウもポカンとしている。


 ここでノストの言動を無視して料理に手を付けるのはあまりにも空気が読めてない気がする。食べようと思ったけどやめておくか。


 だが、何でノストはいきなりこんな事をしたんだろう? 正直、暴挙だ。


 そして、ヴァイアは演技だと分かっているのに顔を真っ赤にしている。まあ、演技でも嬉しいと言うか照れくさいのだろう。


「あー、ノスト君? それはどういうことかね? ヴァイア君とノスト君はお付き合いをしていると?」


 クロウが微妙な空気を断ち切るようにノストへ問いかけた。


「は、はい! ヴァイアさんとは結婚を前提にお付き合いしています!」


 言い切った。ヴァイアが倒れそうなのをリエルが治癒魔法を使いながら支えている。いいサポートだ。


 クロウとダイアンは困ったような目で私を見つめた。ここで私に振るのか。仕方ない。ちゃんと状況を説明しよう。変な風にこじれると大変なことになる。


「ノスト、ダイアンはヴァイアへ求婚をしない、という形で決着がついた。そういう演技はもういいぞ」


「え?」


 ノストは周囲を見渡してから、何故かディアの方へ顔を向けた。ノストに見られたディアは顔を横にそむける。


 よく見るとノストは金属の板を持っていた。ヴァイアが作った念話用魔道具か?


 まさかとは思うが、ディアがノストを呼んだのか? ヴァイアが危ないとか言えばノストは駆けつけるような気がする。


「ディア、ノストに何をした?」


「フェルちゃん? なんで私を疑うのかな? 何もしてないよ?」


 魔眼は使わないが見つめよう。多分、誤解して白状するはずだ。


 しばらく経つとディアから汗が流れだした。


「私がやりました……」


 ディアがしょんぼりと項垂れた。手間を掛けさせるな。


「なにしてんだ? せっかく丸く収まったのに」


「なんというか、面倒くさいんだよね。ヴァイアちゃんもノストさんも相思相愛なんだから付き合っちゃえばいいのにってずっと思ったんだ。だから領主様の前で嘘でも宣言すれば多少は前進するかなって」


 面倒くさいって言うな。分かる気はするが、余計なお世話だろう。そういうのは人によってタイミングとかあるんじゃないだろうか。付き合いそうで付き合わない感じの距離感を楽しむ時間も重要だと本に書いてあった気がする。すぐに付き合うと長続きしない、とか。


「ほほう? ノスト君はヴァイア君と満更でもない関係なのかね? それとも領主である私に嘘をついたわけじゃあるまいな?」


 クロウがニヤニヤしながらノストにそんなことを言った。領主権限でノストを問いただそうとしているのだろうか。パワハラとかセクハラだぞ?


「私も聞いてみたいね。先程、求婚はしないと誓ったが、今は、だ。将来的にも一人でいるようなら嫁に迎えたいからね」


 ダイアンも微笑みながらそんなことを言っている。こういうのって強制されたら嫌だと思うけど。


 ノストは一度深呼吸をしてから、意を決したような顔をした。そしてヴァイアの座っている席に近づく。


「ヴァイアさん。こんなところで言うのも失礼なのですが、私と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」


 ヴァイアは体をビクッとさせた。そして立っているノストを座ったまま見上げる。


「あ、あの、え、演技はもう必要ないです、よ?」


「演技なんかではありません。ヴァイアさんと離れている間、念話で毎日話をしていましたが、ずっと会いたいと思っていました。どうでしょうか? 私と結婚を前提にお付き合いしてくださいますか?」


 ヴァイアがふらつきながらも立ち上がってノストの正面に立った。


「よ、よ、よ……」


「よ?」


「喜んでお受けいたします……」


 おお、カップルができた瞬間を見た。これは日記に書かれるな。書かれてなかったらちゃんと書いておこう。あと、小説にも書く。


 いきなり拍手が聞こえた。リエルが号泣しながら拍手している。


「よがっだ! よがっだなぁ、ヴァイア!」


 お前、そんなヤツだったっけ? 他人が付き合うなんて邪魔しそうな感じなのに。


 だが、リエルの拍手に部屋にいるみんなも拍手をしだした。喜ばしい事だとは思うんだけど、拍手するようなことなのか? でも、まあ、とりあえず拍手しておくか。郷に従えというヤツだ。


「いや、めでたいな! よし、ノスト君も一緒に食事をしていきたまえ。オルウス、ノスト君の席を用意してくれ」


「畏まりました――」


 オルウスがそう答えた瞬間、ヴァイアが崩れ落ちた。ものすごい笑顔で。それをノストが抱きかかえる。


「ヴァ、ヴァイアさん!」


「おい、大丈夫か?」


「ヴァイアちゃんのことだから幸せ過ぎて気絶したんじゃないかな?」


 ディアがノストに抱えられたヴァイアを見ながらそんなことを言っている。幸せ過ぎて気絶するってありえるのか?


