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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第九章

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魔王候補

 

 温泉に入ってのんびりしたわけだが、クロウの屋敷に戻るまでに体が冷えてしまった。


 どうやら急激に気温が下がったらしい。この季節にはよくあるそうだ。明日は雪が降るかもしれないとハインが言っていたな。あと、馬車を使って移動するべきでした、と謝っていた。


 立派な屋敷に宿泊できて、しかも温泉も無料なのに文句を言うわけがない。みんなも同じ気持ちだったようで、謝罪なんかしないでくれと何度も言った。最後はこっちがハインに気を遣う感じになってしまったな。


 屋敷に戻ってからは、夕食の時間まで一度部屋に戻ることになった。みんなと一緒にいるのも悪くないが一人の時間も必要だ。こう、ぐでっとしたい時もある。


 割り当ててくれた部屋はかなり広かった。これ、一人部屋なのか? 部屋も家具も大きすぎてちょっとそわそわする。あと、部屋には大きい人物画があった。誰なのか分からないが、だいたいこういう物の後ろにはのぞき穴があるんだ。……なにかのお札が張ってあったけど、なんだろう?


 よし、まずは魔界に連絡してウェンディのことを確認してみるか。魔界の総務部へ念話だ。


『はい、総務部部長ルネです。つまらない内容だったら部長権限で色々しますよ! お名前をどうぞ!』


 総務部部長? 以前そんなことを言ってたけど、本当に部長になったのか。好きに決めてくれて構わないけど、ちょっと不安だな。


「フェルだ。というか、何する気だ」


『あ! フェル様、聞いてくださいよ! 私が参加していない会議で私が部長に決まるっておかしくないですか!? それに部長なのに念話番は継続ですよ! さらに仕事が増えても配給食糧が一定っておかしいですよね!? 誰に訴えればいいんですか!』


「いきなりうるさい。訴えるなら私だが、各部門についてはそれぞれに任せているから配給に関しては何とも言えん」


『単なる愚痴なので、聞いてくれるだけで問題ないです。ではお仕事モードに切り替えて、と。今日はどうされました?』


「実は人魔大戦の時の生き残りに会ってな。どんな奴なのかちょっと調べてもらいたい」


『マジですか。そんな人がいたなんてびっくりですね。分かりました。名前はなんでしょう?』


「ウェンディだ」


『ウェンディですね。少々お待ちください』


 珍しく普通に仕事をしているようだ。部長という肩書がそうさせるのだろうか。


『それで聞いてくださいよ、フェル様。私が総務部へ持ってきたお土産なのに私が食べられないってどういうことですかね?』


「なんで世間話をしてるんだ? ウェンディの事を調べてくれって言ったよな?」


『それはみんなが調べてます。時間が掛かりそうなのでちょっとお話を、と思いまして』


「一緒に調べないのか?」


『部長ですから! みんなを顎で使いますよ! あ、ちょ、物を投げないで! エンピツはとがってるから痛い! 【人形庭園】!』


 部長だから調べないという理由はおかしいと思うけど、制裁されているからいいかな。しかし、自由だな、総務部。ルネを部長にするなんてどういう理由なんだろう? 私なら絶対に選ばない。


『安全は確保しました。もう大丈夫です』


「ああ、そう」


 とくに心配してない。もうちょっと痛い目にあった方がいいと思うけど、状況が分からないからルネが悪いとも言えないんだよな。あまり首は突っ込まないでおこう。


『そうそう、こちらから連絡があります。人界の方へ向かったメンバーなんですけど』


「ああ、誰になったんだ?」


『ええと、まずルハラに向かったのは、サルガナ様とオリスア様ですね。あと十人程、魔族と獣人を連れて行きました』


 総務部部長、いや元か。そのサルガナと軍部のオリスア。懐かしいな、オリスアには格闘術をかなり教わった。今なら何度やっても勝てるだろうけど、教わった当時は勝てなかったな。


 魔族と獣人に関しても十人程度なら問題は起きないだろう。多分。


『ズガルへ向かうメンバーはまだ決まってません。その……戦いで決めるようでして、決着がついてないそうです』


「何やってんだ」


 強さで物事を決めるのはいいんだけど、そんなに時間をかけないでほしい。ズガルで食糧を作ってそれを魔界に運ぶ計画を立てているんだけどな。できるだけ早く着手してほしいのだが。


『実力が拮抗していて、勝負がつかないとか言ってましたね。私にも実力があれば、人界に行くのに……!』


 確かに部長クラスなら勝負はつかないだろうな。そもそも部長クラス同士で完全に勝てる相手なんているのか? ……ああ、そうか。だからサルガナとオリスアはすぐに決まったのか。あの二人は部長クラスでも強いし。


『あと、ドラゴンの革とオリハルコンを持って行ったのが、レモですね。もうすでに出発しているので、二、三日後には着くと思います』


 レモ。確かもう一人の念話番だったような気がする。ルネの相棒、みたいなものかな。


 結構早く着くようだ。私はしばらく村へ戻れないからヤトに渡してもらおう。


「私は村にいないからヤトに渡しておくように伝えておいてくれるか?」


『そうなんですか? 今はどちらにいらっしゃるんです?』


「オリン国というのは分かるか? そこの王都に来ている」


『観光ですか?』


 最初に思いつくのが観光か。間違いではないんだが、これは護衛という仕事だ。もてなされてもいるけど。


「ディアが王都でギルド会議というものに出席するんだ。その護衛として一緒に来ている」


『ディアっちの護衛ですか。なんだか懐かしいですね。みなさん元気です?』


「そうだな、元気にしている。そうそう、メノウがソドゴラ村に来ていてな、メイドギルドを作るらしいぞ」


『経緯は分かりませんが、面白いことになってますね。あ、メノウっちといえば、私のゴスロリ服って届きました?』


 私とスザンナの分はあったけど、ルネの分は知らないな。私のゴスロリ服をあげてもいいけど、サイズは合わないだろうし、メノウが泣くかもしれない。あげるのはやめて真実だけ話そう。


