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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第九章

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生き残り

 

 見た目ニ十歳ぐらいの女性が腕を組み、足を肩幅に開いて見下す様に立っている。その後ろには身長が高い女が立っているが、目が前髪で隠れていて表情はよく分からない。


 ギルドマスターとその護衛といったところか? だが、そうなると、身長が高い方はアダマンタイトのアイドル冒険者ウェンディだろう。魔族ってバレないように今のうちにタオルで角を隠さなくては。


 温泉に来て襲われたりするのは嫌だ。


「貴方達は初めて見る顔ね? ソドなんとかと言った村の冒険者かしら? 少しは冒険者ギルドに貢献しているの?」


 そんなことを言われる筋合いはないんだけど、なんでこんなに挑発的と言うか、煽ってくるのだろうか。


「あのネヴァ先輩。今はプライベートですから。文句ならギルド会議で聞きますから、私の親友にまでちょっかい掛けないでください」


 おお、ディアが私達の前に出て庇ってくれているようだ。見直した。


 それと、こっちのギルドマスターはネヴァと言うのか。なんとなくお嬢様というか、プライドが高そうな感じだ。


「ふん、なんの手違いでここにいるのかは知らないけど、あまり場違いなところへは顔を出さないで貰いたいものね! ウェンディ! 行くわよ!」


 ネヴァとやらが脱衣場の方へ足を踏み出した。だが、ウェンディという奴はこちらに顔を向けたまま微動だにしない。どうしたんだろう?


「ウェンディ? どうしたの? もうあがるわよ?」


 ネヴァも不思議そうにウェンディに話しかけているが、やはり微動だにしない。目が前髪で見えないから、いまいち何を考えているか分からないな。殺気は感じないけど、なんとなく見定められているような気がする。


「どうしたのかしら? その頭にタオルを巻いて前を隠してない子供になにかあるの?」


 タオルをたくさん持って来ればよかった。頭隠して尻隠さず――どころか、頭以外全部隠してない。本来なら恥ずかしいが、リエルも同じ感じだからちょっとだけ羞恥が薄れる。だが、そんなことよりも私を子供と言ったのか? 成長がちょっと遅いだけだ。胸はともかく背はまだ可能性がある。


 しかし、なんだろう? これはこっちから話しかけるべきなのかな? 埒があかないから話しかけてみるか。


「私に何か用なのか?」


 そう言ったとたん、ウェンディが私の方へ近寄って来た。


 私の方へパンチをしてくる。私に当たる前に右手で払いのけた。あれ? よく見るとパンチじゃなくてなにかを掴もうとした? ウェンディの掌が開きっぱなしだ。


「な、何しているのウェンディ!」


 どうやらこの行動は向こうも想定外のようだ。だが、なんでこんなことをするんだろう?


「おい、何のマネだ?」


 ウェンディは腰を落とした。なんだ? 本気で何かする気か?


「私から離れてろ!」


 三人を巻き込むわけにはいかない。コイツをなんとかして抑え込もう。


 そう思った瞬間に先程よりも速いスピードで近寄ってきて、顔を狙ってパンチを繰り出してきた。身長差があり過ぎて、上からの打ち下ろしみたいな感じになっている。


 それを何度も弾き落とす。アダマンタイトなだけあって力強い。本気で弾かないとパンチが当たりそうだ。


「ちょ、ちょっとネヴァ先輩! ここまでするなんてギルドの問題になりますよ!」


「ま、待ちなさい! 私はこんなことを命令してないわよ! ちょっとウェンディ! やめなさい!」


 やはりこれはコイツの独断か。どんな理由でこんなことをしているのか分からないが、そっちがその気ならこちらも相応に対応しないとな。


「おい、ネヴァとやら。コイツを倒すが、これは防衛だ。後で襲われたとか言うなよ?」


「な、何を言っているの? 倒す? ウェンディはアダマンタイトよ? 貴方に倒せるわけが――」


 多分、手加減は要らないだろう。割れている腹筋に食らわせてやる。


 ウェンディのパンチをかいくぐり、ボディに一撃を食らわせた。当たる瞬間にちょっと後方へ飛ばれたな。三メートルぐらい距離が離れた。腹を押さえてからこちらの方へ顔を向ける。口元だけしか見えないけど、痛がってはいないように見えるな。


