ロンとニア
城に入って中を進む。まだ夕方になる前なのだが、中は薄暗いな。
しばらく進んだが、邪魔する奴は誰もいない。人族はいるが兵士も非戦闘員も手をあげて降伏している。
降伏した奴らに領主がどこにいるかを聞きながら、その場所を目指した。かなり奥の方にある部屋らしい。
「それにしても城にいる奴らは随分と協力的だな? もっと抵抗するかと思ってた」
「ここの領主は結構好き勝手にやってるんだよ。はっきり言えば嫌われてる。最前線の領地だから、本人も武闘派でな、逆らう奴には容赦しない感じだ」
「領主はロンに戦わせるぞ? 勝てるよな?」
「鍛錬は欠かしていなかった。負けるつもりは微塵もないぞ」
人族として見れば、ロンは強そうな感じはする。相手はどうだろうな。現役だろうし苦戦するのかも。だが、ここで手を出しちゃ駄目だな。ニアを取り返すのにロンが見てただけ、なんてことになったらニアが微妙な感じになるかもしれない。なんとしてもロンに勝ってもらわないと。
さらに進むと、領主がいるという部屋の前に着いた。かなり重厚な造りの扉だ。
「ここは謁見の間だな。聞いた通りならここにいるはずだ」
「謁見の間? 詳しくは知らないが、そういうのは帝都にしかないんじゃないか?」
領主でも謁見の間は必要なのかな? 魔界には一つしかないからよく分からん。
「ルハラ帝国は複数の小国が集まってできた国でな。ここはその小国だったころの城だから、一応別の王もいたんだよ。今はほとんど砦みたいな扱いだけどな」
「なるほど……おっと、どうでもいい疑問だったな。よし、開けるぞ」
扉を開けようとしたが、鍵がかかっているようだ。面倒だな。
殴ると扉が勢いよく吹っ飛んだ。そして遠慮なく足を踏み入れる。
かなり長細い部屋だ。部屋の奥に派手な鎧を着た男と、レオールや傭兵達がいた。
そして、その後ろにニアがドレスを着て立っていた。だが、ニアはこちらを見ることなく、ぼーっとしている。なんだか目に光がない。
おかしいと思ってニアをよく見ると、首輪が見えた。ニアを隷属させているのか。……そうか。
「くそ! レオール! なぜアイツ等を倒せんのだ! 常勝無敗とは口だけか!」
「これも女神様の試練ですね。安心してください。ここで倒します」
レオールに叱咤している派手な鎧の男がムンガンという奴だな。
「確認しておく、お前がムンガンだな?」
「魔族が馴れ馴れしく話しかけるな! 虫唾が走る!」
「気が合うな、私もお前と話すと虫唾が走る。だが、そんなことはどうでもいい。お前、ニアに隷属の首輪をつけたな?」
「ふん、料理が美味いから儂の嫁にしてやろうというのに断るからだ! 儂は帝国貴族だぞ! ありがたがるところだろうが!」
ロンをはじめとして、ヴァイアやリエルからも怒りが伝わってきた。私もそうだ。だが、そんな様子を気にせず、ムンガンは話を続けている。
「お前達、分かっているのだろうな? 私に剣を向けるというなら、ルハラ帝国に剣を向けると同じ事だぞ? ここまでは来れただろうが、ルハラ帝国全てを敵に回して勝てると思っているのか? 引き返すなら不問にしてやってもいいぞ?」
状況が分かってない奴って滑稽だな。
「そんな心配はしなくていい。すでにルハラの皇帝には喧嘩を売った。ちなみに、いまからお前がニアを返して謝っても許す気はない。ニアに隷属の首輪をつけた時点でお前の運命は決まった」
ロンはムンガンを殺すだろうか? 殺してほしくはないが、ここはロンの意思を尊重しよう。
「おやおや、もう私に勝ったつもりでいるのですか? 魔物達がいないようなら私にも貴方に勝つチャンスがありますよ?」
レオールがムンガンの前にでてきた。残っていた傭兵達も武器を構えている。……邪魔だな。
「ここは私がやる。暴れるからお前達はちょっと下がっておけ」
「全員で掛かって来てもいいんですよ?」
「弱い者いじめは好きじゃないんでな。それにちょっとくらいハンデをやらないとかわいそうだろ?」
「【軍団同盟】!」
レオールがスキルを使い、傭兵達が襲い掛かってきた。沸点が低いな。
