アダマンタイト級
よく分からんが、アダマンタイトのランク限定で私の首に賞金が掛かっているみたいなものか。
私はお尋ね者と言う事だな。冒険者ギルドの本部みたいなところに乗り込んで止めさせるか、向かってきたアダマンタイトの奴らを全員ぶちのめすしかなさそうだ。面倒すぎる。
「ユーリ、だったか? お前はどうなんだ? 他人事のように言っていたが、私を殺すつもりか?」
「もちろんやりますよ。他のアダマンタイトに負けたくないですし。それに調査をする代わりに優先的に挑んでいいという事ですから」
「そうか。なら手加減してやるから掛かってこい。面倒な事は早めに終わらせたい」
殺す意思があるなら反撃してもいいや。だが、こっちが殺すのは駄目だから手加減はしないと。問題は記憶を消してしまう事だな。勝ったとしてももう一度戦わないと駄目かな。
「面白い冗談ですね。私相手に手加減ですか? 相手との実力差が分からないのですか?」
それはお前に言いたい。
「いいから掛かってこい。先手は譲ってやる」
ユーリの顔は笑っているが、かなりムカついていると見た。笑顔のまま微動だにしないし、少しだけ剣を握る拳に力が入っている。
そういえば、剣をどこから出した? コイツも空間魔法を使えるのだろうか? 武器を集めるのが趣味とか言っていたからな。色々と面白い武器を持っているかもしれない。それだけは警戒するか。
「では、お言葉に甘えて先に攻撃させてもらいますよ――」
ユーリが構えていた剣の切っ先で突いて来た。顔だけ横に躱す。しかし、いきなり顔狙いか。スピードに自信があったのかな。
その後も何度か突いて来たが、最小限の動きで躱す。速度はウルよりも速い。だが、それだけだ。技というものがない気がする。ただ振り回しているだけだな。
「もういいか? 次はこっちの番だぞ?」
殺気を放つとユーリは後ろに飛びのいた。だが、私にとって相手との距離は無いと同じだ。転移して、安心と信頼のボディブローを放つ。
だが、ユーリの反応も速い。剣の腹部分で受けようとしている。でも、そんな剣で受けれるか?
左の拳を打ち抜いた――と思ったら、止められていた。目の前に大きな盾がある。いつの間に?
いや、まずい。盾から炎が噴き出してきた。盾の正面から左側に飛びのいた。熱い。
転がりながら立ち上がると、ユーリが小型のクロスボウみたいなものを両手に持ってこちらに放とうとしていた。あれ? 盾は?
二本の矢が放たれたので、右手と左手でそれぞれキャッチする。あれ、この感触……?
両手の矢をそれぞれ放り投げると、すぐに爆発した。
「いやあ、貴方を過小評価していました。これで倒せないとは」
ユーリがにこやかに話しかけてきた。今は何も持っていない。亜空間から出し入れしているのか? いや、そんな面倒な事をする必要は無いはずだ。ということは何かしらのユニークスキルを使っているのか?
「こっちもだ。お前を過小評価していた。色々な武具が出るのはユニークスキルか?」
「まあ、そうですね。ですが内容を言うつもりは無いですよ。死活問題ですからね」
それは別にいい。勝手に見る。
……『武具生成』。一度見た武具を魔力で再現できる、か。何をもって武具とそれ以外を判断しているのか分からないが、これまた面倒なスキルだな。だが、これが武器庫と言われる理由か。
「そんなに見つめてどうしました? 手加減はしませんよ?」
「そうだな。全力で来い。私がお前を殺さないようにな」
そう言うと、ユーリは何かをアンダースローで投げてきた。ナイフが三本。躱しながら相手の目の前に転移する。すでに盾があった。だが、関係ない。
「【加速】」
自身の速度を上げて盾を打ち抜く。鈍い音が響いた。おそらくカウンターで炎が出る。
「【加速】」
さらに自身の速度を上げる。盾から炎が出た時にはすでにユーリの真横にいた。
「【加速】」
速度は最大。まずはコイツに拳を当てよう。真横からわき腹に超痛いパンチ。当たっ――あれ? なんで私は天井を見てる? いや、倒れたのか?
急いで立ち上がる。うお、ちょっとふらついた。よく分からないが、何かのカウンターを食らったようだ。一体何がどうなった?
