町での戦い
遠いから良く見えないが、町の方は大混乱になっているようだ。ここにいてもかすかに悲鳴が聞こえる。
いきなり壁が崩れたもんな。そりゃ驚く。というか死んだ奴はいないよな? 私がやったわけじゃないけど死人は出したくない。
そしてこちらも大混乱だ。いや、どちらかというと、みんな沈黙している。そして魔物達のヴァイアを見る目が化け物を見ている目になっていた。私もあんな目で見られた経験があるから分かる。
「さあ、皆行こう! ニアさんを助けないと!」
ヴァイアは興奮気味なのか、そんな視線をまったく気にしないし、ものすごいやる気だ。
その声で意識を取り戻したのか、狼達が遠吠えをあげた。
「また二番手なのは気にいらぬが致し方あるまい。先に行くぞ」
大狼が走り出し、狼達がそれに続いた。先陣を切るタイプだな。突撃隊長にしよう。
「こちらも負けてはいられませんね。ドッペル隊、行きますよ? 狼達より貢献できることを証明しましょう」
ドッペルゲンガー達がそれぞれ動きの速い魔物に変化した。鳥や狼、馬なんかもいるな。人型から変化しても普通に動けるのがすごい。
「アラクネは行かなくていいのか?」
なんだか放心状態で座っているけど、どうしたのだろう? シルキーやバンシーが介抱している感じだけど。
「ヴァイア様の魔法を見て、腰が抜けたクモ。もうすこし休んだら行くクモ」
そういえば、アラクネはヴァイアの服をひん剥いてひどい目にあったとか聞いた気がする。トラウマか。というかクモ部分はどの辺が腰なんだ?
それと介抱しているシルキーやバンシーもちょっと怯えている感じだ。戦闘力が低いから周りの魔物について行けない感じになってしまったのかな。
「カブトムシは行かなくていいのか?」
「私は皆さんをゴンドラで運びます。狼達が先に行ってしまったので、私が運ぶしかないでしょう。今回は皆に譲りますよ」
今回は、とか言ってるけど、そう何度もないぞ。二度と手を出せないように徹底的に叩くし。
「ではフェル様、私達も行ってまいります」
オーク達がコカトリスに跨って槍を構え、騎士のようになっている。コカトリスライダーなのだろうか。
「ああ、行ってこい。あ、コカトリスに言っておくが、石化は駄目だぞ。石化すると壊れやすいから死にやすいし、石化は治すのが面倒だからな。あと毒も禁止」
コカトリスが残念そうな顔でこちらを見ているが許可するつもりはない。リエルの負担も考えないといけないからな。魔力を回復するお酒はないから、大事な時に魔力切れとかは困る。エリクサーはあるけど、これは超非常用だ。
「では我々も」
ミノタウロス達が斧を携えて走り出した。意外と速い。二メートルを超える巨体が高速で走ってきたら怖いな。斧なんか使わずに体当たりだけで致命傷な気がするけど。
「フェル様、私達も行きます」
ジョゼフィーヌ達が出撃するようだ。多分、一番屈辱を感じていたのはジョゼフィーヌ達だろう。私の命令やアンリのお願いが無かったら真っ先に飛び出していったはずだ。コイツらは仲間や家族を守る気持ちが強いからな。
だからこそ釘を刺しておかないと。
「やり過ぎるなよ。他の魔物達にストレスを解消させる機会を与えてやれ。お前達が暴れると、全てが無になる可能性があるからな」
「心得ております。行くぞ、お前達」
ジョゼフィーヌの声に他のスライムちゃん達が頷く。
スライムちゃん達は幼女の体を変形させて、クロスボウのような形になった。なにしてんの?