槍で突いて来た傭兵の攻撃をかわして軽く腹に触れた。それだけで勢いよく壁まで吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先で壁にひびが入り、壁が少し崩れ落ちた。
百鬼夜行を使っている間はこんなものか。普通に殴ったら原型を留めないだろうから力加減に注意しないと。
「な、なんだと?」
「惜しかったな。私がユニークスキルを使えず、怒ってもいなければ、お前にも私を倒すチャンスはあったかもしれん。だが、そのチャンスは万が一にもない」
「ユニークスキル? 私と同じようにお前のスキルは魔物達を強化するだけでは?」
「違う、それはスキルの副効果だ。実際は範囲内の魔物数に比例して私を強化するスキルだ。近くに魔物達がいなければ、何の意味もないスキルになってしまうがな」
そう言ってからレオールに向かって歩き出した。襲ってくる傭兵は軽く触るだけで吹っ飛んでいく。
「ク、クソが!」
「聖職者がそういう言葉を使うのは良くないな。程度が知れるぞ?」
どこに持っていたのか、レオールが剣を取り出して切りかかってきた。その剣を左の掌で受けて、素手で握り潰した。そんな剣では今の私を傷つけられん。
驚いているレオールの頭を右手で掴んだ。アイアンクローだ。
「ぐあぁぁ! は、離せ!」
レオールは暴れているが振りほどけないようだな。
「スキルを使って魔力を消費してしまった。お前から魔力を貰う。少しは足しになるだろう。【暴飲暴食】」
ジョゼフィーヌのスキルを借りよう。確か魔力を吸収できるスキルだったはずだ。
「あ……あぁ……め、女神様、お、お許しを……」
レオールの魔力を吸い尽くした。これでしばらくは動けないだろう。
魔力が無くなったレオールを床に転がす。そしてロンの方へ振り向いた。
「露払いは終わった。後はロンの出番だぞ」
「ああ……フェル、ありがとうな」
ロンが鞘から剣を抜く。剣から禍々しいオーラが出てきた。ロンの怒りと連動しているみたいだ。
「そ、その剣は! き、貴様、ロンか!」
「久しぶりだな、ムンガン。かみさんを返してもらうぞ。俺にはもったいないほどの女だが、誰にも渡す気はない」
ロンが間合いを詰めてムンガンに切りかかる。
ムンガンは腰から剣を抜いてロンの斬撃を受けた。
あんな重そうな鎧をつけているのにロンは軽やかだ。いや、普段よりも動きがいいような気がする。鎧か剣にスキルでもついているのかもしれないな。
何度か剣の打ち合いが続いたが、徐々にロンの攻撃がムンガンに当たってきた。鎧の上からだから効果は少ないだろうが、派手な装飾がはじけ飛んでいる。
「き、貴様、騎士を辞めたくせに、どうして衰えておらん!」
「衰えたさ。だが、かみさんの前で無様な姿をさらせるもんか」
そう言った瞬間、ロンがムンガンの方に深く踏み込み、剣を下から上に払った。ムンガンの持っていた剣が回転しながら宙を飛ぶ。ロンはさらに踏み込んでムンガンの胴を一閃した。鎧がへこむほどの衝撃。勝負あり、だな。
ムンガンは腹を抑えながら尻もちをついている。ロンはムンガンの眼前に剣を突き付けた。
「ま、待て、分かった! 私の負けだ! 謝る、このとおりだ! 命だけは助けてくれ!」
ロンはどうするだろう? 私なら殺すかもしれないが……。
「かみさんの前で誰かの命を取るつもりは無い。まずは隷属の首輪を解除しろ」
そうか、ニアの前ではそういう事をしたくないんだな。迂闊にもロンが恰好いいと思ってしまった。
「わ、分かった! 解除する!」
ムンガンはフラフラと立ち上がるとニアに近づいた。しまったな、ちょっと黙って見過ぎたか。コイツの事だからどうせ……。
「くそ! それ以上、近づくな! ニアの命がないぞ!」
ムンガンがニアの背後に回り、ナイフを取り出してニアの首元に当てた。
「貴様ら、絶対に許さん! ソドゴラ村だったか? 必ず滅ぼしてやるぞ! ルハラ帝国の力を見せてやる! さあ、そこをどけ! ニアを傷つけられたくなかったらな!」