周囲を見ると、ユーリがわき腹を押さえながら悶絶していた。どうやらパンチは当たってはいたようだ。
「ゴホ、ゴホ、な、なんて馬鹿力ですか、腹に穴が開くかと思いましたよ……」
よく見るとユーリの着ているコートがボロボロになっている。コートを突き破って触手のようなものが二本出ていた。太さは人族の腕ぐらいか? はっきり言ってキモイ。
もしかしてアレに攻撃を食らったのか? ふと、口の中から何か溢れたような気がしたのでぬぐってみると血がついていた。おお、殴られて口の中を切るなんて久しぶりだ。
ちょっと気分が高揚してきた。久しぶりに加減なく殴れそうだ。
「流石はアダマンタイトだな。人族は道具や魔法を効率良く使うと聞いていた。今、実感しているぞ」
「……私は貴方が魔族であることを今更ながら実感してますよ。普通ならあのカウンターで死ぬんですがね」
ユーリは立ち上がったが、わき腹を押さえながらだ。効いてはいると思うんだが、演技かもしれない。だが、どうでもいいな。時間をかけ過ぎた。そろそろ終わらせよう。
「少しだけ本気を出してやる。ちょっと準備するから、もしポーションとか持っているなら回復しておけ」
ジャケットを脱いで亜空間に入れる。そしてネクタイを少し緩め、シャツの袖をまくり、髪を後ろで束ねて紐で結んだ。最後に口の中に溜まった血を床に吐き出す。よし、準備完了だ。
ユーリはこちらを警戒しながらもコートの内側に入れておいたと思われるポーションを飲んでいた。
「殺しはしないが、相当痛いと思うから気をつけろよ」
「……最初の評価を改めます。貴方は強い。ですが、勝つのは私です。なにせ貴方に見せてもらったものがありますからね」
私が見せた? そうかアレか。
「聖剣『活殺自在』、使わせてもらいますよ」
ユーリの手に聖剣が現れた。嫌なものが出てきたが、ユーリに扱えるものなのだろうか? あれは勇者専用だと思うが。
「驚きましたね……」
どうやら聖剣を魔力で再現できていないようだ。多分、魔力が足りないのだろう。今のままでも十分強そうだが。
「どうやら完全には再現できないようだな」
ちょっと気持ち悪いぐらいでそれほど影響はない。だが、聖剣の効果でユーリに強化魔法が掛かっているような感じだ。
「ええ、もっと事前に確認しておくべきでした。再現率は二十パーセントぐらいですが十分でしょう。じゃあ、やりましょうか」
ユーリが一呼吸置くと、一瞬で間合いを詰めてきた。上段からの縦切り。相手の左側によけながら右拳でわき腹を狙う。だが、触手にガードされた。
即座にユーリの背中側に転移して今度は左拳で左わき腹を狙う。だが、また触手にガードされた。自動防御の機能でもあるのだろうか?
ユーリが振り向きながら聖剣を横薙ぎしてきたので、バックステップで躱す。すぐさまユーリの目前に転移して再度超痛いパンチ。これも触手にガードされた。
目標変更。まず、触手を潰す。
見えないパンチによる連続攻撃。防御はされているが、いつまで持つかな? 触手がボロボロになっていくぞ?
「ぐ、くっ」
触手は自動で防御しているのだろう。ユーリはそのせいで剣を振りぬけない。触手の方が動きの主導権を握っている感じだ。
何かが床に落ちる音が聞こえた。一瞬だけそれを見る。矢? 爆発する矢か? すぐさまユーリの後方に転移した。
次の瞬間、爆発が起きた。
ユーリは爆発に巻き込まれていたが、それほどダメージは無いようだ。触手が守ったのかな。しかし、何のためにあんなことを? 私と距離を取るためか?
あれ? 聖剣を持ってない? 何か奇妙な物を手に持っていてこちらに向けている。なんだ?
何かが小さく破裂する音が聞こえた。
その瞬間、右手が何かに弾かれた。いたっ! 見ると右手から血が出ていた。何が起きた?
「これを食らって血が出る程度ですか。体のどこかを吹き飛ばすつもりだったんですがね」
よく分からないが、アイツが攻撃したのか? 飛び道具?
「何をした?」
何かが当たったと思われるところの皮膚が少し抉れていた。唾でもつけていれば治ると思うが、結構痛い。
ユーリは何も答えない。もしかすると切り札なのか? アレを使うために距離を取った? だが、どうしよう? 何かが飛んできたのだとは思うが見えなかった。目の前に転移することはできるが、ユーリの反応速度なら転移直後に攻撃されそうだ。
……予想でしかないが、あれはクロスボウのように直線での攻撃だ。ユーリの視線や呼吸を見れば躱せるはずだ。それに疲れているのか、殺気がダダ漏れだし、これなら攻撃のタイミングは分かるはず。
次に攻撃されたときに転移して殴ろう。
ユーリがこちらを見つめながら、武器を構えている。さあ、来い。
……来る!
転移した瞬間に破裂音が聞こえた。私の居た場所を攻撃したようだ。だが、今、私はユーリの左横。そのまま左拳でボディブロー。触手にガードされたが、ボロボロの触手ではガードしきれない。威力は殺されたが、ボディに一撃を入れた。
ユーリは「ごふっ」と言いながら、体をくの字に曲げる。しかし、体を曲げながらも、右手の武器をこちらに向けた。だが、遅い。今度は右拳でその武器を狙った。
もう一本の触手がガードしてきたが、それも打ち抜いて武器ごと右手を殴る。
破裂音が聞こえたが、まったく別の方向を攻撃したようだ。武器はユーリの右手から離れて床を滑っていった。
チャンス到来。左、右とボディに二発当てて、最後は左アッパーを顎に当てる。
ユーリはアッパーによって少しだけ宙に浮いてから仰向けに倒れた。
どうやら気絶しているようだ。カウントの必要はないな。私の勝利だ。




