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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第六章

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気の緩み

 

 メーデイアの町を出て数時間がたった。地平線に沈みそうな夕日がまぶしい。


 風よけのために薄い水が周囲を覆っているが、水が透明だから日の光が直接届く。この間みたいに水に色を付けてほしかった。


 それはともかく、どれくらいでリーンに着くだろうか。今日の夜ぐらいにはリーンについてほしいが。


 リーンでカブトムシに乗り替えて、そのままソドゴラ村に行けば明日の朝には着けるかもしれない。カブトムシには無理をさせてしまうが、夜通し飛んでもらおう。一刻も早く村に戻らないと。


「ねぇ、フェルちゃん」


 私の前に乗っているスザンナがこちらを見た。


「前を見ていないと危ないだろう? 前方不注意だぞ?」


 この水のワイバーンはスザンナが操縦してるんだから、よそ見をしないで欲しい。


「大丈夫。今は自動操縦。何かにぶつかったりはしない」


「そうなのか? ゴーレムみたいな状態なんだな。で? 何か用か?」


「顔が怖い」


「なんだとコラ」


「本当に怖い。怒ってるの?」


 怒ってる? そうだな、私は怒ってる。自分の迂闊さに。


 メノウ達を助けにメーデイアへ行ったことに悔いはない。ニアが自分からついて行ったのも、なんとなく理由は分かる。従魔達も村長やアンリからお願いされたら動けないのも仕方ないだろう。これらの事には何の問題もない。


 問題は、なんで私は村が大変な時にいなかったか、という事だ。私がいればニアを連れ去られることなんてなかったはずだ。


 ……情けない。魔眼の使い過ぎで倒れたし、呪病も治ったと思って放置していた。これがソドゴラ村にいなかった理由だ。


 人界に来てからは命の危険はなく、美味い物を食べてばかりだったから気が緩んでいたんだろう。魔界なら些細なミスで命を落とす。それは子供のころから頭に叩き込まれていることだ。


 ミスで私だけが死ぬならそれでもいい。だが、私のミスでニアやヴァイア、ロンの誰かが死んでいたら?


 もし、そんなことになっていたら、私は自分が許せない。そしてそんなことをした奴らを――。


「おい、フェル」


 後ろにいるリエルに名前を呼ばれて気づいた。どうやら考え込んでしまっていたようだ。


「どうした? すまないが怖くてもリーンまで空を飛ぶぞ?」


「そうじゃねぇよ。スザンナが怖い顔してるって言ったろ? フェルの事だから、今回の件、自分の責任だとか思ってんだろ?」


 不覚にもリエルにも言い当てられた。


「どう考えてもフェルのせいじゃねぇから気にすんな」


「そうは言っても、私がソドゴラ村にいれば何とかなったはず――」


「一生、村から出ないつもりかよ? それに村で起きることがすべてフェルの責任か?」


「そこまで思っているわけではないが、なんとかできた可能性があるならそれは私の責任だろう?」


「そんなわけあるか。話を聞いた限りだとこれはニアの問題だし、村の防衛の問題かもしれねぇ。それに魔物達にだって問題があるんじゃねぇのか? だいたい、なんとかできた可能性だけだったら俺にだってあるぜ? そんな事を全部ひっくるめてフェルが解決しなきゃいけない理由はねぇよ。だから責任もねぇ」


 そう言われるとそんな気がしないでもないが、極論過ぎる。……もしかして気を使われているのだろうか。


「フェル、起きちまったことは仕方ねぇ。だから責任どうこうよりも、これからの事をしっかり考えようぜ? ニアを取り戻しに行くんだろ?」


 リエルの言うことはもっともだ。これからの事を考えないと。


「そうだな、リエルの言うとおりだ。礼を言おう」


「いらねぇよ。こんなことで礼なんか言われたら背中が痒くなっちまう。そうだ、礼っていうなら、ニアにさせようぜ。とっととニアを取り戻して美味いものを作らせよう!」


「そうだな。それはいい案だ」


 礼の言葉よりもニアの料理だ。取り戻す理由が増えたな。


 よし、今後の予定に関して相談してみるか。


「村に戻ったらルハラの貴族に喧嘩を売るつもりだ。だが、人族との対立は避けたい。どうすればいいと思う?」


「そうだなぁ、状況が分からねぇが、ルハラの貴族が一方的にニアをさらったんだろ? なら、関係のない第三者に、村が被害者で貴族が加害者ってことを知って貰わないとな。普通にルハラに喧嘩売ったらタダの戦争になっちまう」


「なら私が冒険者ギルドに連絡しようか?」


 スザンナが手をあげてそんなことを言った。冒険者ギルド? 連絡すると何かあるのだろうか?