「う、嘘でしょ!? ウェンディ! 大丈夫!?」


 ウェンディがネヴァの方を見て、一度だけ頷く。そしてこちらに顔を向けると、すこしだけ口が動いた。何を言ったのかは分からないけど、私に何かを言ったわけじゃないと思う。


 いきなりウェンディの体が黒いモヤに覆われると、犬のような形に姿を変えた。


「お、おい、フェル! ソイツ、闇の精霊だぞ! 気を付けろ!」


 闇の精霊? 呼び寄せた? いや、憑依か? よく分からないが本気を出しているということか。ならこっちも相応に対処しないと。


 黒い犬が高速で飛びかかって来た。それを払いのける。何度か払いのけたら、後方へ飛びのいて距離を取った。


 相変わらず私の顔だけを狙っているようだ……いや、もしかして私の頭にあるタオルを狙っているのか? 魔族であることを確認したいのか?


「待て、お前、頭のタオルを取りたいのか?」


 黒い犬は頷いた。面倒ごとにならないように隠していたんだが裏目に出たか? よし、見せたら襲わないように約束させよう。


「頭のタオルを取ってもいい。だが、その後に襲うようなマネはしないと約束しろ」


 また頷いた。信用するしかないな。


 頭のタオルを取って角を見せた。


「ま、まさか魔族なの!?」


 黙っていたネヴァが驚いた様子で私を見ている。黒い犬になっているウェンディは何もせずにそのままだ。


 だが、しばらく待つと体を覆っていたモヤが晴れて元の姿に戻った。約束通り、私を襲わないのだろう。


「さて、見せてやったんだ。襲った理由を――」


 言え、と言おうと思ったら、ウェンディが泣いてた。声も出さずに涙だけがとめどなく流れている。


「貴方! ウェンディに何をしたの!? この子がこんなに泣くなんて初めてよ!」


「いや、そんなこと言われても。理由はソイツに聞いてくれ」


 もしかして先祖が魔族に何かされたのだろうか。可能性はあるけど、それに関して怒るならともかく泣くなんてどういう事なんだろう?


「あ、あの、提案なんだけど……」


「ディア? 提案ってなんだ?」


「温泉に入りながら話さない? ちょっと冷えてきちゃった」


 もっともな意見だ。汗を流してからお湯に浸かろう。




 もう一度洗ってから、全員で温泉に浸かった。ここは打ち身、すりきず、捻挫に効くらしい。タオルを折りたたんで頭に乗せ、肩まで浸かる。はあ、生き返る。このまま何も考えず暖かさに身を委ねたい。そうもいかないんだけど。


「あの、ネヴァ先輩。ここは一時休戦ということでいいですか?」


「……分かりましたわ。私もウェンディの行動が気になるので、それが分かるまでは普通にすると誓いますわ」


 ディアの提案にネヴァも乗った。物分かりはいい方なんだな。ディアに嫌味を言ったりしていても、それなりの理性はあるのか。それともウェンディのほうが優先度としては高いのか。


「それで、なんで私を襲って来たんだ。いや、襲ってくると言うよりも、私が魔族であることを確認したかったのか?」


「そうそれよ! この人が魔族だと分かったとたんに泣き出すし、何があったの?」


 ネヴァが背中をさすりながら聞いているが、ウェンディはいまだにしゃっくりを繰り返していて話そうとはしない。


 自分から話し出すまで待つしかないな。


「みんなはどう思う? 泣き出した理由は分かるか?」


 みんな揃って首を横に振った。そうだよな、分かる訳がない。襲ってくるならともかく、泣き出すんじゃなんなのかさっぱりだ。


「……ま」


 何か聞こえた。多分、ウェンディが言ったと思う。全員がそちらを見た。


「なんだ? 今、なにか言ったよな?」


「ごめんなさい、聞こえなかったわ。いつも言ってるでしょ? もうちょっと大きな声を出して」


 ネヴァがそういうと、ウェンディが一度大きく息を吸った。


「……仲間」


 仲間? 仲間と言ったのか?


「仲間ってなによ? この人が仲間なの?」


「目を見ていないから分からないけど、初めて会う奴だぞ? いきなり仲間と言われても何の仲間だ」


 背格好からしてまったく一緒じゃないし、共通点なんかないと思うのだが。


 いや、待て。仲間? 私の仲間と言えば考えられる事が一つだけある。でも、あり得るのか?


「お前、まさかとは思うが――」


「私、魔族。人魔大戦、生き残り」


 生き残りの可能性は考えたことあるけど、温泉で出会う可能性は考えてなかった。


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