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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第六章

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ロンとニア

 

 城に入って中を進む。まだ夕方になる前なのだが、中は薄暗いな。


 しばらく進んだが、邪魔する奴は誰もいない。人族はいるが兵士も非戦闘員も手をあげて降伏している。


 降伏した奴らに領主がどこにいるかを聞きながら、その場所を目指した。かなり奥の方にある部屋らしい。


「それにしても城にいる奴らは随分と協力的だな? もっと抵抗するかと思ってた」


「ここの領主は結構好き勝手にやってるんだよ。はっきり言えば嫌われてる。最前線の領地だから、本人も武闘派でな、逆らう奴には容赦しない感じだ」


「領主はロンに戦わせるぞ? 勝てるよな?」


「鍛錬は欠かしていなかった。負けるつもりは微塵もないぞ」


 人族として見れば、ロンは強そうな感じはする。相手はどうだろうな。現役だろうし苦戦するのかも。だが、ここで手を出しちゃ駄目だな。ニアを取り返すのにロンが見てただけ、なんてことになったらニアが微妙な感じになるかもしれない。なんとしてもロンに勝ってもらわないと。


 さらに進むと、領主がいるという部屋の前に着いた。かなり重厚な造りの扉だ。


「ここは謁見の間だな。聞いた通りならここにいるはずだ」


「謁見の間? 詳しくは知らないが、そういうのは帝都にしかないんじゃないか?」


 領主でも謁見の間は必要なのかな? 魔界には一つしかないからよく分からん。


「ルハラ帝国は複数の小国が集まってできた国でな。ここはその小国だったころの城だから、一応別の王もいたんだよ。今はほとんど砦みたいな扱いだけどな」


「なるほど……おっと、どうでもいい疑問だったな。よし、開けるぞ」


 扉を開けようとしたが、鍵がかかっているようだ。面倒だな。


 殴ると扉が勢いよく吹っ飛んだ。そして遠慮なく足を踏み入れる。


 かなり長細い部屋だ。部屋の奥に派手な鎧を着た男と、レオールや傭兵達がいた。


 そして、その後ろにニアがドレスを着て立っていた。だが、ニアはこちらを見ることなく、ぼーっとしている。なんだか目に光がない。


 おかしいと思ってニアをよく見ると、首輪が見えた。ニアを隷属させているのか。……そうか。


「くそ! レオール! なぜアイツ等を倒せんのだ! 常勝無敗とは口だけか!」


「これも女神様の試練ですね。安心してください。ここで倒します」


 レオールに叱咤している派手な鎧の男がムンガンという奴だな。


「確認しておく、お前がムンガンだな?」


「魔族が馴れ馴れしく話しかけるな! 虫唾が走る!」


「気が合うな、私もお前と話すと虫唾が走る。だが、そんなことはどうでもいい。お前、ニアに隷属の首輪をつけたな?」


「ふん、料理が美味いから儂の嫁にしてやろうというのに断るからだ! 儂は帝国貴族だぞ! ありがたがるところだろうが!」


 ロンをはじめとして、ヴァイアやリエルからも怒りが伝わってきた。私もそうだ。だが、そんな様子を気にせず、ムンガンは話を続けている。


「お前達、分かっているのだろうな? 私に剣を向けるというなら、ルハラ帝国に剣を向けると同じ事だぞ? ここまでは来れただろうが、ルハラ帝国全てを敵に回して勝てると思っているのか? 引き返すなら不問にしてやってもいいぞ?」


 状況が分かってない奴って滑稽だな。


「そんな心配はしなくていい。すでにルハラの皇帝には喧嘩を売った。ちなみに、いまからお前がニアを返して謝っても許す気はない。ニアに隷属の首輪をつけた時点でお前の運命は決まった」


 ロンはムンガンを殺すだろうか? 殺してほしくはないが、ここはロンの意思を尊重しよう。


「おやおや、もう私に勝ったつもりでいるのですか? 魔物達がいないようなら私にも貴方に勝つチャンスがありますよ?」


 レオールがムンガンの前にでてきた。残っていた傭兵達も武器を構えている。……邪魔だな。


「ここは私がやる。暴れるからお前達はちょっと下がっておけ」


「全員で掛かって来てもいいんですよ?」


「弱い者いじめは好きじゃないんでな。それにちょっとくらいハンデをやらないとかわいそうだろ?」


「【軍団同盟】!」


 レオールがスキルを使い、傭兵達が襲い掛かってきた。沸点が低いな。


 槍で突いて来た傭兵の攻撃をかわして軽く腹に触れた。それだけで勢いよく壁まで吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先で壁にひびが入り、壁が少し崩れ落ちた。


