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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第五章

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魔族の強さ

 

 坑道を出た頃にはすでに三時ぐらいだった。なんという事だ。昼食をとってない。


 急いで宿に戻り、食堂を借りる。


 周囲には誰もおらず、ちょっと離れたカウンターにドワーフのおっさんがいるだけだ。あそこからは私の方は見れまい。ならマスクを着けずに食べよう。


 パンに付けるジャムはブルーベリーが一番うまいかな。リンゴも捨てがたいが、リンゴはあれだけで完成している。パンに付けなくてもうまい。パンとの相乗効果が得られるのはブルーベリーが一番だと思う。


 そういえば昨日のチーズもうまかった。チーズとレタスと何かをパンに挟んだらいっぱしの料理ではないだろうか。サンドイッチぐらいなら私でも作れる可能性がある。今度試してみよう。


「今日もそこそこ早いんじゃな?」


 いつの間にかドワーフのおっさんが近くにいた。顔を見られてないよな? もう少し警戒するべきだったか。


「そうだな。だが、今日は大変だった。アダマンタイトの冒険者に絡まれたからな。倒すのに手間取ったから、こんな時間の昼食になってしまった」


 食事は決まった時間に食べないと。一生に食べられる食事の回数は決まっているんだ。もし減ったらどうする。


「アダマンタイトの冒険者に絡まれた? というか倒したのか? 魔族の強さというのはデタラメじゃな!」


 デタラメか。あのランクの奴らって人界ではどういう立ち位置なんだろう?


「アダマンタイトの奴らって、人族ではどれくらい強いんだ?」


「最高峰じゃろ? 一対一であれば同じランクでなければ倒せないと言われておるな。他のギルドでも最高ランクの奴らなら倒せるらしいが、詳しいことは知らん。そもそもギルド同士で戦ったことなどないからな」


「なるほど」


 ディーンは勝てなくはないとか言っていた気がする。ディーンとユーリだったらどっちが強いかな? ……いや、考えるだけ無駄か。


 問題はこれからソイツらに絡まれるという事だ。冒険者ギルドに物申したい。村に帰ったら、ディアに文句を言ってもらおう。念話の魔道具とかで連絡が取れそうな気がする。


 さて、夕食まで時間があるな。また部屋で本を読もうか。


「それじゃ部屋で休んでいる。夕食ができたら呼んでくれ……ところで、料理人は見つかったか?」


「おらんな! もう、この宿では料理を出さんことにした! 宿泊のみじゃ! 今後は小銀貨一枚で食事なしじゃな!」


 なんだか開き直ったようだ。別にいいけどそれが原因で潰れたりしないよな? まあ、潰れたとしても、最初から半分潰れていたようなものだし、私は悪くないよな。


「そうか。思い切ったな。忘れていないだろうが、私は食費込みの宿泊料を払っているからな? その分はなんとかしろよ?」


「パンをいっぱい食ってくれ。チーズも付けるぞ! お主は二人分払っているから二人分食べていいぞ」


 そういえば魔王様は食事を取られていない。よく考えたら魔王様が食事をされている所を見たことがないな。まさかとは思うが、私と同じように笑顔になるから一緒に食事をとられないのだろうか?


「ところで、一度も魔王とやらに会って無いんじゃが本当に泊まっておるのか? 泊まってなくても金は返さんぞ?」


 魔王様は移動に転移を使われているからな。カウンターの前も通らないし、誰とも会わないだろう。


「泊まっている。魔王様は転移が可能だから会わないだけだ」


「転移ができるのに、うちの宿に泊まったのか? こっちは儲かるから構わんが、部屋をとる必要は無いような気がするのう」


 言われて気づいた。その通りだ。何だったらソドゴラ村の部屋だって問題ないはずだ。こちらで何かしらの調査をしている時も毎日ソドゴラ村に帰れたはずだ。出来ない理由があったのかな?


 もしかすると、魔王様の転移も万能ではないのかな。遠すぎると転移できないとか。


 不意に高い音が短く聞こえた。カウンターの呼び鈴だろうか。そちらを見るとユーリがいた。まさか復讐に来たのか?


「おう、いらっしゃい。うちは食事なしで一泊小銀貨一枚じゃ」


「食事なしですか。じゃあ、それで一泊お願いします」


「お主、ボロボロじゃのう。魔物にやられたのか? じゃが、生きていればリベンジ可能だからの! 復讐を果たすまで頑張るんじゃぞ!」


 余計なことを言うな。ソイツをボコボコにしたのは私だ。


「それじゃ、部屋を用意するからちょっと待っててくれ」


 ドワーフのおっさんはユーリから小銀貨を受け取ると、宿泊部屋の方に歩いて行った。


 ユーリはカウンターからこちらに向かってきた。そしてテーブルに相席する。人族って相席する場合に断りを入れないのだろうか?