……飛んだ。自分の体を使って矢のように飛び出したよ。土台となっているクロスボウの部分も飛んだ先端に引っ張られるような感じで飛んで行った。そんなこと出来るんだな。
「なんだかすごいことになっているな」
ロンが先行した魔物達をみながらそんなことを言った。
「ヴァイアの魔法を見て発奮したんだろう。あれくらいやってもいいんだ、とか思わないでほしいんだが。というかヴァイア、やり過ぎだ。壁をちょっと崩すぐらいで良かったのになんで壁を全部壊すんだよ」
「う、うん、ちょっと張り切っちゃった。練習の成果も見せたかったし」
壁ドンのことか。本来の意味とは全く違うけど、意味はあった、と思いたい。
そんなことより、おかげで私が門を破る必要が無くなってしまった。出番がないって寂しい。
まあ、私が何もしないで終わるならその方がいいけど。目の前でさらわれた奴らがやり返した方が一番いいだろう。
「よし、とりあえず、私達も向かおう。着いた頃に終わっているかもしれないけどな」
アラクネ以外の全員がゴンドラに乗った。カブトムシがそのゴンドラを引っ張って町の方に移動し始める。アラクネは腰が治ったのか徒歩で付いてきた。
町の方では戦闘が開始されたようだ。
遠くが見える魔道具で町の方を見ると、壁のがれきで周囲の堀が埋まっていた。町の東側がまったく城塞として機能していない。
まあ、魔物達も壁くらい飛び越えられるし飛べるのもいるからな。もともと意味はあまりなかったんだけど、壁からバリスタとか弓で射られる心配がなくなったのはありがたい。
町の中なら壊れていない壁からバリスタや弓は使えないだろう。味方の帝国兵に当たる可能性の方が高いからな。
あの町、すでに詰んでいるような気がする。
数分で町に着いた。カブトムシは皆に譲るとか言ってたけど、本当は戦いたかったのかな。ものすごく参加したそう。
「カブトムシさん、行って来ていいよ。ゴンドラは私が亜空間に回収しておくね」
ヴァイアがゴンドラを亜空間にしまいながら、カブトムシに許可を出す。
カブトムシは喜んで飛んで行った。壁の上の方を目指したから、バリスタを破壊する気なんだろう。
「ルネ、状況はどんな感じだ?」
人形庭園のスキルを使って町全体を監視しているルネに問いかける。戦いは情報戦だから確認しておかないと。
「ええと、ルハラの兵士たちは、ほとんど無力化されてます。狼の咆哮とかキラービーの麻痺針なんかで動けなくなってますね。動ける兵士もあの城っぽい場所に逃げ込もうとしています」
「死んだ奴とかはいないよな?」
「いませんね。壁が崩れたせいで怪我をしている人は結構いますけど、致命傷にはなってないです」
ヴァイアの方を見たら顔を背けられた。多少は罪悪感があったのかな。
「アラクネ、バンシー、シルキー。怪我で動けない奴をアラクネの糸で縛っておけ。リエル、その状態で怪我を治してやってくれないか」
全員が頷いて、私が言ったことに取り掛かってくれた。怪我している奴らを放っておいて死んだら困るしな。
「フェル様、城の中から暁の傭兵団が出てきました。城の前にある跳ね橋に陣取っています。数は百程度です。目立つ奴が一人いますね。あれが傭兵団のトップ、アダマンタイトの冒険者でしょうか」
「百? 五百ではなくてか?」
「そうですね、そんなにはいません」
キラービーの報告では傭兵は五百程度だった。なら四百は温存かな。最大戦力で戦う方が勝ち目はあると思うが、もしかしたら威力偵察かな。
「あ!」
「どうした?」
「驚きました。ジョゼフィーヌ達が吹っ飛びましたね。死ぬことは無いと思いますが、かなり飛ばされました。南側の壁を越えていきましたよ」
「はぁ? なにが起きたか分かるか?」
アイツらがふっ飛ばされるなんて相当だぞ。やったのは傭兵団の奴らだと思うが何をしたのだろう?
