魔力至上主義
一時間かけてようやく王都へ入れた。
王都の第一印象は広い。門から城まで向かって一直線に伸びる道が広すぎる。大きければいいという物じゃないと思うけど。
「ここは王都のメインストリート、ヴァロン通りだよ」
ディアが何かを見ながら説明してくれた。観光案内のパンフレットとか言ってたか?
ヴァロンと言うのは王都の名前だったかな。以前、そんな話を聞いた覚えがある。
「王都ヴァロンで、ヴァロン通りか。そのまんまだな」
「他の名前を付ける方がおかしいんじゃないかな? もともとヴァロンと言うのは建国者の名前らしいよ。初代国王ヴァロンさん」
「そうなのか。正直、こんな雪だらけの場所に良く国を作ろうと思ったな」
ここは見渡す限り白だ。雪化粧というのだろうか。家の屋根にはかなり雪が積もっている。でも、道には全然雪が積もってない。石畳の道がずっと城まで続いている。
よく見たら、道に魔法が付与されているのか? じんわり暖かくなって雪を溶かしてる? それはそれですごいが、排水技術もすごそうだ。こんな大量の雪を水にしたら町が水浸しになりそうだしな。
「なあ、もう寒いから早く宿を取ろうぜ。風邪ひいちまうよ」
リエルは体を震わせながら、ヴァイアに引っ付いてる。一時間も並んでいたからな。体が冷えているのだろう。
「そうだね。この町も以前泊ったところでいいかな? 他は良く知らないし」
「どこでもいいよ、早く行こうぜ」
こだわりはないが、食事が美味しい宿だといいな。
それにしても、なんだか視線を感じる。敵意じゃなくて好奇的な感じの視線だ。それに私への視線と言うよりも、ヴァイアへ視線が向けられているような感じがする。
危なくはないと思うが注意しておこう。
ディアが案内してくれた宿は結構近かった。早速宿泊手続きをしよう。
「それでは私はここで失礼しますね」
「なんだ? ユーリはここに泊らないのか? 一緒の部屋は断るが、別の部屋なら特に文句はないぞ?」
「私は元々ここで活動していますから、行きつけの宿があるんですよ。それに冒険者ギルドの本部に寄って色々報告しないといけませんので」
「そうか。色々と助かった。感謝する」
ユーリには色々と助けられた気がするので感謝はしないとな。それにギルド会議でも世話になりそうな気がする。
「フェルさんにそういわれると照れくさいですね。では三日後のギルド会議の時にお会いしましょう。もし何か私に用事があったらギルドの本部まで来てください」
「分かった。その時はよろしく頼む」
「ええ、もちろんです。では、皆さんも風邪を引かないようにお気をつけて」
ユーリは軽く頭を下げてから、大通りの方へ戻って行った。
私達が泊る宿を確認するためについて来たのかな。まあいい。早く温まろう。
宿に入ると、店の主人が普通に出迎えてくれた。
宿泊手続きの最中、私とヴァイアを何度も見ていたけど、あれはなんなのだろう?
手続きが終わった後、四人部屋へ案内された。
店の主人は「ごゆっくり」と言ってから、カウンターの方へ戻って行った。
「暖炉があるじゃねぇか。火つけようぜ、火」
「なんだこれ。暖炉なのに何もないぞ? 普通、まきとか置いてあるんじゃないのか?」
「フェルちゃん、その暖炉はね、魔力を流すと暖かくなるだけで、実際に火をつけるようなものじゃないんだよ。王都はそういう物でいっぱいなんだ」
「なるほど、確かに魔法が付与されているな。よし、私が試してみよう」
よく見ると暖炉の上に赤いマークと青いマークが書かれている。これに魔力を流すみたいだ。注意書きによると暖房は赤いマークか。赤いマークに手を当てて魔力を流す。
おお、じんわり暖かくなってきた……というか熱い。
「フェルちゃん! 魔力込めすぎ! あっつ! 冷房! 冷房の方に魔力込めて!」
ディアが暖炉の上にある青色のマークを指しながらそんなことを言っている。
青い方に魔力を込めると涼しくなるのか?