「お前の事だからそう来ると思った。だが、俺が無策でかみさんを危険にさらすわけないだろう?」
「な、なんだと?」
「ヤトちゃん、頼む」
ムンガンの背後から細い腕が現れる。そしてナイフを持っている腕をつかみ、そのまま握り潰した。鎧の腕部分ごと握りつぶしたようだ。
「ぐあぁああ!」
ナイフが床に落ちる。そしてムンガンが後方に勢いよく引っ張られて、そのまま床に倒れ込んだ。
「出番がないかと思ったニャ」
ニアの背後からヤトが出てきた。でも、なんでウェイトレスの服なんだろう? 着替える暇がなかったのかな。
「すまない、ヤトちゃん、助かった」
「お礼がしたいならウェイトレスの時給をあげるニャ。でも、その前にニア様をお返しするニャ。もう、取られちゃ駄目ニャ」
ヤトがニアをロンの手前に連れて来る。だが、ニアはまだぼーっとしているな。そうか、隷属の首輪か。
「ぐ、ぐぐ、ふはは! その首輪は強力だぞ! 儂以外には外せんし、無理に外せば爆発する! 儂に何かあれば、ニアはずっとその状態だぞ!」
「ヴァイア、現実を教えてやれ」
「う、うん! ニアさん、すぐに解除するよ!」
ヴァイアがニアに近づき、首輪に触れる。数秒後、ニアの目に光が戻った。
「あ……ああ、頭がはっきりしてきたよ」
ニアが首を振るとよろめいた。だが、ロンがニアを倒れないように抱きしめたようだ。
「アンタ、若い子たちの前で恥ずかしいじゃないか……痛い、痛いってば、もっと優しく抱きしめるもんだよ?」
「馬鹿な……そんな馬鹿な! くそ!」
ムンガンが部屋の奥に走り出した。もしかすると逃走用の通路とかあるかもしれないな。
「ヤト、捕まえろ、逃がすな」
「はいニャ!」
ヤトが影移動してムンガンを捕らえた。そして亜空間からナイフを取り出して、ムンガンに少し傷をつける。直後にムンガンが「が、ががっ」と言って痙攣し始めた。
おそらく麻痺させるナイフだろう。ヤトは倒れたムンガンを引きずる様に戻って来た。引きずった拍子に頭とかぶつかっているけど、ワザとっぽい。
「ニアがさらわれてから今までご苦労だったな」
「従業員として店主を守るのは当然ニャ。村長の手前、さらわれるのを防げなかった分、護衛を頑張ったニャ」
「ああ、よくやった」
さて、ロン達はどうなったかな。
「アンタ、鎧が当たって痛いし苦しいよ。もうちょっと手加減しておくれ。はぁ、それにしてもヘルメットをかぶったままなんて分かってないね。キスも出来やしない。早くヘルメットを外しな」
「今、顔を見られるのは困る。そういうのは後にしてくれ」
照れているのか、恥ずかしいのか、泣いているのか。フルフェイスのヘルメットだから分からなんな。
「おう、二人とも俺が笑顔でいるうちに離れろ。見せつけるなら怪我を治してやらねぇぞ? くそ、俺もいい男が欲しい!」
「ヤト、アイツを黙らせろ。空気が読めてない」
「なんで連れて来たニャ……」
「わ、私もノストさんと、い、いつかこんな関係に!」
なんでヴァイアは意思表明しているんだろう。頑張っては欲しいけど。
結構な時間、ロンはニアを抱きしめているが、流石に長すぎる。目のやり場に困るし、こっちは疲れているんだけど。
「ロン、いい加減にしろ、外で待っている奴らもいるんだ。とっとと出るぞ」
「あ、ああ、そうだな、すまん」
「そういうのは二人だけの時に思う存分してくれ」
ロンは慌てて、ニアは顔が赤くなった。いい大人が照れんな。こっちが照れるだろうが。
「フェルちゃん、それに皆、ありがとう。フェルちゃんが帰ってきたら助けにきてくれるって信じてたよ」
ニアが私達に対して頭を下げた。
「気にするな。ソドゴラ村にニアがいないと寂しいと思っただけだ。ニアのためじゃなくて、自分のために来たんだから礼なんていらない。どうしてもというなら美味い物を食わせてくれ。それでチャラだ」
「ああ、もちろん。私にはそれしかないからね!」
そんなことは無いと思うが、まあいいか。
まだまだ面倒な事はありそうだけど、とりあえずニアは取り戻した。ちょっとは肩の荷が下りたな。
さあ、魔物達にも報告してやろう。




