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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第六章

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できる事とできない事

 

 確かに三万という数は多いと思う。


 だが、ここの兵士や強いと思っていた傭兵達があの程度だったからな。


 帝都にいる兵士達が精鋭部隊だったとしても、この町の兵士より二倍も三倍も強いとは思えないし、戦うなら北の平原みたいな場所になる。三万の兵士が一度に槍を突けるわけでもないから、精々一度に相手するのは百人程度だ。


 どう考えても負けないな。


 これを説明したら、また怒られた。


 しかもヴァイアに呆れたような目で見られている。


「フェルちゃん? 一度に百人と戦えるのはフェルちゃんだけだからね? それに百人倒すのにどれだけ時間が掛かるの? それを三万人分やるんだよ? 疲れて動けなくなるでしょ?」


「それは大丈夫だ。私にはユニークスキルがある。それを使っている間は相手も動けん」


「ええと、百鬼夜行とか言ってたスキルの事?」


「いや、別のスキルだ」


 あれは味方も巻き込むからな。周囲に敵しかいないなら遠慮なく使える。


「どんなスキルなの?」


「私を中心として半径五キロ以内にあらゆる弱体効果をまき散らすスキルだ。多分、人族なら立っていられない」


 これで敵味方を区別できるなら百鬼夜行との併用も可能なのに。残念ながら弱った魔物がいると百鬼夜行の効果も落ちるからな。下手するとマイナスになる。百鬼夜行で魔物の弱体効果を無効化できるのに、私のスキル効果は無効化できないってなんだよ。


「味方を巻き込むからほとんど使わないけどな。だが今回はやるとしたら北の平原だろう? 味方を巻き込まずに使える」


「随分と凶悪なスキルだね……フェルちゃんらしいっていうか」


「なんだと、コラ」


 私はヴァイアに凶悪と思われていたのか。ちょっとショックだ。


 ヴァイアが慌てた。両手を左右に振って違うとアピールしている。


「フェルちゃんが凶悪って意味じゃないよ。なんて言えばいいかな、フェルちゃんは一人の方がいいのかな、と思っただけ」


 ボッチでいろ、という意味だろうか。さらにショックだ。


「……意味が分からん。どういう事だ?」


「フェルちゃんは一人で何でもできるでしょ? むしろ私達にできないことが多くてフェルちゃんの足を引っ張っている事が多いじゃない? そして、そのスキルは近くに味方がいると使えないんだよね? そういう意味で、フェルちゃんの状況と、スキルが似ているから、らしいって言ったの」


 うーん? 分かるような、分からないような? あれ? 皆が頷いている。分かってないのは私だけか?


 でも、ヴァイアの言い方だと決定的に勘違いしているな。


「あのな、まず前提として私が一人で何でもできるというのが間違っている」


「そうかな? フェルちゃんは強いよ? どんな問題も一人で解決できるくらいに」


「物理的に強いだけだ。それ以外はあらゆる面でお前達に劣る。なんでもできるように見えるのは力で解決することが多いからだぞ?」


「うーん、そうかな……?」


 他の奴らも納得していない顔だ。面倒な事を考える奴らが多いな。仕方ない、フォローしてやるか。


「これから来る帝国兵の中に魔族がいるんだが、私に許しを請うために戦術魔道具を持ってくる予定だ」


「どうしたの、いきなり? でも、そうなんだ」


「ヴァイアにその魔道具を解析してもらって、術式を解除してもらいたい。……私にはできないからな」


「あ……そうか! そうだね! フェルちゃんにはできないよね!」


 そう言われるとちょっとイラっとする。


 とりあえず、他の奴らにも私にできないことをやって貰って、私が何でもできる、という考えを払拭してもらおう。


「リエルは獣人達の怪我も治してやってくれないか? 私じゃできないし」


「おう、仕方ねぇな! フェルができないんじゃ俺がやるしかねぇな!」


 なんだか、ムカつくな。特に顔がムカつく。


「ヤトはリエルと一緒に獣人達を頼む。それとそれが終わったら皆に食事を作ってやってくれないか。食材は渡すから」


「仕方ないニャ。フェル様は料理ができないから私がやってやるニャ」


 その通りなんだけど、そのドヤ顔を殴りたい。


「ルネは定期的に町の様子を確認しておいてくれ、帝都の方と連絡を取っている奴らがいるかも知れないし、町の奴らが暴動とか起こすと困るから事前に情報を得たい」


「分かりました! 確認しておきます! これはフェル様にはできませんからね……!」


 あれ、おかしいな。皆の考えを払拭したい、というのを通り越して、私が何もできない奴になっている気がする。


 いや、気のせいだ、気のせい。


「えーと、魔物達は交代で町の治安維持に努めてくれ。兵士達を動けなくしてしまったからな。町の治安が悪くなったら困る」


「畏まりました。フェル様は問題があるとすぐに殴ってしまいますからね。私達が穏便に済むように対処致します」


 ジョゼフィーヌ達だってすぐに殴るじゃないか。私と似たようなものだろうが。


 お前達にもそれぞれできることがあって、私の足なんか引っ張ってないぞ、という流れにしたかったのに、私が何もできない子になって皆の足を引っ張っている感じになってしまった。言葉って難しいな。