 百鬼夜行を使っている間はこんなものか。普通に殴ったら原型を留めないだろうから力加減に注意しないと。


「な、なんだと?」


「惜しかったな。私がユニークスキルを使えず、怒ってもいなければ、お前にも私を倒すチャンスはあったかもしれん。だが、そのチャンスは万が一にもない」


「ユニークスキル? 私と同じようにお前のスキルは魔物達を強化するだけでは?」


「違う、それはスキルの副効果だ。実際は範囲内の魔物数に比例して私を強化するスキルだ。近くに魔物達がいなければ、何の意味もないスキルになってしまうがな」


 そう言ってからレオールに向かって歩き出した。襲ってくる傭兵は軽く触るだけで吹っ飛んでいく。


「ク、クソが!」


「聖職者がそういう言葉を使うのは良くないな。程度が知れるぞ?」


 どこに持っていたのか、レオールが剣を取り出して切りかかってきた。その剣を左の掌で受けて、素手で握り潰した。そんな剣では今の私を傷つけられん。


 驚いているレオールの頭を右手で掴んだ。アイアンクローだ。


「ぐあぁぁ! は、離せ!」


 レオールは暴れているが振りほどけないようだな。


「スキルを使って魔力を消費してしまった。お前から魔力を貰う。少しは足しになるだろう。【暴飲暴食】」


 ジョゼフィーヌのスキルを借りよう。確か魔力を吸収できるスキルだったはずだ。


「あ……あぁ……め、女神様、お、お許しを……」


 レオールの魔力を吸い尽くした。これでしばらくは動けないだろう。


 魔力が無くなったレオールを床に転がす。そしてロンの方へ振り向いた。


「露払いは終わった。後はロンの出番だぞ」


「ああ……フェル、ありがとうな」


 ロンが鞘から剣を抜く。剣から禍々しいオーラが出てきた。ロンの怒りと連動しているみたいだ。


「そ、その剣は! き、貴様、ロンか!」


「久しぶりだな、ムンガン。かみさんを返してもらうぞ。俺にはもったいないほどの女だが、誰にも渡す気はない」


 ロンが間合いを詰めてムンガンに切りかかる。


 ムンガンは腰から剣を抜いてロンの斬撃を受けた。


 あんな重そうな鎧をつけているのにロンは軽やかだ。いや、普段よりも動きがいいような気がする。鎧か剣にスキルでもついているのかもしれないな。


 何度か剣の打ち合いが続いたが、徐々にロンの攻撃がムンガンに当たってきた。鎧の上からだから効果は少ないだろうが、派手な装飾がはじけ飛んでいる。


「き、貴様、騎士を辞めたくせに、どうして衰えておらん!」


「衰えたさ。だが、かみさんの前で無様な姿をさらせるもんか」


 そう言った瞬間、ロンがムンガンの方に深く踏み込み、剣を下から上に払った。ムンガンの持っていた剣が回転しながら宙を飛ぶ。ロンはさらに踏み込んでムンガンの胴を一閃した。鎧がへこむほどの衝撃。勝負あり、だな。