「おそらく魔法を重ねて威力をあげましたね。でも百人全員が同じタイミングで魔法を使えますかね? 見てた限りでは寸分の狂いもなく発動させてましたけど」
エルフ達が似たようなことをやっていたけど人数は少なかった。コイツらは練習した、という訳ではないだろうな。多分、ユニークスキルを使っているのだろう。思考を同調させるとか、そんな感じの軍団系スキルだと思う。私と同じタイプだな。
「傭兵達は城の入り口で固まってますね。追撃はしてこないみたいです」
城に入って入り口を守り、増援を待つ気かな? でもこっちは空を飛べる奴らがいる。城の正面から入る必要は無いんだよな。
……いや、何を考えてる。そんなせこい真似ができるか。正面から堂々と入ってニアを救い出さないと。
とりあえず、城の外の奴らを無効化して、ジョゼフィーヌ達の帰りを待とう。
そうしたら全員で突撃だ。城に入るくらいで時間をかけるわけにはいかない。
町の方は制圧し終わった。後は城だけだ。
城の入り口前は跳ね橋になっている。その橋の上でジョゼフィーヌ達はふっ飛ばされた。傭兵達は橋の奥に陣取っていて、通る奴に攻撃するようだな。
しばらくすると、橋の前に全員が集まった。傭兵団と正面からにらみ合う形になる。
「ジョゼフィーヌ、ここから外まで飛ばされたようだが、大丈夫か?」
「問題ありません。油断していたわけではないのですが、思ったより威力が高く、踏ん張れませんでした。恥ずかしい限りです」
「そうか、無事ならいい。では改めて全員で行くぞ」
「待て」
大狼が私の前に出てきた。もしかすると他にいい案があるのだろうか。
「アイツらの魔法は強い。ジョゼフィーヌ達だからふっ飛んだ程度で済んだが、他の者達ならあの魔法で細切れになるだろう」
「そうか、なら私の――」
「我が行こう。フェルが何をするか知らんが、お前の力は温存しておけ」
「大丈夫なのか? お前だって魔法を食らったらタダじゃ済まないと思うぞ?」
「誰に言っている。我もそろそろ本気を出しておきたいのだ。暴れ足りん」
大狼はやる気だ。これは止めたら怒るだろうな。
「わかった。任せる。だが、アンリの命令を覚えているな? 危なくなったら引けよ?」
「当然だ。ジョゼフィーヌには効かなかったが、本来であれば我に触ることなど出来んのだ。【黄昏領域】」
大狼がうっすらと消えていった。そういえば、そんなスキルを持っていたっけ。どういうスキルかしらないけど、時と空間を操るスキルだとか言ってたな。これなら魔法を当てることも出来ないという事か。
数秒経つと、橋の上で傭兵達が吹き飛ばされた。
見えないけどおそらく大狼が襲っているのだろう。傭兵達はところ構わず魔法を撃っている。
あ、一人逃げた。アイツがアダマンタイトの奴だな。私に矢を放った奴と同じだ。よし、覚えたぞ。
大狼は追わなかったな。橋の上にいる傭兵を倒すことに専念したようだ。
傭兵が全員倒れると、大狼は姿を現した。
そこに皆で近づくと大狼はドヤ顔していた。まあいいけど。
「まだまだ暴れたりないが、これ以上はお前たちの獲物を取ってしまうからな。この辺で止めておいてやる」
「良くやってくれた」
ヤトもそうなんだけど、尻尾がある奴らって感情を隠せないのかな。尻尾がすごく揺れてる。
まあいいか。傭兵達はまだいるし気を抜いている場合じゃない。
「ロン、この先はどうなっている?」
「この先は広場がある。相手が戦いやすいようになっているから迎え撃つならそこのはずだ。皆なら大丈夫だとは思うが注意したほうがいい」
「間違いないです。傭兵達が広場のいたるところに待機しています」
ルネの目でそう見えているなら間違いないな。
「そうか。ならそこで傭兵達とは決着をつける。村で受けた屈辱はそこで晴らせ」
魔物達の目つきが変わった。これなら私のスキルはいらないかもな。
「よし、行くぞ」




