紹介
「フェルさんがゴスロリ服を着ていたわけではなく、この魔族の方が着ていたのですね。噂では魔族としか言っていなかったので、フェルさんの事かと思ってましたよ」
ディーンがルネの方を見ながらそんなことを言ってきた。
この町の奴らとはそれほど接点がないから私とルネが違う魔族だって知らないよな。ルネは明日にはこの町からいなくなるし、私がメノウのファンでゴスロリ好きとかいう事になっていたら嫌すぎる。
「いやー、町を歩いていたら、みんな私の事を見ていましたよ。惚れてしまったかもしれませんね! あ、大丈夫ですよ。人族を襲ったりしていませんから!」
ルネは私に殴られたのにケロッとしている。魔族だから無駄に頑丈だ。いや、それともスキルを使ったのか?
「町を散策するのは構わないが、何でゴスロリ服を着て出かけた?」
「おめかしは女を大胆にするんです。それにメノウっちにお化粧してもらったからテンション上がってしまいました。このメイクには美人度アップの効果がありますからね!」
化粧の効果って残虐度アップとか士気高揚とかじゃないのか?
「ごほん! んっ、んっ!」
リエルがわざとらしく咳をした。紹介しろってことか。約束は約束だ、紹介してやろう。
「あー、ディーン、コイツなんだが女神教で聖女やってるリエルだ。リエル、こっちがディーンで、そっちの大男は……マッチョ?」
「え、あ、はい。ディーンです。初めまして。お目にかかれて光栄です。男性の方がロック、女性の方はベルです」
「ロックだ、よろしくな。マッチョじゃねぇぞ」
「ベル」
ディーンたちがリエルに軽く会釈した。二人の名前はロックとベルか。なんとなく聞いていた気もするけど。
リエルはすっと立ち上がり、気持ち悪い微笑みになった。
「初めまして皆さん。女神教で聖女の職に就いております、リエル、と申します。今日お会いできたこと、とてもうれしく思います」
聖女って職業なのか? あと、ルネ。口が開きっぱなしだぞ。
「申し訳ありませんが、少し席を外しますね」
「あ、はい」
私に目でついて来い、と訴えてきた。というかルネとメノウにも同じアイコンタクトを送っている。
四人で食堂の隅に移動すると、リエルが肩に手を回してきた。相変わらず馴れ馴れしいな。そして円陣を組まされた。またこれか。
「ディーンってやばくねぇか? イケメンすぎる。アレ、俺のな?」
「リエルっち、ズルい! 独占禁止法って知ってます? しかもさっきの口調はなんなんですか。あんなのリエルっちじゃないですよ! 聖女っぽく振る舞っちゃって!」
「あ、あの、何で私はここにいるのでしょうか?」
メノウが困ってる。私も困ってるから助けない。どうでもいいから早く終われ。
「イケメンな上に包容力がありそうだ。あとはガツガツしていて一途なら文句なしだな!」
「えー? じゃあ、私はあっちのマッチョですか? なんか弱そうなんですけど。しかも、上半身が裸じゃないですか。露出狂ですか?」
「よし、じゃあ、フェルとメノウは俺のサポートな。合コンはチームプレーが重要だぞ?」
これってゴウコンなのか?