「おい、リエル、ちょっと見てやってくれ。心臓麻痺とかだったら困る」


「お、おう、まがぜろ!」


 リエルが涙と鼻水で酷いことになっている。そんな状態でも、ヴァイアのまぶたを上げて目を見たり、脈を測ったりした。


「あー、大丈夫だ。ディアの言うどおりじあわぜずぎて気絶しだんじゃねえがな」


 そんな気絶ってあるんだな。


「ノスト君、一緒に食事をと思ったが、ヴァイア君を連れて部屋で看病してあげなさい。料理に関しては部屋へ運ばせるから。ハイン、ヘルメ、二人もここはいいから付き添ってあげなさい」


「あ、は、はい、畏まりました」


 ノストがヴァイアを抱えたまま頷くと、メイドの二人も頭を下げた。


「では、ヴァイア様のお部屋へお連れします。ヴァイア様をこちらへ」


 二人はヴァイアを運ぼうとしたようだが、ノストはそれを拒否した。


「ヴァイアさんは私が連れて行きますので、先導をおねがいできますか?」


 あれだな。乙女の憧れ、お姫様抱っこ。気絶しているのは残念だろうけど、これから何度もチャンスはあるだろう。


「分かりました。ではこちらです」


「あ、それと、皆さん、その、ありがとうございました。すみませんがヴァイアさんを連れていきますね」


「ああ、とっとと連れてけ」


「大事に……大事にじでやれよ!」


「夕食前だけど、ごちそうさま」


 ノストは微笑むと、ヴァイアを抱えてメイドと一緒に部屋を出て行った。


 色々疲れたな。本人達が幸せそうだからまあいいけど。


「こう言ってはなんだが、面白い余興であったな! 平民の付き合い方とはああいうものだとは勉強になった!」


 あれは特殊な部類だと思うけどな。魔界だったら拳で殴り合う感じだ。強ければ付き合える。


「私も結婚を申し込んだ時の気持ちが蘇りましたよ。今日は自宅へ戻って嫁たちと語らいますか」


 好きにしてくれ。


「いや、良がっだぜ。ヴァイア、頑張っでだもんな! 聖女どじで祝福じでやるぜ!」


「なんでリエルはさっきから泣いているんだ? そういうキャラじゃないだろ? あと、涙ふけ。家族でもためらうレベルの顔になってるぞ?」


 ハンカチを渡してやったら涙を拭いた後、鼻をかみやがった。そしてそのままハンカチを私に返す。お前な。仕方ない、亜空間に入れておこう。ポケットには入れたくない。


「年取ると涙腺が脆くなってしかたねぇ。フェルも年取れば分かるって」


「いや、同い年だよな?」


「ふっふっふ、これも全部私のおかげだね! 私の事を恋のキューピッドと呼んでいいよ! よーし、二人が結婚するときは私がウェディングドレスをヴァイアちゃんにプレゼントしちゃおうかな!」


 行き当たりばったりの様な気もするが、結果良ければ全て良しだな。


「おう、ディア。アイツらが付き合うのはいいが結婚はダメだ。俺が結婚するまで待たせるからな」


「その基準がよく分からん。なんでそうなる」


「アイツらが結婚するなら俺が結婚式を取り仕切る感じだろうが! 俺に男がいねぇのにそんなことになったら、祝福の言葉じゃなくて呪いの言葉を吐きそうなんだよ!」


「いつも思うんだが、なんでリエルは聖女なんだろうな? 女神教の選考基準が分からん」


 いざとなったらリエルをアビスに閉じ込めて、その間に結婚式をやらせよう。


「分かった。なら、こうしようじゃねぇか。ディア、俺の恋のキューピッドになってくれ。いい男なら文句言わねぇから」


「リエルちゃん。人にはね、できる事とできない事があるんだよ……ドラゴンとソロで戦って勝つ方がまだ可能性はあるよ」


 私でもソロでドラゴンはきつい。ディアだったらどれだけ低い可能性なんだ。いや、零か?


「ふむ、二人ともほっぺたが取れてしまうから、その辺にした方がいい。さあ、色々とあったが料理を食べてくれたまえ。暖かい方が美味しいだろうからな」


 クロウの言う通りだ。早速食べよう。


 まあ、今日は何を食べても美味しく感じるだろうけどな。


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