 ムンガンは腹を抑えながら尻もちをついている。ロンはムンガンの眼前に剣を突き付けた。


「ま、待て、分かった! 私の負けだ! 謝る、このとおりだ! 命だけは助けてくれ!」


 ロンはどうするだろう? 私なら殺すかもしれないが……。


「かみさんの前で誰かの命を取るつもりは無い。まずは隷属の首輪を解除しろ」


 そうか、ニアの前ではそういう事をしたくないんだな。迂闊にもロンが恰好いいと思ってしまった。


「わ、分かった! 解除する!」


 ムンガンはフラフラと立ち上がるとニアに近づいた。しまったな、ちょっと黙って見過ぎたか。コイツの事だからどうせ……。


「くそ! それ以上、近づくな! ニアの命がないぞ!」


 ムンガンがニアの背後に回り、ナイフを取り出してニアの首元に当てた。


「貴様ら、絶対に許さん! ソドゴラ村だったか? 必ず滅ぼしてやるぞ! ルハラ帝国の力を見せてやる! さあ、そこをどけ! ニアを傷つけられたくなかったらな!」


「お前の事だからそう来ると思った。だが、俺が無策でかみさんを危険にさらすわけないだろう?」


「な、なんだと?」


「ヤトちゃん、頼む」


 ムンガンの背後から細い腕が現れる。そしてナイフを持っている腕をつかみ、そのまま握り潰した。鎧の腕部分ごと握りつぶしたようだ。


「ぐあぁああ!」


 ナイフが床に落ちる。そしてムンガンが後方に勢いよく引っ張られて、そのまま床に倒れ込んだ。


「出番がないかと思ったニャ」


 ニアの背後からヤトが出てきた。でも、なんでウェイトレスの服なんだろう? 着替える暇がなかったのかな。


「すまない、ヤトちゃん、助かった」


「お礼がしたいならウェイトレスの時給をあげるニャ。でも、その前にニア様をお返しするニャ。もう、取られちゃ駄目ニャ」


 ヤトがニアをロンの手前に連れて来る。だが、ニアはまだぼーっとしているな。そうか、隷属の首輪か。


「ぐ、ぐぐ、ふはは! その首輪は強力だぞ! 儂以外には外せんし、無理に外せば爆発する! 儂に何かあれば、ニアはずっとその状態だぞ!」


「ヴァイア、現実を教えてやれ」


「う、うん! ニアさん、すぐに解除するよ!」


 ヴァイアがニアに近づき、首輪に触れる。数秒後、ニアの目に光が戻った。


「あ……ああ、頭がはっきりしてきたよ」


 ニアが首を振るとよろめいた。だが、ロンがニアを倒れないように抱きしめたようだ。


「アンタ、若い子たちの前で恥ずかしいじゃないか……痛い、痛いってば、もっと優しく抱きしめるもんだよ?」


「馬鹿な……そんな馬鹿な! くそ!」


 ムンガンが部屋の奥に走り出した。もしかすると逃走用の通路とかあるかもしれないな。


「ヤト、捕まえろ、逃がすな」


「はいニャ!」


 ヤトが影移動してムンガンを捕らえた。そして亜空間からナイフを取り出して、ムンガンに少し傷をつける。直後にムンガンが「が、ががっ」と言って痙攣し始めた。


 おそらく麻痺させるナイフだろう。ヤトは倒れたムンガンを引きずる様に戻って来た。引きずった拍子に頭とかぶつかっているけど、ワザとっぽい。


「ニアがさらわれてから今までご苦労だったな」


「従業員として店主を守るのは当然ニャ。村長の手前、さらわれるのを防げなかった分、護衛を頑張ったニャ」


「ああ、よくやった」


 さて、ロン達はどうなったかな。


「アンタ、鎧が当たって痛いし苦しいよ。もうちょっと手加減しておくれ。はぁ、それにしてもヘルメットをかぶったままなんて分かってないね。キスも出来やしない。早くヘルメットを外しな」


「今、顔を見られるのは困る。そういうのは後にしてくれ」


 照れているのか、恥ずかしいのか、泣いているのか。フルフェイスのヘルメットだから分からなんな。


「おう、二人とも俺が笑顔でいるうちに離れろ。見せつけるなら怪我を治してやらねぇぞ? くそ、俺もいい男が欲しい!」


「ヤト、アイツを黙らせろ。空気が読めてない」


「なんで連れて来たニャ……」


「わ、私もノストさんと、い、いつかこんな関係に!」


 なんでヴァイアは意思表明しているんだろう。頑張っては欲しいけど。


 結構な時間、ロンはニアを抱きしめているが、流石に長すぎる。目のやり場に困るし、こっちは疲れているんだけど。


「ロン、いい加減にしろ、外で待っている奴らもいるんだ。とっとと出るぞ」


「あ、ああ、そうだな、すまん」


「そういうのは二人だけの時に思う存分してくれ」


 ロンは慌てて、ニアは顔が赤くなった。いい大人が照れんな。こっちが照れるだろうが。


「フェルちゃん、それに皆、ありがとう。フェルちゃんが帰ってきたら助けにきてくれるって信じてたよ」


 ニアが私達に対して頭を下げた。


「気にするな。ソドゴラ村にニアがいないと寂しいと思っただけだ。ニアのためじゃなくて、自分のために来たんだから礼なんていらない。どうしてもというなら美味い物を食わせてくれ。それでチャラだ」


「ああ、もちろん。私にはそれしかないからね!」


 そんなことは無いと思うが、まあいいか。


 まだまだ面倒な事はありそうだけど、とりあえずニアは取り戻した。ちょっとは肩の荷が下りたな。


 さあ、魔物達にも報告してやろう。


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