「あ、はい。頑張ります」
「お前を褒めるところなんてないだろ」
「見た目は完璧だろうが!」
その厚かましいところは褒めてもいいけどな。円陣を解除して全員で席に戻った。ディーンは座っており、ロックとベルはその後ろに立っている。
「コホン、それでは出会いを祝してお食事会とかを――」
「全部聞こえてました。相談事はもう少し声を低くした方がいいですね。リエルさん、無理しなくていいですよ?」
リエルはきょとんとすると、微笑み状態から悪い笑みになった。
「んだよ、こっちがいいのか? いいねぇ、気が合いそうだ」
「先に謝っておきましょう。申し訳ないのですが、本当の私はこんな感じでして」
ディーンは本当の姿、十二、三歳ぐらいの容姿に変わった。そういえば普段から幻視魔法をつかっていたか。
「こ、子供?」
「色々事情がありまして姿を偽ってます。見ていた姿は十年後ぐらいの姿ですよ」
リエルは腕を組み、目をつぶって何かを考え出したようだ。多分、ろくでもないことだろう。
「問題ない。数年すれば大人だ。待てる。今のうちにツバをつけておこう」
「うわ、リエルっち、それはドン引きですよ」
「は、はい、私もそれはないと思います。……まさか、弟のことも本気で……?」
ディーンもちょっと顔が引きつっている。ロックは大笑い。ベルは無表情だが、すぐにディーンを守れる位置に移動したな。
「あの、申し訳ないのですが、女神教のカードを見せてもらえますか?」
ディーンに疑われている。知っている私ですら疑うからな。初対面ならなおさらだ。
リエルはカードが青く光るのを見せた後、ディーンの前に置いた。
「リエル……、間違いないですね。疑うような真似をして申し訳ありません」
カードの名前部分を見て納得したのだろう。ディーンはリエルに頭を下げてきた。
「構わねぇよ。で、どうよ? 年上の嫁さんはアダマンタイトの靴を履いて探せって言うぜ? 安売りはしねぇが、超お買い得だ」
ほぼ全員がドン引きしているのに物ともしない。その精神力がすごいな。
そんな状況でベルが動いた。ディーンを庇うように前にでる。
「あん? もしかして、ディーンはこの少女と付き合ってたりするのか?」
「いえ、私は誰とも付き合っていませんが……ベル? どうしたんだい?」
おお、もしかして片思いなのだろうか。あとで取材したいな。小説のネタとして。
「ウル姉さんから、ディーンに悪い虫がつかないように見張れって言われてる。最悪、排除していいって」
「え?」
なんでディーンが驚くのだろうか?
「ウル姉さんは、ディーンを立派な人に育てたいと言っていた。育ったら結婚――なんでもない」
「え?」
さらにディーンが驚いている。もしかして、ウルがディーンに力を貸しているのはそういう事なのか?
「うわあ、そのウル姉さんという人にもドン引きですよ。リエルっちより先に実行してるってことですよね? 人族ってそういうのが駄目な法はないんですか?」
「すでにツバついてんじゃねぇか! うわ、最悪だ!」
私の中でもウルの評価がかなり下がった。魔法剣士みたいで、それなりに強かったから結構評価していたんだが。
それにリエルも同じような事をしようとしたのに、他人がやると最悪に見えるのか。ワガママな奴だ。
「ウルがベルに言ったのは冗談だよ。まあ、悪い虫がつかないようにっていうのはその通りでな。フェルなら事情を知ってるだろ?」
「いや、知らんぞ? いきなり巻き込むな。私は今、空気だと思ってくれ。関わりたくない」
「ほら、ディーンはそもそも何を目指しているかってことだよ。下手な嫁さんを選んだらまずいだろ?」
ディーンの目指していること? 皇帝になる、か? ああ、なるほど、妃とか後継者とかの問題になるのか。
「なんとなくわかった。それはいいのだが、ディーンがものすごい汗をかいているのはいいのか?」
ディーンはまったく動いていないが汗がすごい。なんというか、かなり動揺しているような気がする。
「どうかしたのか?」
ディーンがゆっくりとこちらを向くと口を開いた。
「よ、傭兵団を受け継ぐ際に、ウルと約束をしたのです。その、力を貸す代わりに皇帝になったら何でも一つだけ言うことを聞け、と。しかも契約魔法付きで。まさかとは……思いますが……」
すでに罠が張られている。なぜか、ロックもベルも驚いている。約束の事は知らなかったのだろうか。まあ、それはディーンたちの問題だから関係ないな。とっとと食事にしたい。
「メノウ、食事にしてくれるか? 腹が減った」
「え、あの、このままでいいんですか? その、お通夜みたいになってますけど……?」
リエルはやさぐれているし、ディーンはなにかショックを受けている。
「まあ、私には関係ないからな。紹介はしたから約束は守った」
「そ、そうですか、なら用意して来ますね」
メノウはテーブルを離れて厨房の方へ向かった。
入れ替わりにドワーフのおっさんが近づいてくる。
「この二人はお主の連れでいいのか?」
「そうだ。呼んだのは一人だけだったのだが、もう一人は護衛として来た」
おっさんは頷くと、こちらに手を出してきた。なんだ?
「宿泊費を出すんじゃ。お主のツケで払うと言っておったぞ」
これは仕方ないな。私が払うべきだ。一泊で二人だから、小銀貨四枚かな。亜空間から硬貨を取り出して渡す。
「これでいいか?」
「うむ、宿泊費は問題ないぞ。あと、追加で二人が飲み食いした食事代が小銀貨六枚じゃ」
能力制限を解除して殴っていいかな?




