表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/717

赤字

 

 いつもならウェイトレスの仕事の時間だが今日は休みだ。お金もいっぱいある。今日はおかわりしよう。自分へのご褒美というやつだ。


 しかし、さっきからヤトがウロウロしている。どうしたのだろうか。ここはウェイトレスの先輩として助言してやろう。


「ヤト、どうかしたのか?」


「掃除をしたいのですが、モップが見つからないニャ」


 私のせいだった。亜空間に入れっぱなしだ。しかもモップを持って行った上に魔力を付与してユニークアイテムになった。ばれないよな。ばれたら性能を上げたということで許してもらおう。


「すまん、私のせいだ。夜盗退治の時に持って行った」


「そういえば、持って行ったのを見ていたニャ。すみませんが、お返しくださいニャ」


 亜空間からモップを取り出してヤトに渡す。ユニークアイテムであることに気づくなよ。


「ありがとうございますニャ」


 ヤトはモップを受け取ると掃除を始めた。邪魔しないように端っこに座っておこう。


「なんだか掃除がはかどるニャ」


 それは気のせいではないが、あえて何も言わない。鑑定とか分析魔法を使わない限りばれないだろうからな。


「ところでヤトはこっちに残るのか?」


 当たり前のように掃除しているが、魔界に帰らなくていいのだろうか。向こうは向こうで色々やることはあると思うが。


「こっちの方が楽しいですニャ。それに太陽を初めて見ましたが、太陽の光を浴びると屋根の上で丸くなりたくなるニャ」


 その気持ちは分からんが、住み心地がいいのは確かだ。ニアの食事が素晴らしいからな。正直、私も帰りたくない。


「そうか。言っておくが人族と争うなよ。友好関係を築くためにいることを忘れるな。あと、お金は自分で稼げ」


「わかりましたニャ。そんなこともあろうかと、私も冒険者になったニャ。この村の専属冒険者ニャ。冒険者の仕事、例えば狩りをしてお金を稼ぐニャ」


 ヤトがギルドカードを見せながらそんなことを言ってきた。


 ギルドカードを見ると、デフォルメされたヤトの似顔絵が書いてある。猫耳が強調されているな。


 よし、冒険者としても先輩である私からアドバイスをしてやろう。


「ここのギルドはウェイトレス以外の仕事はないぞ」


「ニャ!?」


 驚いているヤトをそのままにして食事にしよう。今日は村人以外にも兵士のやつらがいるな。かなりの売り上げが見込めそうだ。今度、私の時給を上げてくれないかな。


 驚きから回復したヤトは給仕の仕事を無難にこなしているようだ。皆が一口あげると言っているのに食べていない。もったいない。私なら交渉で二口目を狙うぞ。


 今日は魚のフライというものらしい。飛ぶのだろうか? 鮫だって飛ぶから不思議ではないが。


 ヤトに聞いてみたら、フライというのは調理方法らしい。結構お金のかかる調理方法らしいが夜盗退治のお祝いで赤字覚悟とのことだ。売り上げは増えるかもしれないが、経費が掛かり過ぎなのか。それは経営者としてどうなのだろう。


 ということは、おかわりするとそれだけ店にダメージを与えることになるのか。


 いや、赤字を覚悟していると言ったのだ。そう、覚悟しているのだ。その挑戦を受けねば。


「フェル様、お待ちどうですニャ」


 食事をするときに笑顔になるのはもうばれているし諦めよう。人生には諦めが必要だ。顔の表情を気にしながら食べたら美味いものもよく分からなくなる。食べているときに余計なことを考えるのは愚の骨頂だ。


 では、魚のフライとやらを食べよう。いただきます。




 計二十皿食べた。ニアは笑っていたが、ロンは泣き出した。今日は泣く奴が多いな。


 食後の余韻を楽しんでいたらノストがやってきた。


「こんばんは、フェルさん」


「こんばんは。今から食事か」


「ええ、交代で食事をとることになっていますので」


「夕食のフライがうまかった。食べるほどロンが泣くが」


 ノストは不思議そうな顔をしていたが、ちょっと笑って兵士達と別のテーブルについた。


 夕食ぐらい全員でとればいいのに、とは思うが兵士ともなると色々あるのかな。見回りしている奴もいると聞いたし、職務に忠実なのでいい奴に思える。ああいう奴とは友好的な関係を結びたいものだ。


 今度はディアがやってきた。そして何も言わずに相席する。一言ぐらいあってもいいと思うぞ。


「はー、お仕事疲れたよ。あ、ヤトちゃーん、大盛一人前、お願い」


 お前、午後、ほとんどサボっていただろうが。悪い奴じゃない気はするんだけど、いまいち信用できない。気を許したら負けな気がする。


「そういえば、外でスライムちゃん達が踊っていたけど、あれなに?」


 忘れてた。洗濯をお願いしていた。持ってきてくれてもいいと思うのだが、まだ洗っているのだろうか。


「洗濯をお願いしたのだが、まだ終わっていないのか。ちょっと見てくる」


「あれ、洗濯なんだ。呪いの儀式かなにかかと思ったよ」


 外に出るとスライムちゃん達がグルグル回っていた。見ている方の目が回る。


 まだ洗濯が終わらないのか聞いてみると、現在は脱水中らしい。次は乾燥で、あと一時間ぐらい掛かるそうだ。洗濯って大変だな。


 終わったら部屋に持っていくから待っていてくれ、と言われた。それはいいのだが、なぜ外でやるのだろうか。部屋でやればいいのに。


 理由を聞くと、洗濯できることを村の奴らにアピールしてお金を稼ぐつもりらしい。なので、亜空間には戻さずにしばらく自由にさせてほしい、とのことだ。


 仕事をするつもりなのか。さすが私の従魔だ。頑張れよ。でもお金を稼いで何に使うのだろうか?


 スライムちゃん達と別れて食堂のテーブルに戻るとディアが食事中だった。


「フェルちゃん、スライムちゃん達の洗濯終わった?」


「お前はちゃんと仕事しろよ」


「いきなり貶された! ちゃんとしてるよ! 休憩時間が任意なだけだよ!」


 その時点で駄目なことに気付かないのか、それとも気付いてやっているのか……後者かな。




 ディアの雑談に付き合ってから部屋に戻ってきた。


 さて、今日は色々疲れた。魔王様もすでにお休みだし、私も日記を書いて寝よう。今日は書くことがいっぱいだ。


 日記を書いている途中にスライムちゃん達が洗濯し終わった服を持ってきた。おお、綺麗になってる。


 私に服を渡すとまたどこかへ行ってしまった。心配はしていないが、行動が読めないから、なにかしでかすのではないかと不安になる。


 いや、大丈夫だ。私の従魔なのだ。信じるって大事。


 さあ、もう寝よう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