 見た限り、やる気はないと思うんだが、殺気を消せるから注意しないとな。


「そう警戒しないでください」


「それは無理な相談だな」


 いつでも転移して殴れるようにしないと。すでに射程圏内だから、気を抜いたらやられる。


「流石に貴方と戦うと周囲を巻き込みます。ここで暴れたりしたら、宿が酷いことになりますからね。そんなことしたらギルドカードに履歴が残ってしまいますよ。最初に会った時も、近くに子供たちがいたのが分かったから襲わなかったんですよ?」


「それを鵜呑みにするわけじゃないが、まあいいだろう。不意を突いたところで結果は同じだしな」


 顔は笑っているが、口元がちょっと引きつった気がする。余計な事を言ってしまっただろうか。


 ユーリは一度大きくため息をつくと、体から力を抜いた。そして椅子にもたれかかる。


「完敗でした。魔族の力についてはグランドマスターなどのお年寄りから聞いていたのですがね、誇張だと思っていました。貴方は聞いていた話よりも強いように思います。魔族の中でもお強い方なので?」


「敵同士なのに何で普通に話してるんだ? えっと、殺そうとしたんだよな?」


「まあ、いいじゃないですか。お話しましょう」


 一番重要なところだと思うが。ここは交渉しておくか。人族とは友好的な関係にならないといけない。魔族が危険な存在じゃないことをアピールしよう。


「私と話がしたいなら条件がある」


「どんな条件ですか? 前向きに検討しますよ?」


「魔族は人族と友好的な関係を結びたいと思っている。それを冒険者ギルドに伝えろ。あと、アダマンタイトたちに出してる依頼を取り下げさせろ。迷惑だ」


「グランドマスターに伝えることはできます。ですが、言う事を聞いてくれるかどうかは分かりませんよ? グランドマスターは五十年前に魔族と戦っていますからね。私から聞いたところで信じないかもしれません」


 面倒な奴がグランドマスターなんだな。だが、それならコイツの言った通り、信じてくれない可能性が高い。ということは、ユーリと話すのは時間の無駄ということだ。


「そうか、ならお前と話すことはない。じゃあな」


「待ってください。私が言っても信じてくれないかもしれません。ですから貴方が直接話をされてはどうでしょう?」


「直接?」


「ええ、グランドマスターに会って直接話すのです。私が伝えるよりも効果はあると思いますよ」


 依頼の取り下げのために本部に乗り込もうとも考えたけど、それってどうなんだろう? アダマンタイトの奴らが待ち構えていたら嫌だしな。


「それは罠じゃないのか?」


「かもしれませんが、貴方なら罠があっても大丈夫でしょう? 正直なところを言うと、私を倒した以上、他のアダマンタイトも倒してもらいたいのです。私だけ負けたのでは、あのランクの中でも下の実力と見られかねませんので」


 そんなこと知るか。だが、本部に乗り込むというのはアリかもしれない。面倒事は一気に片付けるのがいい。


 でも本部ってどこにあるんだろう? ディアからも聞いたことは無かったな。


「ちなみに冒険者ギルドの本部ってどこにあるんだ?」


「この国にありますよ。王都ですね。ここからだと馬車で一週間ぐらいですか」


 じゃあ、後回しだな。今はここでエデンに行かないといけないし、一度ソドゴラ村にも帰りたい。


 そういえばリエルたちの方はどうなったんだろう? 連絡がないからまだ対応中かな。


「どうでしょう? よろしければ私が案内しますよ?」


「いや、結構だ。やらなければいけない事があるからな」


「やらなければいけない事? 魔物暴走の対処ですか? あれなら収束し始めたようですよ。二、三日もすれば以前のように戻るでしょう」


 エデンに向かうことは言えないから、ごまかさないと。


「そうか。だが、もう少し坑道に入るつもりだ。人界の魔物を確認しておきたいからな。行くとしたらそれが終わってからだな」


「そうですか。なら、私はその旨をグランドマスターに伝えておきましょう。どうですか? これなら話をしてくれますか?」


 どうしたものかな。コイツと話しても特にメリットを感じないんだが。とはいえ、伝言はしてもらえるようだし話ぐらいしてやるか。


「いいだろう、話をしてやる。だが、グランドマスターに話が伝わってなかったりしたら、約束を破ったとみなし次は殺す」


 殺せないけどブラフは大事。殺気というか威圧を放って嘘じゃないことをアピール。


「それは怖いですね。分かりました、間違いなく伝えます。ギルドで念話の魔道具を使うので一日は猶予をください」


 その言葉にうなずく。言質は取った。約束を破っても殺しはしないが制裁は加える。


「で、何を聞きたいんだ?」


「ええ、貴方の強さの事についてです。魔族の中ではどれぐらいの強さなのですか?」


 私の強さか。最近、魔界で腕比べはしてないな。だが、そう簡単に順位は変わるまい。


「二番目だ。最強は魔王様、そして次に私が強い」


「貴方が……魔族で二番目に強い?」


「そうだ。普段、能力を制限しているから強そうに見えないかもしれんが、色々制限が無ければ二番目に強い」


 普段は半分以下に制限している。戦闘で制限を解除するのは、神か天使相手の時、もしくは死にそうな時だけだと魔王様に言われているから、しっかり守らないと。以前、鉄板焼きで使ったけどあれは戦闘じゃないからセーフ……多分。


「ま、待ってください。能力を制限している? 私と戦った時も制限していたのですか?」


「当然だ。手加減してやると言っただろう」


 なんだかユーリは考え込んでしまった。話は終わりだろうか。


「……制限を解除してもらってもいいですか? ぜひ、その状態を見てみたい」


「お前が私を追いつめられたのなら見せれたがな。今のお前じゃ見る資格がないということだ」


「制限していることが嘘でない事を証明してほしいのです」


「別に信じなくていい。信じて欲しいとも思ってない」


 また、ユーリは考え込んでしまった。


 今日はお前のせいで疲れたから夕食まで横になりたいんだが。もしかして、嫌がらせなのだろうか。……陰険だな。


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