後始末
うーん、城にあったベッドは豪華だったけど、村のベッドの方が快適だな。マクラって大事。
さて、ニアは助け出したけど色々と後始末があるから対応しないと。
ただ、色々あり過ぎて困る。一つ一つ解決しよう。まずは面倒なところからだ。
ドッペルゲンガーをつれて城の地下にある牢屋に来た。
「貴様! 私に何をしているのか分かっているのか! 皇帝陛下が黙っていないぞ!」
開幕うるさい。牢屋の中だというのに元気だな。
「皇帝の奴が何を言おうと別に怖くない。一応、教えておいてやる。この町に三万の兵力で向かっているようだ。皇帝はよほど私が怖いと見えるな」
ムンガンが目を見開いた。そしてすぐにムカつく笑い方になった。
「くくく、そういうことか。私と交渉しに来たという訳だな? 兵を引かせるように皇帝陛下へ直訴しろと。そういう事だな?」
何を勘違いしているのだろう? なんか殴りたくなってきた。
「いいだろう、だが、こちらの要望を受けてもらうぞ? まずニアは返してもらい――」
何か言ってるけど聞く耳持たん。時間の無駄だ。
ドッペルゲンガーの方に視線を移す。
「コイツを噛め。理由は分かるな?」
「わかりました。こういう奴の記憶はあまり見たくないのですが、仕方ないですね。フェル様にはできませんからね!」
まだ言うか。
「な、何をする気だ……」
かなり怯えているが、ニ度とこんなことを出来ないようにしておかないと。
ドッペルゲンガーは牢屋をすり抜けられるほどの小さな鳥に変身してから牢屋の中に入った。そして今度は狼に変身してムンガンに近寄る。
「ひ、ひいぃぃぃ!」
「ちょっと噛むだけです。痛くないですよ」
狼に変身したドッペルゲンガーはムンガンを噛んだ。そして、また鳥に変身して牢の外に出てくる。
そして今度はムンガンに変身した。おお、そっくりだ。
「な、な……」
「コイツの事だからどうせ不正とかしているだろ? 記憶を漁れるか?」
「ええと、どうやら領主の部屋に色々と証拠を残していますね。おや、これは皇帝への背信行為ですね」
「な、なにを……」
「税金をごまかしています。自分の私腹を肥やしている感じですね。それにトラン国と密接なご関係にあったようです。次の戦争でワザと負けるつもりでしたか。そしてお金をもってトラン国への亡命、と。いやぁ、悪人ですね」
正直、ドン引きだ。皇帝を頼るようなことを言っていても、裏切る気満々か。どうしようもないな。
「皇帝に泣きついても、トラン国へ亡命してもいいが、裏切者の上に金もないお前をどっちが助けてくれるか、よく考えるんだな」
ムンガンは顔面蒼白。さらに腰が抜けたようで立てないようだ。
「安心しろ、これ以上はなにもしない」
そう言ってから牢屋を離れた。
やり過ぎた、という気はする。だが、ここまでやらないと領主に返り咲いて同じことをしでかす可能性がある。徹底的に叩いておかないとな。
「ムンガンの部屋にいって不正の証拠を持ってきてくれ。それを誰かに渡せば罪に問えるだろう」
ドッペルゲンガーは「了解です」と言ってこの場を離れた。
さて、広場に戻ろう。次は獣人達かな。
「ヤト、この町にいる獣人達はこれで全員か?」
「はいニャ。聞いたところによると獣人達を、その、奴隷として扱っているのは領主だけで、町ではそんな行為はしていないそうニャ」
なら、城の中にいた奴等で全員だな。全部で五十人くらいか?
「じゃあ、お前達、帰っていいぞ。ええと、ウゲン共和国だったな? 気を付けて帰れよ」
なんで皆はポカーンとしているのだろうか。
「フェル様、待ってほしいニャ。このままで国に返すのは無理ニャ」
「なんで?」
「ウゲン共和国まで結構な距離があるニャ。途中、ルハラに所属する町を通らないといけないし、下手したら襲われるニャ」
そういえばそうだった。ルハラとウゲンが休戦中とはいえ、五十人の獣人が領内を移動していたら敵対行為と思われるかもしれないな。
でも、護衛なんてする気はない。これは獣人達と人族の問題であって、下手に介入していい事じゃない気がする。獣人達を勝手に解放しておいて言う事では無いけど。
となると輸送か。
「カブトムシのゴンドラなら何人乗せられる?」
「十人が限度ですね」
カブトムシからの即答。試したことがあるのだろうか。それとも最初から人数制限を考えていた?
それはともかく、獣人全部を輸送するなら五、六往復か。ここからウゲン共和国までの距離が分からないし、カブトムシに無理をさせるのもなんだしな。
「あ、あのよろしいでしょうか……?」
獣人の一人が手をあげている。なんの獣人だか分からないけど、黒いから地位が高い獣人なのかな?
「なにかいい案があるのか?」
「はい、よろしければ、私達をヤト様が住んでいる村に置いてもらいたいのですが」
ソドゴラ村に来るという事だろうか?
