鑑定
洞窟内を調べると色々見つかったらしい。
簡易ながらも牢屋があったとのことだ。使っていた形跡もあるので、もしかすると、人をさらって一時的にここに閉じ込めていたのではないか、ということだ。
一つ間違えば、村の奴らもここに閉じ込められた可能性があったのか。そう思うとちょっと怒りが沸いてきた。
「ここにあるものはすべてフェルさんのものになります。ただ、この偽装の腕輪だけは調査のために持っていきます。これは別途お金で引き取らせてください」
「わかった。とくにここにあるものは必要ないので、全部お金に換えてもらえると助かる」
全部ガラクタだった。持っているだけ邪魔だ。
「わかりました。村に戻ったら清算しましょう。あの、フェルさんは空間魔法を使えますよね。村まで持っていって頂けると助かるのですが」
「ああ、構わない。村まで私が持っていこう」
戦利品という亜空間を作って手に入れたものを入れた。そうだ、いつも使っている亜空間を整理しておかないと。片づけられない女とかになったら困る。
「洞窟はどうするんだ?」
「このままにすると魔物が住み着く可能性があるので潰しておきます。土生成の魔法で埋める形ですね」
この規模の洞窟を埋められるほどの魔法使いがいるのか。もしかして、この部隊は結構優秀なのかな。
感心していると、ノストが何かを取り出して見せてきた。木製の箱、だろうか。
「こういった洞窟を埋めるための魔道具がありまして。使い捨てですが土を作り出せるのです。色々と重宝しますよ」
そういえば、東の町から来たといっていたか。魔法国家だからそういう魔道具は多いのかもしれないな。
それから数十分。そんなこんなですべての作業が終わったようだ。早く帰ろう。夜盗共の干し肉だけじゃ足らん。
「それにしてもフェルは強いな! 空間魔法も使えるみたいだし、今度買い出しとか頼むかもしれないな!」
村に帰る途中、ロンがそんなことを言い出した。そういえば居たな。忘れてた。しかし、買い出しか。そういう仕事もあるのか……だが、やりたいとは思わないな。
「それならヤトに頼め。あいつの方が足は速いし、私ほどではないが空間魔法も使える」
「ほー、それなら頼んでみるか。そういえばフェルは転移できるんだろ? 一足先に村に帰るか?」
「それは無理だ。見えない場所に転移することはできない。空間座標の計算が難しいからな。見えている場所なら計算しなくても感覚でわかるんだが。短い転移を繰り返すという手もあるが、転移すると急に視点が変わるので連続でやると気持ち悪くなる」
昔、吐いた。あれはもうやらない。
「空間魔法にも驚きましたが、よく腕輪のことが分かりましたね。私にはそちらの方がより驚きました」
今度はノストが話しかけてきた。村までの二時間は結構暇だから相手をしてやるか。
「よく見たら分かった」
「よく見たら? 詮索するわけではないのですが、鑑定スキルとかをお持ちなんですか?」
鑑定スキル? そんなものは持っていない。
「いや――」
「いえ、失礼しました。スキルは冒険者にとって生命線ですから、そう簡単に他人には教えられませんよね。先ほどの質問は忘れてください」
勝手に質問してきて勝手に終わったぞ。
しかし、気になることを言ったな。ノストは私が腕輪のことが分かったのは鑑定スキルをもっているからと考えていたようだ。ということは、普通は鑑定スキルがないと判断できない、ということになる。
「ちょっと聞きたいのだが、物や人のスキルって見えないものなのか?」
「はい?」
何を言っているか分からない、という顔になった。常識を疑われるようなことなのか。たしかに今までも他の奴らがスキルを見ることができないのは不思議だったが、対象との魔力差で見えないものだと思っていた。もしかして勘違いだったのか?
「ええと、そうですね。基本的に物や人のスキルは見れません。鑑定スキルを使える人か、強力な分析魔法を使える人だけですね。王都ではそれを仕事にしている人もいますよ。お金を払って自分のスキルを確認してもらう、というような商売ですね」
「普通は見えないのか。それにそういう仕事がある、と」
「とは言っても、鑑定した方が本当のことを言っているかどうかわかりませんし、当然、自分のスキルを鑑定した人に見られます。さらに法外な値段を取られますので、私たちのような兵士や騎士、貴族や王族といった方しか縁のないことですね」
なるほど。しかし私は見える。でも、鑑定スキルは持っていないし分析魔法も使っていない。どういうことだろうか。こういうことは魔王様に相談してみようかな。最近、魔王様とゆっくり話をしてないし。
「ノストは鑑定してもらったことがあるのか?」
「はい、兵士に志願した時に領主様のお抱え鑑定師に見てもらいました。でも、スキルは教えませんよ」
微笑みながらそう言った。なんかイケメンっぽい。まぶしい。まあ、魔王様のほうがイケメンだが。それはともかく、スキルを教えてくれなくても勝手に見るつもりだ。
……なるほど。統率スキルがレベル二だ。あと、剣術、槍術スキルもレベル二だな。称号も持ってる。これぐらいだと隊長になれるのか。ふーむ。
「あの、もしかして私のスキルを見ていたりしますか?」
「よくわかったな」
「そんなに見つめられたらわかりますよ。じゃあ、答え合わせをしますか?」
面白い。やろう。
「私が見た限り目立つのは統率、剣術、槍術がレベル二だ。あと、守護者の称号を持っているな」
なんだろう。皆、止まった。いいから早く答え合わせをしてくれ。
「本当に見えるのですか!!」
近い近い。何だいきなり。というか、その驚き方、信じてなかったのか?
「あ! すみません。ええと、スキルは合っています。ただ、レベル二とはなんでしょうか? それに守護者の称号とはなんでしょう?」
「何を驚いているのか知らんが、レベルというのは熟練度みたいなものだ。レベル一で普通、レベル二なら優秀といったところか。称号というのは私も詳しく知らないが、特定の条件を満たした場合や、生まれた時から持っている能力の名称みたいなものだ。スキルと似たようなものだがレベルはない」
なんか周囲の奴らが呆然としている。どうした。
「ちなみに守護者というのはどういったものでしょうか?」
聞いてばっかりだな。仕方ない、もうちょっとよく見てやる。
……大体わかった。
「何かしらの対象を守る際に能力が向上するタイプの称号だな。魔法の筋力向上が自動で発動する感じだと思う」
「そんなものが……確かにまれに普段以上の力を出せるときがあった気がするが……」
なんかノストを筆頭に兵士たちがざわついている。
なんとなく、やらかしてしまった気がする。まずいだろうか。
兵士達が「私も見てください!」とか言ってきた。だから近い。
「ま、まて。今は護送中だ。とりあえず村についてからにしよう」
ノストがそう言うと不満の声がでた。「隊長ばかりずるい!」とか「横暴だ!」とか「女たらし!」とか言っている。最後はタダの悪口のような気がする。
ノストが右手をさっと上げると、一応皆黙った。統率スキルかな。
「皆の気持ちはわかる。だが、すぐに村に着くから今しばらく待ってくれ」
なんだろう。私が皆を見ることが前提で話が進んでいるように思える。
「フェルさん、申し訳ない。村に着いたら改めて話をさせてください」
面倒なことになったな。さて、どうしたものか。