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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第一章

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失業

 

 朝起きて窓を開けたらいい天気だった。今日はなんとなくいいことがありそうな気がする。


 そういえば、ノスト達が朝に出発するとか言っていた。見送りぐらいしてやるか。


 食堂へ来ると、ノストや兵士達が食事していた。


「おはようございます、フェルさん」


「おはよう。もう行くのか?」


「ええ、早めに出れば、途中の休憩場所での野営が楽になりますから。食事が終わり次第、出発することになります」


 東の町まで二日かかるとか聞いたことがある。途中で一泊するんだろうな。


「そうか、気をつけてな」


「ありがとうございます。フェルさんには色々お世話になりました。もし、リーンの町に来ることがあれば、詰所を訪ねてください。町を案内しますよ」


「今のところ予定はないが、その時はよろしく頼む」


 話している間に、兵士たちの食事が終わったようだ。


 宿を出て冒険者ギルドに向かうとディアが色々と動き回っている。どうやら仕事をしているようだ。光の加減でそう見えるだけだろうか。もしくは幻覚?


 兵士達が夜盗をギルドの地下から連れてきた。夜盗の頭領がこっちを見ている。


 チッと、舌打ちされた。イラッとしたので反撃だ。


「逃げ出してもいいぞ。どこに逃げても見つけられるように魔法で印をつけたからな。捕まえる度に金になるから私のために頑張って逃げてくれ」


 そう言うと、頭領がこちらを睨みつけてきたが、最後には項垂れた。


 私は敵の心を折るタイプだ。それほど夜盗達と敵対していたわけではないが、あの牢屋をみてお前らを敵と認識した。この後どうなるかは知らんが、もし次に私と会ったら注意しろよ。


「フェルちゃん、殺気が漏れてるから!」


 いかんいかん。村の中で殺気を放つなんて駄目に決まっている。あとはノスト達に任せて今日も仕事に励もう。


「では、フェルさん、ディアさん、こいつらは連れていきますので。ご協力ありがとうございました」


 そう言ってノスト達は、夜盗を連れて村を出て行った。


「終わったね、フェルちゃん。よーし、今日はもう仕事は終わりで良いかな!」


 まだ朝だぞ。




 寝ぼけたことを言っているディアと別れて、宿に戻ってきた。朝食は大事だ。


 食堂にはニアとヤトとロンがいた。三人そろってどうしたんだろうか。


「フェル、話がある」


 珍しく、ロンが真面目な顔をしている。ニアは苦笑い、ヤトは申し訳なさそうな顔だ。本当に何があったのだろうか。


「どうした? 面倒事か?」


 何故かロンが深呼吸した。ちょっと重い雰囲気に緊張する。


「フェルにウェイトレスの仕事を頼めなくなった」


 何故だろうか。仕事は忠実にこなした。つまみ食いをしたことはないし、料金をネコババしたこともない。


「理由を聞かせてもらおう。仕事で手を抜いたことはない。私には理由を聞く権利があるはずだ」


 リストラか? 不当解雇で魔界から弁護士を呼ぶか?


「フェルが昨日、赤字覚悟の食事を食べ過ぎて財政困難になった。給金を払う余裕がない」


 被害者だと思ったら、加害者だった。示談に持ち込むべきだ。


 しかし、そうなる前で止めてほしい。私だってオーガじゃない。もう無理、と言われたら食べなかったぞ。それに覚悟があるって言った。私は悪くないはず。


「そうか。それはすまなかった。赤字覚悟と聞いたので、それなりの覚悟があったのかと」


「宿を潰すほどの覚悟はないぞ」


 唯一の収入源が無くなってしまった。夜盗たちの報奨金でしばらくは大丈夫だろうが、早めに次の収入源を探さねば。


 いや、待てよ。ロンが言ったのは「フェルに仕事を頼めない」という旨だった。私だけ、ということだろうか。


「ヤトはどうなる?」


「ヤトちゃんには続けてもらう」


 ちょっと待ってもらおうか。やっぱり弁護士呼ぶか。徹底抗戦だ。


「理由を聞こう」


「ヤトちゃんは人気者だ」


 なん……だと……それは暗に、私には人気が無い、そう言っているのだろうか。いや、暗もなにも、ストレートに言っている気もするが。


 ヤトを見ると申し訳なさそうにしているが、尻尾がご機嫌だ。ちょっと宿の裏に来い。


「フェルちゃん、すまないね。人気が理由なのは冗談だよ。ただ、さすがに二人を雇うことが状況的に厳しくてね。金銭的に困っている方を残したのさ」


 ニアが説明してくれた。どうやら私の方はあと一週間ぐらい宿泊がタダの上に、夜盗の報奨金があるから、しばらくお金には困らないだろう、ということだ。また、ヤトは昨日から宿泊費をきちんと払っているようだが、給与を渡してから宿泊費を払うのは面倒なので、時給を減らして住み込みで働いてもらうことになったらしい。


「そうか、なんとなくだが事情は分かった。潔く身を引こう」


 よく考えたら、ウェイトレスの仕事が好きだったわけではない。特に服装が嫌だった。定期的な収入が無くなるのは困るが新しい仕事を探そう。私に似合う、何かを殴るような仕事を。


「そうだ、服を返却する。洗って返すからちょっと待ってくれ」


「あれはフェルちゃんのサイズに合わせて詰めているから、そのまま使ってくれていいよ。退職金がわりだね」


 ロンの顔が驚愕に変わったけどいいのか。着る機会はもうないと思うが、くれるというなら貰っておこう。


「わかった。貰おう。ちょっとヴァイアの店に行ってくる」


「フェル、せめて売らないでくれ」


 ロンに懇願された。お金にならないなら意味がないのだが。仕方ない、亜空間にしまっておこう。


「とりあえず話は終わりだな。朝食を頼みたいのだが」


「あいよ。すぐ用意するからまっとくれ」


 ニアとロンはそれぞれ仕事場に向かった。残ったのは私とヤトだけだ。


「フェル様、申し訳ないニャ」


「気にするな。ヤトは人界に残ろうとしていたのだろう? 仕事が無くなるのを避けられたのは幸いだ」


「いえ、人気のほうですニャ」


 ちょっと拳による話し合いが必要だな。


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