「ウゲンに帰らなくていいのか?」
「もちろん帰りたいのですが、恩を返さずに帰る訳にはいきません。是非とも同行させて頂き、恩を返すチャンスを頂きたいのです。お願いいたします」
そういうと獣人達は全員頭を下げた。既に意志の疎通は済んでいるという事か。
村長はなんていうかな。魔物が普通に住んでいるくらいだから獣人でも問題ないとは思うけど。いざとなったらアビスの中に住んでもらえばいいか。
「人族を襲わない。これが条件だ。それが飲めるなら構わんぞ。あと、獣人達の事は全部ヤトに任せる。何かあればヤトに相談するように。じゃあ、よろしく」
「酷い丸投げを見たニャ!」
獣人達のヤトを見る目が尊敬の眼差しだし、私がなにか言うよりもヤトが何かを言った方が効果的な気がする。
「ではヤト様、これからよろしくお願いいたします。そしていつかウゲン共和国へいらしてください。ぜひ、獅子王様にお会い頂きたいのです」
「そんなことより料理の訓練の方が大事ニャ」
もしかしたら、獣人達はヤトを共和国に連れて行くことが目的になっているのかな。黙って連れて行かれるのは困るけど、ちゃんとスジを通してくれれば、いくらでも行ってくれて構わないけどな。
まあいい、これで獣人達の問題は片付いた。次だ、次。
広場でアラクネの糸で縛られている奴を見る。なんでも軍隊長みたいな立場にあるらしい。
「私は魔族のフェルだ。お前が兵士達の中ではムンガンの次に偉いんだな?」
「……ああ、そうだ」
こちらに敵対するような感じはしないが、警戒心が高いな。当然と言えば当然なんだけど。
「私達に敵対しないというなら、兵士達を解放してもいい」
「兵士達の無事を約束してくれるんだな?」
「さっき言った通り、私達に敵対しないなら、だ。ただ、敵対しなくてもムンガンは解放しない」
「それは構わない。いない方がマシだからな。分かった。お前達に敵対しないと誓おう」
ムンガンは嫌われてるんだな。なんとなくそんな感じはしていたけど。
「お前の責任で他の兵士達に敵対させるなよ? それと町の住人達にも伝えてくれ。敵対しなければ手を出すことはないとな」
男は力強く頷いた。……うん、大丈夫そうだな。
ルネとアラクネに指示をだして兵士達を解放した。千人近くいるからな。正直邪魔だ。
兵士達が全員解放されてから軍隊長がやって来た。
「一つ頼みがある」
「なんだ?」
「もし、この混乱に乗じてトランが攻めてきたら力を貸してほしい。領主が引き起こした問題だが、町の住人には関係ない事だ。だから頼む。この通りだ」
真摯な態度で頭を下げてきた。ムンガンの下にもちゃんとした兵士っているんだな。
「いいだろう、その時は力を貸す。だが、トランが攻めてくる心配はないと思うぞ」
軍隊長は不思議そうな顔をした。私が何を言っているか分からない、そんな目をしている。
「……その根拠はなんだ?」
「実はルハラの皇帝を怒らせていてな。帝都から三万の兵がこちらに来ているそうだ。トランも馬鹿じゃないだろうし、そんな大軍が近くにいたらこの町へ侵攻することは無いだろう」
軍隊長が絶句している。そしてたっぷり一分くらい経ってから口を開いた。
「待て待て待て、なんでアンタは落ち着いている。三万だぞ、三万。アンタ達の命の方が危ないじゃないか」
「三万程度で私達に勝てると思うのか? 私達と戦ったお前なら分かるだろう?」
また軍隊長は絶句した。だが、今度は回復が速い。
「勝てるかもしれないが、町の被害が大きいのは困るぞ?」
「町中では戦わないから安心しろ。戦うなら北の平原で戦う」
「……爺さんや婆さんの話はあてにならないな。普通の奴よりもいい奴に思える」
「よく言われる。戦うことになったら、お前達は民間人の避難とか、そういうのを対応してくれ。極力町に被害を出さないようにするが、何かの拍子に巻き込まれる可能性はあるかもしれないからな」
「了解した。そっちは任せてくれ」
よし、これで兵士達と住民達は何とかなるだろう。襲われたところでどうなるわけでもないが、無駄な諍いは無い方がいい。
そうだ。コイツなら何となくだけど信頼できそうだ。ドッペルゲンガーが持ってきた証拠を軍隊長に渡そう。
「これはムンガンの不正を示した証拠だ。ちゃんと罪に問えよ」
「お前……これ、どこから? ……ちょっと待て、反逆罪じゃ済まない内容だろうが!」
「そういうのは分からない。それも任せるからよろしくな」
ルハラの法律とか知らない。ならルハラの奴にやらせるのが一番効率的だ。それに私は丸投げのスキルを覚えた。どんどん、ぶん投げるぞ。
さあ、次は何をするか……昼食だな。これは丸投げするわけにはいかない。私自らやらないとな。




