帝国の反撃
ムンガンとレオール、そして傭兵達を城の地下にあった牢屋に放り込んだ。
牢屋に魔力を抑える腕輪があったのでそれをレオールにつけておいた。これならアダマンタイトとはいえ、それほど脅威じゃないだろう。
そして、別の牢屋には獣人達が隷属の首輪をされて閉じ込められていた。
獣人達は匂いも酷いし、やせ細っている。こんなことをする意味がわからん。
ヴァイアに頼んで獣人達の首輪を外してもらった。獣人達は警戒していたが、ヤトを見ると大人しくなった。というか跪いた。なんだこれ。
「黒猫族の方とお見受けします。この度は助けていただき、ありがとうございました。……そこの者たちは奴隷ですか?」
ヤトから殺気が放たれた。おう、これほどの殺気を出したヤトを初めて見た。
「この方達は私がお世話になっている村の人たちニャ! 次にこの方達を奴隷とか言ったら、お前たちの首をはねるニャ!」
「し、失礼いたしました!」
話を聞くとウゲン共和国では、同じ種族でも色で階級が分かれていて、黒色は最上級らしい。
ヤトは黒猫族。猫族のお偉いさんだと思ったようだ。
「私はヤトというニャ。ウゲン共和国というところから来たわけではないニャ。魔界から来たニャ」
「おお、昔、魔族と共に人族と戦う事を決意された獣人達がいたと聞きましたが、その血筋の方でしたか」
間違ってはいないな。獣人達は保護を求めたけど、一緒に戦いたいと言っていたらしいし。まあ、当時の獣人じゃ魔族についていけなかったから魔界で大人しくしてもらっていたらしいけど。
「そしてこちらにいらっしゃるのが、私の主であるフェル様ニャ」
ヤトが私を主として扱ってくれている。だが、私を雑魚と言ったことは忘れてないぞ。……もしかして、ヤトは私へのルールというのを守っているのか? まあ、それはあとでいいか。まずは獣人達のことだ。
「魔族のフェルだ。言っておくがお前達を解放しに来たわけじゃない。別件で用事があったからついでに助けてやっただけだ。感謝する必要は無いぞ」
「ついででもありがたく思います」
「そうか。だが例え感謝はしなくても守ってもらうことがある。恨みはあるだろうが、人族を襲うな。魔族は人族と友好関係を結ぼうとしている。そのために今回ここに攻め込んでも死者は出していない。解放されたお前達が人族を襲ったら私たちの苦労が無駄になるからな」
「人族と友好的な関係になろうとしているのに、ここへ攻め込んだのですか?」
「そうだ。ここの領主は私が懇意にする村の住人をさらった。だから取り返した。このことは一部の人族に話をしているし、正当な理由があるということで魔族が人族に敵対したという形にはならないはずだ。で、どうだ? 人族を襲わないと誓えるか?」
「それは……いえ、分かりました。将来的な事は分かりませんが、少なくとも国に帰るまでは人族を襲いません。尻尾に誓います」
なんで尻尾、と思っていたらヤトが説明してくれた。獣人というのは尻尾を大事にしている。尻尾に誓うというのは、破ったら尻尾を切るという死よりも辛いことになるらしい。
なるほど、魔族の角に誓う、みたいなものか。なら信用できるだろう。
「わかった。城の外にも獣人達がいるから合流してくれ。さあ、こんな辛気臭い場所からでるぞ。お腹もすいたし、食事にしよう」
ニアは疲れているだろうし調理をさせるのはまだ早いかな。ヤトにやってもらおう。
城の外に出ると、かなり薄暗くなっていた。
魔物達はニアを見ると一斉に駆け寄って来て喜んでいる。家族を取り戻したから嬉しいんだろう。
「皆、私のためにありがとう。聞いたよ、私、いや村の皆を家族だと思ってくれているんだって? 嬉しいことを言ってくれるね。体力が戻ったら皆にご馳走させておくれよ。好きな物を何でも作るからね」
魔物達は大喜びだな。好きな物って私もリクエストできるよな。卵だ。卵しかない。
「フェルちゃん、村にも連絡をしておこうよ。皆、首を長くして待ってると思うよ」
「そうだな。村の奴らもヤキモキしているだろうしな」
ヴァイアから念話用魔道具を渡されたのでディアに念話を送る。
『もしもし、フェルちゃん?』
「ディアか? フェルだが」
『待ってたよ。どんな感じ? ニアさんをさらった奴の町に着いた頃?』
「いや、ニアは助け出した。その連絡なのだが」
返事がない。この魔道具、壊れてないよな?