「いや、聞いてないぞ」


『ちょっと人界に行ってメノウっちに問いただしていいですか? それが無いとモテない……!』


「やめろ。レモに頼んだらどうだ? 私が知らないだけで、作ってあるかもしれないし」


『分かりました、そうします。レモが私のゴスロリ服に手を出したら抹殺してやる……! あ、調べ終わったみたいです』


 どうやらウェンディの事について調べ終わったみたいだな。


 ウェンディが魔族であることは魔眼でみたから間違いない。言っていたことを信じない訳じゃないが念のため裏を取っておきたい。


『ええと、確かにウェンディという魔族が人魔大戦のときに人界に攻め込んだ情報が残っていました』


「分かるだけ情報を教えてもらえるか?」


『はい、性別は女性、年齢は二十二、身長は百八十五、茶色の髪の毛に白い肌ですね』


 見た目は間違いないな。


『他には精霊を使役するスキルを使えるようです。精霊同化というユニークスキルが使えるとか』


 それも間違いないな。詳しくは見てないが、魔眼で見た時にそんなユニークスキルがあることを確認している。なら決まりかな。


『え』


 ルネが驚いたような声をだした。どうしたんだろう?


「どうかしたのか?」


『ああ、いえ、そのウェンディですが、かなり強く、当時、次期魔王候補だったと書いてあります』


「次期魔王候補か」


 当時の魔王の次に強かったと言うことだな。でも、おかしいな。ウェンディはそれほど強くなかった。本気を出した感じではなかったが、あの程度の実力で魔王になれるのか?


 いや、封印されていたのだったな。数年前に目覚めたと言っていたが、全盛期の力を取り戻していないのかもしれない。


『分かっている情報は以上ですね』


「そうか、分かった。間違いない。ウェンディは人魔大戦の生き残りだ」


『それは嬉しい情報ですね。みんなに連絡しておきます』


「それはいいのだが、今、ウェンディは魔族であることを隠して生きている。情報を展開しても、人界でそのことを口走らないように注意することも添えてくれ」


『分かりました。ちなみに今、何をされているんです?』


「アダマンタイトの冒険者をしているようだな」


 アイドル冒険者もやってるけど、それはどうなんだろう? 魔族ってバレたらファンがいなくなるかも?


『もう、七十ぐらいのお婆ちゃんですよね? 当時強かったとしてもかなり衰えているのでは?』


「ああ、言ってなかったな。どこかのダンジョンに封印されていて歳を取っていないんだ。まだ二十前半ぐらいだと思う」


『それ、どこの主人公ですか? ディアっちあたりが食いつきそうな感じですけど?』


「封印と聞いてうずうずしてた」


 そういうお年頃の病気だ。仕方ないよな。


 さて、ウェンディのことは裏が取れた。色々疑問は残るが本人であることは間違いないだろう。今度はもう少し踏み込んだ話をしてみるか。当時の話なんかも色々聞いてみたいし。


「だいたいのことは分かったから念話を切るぞ」


『はい、分かりました。今後は頻繁に連絡してくださいね!』


「分かった。じゃあな」


 念話を切った。結構長い時間、念話をしてしまったな。でも、まだ食事の時間じゃないのか。サンダーバードがどれほどの味なのかかなり期待してるんだけど。まあいい、ゆっくり待とう。




 しばらく部屋でくつろいでいたら、ノックをする音が聞こえた。


「おーい、フェル。ハインから聞いたんだけど、ノストが帰って来たんだと。ヴァイア達と会いに行かねぇか?」


 リエルの声だ。心なしか声が弾んでいるようだが……まあいいか。一緒に行こう。


 ヴァイアとディアの部屋に訪れてからノストがいる部屋に向かった。


 移動中、ヴァイアがブツブツとリハーサルをしているのがちょっと怖い。もしかしてリエルが嬉しそうなのはそれを見るためだろうか? 悪趣味だな。私は小説のために見たいだけだからセーフ。


 とりあえず、私が名乗って部屋に入る形になった。


「ノスト、部屋にいるか? フェルだが」


 そう言って部屋の扉をノックする。


「はい、います。今、扉を開けますので」


 ノストと会うのも久しぶりだな。ルハラに向かってから会ってはいない。ヴァイアのノロケは何度も聞いたからそんなに会っていないという気はしないけど。


「お待たせしました。お久しぶり――」


 ヴァイアが一歩前にでた。そして上目遣いでノストを見る。


「き、来ちゃ――」


「ヴァ、ヴァイアさん!? な、なんでここに!?」


 ヴァイアの言葉を食い気味に遮った。あんなに練習してたのにな。いや、待とう。そんなことよりも、なんでノストは「やばい」という顔をしているんだ?


 特に部屋の中には誰もいない。見られて困るようなものがあるわけでもない。ならなんでそんな顔をした?


「まさかとは思うが、ここにヴァイアがいると困ることがあるのか?」


 すでにヴァイアは涙目だ。ヴァイアとしては喜んでくれると思ったのに、驚いた上にちょっと嫌そうな顔をしたんだから当然だな。


 ノストの返答次第では私がぶん殴ってやる。


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