 そして、そんな私を放っておいて依頼したことの準備を始めた。


 仕事に取り掛かるのが早いのはいいんだけど、私へのフォローとかないのか? そんなことはできなくてもいいんですよ、とか。お互いにフォローすることが大事だと思うんだけど。


「わざわざ自分を貶めてまで皆のフォローをしなくてもいいのにねぇ」


 ニアが笑いながらそんなことを言ってきた。


「フォローする気持ちはあったが、自分を貶めているつもりはない。だが、何故かこうなった。確かに頼んだことは私にはできないけど、何でアイツらは『仕方ないな』みたいな態度の上に笑顔で対応するのだろうな? いじめか?」


「皆、フェルちゃんに頼られたいんだよ。皆がフェルちゃんを頼っているからね」


「ギブアンドテイクという事か? 例えアイツ等が何もできなかったとしても態度を変えるつもりは無いけどな」


「フェルちゃんがそんなだから、なんとかして力になりたいんだよ。だからお願いだろうと命令だろうと、頼られて嬉しいのさ。『仕方ない』と言ってるのは、照れ隠しみたいなもんだね」


 ロンがニアの隣で頷いている。


 よく分からん。どちらかと言えば、バカにされている感じなんだけど。


 まあいいか。ニアの話を鵜呑みにするなら、少なくとも足手まといだとは思っていないんだろう。


「フェル様、獣人達にも食事を提供して問題ないかニャ?」


 リエルの治癒魔法は掛け終わったのだろうか。ヤトが獣人達から離れてこちらに寄って来た。


 獣人達の食事か。当然、提供してやらないとな。


「もちろんだ。なんだか痩せこけていたからな。できるだけ食べさせてやってくれ。そうだ、これが食材だ。ニアにカレーの作り方でも教わってくれ」


 亜空間にしまっていた食材を出す。一応、メーデイアの町で買いこんだからな。しばらくは余裕だろう。


「かれーニャ? 作ったことは無いのですが、簡単にできる物ですかニャ?」


「そういうのは分からん。ニア、この食材だけでカレーとか作れるか?」


 ニアがにんまりと笑った。なんだ?


「仕方ないね! フェルちゃんじゃ出来ないだろうから、私がヤトちゃんと一緒に腕を振るおうかね!」


 ニア、お前もか。


 しかし、ニアはさっき助けたばかりだ。やめさせた方がいいと思って声をかけようとしたら、ロンが割り込んできた。


「お、おい、大丈夫なのか? 隷属魔法が解けて間もないだろう? ヤトちゃんに任せた方がいいんじゃないか?」


「ヤトちゃんは私の弟子だからね。作ったことがない料理はちゃんと教えないと。それにちょっと指示を出すだけだから問題ないよ。さあ、ヤトちゃん、城の厨房で料理を作ろうじゃないか」


「はいニャ!」


 ニアとヤトは城の方に戻って行った。


「お、おい――フェル、すまん、俺もついて行く。ヤトちゃんがいるから大丈夫だとは思うが、心配だからな」


「当然だ。早く行ってやれ」


 ニアは結構元気だな。それに直接ではないがニアも料理に手を出すわけだ。これはカレーが美味しくなる予感がする。楽しみだ。


 三人を見送ったら、ヴァイアが近寄って来た。


「フェルちゃんに術式理論を教えることになったから」


「いきなりなんだ」


 ヴァイアに教わるのか? それは別にいいけど、なんでそんなことになってる。


「うん、皆でフェルちゃんができないことを教えて、優越感に浸ろうって」


「ふざけんな」


「俺は治癒魔法を教えてやるぜ! それとも恋愛道の方がいいか? 言っとくが俺の授業は厳しいぜ?」


「まず、お前の頭に治癒魔法をかけろ。話はそれからだ」


「あ、私は人形の作り方を教えます! 等身大の超大作ですよ……!」


「できないままでいい」


 ニアの話を鵜呑みにした私がバカだった。頼られたいとか照れ隠しなんかない。


 そしてコイツ等はすぐ調子に乗る。もっと毅然とした態度でいるべきだろうか。


 今度はスライムちゃん達がやって来た。さてはコイツ等もだな。だが、私に何を教える気だ?


「分裂する方法を教えます」


「できるか」


 確信した。コイツ等は私をバカにしているんじゃない。私の反応を見て楽しんでいるんだ。周りに味方がいないなら、ユニークスキルで弱体効果をまき散らすぞ?


 まあいい、それはかわいそうだから、食事が来るまで正座させて説教しよう。


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