「おーい、聞こえてるか?」
『早いよ! 戦う前に連絡入れるもんでしょ! なんで終わってるの!』
いや、そんなこと言われても。これから戦うとは言わなかったけど、今日、連絡入れたよな?
『フェルちゃん、空気読めないってよく言われるでしょ? リエルちゃん並みだよ?』
「名誉棄損で訴えるぞ、コラ」
『とりあえず、話は分かったよ。ニアさんや魔物の皆も無事なんだよね? 村の皆に伝えておくから』
「ああ、頼む。じゃあ切るぞ、何かあったら連絡をくれ」
ソドゴラ村への連絡はこれでいいかな。さて、他には何をしよう?
よく考えたらニアを取り返すまでのことしか考えてなかった。誰かに相談してみるか。
リエルは皆の怪我を治しているようだし、ヤトはなんだか獣人達に囲まれているから駄目だな。
ヴァイアとニアとロンは、魔物達にお礼を言っているな。
ルネは……何やってんだ? 念話中?
「ルネ、誰かと話をしているのか?」
「フェル様、ドレア様から総務部経由で念話が届いてます。帝国兵三万でこちらに向かう事になったとか。新型の移送装置を使って四日ほどでここに着くらしいですよ」
「ほう、とうとう私とやり合う気になったか。いいだろう、コテンパンにしてやる」
私に戦いを挑む魔族は最近いなかったからな。腕がなる。
「いや、それがものすごく謝ってます。どうしたら許してくれるのか聞いてほしいって言ってますね」
なんだ。それはそれでつまらないな。
とはいえ、私とは知らずに喧嘩を売っただけだし、人族が相手でも殺そうとしなかったところはポイント高い。止めは人族で刺せ、と言ったのはマイナスだが。
うーん、どうしようかな……。ああ、そうだ、ルハラに来たらやりたい事があったんだ。
「なら、ドレアに伝えろ。ルハラには戦略魔道具というものがあるので、それを持って来い、と。それで不問にしてやるとな」
「はい、わかりました。ドレア様に伝えておきますね」
戦略魔道具をヴァイアに無効化してもらおう。そういうのがあるから皇帝の奴が調子に乗るんだ。
それにしても帝国兵三万か。ルハラにとってはどれくらいの戦力なのだろうか。流石に全兵力で来るとは思わないが、そこそこ多い気がする。ロンに聞いてみるかな。
ニアとロンに近づいた。ちょうどお礼が一通り終わったようで、休憩しているようだ。
「ロン、ちょっといいか? 帝国兵ってどれくらいいるもんなんだ?」
「帝国兵か? そうだな、俺が所属していた頃は、騎士団が四つ、魔法兵団が二つあって、一つ五千人くらいだったな。諜報部隊とか暗殺部隊とかもあったけど、そっちの人数は把握してない」
五千が六つか。……三万だよな?
あの皇帝、もしかして本当に全兵力を投入したのか? いや、それはないか。それほど無能じゃあるまい。でも、結構、皇帝の事をバカにしたからな。頭に血が上っているかもしれない。
面倒な事になったけど、ディーン達がやりやすくなったと思えばいいか。
「フェル? 何かあったのか?」
ロンが心配そうに聞いて来た。ニアもちょっと心配そうにしている。難しい顔をし過ぎたか。
「いや、大したことじゃない。帝都から三万の帝国兵がこちらに向かっているらしい。着くのは四日後らしいがな」
なんだろう、周囲から音が無くなった。
「そうそう、あと知り合いの魔族がそれに混ざっているそうだ。まったく面倒だな。そんな事よりも食事にしよう。お腹がすいた」
皆に怒られた。解せぬ。