今度は青いマークに魔力を通した。なんだか涼しい風が吹いてくる……というか寒い。
「寒い! フェルちゃんは加減という言葉を知らないの!?」
「微妙な魔力調整ができないんだ。大きいバケツで小さなコップに水をそそぐような感じでな。必要以上にあふれる。何度かやれば、ちょうどいい温度になるからちょっと待ってくれ」
「ヴァ、ヴァイアちゃん! お願い!」
「う、うん! フェルちゃん、ちょっと場所譲って!」
ヴァイアが暖炉に近づいて、赤いマークに手を当てる。徐々に部屋の温度が適温になって来た。暑くもなく寒くもなく、ちょうどいい温度だ。
なぜかみんなぐったりしている。もしかして私のせいなのだろうか。
ディアが息を荒げながらこちらを見た。
「フェルちゃん、ここでは気を付けてね。さっきも言ったけど、この町にはそういう魔道具が一杯あるから変な魔力の込め方をすると大変なことになるよ?」
「そうか、すまないな。でも、これって魔力の出力制限とかないのか? 下手したら壊れるぞ?」
魔力を込めすぎると原型を保てなくなり崩壊すると思うんだが。
「あのね、魔力の込めすぎでこんな大きな魔道具を壊せる人なんてそういないよ。フェルちゃんかヴァイアちゃんぐらいじゃない?」
「えへへ、そうかな?」
「ヴァイアちゃん? 褒めてないからね?」
ヴァイアがしょんぼりした。
「でもよぉ、さっきの調整はヴァイアがやったんだろ? ちょうどいい温度にできるってことは、フェルみたいに魔力の調整が下手ってわけじゃないのか?」
私を引き合いに出さないで欲しい。だが、確かにヴァイアは魔力調整が上手いのだろう。
「魔力の調整には自信があるよ! 頑張ったからね!」
一度、ヴァイアに教わろうかな。以前、水を出して木を吹き飛ばしたしな。それに魔力調整が上手くなれば、魔力付与のスキルも成功率が上がるかもしれない。
「ヴァイアちゃん、この町では気を付けた方がいいかもしれないよ?」
「え? 何に気を付けるの?」
「気づいてなかった? 町を歩いていてヴァイアちゃんを見ている人が多かったんだよ?」
「それは私も気になってた。私は魔族だから仕方ないにしても、なんでヴァイアを見ている奴が多いんだ?」
とくに町に入ってからは顕著だったな。最初、私を見ているのかと思ってた。
「魔力が多いからだよ。知らない? 魔法国オリンは魔力至上主義だから魔力が高い人ほど重宝されるんだ。単純に驚いている人も多かったけど、スカウト目的で近づこうとした人もいたんじゃないかな?」
「スカウトって何のスカウトだ?」
「色々だよ。ここでは何をするにも魔力だからね。もしかしたらお城からスカウトが来るかも。宮廷魔導士とか」
ヴァイアは良く分かってないのか、ぼけっとしている。瞬きが早いので情報が整理できていないのかも。
「えっと、私、雑貨屋があるから無理だよ?」
「おいおい、宮廷魔導士と比べて雑貨屋をとるのかよ。詳しくは知らねぇが宮廷魔導士なら一生安泰だろ?」
「ええ? 雑貨屋も一生安泰じゃないかな?」
まあ、適当な石に魔法を付与できるもんな。いくらでもお金は稼げる。
「でも、ヴァイアちゃんは、将来、偉大な魔法使いになるって言ってなかった? 宮廷魔導士なら、偉大な魔法使いだと思うけど?」
「う、うん、そ、そうなんだけどね……」
歯切れが悪いな。なにか言いにくいことなのだろうか。
「なにか違うことを見据えているのか? たしか、魔法が使えない人のために役に立ちたい、とか言ってたよな? 具体的になにか決まったのか?」
「え、えっと……」
「おい、ヴァイア」
リエルがドスの利いた声でヴァイアを見つめている。どうした?
「お嫁さんになりたい、とか言ったら口をもぐ。将来の夢でそれを言っていいのは十歳までだ」
皆がヴァイアを見つめた。顔が真っ赤になってる。もう言わなくても分かる。
「フェル、ヴァイアの口をもげ」
「命令すんな。だいたい、将来の夢がお嫁さんだっていいじゃないか。まあ、これだけの魔力を持って、あれだけの術式を理解して、頭の回転が化け物並なのになんでお嫁さんなんだ、とは思うが」
後世に残るような発明や発見をしそうな感じではあるんだけどな。
「で、できれば、ノス――将来の旦那様と一緒に魔法の研究とかしたいなぁ、なんて思ってたり、思ってなかったり?」
「なんで疑問形? でも分かった。ノストと一緒に魔法の研究をやりたいということか」
「だ、誰もノストさんと結婚して、子供は三人ぐらいで、犬を飼いたいなんて言ってないよ!」
「……それは確かに誰も言ってないけど、なんとなくそうなりたいのは分かる。まあ、いいんじゃないか? ノストはいい奴な気がするしヴァイアがやりたいことに協力してくれるんじゃないか?」
ヴァイアに抱き着かれた。
「ありがとう! フェルちゃん!」
「苦しいから放してくれ」
「それでね、ヴァイアちゃん。話を戻すけど、気を付けてって言ったのはそういうスカウトだけじゃないかも、ってこと。もしかしたら、ヴァイアちゃんの魔力を悪いことに使う人がいるかもしれないからね。変な人についてったらダメだよ?」
ヴァイアは何度も頷いている。なるほど、そういう可能性があるのか。でも私がいればなんとかなるような気がする。三人から目を離さないようにしないとな。
「なあ、ディア、ちょっと聞いていいか? ここは魔力が高いとモテモテなのか?」
リエルがアホなことを聞いている。
「モテモテだね。ヴァイアちゃんぐらいの魔力ならこの国の王子様からの求婚だって可能性があるよ」
リエルが考えるような仕草をした。
「なあ、フェル……なんで俺にはヴァイア並みの魔力がないんだろうな?」
「……知らん」
そんなどうでもいいことは放っておいて食事にしよう。そして早く寝て明日に備えないとな。




