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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第九章

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新しい宗教

 

 宿の食堂でまったりとした時間を過ごしている。


 なかなか繁盛している宿のようで、結構お客が多い。チラチラとこちらを見る奴らはいるが、敵意を感じる目じゃないな。魔族を初めて見たから驚いているのだろう。


 そんな中で頼んだ夕食は辛くなかった。ただ、熱かったな。猫舌の私には厳しい。冷めたら美味しかったから不満はないけど。


 食べたのは、スープの中に麺類が入っている料理だ。以前メノウが作ってくれたカレーうどんも美味しかったけど、今回の料理も美味しかったな。麺料理、侮りがたし。


 そして、麺が主役ではあるが、それをフォローする脇役達も良かった。赤いぐるぐる巻きの模様がある食べ物がオシャレで美味しかった気がする。あと、感動したのは煮卵。しかも半熟。脇役が主役を食ったと言えるだろう。それを私が主役もろとも食べたわけだ……フフ。言おうと思ったけど、コイツらはセンスないからこの面白さを理解できないよな。言わずに心の中に留めておこう。


 美味しいし気分がいいので、おかわりした。煮卵はトッピングというシステムを使ってトリプル。満足だ。


 ディアとヴァイアは私が頼んだ物と違ってスープが真っ赤だったな。魔眼で見なくても分かる。あれは辛い。見ているだけで汗がでた。


 ディアは好きだから食べているのだろうが、ヴァイアは痩せるために食べているんだよな。


「なあ、ヴァイア。辛い料理が好きなわけじゃないんだろう? 見た限り痩せる必要はないんだから普通の食べ物にしたらどうだ?」


「そういう高度な情報戦には引っかからないよ! 一瞬の油断が命とりなんだから!」


 意味が分からない。どこに高度な情報戦があったのだろうか。それに命とりってなんだよ。


「まあ、いいじゃねぇか。久しぶりにノストに会うから、少しでも綺麗に見せたいんだよ。努力の方法がちょっと間違っている気がするけど、気持ちは分かるぜ」


 なぜかリエルが達観した感じで言ってる。そういえば、ヴァイアとノストにイチャつくなと言いながらヴァイアの支援をしているように見えるな。怪しい、絶対に何かある。


「何を企んでる?」


「いきなりなんだよ? 何を企むんだって?」


「お前が恋愛関係でヴァイアを応援しているのが怪しい。どちらかと言うと邪魔するはずだ。言え、何を企んでる?」


 リエルがやれやれと言うように肩を竦めて、顔を横に振った。イラっとする。


「親友だからに決まってるだろ?」


「そんな笑顔でシレッと嘘をつくんじゃない。そんな言葉を信じる奴はそばにはいないぞ」


 ディアはしきりに頷いている。ヴァイアは疑いの眼差し。そしてユーリは他人の振りだ。関わりたくない雰囲気が漂ってる。同じテーブルだから意味ないと思うけど。


「信用がねぇな。だが、当たりだ。これはな、オペレーション『親友の彼氏の友達』だ」


「何言ってんだ?」


「だから、ヴァイアとノストがいい仲になって、ノストの友達を紹介してもらうんだよ。どうよ、この作戦?」


 ヴァイアが頬に手を当てて、くねくねしながら「いい仲だなんて、そんなぁ」とか言っている。放っておこう。


 あまり分かりたくはないが、ノストに友達を紹介してもらうと言うことだな。そのままじゃないか。


 だいたい、それならヴァイアとノストがいい仲にならなくても紹介してもらえるのではないか? リエルもノストと知らない仲ではないのだし。


 そんな私の考えが顔に出たのだろうか。リエルが「分かってねぇな」みたいな顔をしやがった。


「いいかフェル。単に友達を紹介する場合と、彼女の親友に友達を紹介する場合は、太陽と月くらいの差があるんだよ」


 どっちも大事な物だろうが。差が分からん。例えが下手だな。


「今、ノストに誰かを紹介してもらっても多分普通の奴しか紹介しねぇ。だが、ヴァイアが彼女になって見ろ。彼女の親友というポジションである俺に下手な奴は紹介しねぇはずだ……策士って呼んでいいぜ?」


 頭悪い、としか思わないが、言わないでおこう。親友だから。


「そうか、まあ頑張ってくれ」


「頑張るぜ! だからヴァイア、早いとこノストと付き合えよ、サポートしてやっから!」


「う、うん! 頑張るよ!」


「でも、俺より先に結婚するなよ? それは邪魔するからな?」


 敵なのか味方なのか、それが問題だ。七、三くらいで敵かな。まあ、最初から敵だと思っておけば裏切られた時のショックは少ない。ヴァイアはリエルを利用するぐらいの気持ちでいた方がいいと思う。