「冒険者ギルドに連絡してどうするんだ?」


「飛んでる時に状況を聞いたけど、アダマンタイトの冒険者が絡んでるんでしょ? 人をさらうような事に加担してはいけないはずだから、なにかペナルティがあるかも。私もアダマンタイトだし、村の人がさらわれたことを結構偉い人に報告できるよ」


「なるほど。スザンナもアダマンタイトだったな。じゃあ、お願いできるか? ペナルティはどうでもいいから、村の奴をさらったから、取り返すための戦いを仕掛けると言ってくれればいい」


「わかった。村に冒険者ギルドはあるよね? そこからなら念話を使えるから着いたらやる」


 アダマンタイトのスザンナからなら情報のもみ消しとかはないよな。グランドマスターは私を殺そうとしているから怪しいもんだが、やらないよりはマシだろう。


「そういう事なら俺も聖女として女神教から声明を出してやるぜ」


「大丈夫なのか? 色々と足がつくと思うぞ? 聖都に連れ戻される可能性が増えるんじゃないか?」


「おいおい、村には最高の護衛がいるだろ? 女神教徒たちが来ても守って貰えばいいんだよ」


 もしかして私の事か? なら期待に応えてやらないとな。


「わかった。そういう事なら護衛を引き受けよう」


 よし、これで冒険者ギルドと女神教には情報が渡るだろう。少なくともソドゴラ村とルハラ貴族との対立という形を広めることができる。実働部隊に魔族がいるけど、これなら魔族や魔物への当たりは少ないかも知れない。


「あ、フェル様。ならメノウっちのファンクラブに会報を出してもらってはどうですかね? 色々な国にいるから影響は大きいと思いますよ?」


「そうなのか? ならやってもらった方がいいのか。でも、メノウに連絡がとれるのか?」


 急いで町を離れたからメノウのチャンネルを知らない。私はメノウに念話することができないが。


「メノウっちのチャンネルは確認済みです。あとでフェル様に教えておいてくださいと言われてました。そうそう、メイドギルドのステアっち……ステアさんも知ってます。あ、メイドギルドにも情報を展開した方がいいかもしれませんね」


 なんでステアのことを言い直した? まあいいけど、私が寝ている間に色々動いてくれたんだな。それにメイドギルドか。なるほど、それなら効果的かもしれない。


「よし、なら後で連絡しよう。チャンネルを教えてくれ。そうだ、リエルも教えてくれ。こっちから連絡できないと色々面倒くさい」


「いや、俺、自分のチャンネルって言うのは知らねぇんだ」


 そうか。そもそも念話を使わない奴は自分のチャンネルを知らないとか聞いたことがある。魔族にも何人かいるしな。


 魔眼で見れば分かるだろうけど、今は使わない方がいいな。後で調べよう。


「分かった。後で調べる。じゃあ、メノウとステアのチャンネルを教えてくれ」


 ルネから二人のチャンネルを聞いた。村に着いたら連絡しよう。


「私のも教える」


「スザンナのチャンネルか? そうだな、教わろうか。……そう言えば、スザンナと敵対していた時、私に念話を送って来たな? どうやって私のチャンネルを知った?」


「私は水を使って対象の情報を少しだけ調べられる。フェルちゃんを雨でずぶ濡れにしたから情報を取れた。遠隔での位置情報とかもそれで確認した」


 スザンナは得意げな顔をしている。褒められたいのだろうか。


「そうか、水をそういう使い方もできるなんてスザンナはすごいな」


 今度は照れてる。年相応というかなんというか。


「すげぇもんだな」


「スーちゃん、やりますね!」


 リエルやルネもスザンナを褒めだした。褒め殺しだ。今度はスザンナの顔が真っ赤になった。リンゴか。


「皆、私を褒めてくれるいい人。私もその村に住もうかな」


「魔物や獣人と仲良くできるならいいんじゃないか?」


 ソドゴラ村には結構魔物がいる。獣人はヤトだけだが。


「フェルちゃんの部下なんでしょ? なら大丈夫」


「そうか。人族で同い年の奴はいないが、五歳ぐらいの女の子がいるから遊んでやってくれ」


「うん。遊ぶ。私がお姉ちゃん」


 なんだかすごくやる気だ。村長には話してないけど、大丈夫かな?


 やる気になっているスザンナのチャンネルを教えてもらった。使うか分からないけど一応控えておこう。


「あ、リーンの町が見えたよ」


 スザンナの指す方向を見ると町があった。日が落ちる寸前だ。かなり早く着いたな。


 よし、カブトムシを待って乗り替よう。


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