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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第一章

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秘密

 

 ようやくソドゴラ村に着いた。


 村の入り口にはディアがいた。待っていてくれたようだ。


「あー! フェルちゃん、お帰り! 怪我しなかった?」


 どうやら心配してくれていたようだ。ちょっとだけディアに対して好感度が上がったぞ。


「問題ない。改めて捕まえたから手続きを頼む」


「任せといて! 今度は失敗しないよ!」


 不安だ。


 ディアとノスト達は夜盗達をつれてギルドの方に向かった。今日はこの村に泊まって、明日の朝出発するとか言っていたから、夜盗達をギルドの地下に入れておくのだろう。アジトから持ってきたガラクタも亜空間から取り出して兵士達が持って行った。重そうだな。


 とりあえず、仕事は終わった。こういう仕事なら結構やりがいがあるのだが。


「食事の用意をしておくから、安心させるためにも皆に挨拶してきたらどうだ?」


 なるほど。夜盗が捕まっていれば、村の奴らも安心できるだろう。ロンにしてはいいことを言う。


「わかった。ニアに食事の用意を依頼しておいてくれ。顔見知りに改めて夜盗が捕まった件を伝えてくる。これで安心できるとな」


「ははは、安心させるっていうのはそういう意味じゃないよ。フェルが無事に帰ってきたって安心のほうさ。ディアもそうだったろ?」


 夜盗の心配ではなく私の心配か。いや、どうだろう。心配してないと思うが。


「とりあえず伝えてくる」


 まずは村長だ。


「おお、フェルさん、無事でしたか。大丈夫だとは思っていても心配していましたぞ」


 村長もディアと同じように心配してくれていたようだ。私は魔族にしては弱そうなのだろうか。


 村長の娘も初めて見た旦那も心配してくれていたのか、私の無事を喜んでくれた。


「フェル姉ちゃん、夜盗をやっつけたの? 今度行くときは誘って。私がフェル姉ちゃんを守ってあげるから」


 お前に守られるほど弱くはない。あと、家の中で木剣の素振りをしないほうがいいぞ。


 次は女神教の教会だな。


「ほお、無事だったかね。大丈夫だとは思っていたが顔を見ると安心するの」


「女神教なのに爺さんも心配してくれたのか?」


「女神教は関係ないわい。まだ数日しか一緒におらんが、儂を含めて村の者はお主を村の一員として見ておるよ。同じ村の者を心配するのは当然じゃろ?」


 よくわからないが、女神教でも人それぞれなのかな。


 畑に行くと、「フェルちゃん、無事だったか」「心配したぞ」「ウェイトレスをしてたほうがいい」とか色々言われた。


 ウェイトレスから離れろ。しかし、心配してくれたのか。


 最後は雑貨屋だな。


「フェルちゃん! 無事でよかった!」


 ヴァイアの店に行ったら、正面から抱きつかれた。なんだ、この胸。喧嘩売ってんのか。もぐぞ。


「皆、心配してくれたようだが、私ってそんなに弱そうか?」


「え? 魔族だから強いのは知ってるけど、本当に強いかどうかわからなかったから心配してたんだよ」


 そうか、村で夜盗の一人をワンパンで倒したが、女子供の前だけだったし、それ以外の夜盗はスライムちゃん達だけで制圧したから、私の実力を知らないのか。正直なところ、ノストと兵士達全員よりも強いんだが。


「それに同じ村に住んでいるんだから、たとえ強くても心配するもんだよ」


 なんだろう。村に来て一週間も経っていないのに、いつの間にか村の住人と同じぐらい信頼されているのだろうか。ちょっと怖いぐらいなんだが。


「なんで私はそんなに信頼されているんだ?」


 目を逸らした。なんだ? 理由があるのか?


「い、言わなきゃダメ?」


「知っているなら教えてくれ」


「えーと、その、フェルちゃんは気づいていないと思うんだけど……」


 なにか言いにくいことなのだろうか。それに私が気づいていない? どういうことだろうか。これは絶対に聞くべきだな。


「ウェイトレスの仕事をしているとき、夕飯を食堂で食べてるよね」


 まかないのことか。それが何だというのだろう? 食事中にチラチラ見られてはいるが、私の分を差し出したことはない。あれは私のだ。


「すごく笑顔なんだよね」


「誰が」


「フェルちゃん」


 落ち着け、クールだ、冷静になれ。こういう時は、円周率だ。三……次、なんだっけ? 駄目だ、わからん。


 話を要約すると、私が夕食を笑顔で食べている、だ。クールビューティなこの私が。信じられん。


「嘘だろ?」


「本当だよ。こっちが幸せになるぐらいの笑顔で食べてるよ。食べ終わるとお皿を見つめてシュンとするところも人気あるし。給仕の時も料理を運んでくるとき笑顔で、テーブルに料理を置くと名残惜しそうに帰るから、皆、大盛を頼んで、料理を一口あげているみたい」


 確かに、いつも一口もらっているので、マイ箸を用意したぐらいだ。


「だから、村の人が全員一致で、フェルちゃんは魔族だけど悪い子じゃないってことになったよ」


「メテオストライクがつかえる魔道具の封印を解いていいか? 皆を殺して私も死ぬ」


「やめて」


 その後のことをよく覚えていないが、いつの間にか宿の食堂で椅子に座っていた。


「フェルちゃん、無事で何よりだよ。聞いてはいたけど、姿を見るとより安心できるね。いま、料理を持ってくるからちょっと待ってておくれよ」


「フェル様、お疲れ様ですニャ。牛乳ですニャ」


 ニアが料理を持ってきてくれるらしい。あと、ヤトが牛乳を持ってきてくれた。これを飲んで落ち着こう。


 クールだ、冷静に、平常心で食べるのだ。これを乗り越えれば、真のクールビューティになれるはずだ。


「はい、おまたせ」


 テーブルに料理が並んだ。うまそうだ。すでに見た目から私を殺しに来てる。顔の筋肉に力を入れるのだ。魔王様、私に力を。


「いただきます」


 いざ、勝負。




「相変わらずフェルちゃんは美味しそうに食べてくれるね。料理人冥利につきるよ」


 駄目だった。もう、人前で食事するのはやめようかな。もしくは相手の目を潰すとか。


「ヤト……私はもう駄目かもしれない」


「フェル様、どうされたニャ!?」


「ニアの料理がうまいせいで、私は食事中に笑顔になるらしい」


「……魔界でも同じでしたニャ」


 すでに駄目だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 無自覚ツンデレ系のフェル。 第三者目線がないから、こういうのが後からバレるっていいですね。萌えます。
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