 そんなやりとりをディアが冷めた目で見ている。そしてため息をついてから、こちらを見た。


「そういえば、教会のほうはどうだったの? フェルちゃんは襲われたりしなかった?」


「危ない感じではあったが、リエルの聖女パワーでなんとか事なきを得た」


「嫌なパワーだね。でも、そうなんだ。じゃあ、異端審問のトップ、えっと、アムドゥアさんへの抗議は終わったんだね?」


 アムドゥアに抗議はしていたから、終わったと言えば終わったか。でも、話の内容を思い出すと、ラジット商会が異端審問官達を勝手に使っているようなニュアンスだったな。


 ラジット商会が一般人を巻き込むようなやり方を指示しているだけで、女神教はあまり関係ないのかもしれない。


「リエルが女神教というかアムドゥアに抗議はした。でも、ラジット商会が勝手にやってるような感じだったぞ。もしラジット商会が勝手にやっているなら、意味はなかったかも知れないな」


「そうなんだ。それは問題だね。あれ? そういえば抗議しただけの割にはずいぶん遅かったね? 私達のほうはひと悶着あったから、先に帰っていると思ってたんだけど」


「ああ、抗議の後にリエルが女神教に宣戦布告をしたからな。本気で女神教を潰すらしいぞ」


 周囲はうるさいのに、このテーブルだけ静かになった。


 そしてリエルはドヤ顔だ。「やってやったぜ」みたいな顔にイラっとする。


「リエルちゃん、本当にやる気なんだ? じゃあ、私の分までお願いね。私の貴重な青春時代をあんなことで終わらせてしまった怒りは深いから派手にやってくれるとうれしいな。あ、フェルちゃんに依頼するならギルドを通してね!」


「私も応援するよ! こう、爆発させたりするのは得意だから、必要だったら言ってね!」


「まあ、しばらく先になりそうだけどな。まずは女神教に反感を持っている信者を集めねぇと。でも、問題はその先だよな」


「その先ってなんだ?」


「女神教を潰して終わりじゃ意味ねぇんだよ。それに代わる新しい拠り所が必要だろ? 女神教って医療機関でもあるわけだし、単純に潰れただけなら大混乱になっちまう。女神教の名前をそのまま使うのはイメージの払しょくができないから、こう、女神に変わるような新しい象徴的なものがあればいいんだけどな」


 色々考えているんだな。もっと本能の赴くままに生きている感じだったが。しかし、新しい象徴か。


「でもさ、私なんかは洗脳されてたから恨みもあるけど、普通の人達ってそんなに女神教に悪いイメージはないと思うよ? それこそ医療機関だし、感謝している人の方が多いんじゃないかな? 洗脳の布教を広めている教皇さえ変われば、女神教のままでも問題ないと思うけど」


「そういう考えもあんのか。でもなぁ、こう、古い体質は壊したいんだよ。一度女神教は解体して、新しい宗教を作った方がいいと思わね?」


「若い娘さん達の会話じゃないですね。新しい宗教を立ち上げる、ですか」


「ユーリはなにかいい案があるか? 俺達より長生きなんだからそれっぽいところを見せてくれよ?」


 ユーリは「そうですねぇ」と言いながら、椅子に寄りかかって天井を見上げた。その後、リエルの方を見る。


「それならリエルさんが象徴になればいいのでは? 聖女ですし、聖女教とかにすれば解決ですよ」


 それはどうなんだろう? 少なくとも私は入りたくないが。


「聖女教……? いや、それはダメだ」


「どうしてだ? 私は入る気はないが、聖女パワーがあるから女神教の信者からも受けがよさそうに思えるぞ?」


「女性の宗教って感じで、男が入信しない気がする。俺が象徴ならいい男が近くにいないとな!」


 そんな下らない理由で却下か。まあ、いいけど。


 急にヴァイアが手を叩いた。


「なら聖人教は? 女性っぽい名前じゃないから男性の信者も入ってくれるよ。それに女とか神とか入ってないから女神教とは別物って思ってくれるんじゃないかな?」


「おお、そっか。聖人という括りなら、なにか功績を残した昔の人とか崇めればいいよな! よし、それにしよう!」


 どうやら決まったようだ。神よりも人を崇めるのか。


 魔族も以前は魔神を信仰していたが、今は誰も信仰していない。魔王様が魔神を倒される前からかなり廃れていた。魔神に祈りを捧げても、一度も勇者に勝てなかったんだから当然だよな。いてもいなくても変わらない神として名前は伝わっていたけど、それだけだ。


 魔族は魔王様を崇めているから、その聖人教と根本は同じと言えるかも。


「よし、次は聖人教を示す紋章を考えようぜ! 恰好いいヤツ!」


「そんなのは女神教を潰してから考えろ。なんだったら、さっきの料理にあった、赤いぐるぐるでいいんじゃないか? オシャレだ」


「あれをオシャレと言えるフェルのセンスを疑うぜ」


「お前のフェニックスを選ぶセンスよりはマシだ」


「わ、私のサラマンダーはオシャレだよ!」


「あれが一番センスない。だってトカゲだぞ?」


 その後、部屋に戻ってセンスについての話を夜遅くまでした。


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