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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第五章

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勉強と準備と魔族

 

 宿を出て村長の家まで歩いた。


 まずは村長にドワーフの村に行く話をしておこう。しばらく留守にすることを伝えておかないとな。


「たのもー」


 村長の家に入ると村長とアンリが机を挟んで座っていた。机の上には色々と紙が置いてある。もしかして勉強中だろうか。


「フェルさん、いらっしゃい」


「フェル姉ちゃん、アンリは今、囚われの身。助けを希望する」


「念のため聞いて良いか? 何してるんだ?」


「このところ勉強をサボっていましたからな。昨日は夜更かしもさせましたし、今日ぐらいは一日勉強をさせないといけません」


「夜更かしの許可にそんな条件は無かった。不当な取引だと訴える」


 勉強が嫌だというのは魔族も人族も変わらないな。でも知識が増えるのはいいことだと思う。


「アンリ、以前も言っただろう? いい女というのは教養があるんだ。私のようにな」


「じゃあ、一緒に勉強しよう。一人では駄目でも二人なら乗り切れる」


「そうしたいが、今日は色々することがある。悪いが援軍は無しだ」


 アンリが絶望した顔になった。珍しいな。


「信じてたのに」


 ちょっと心が痛い。だが、ここは心をオーガにして言っておかねば。


「アンリ、信じていたのはこっちだ。いつか私と遺跡巡りをするんだろう? 私と一緒に行動するなら、それなりの知識を身につけろ。強いだけじゃついてこれんぞ」


「そうだった。フェル姉ちゃんは脳筋。アンリが知識面をサポートしないと」


「なんだとコラ」


 ショックだ。私はアンリからそんな風に思われているのか。まあ、面倒くさいと暴力で解決したいとは思っているから、あながち間違いでもないのだが。


 それはともかく、一応やる気になってくれたようだ。遺跡に一緒に行きたいと言ったのは社交辞令だったとか、一緒に行かなくてもいいとか言われたら心に傷を負ったかもしれん。ちょっとした賭けだったな。


 村長は相変わらずニコニコしている。アンリがやる気になってくれたからうれしいのか。


 まあいい、村長に報告しよう。


「明日、ドワーフの村に向かう。しばらく戻れないと思う」


「それはまた、どういった理由で?」


 ここは本当の理由を隠した方がいいか。別に言う必要もないし。そう考えるとギルドの依頼を受けるのはいいカモフラージュだな。


「どうやらドワーフの坑道で魔物暴走が起きたらしい。冒険者ギルドの依頼ということでちょっと行ってくる」


「そうでしたか。フェルさんの事ですから心配する必要はないと思いますが、お気を付けください」


「ただの魔物なら何体いても問題はない。ただ、どれぐらいの時間が掛かるか分からないからな。村の魔物たちの事はヤトとジョゼフィーヌに任せておくから、何かあればアイツ等に言ってくれ」


 大坑道の奥がどうなっているか分からないから、本当に問題がないかは分からないけどな。神はいないらしいが、天使みたいのがいたらどうしよう。


 あれ? アンリが大人しいな。連れて行けと言うか、剣の素振りをすると思ったのだが。


 そんなことを考えていたらアンリと目が合った。


「アンリはまだ弱い。ダンジョンで訓練するから連れて行けとは言わない。今は修業の時」


 私の考えが読まれた。だが、それよりも大事なのはアンリが大人になったことだ。偉い。いや、普通か?


「そうか。ダンジョンの方はアビスが管理しているから危ないことは無いだろう。訓練にはうってつけだから頑張ってくれ。そうだ、アビスがアンリに会いたいとも言っていた。後で顔を出しておいてくれ」


 アンリはこくんと頷いた。素直だ。


 そうだ、アンリの剣を作るのは少し後だと言っておこう。アビスたちへの牽制にもなるしな。


「あと、アンリの剣の事だがもう少しかかる。先に腕輪とか包丁とか針を作って貰うように言ってあるから、その後だ。おっさんにもそう伝えているからもう少し待ってくれ」


「わかった。格好いいギミックを入れるから、それだけに集中してもらわないといけない。何の憂いもない状態で作って貰う」


「そうか、私も期待しているから最高の物を作ってくれ」


 また、アンリはこくんと頷いた。よし、これなら大丈夫だろう。


「では、村長。明日の朝には出発するので何かあれば宿の方にきてくれ」


 村長は「わかりました」といってから、アンリと勉強を再開した。アンリ、頑張れよ。


 次はカブトムシに予定を伝えておかないとな。ついでにジョゼフィーヌにも伝えておこう。




 畑の方に着くとジョゼフィーヌと魔物たちがいた。


 ジョゼフィーヌは色々と魔物たちに指示をしているようだ。これなら私がいなくても大丈夫だろう。


 ドワーフの村に行く事を伝えると「魔物たちの事はお任せください」と力強い返答を貰えた。随分やる気のようなので色々任せてしまおう。


 カブトムシに明日の朝出発することを伝えに来たのだが、今は仕事中でいないらしい。


 そういえば、ミトルたちをダンジョンに見せた時にどこかへ飛び立っていった。どこに行ったのだろう?


 仕方ないのでジョゼフィーヌに伝言を頼んだ。


 次はヴァイアの店で何か買っておくか。坑道に入る時は何が必要なんだろう?




 ヴァイアの店に入ると鼻歌を歌いながら掃除しているヴァイアがいた。話しかけづらいな。


「たのもー……」


 遠慮がちに言ってみると、ヴァイアはすぐにこちらに気付いた。


「あ、フェルちゃん、いらっしゃい! 今日は何の用かな!」


 笑顔がまぶしい。そして元気だ。悪い事じゃないんだが、どうも調子が狂うな。


「明日、ドワーフの村へ行くことになった。坑道に入るので、何か役に立つものを買いたいと思ってな」


「え、ドワーフの村? 坑道? なにかあったの?」


 魔物暴走の事とギルドの依頼で行くことになった旨を話した。


「それなら見繕うよ! ちょっと待ってね!」


 色々やってくれるのはありがたいのだが、ちょっと心配になるレベルでハイになってないか? 何かいいことがあったのだろうか。聞かないけど。


 ヴァイアは色々とカウンターにアイテムを乗せていってる。随分あるようだが、全部必要なのか?


「必要になりそうなものを選んでみたよ。必要そうか確認してみて」


 なるほど。自分で必要かどうか判断するのか。なら、早速見てみよう。


「このヘルメットはなんだ?」


「ヘルメットの真正面に光球の魔法が発動するようにしたんだ。手を使わずに前方を照らせるよ」


「角があるから、かぶれないな」


「じゃあこっちのバンド型の物はどうかな? バンド部分はゴムでできてるから角があっても大丈夫だよ」


 夜目は利く方だが真っ暗なところでは意味がない。光球は使えるが私の場合まぶしすぎるからな。これは買っておくか。


「それは貰おう。えっと、この鳥みたいな石はなんだ?」


「それはカナリアストーン。坑道の中って危ないガスとかがあるんだって。それを察知すると鳴き出すんだよ」


 ガスか。でもガスがあるのが分かっていても、進まなくてはいけない可能性がある。どちらかというとガスを無効化するものがほしい。


「ガスが出ていても何とかなるものはないか?」


「じゃあ、このマスクはどうかな? 口と鼻部分に空気浄化の魔法を付与したよ」


「なんで、ゾンビっぽいマスクにそんな魔法を付与したんだ?」


「マスクがこれしかなくて……」


 なんであったんだ? それはともかくゾンビになるのは嫌だな。だが、背に腹は代えられない。カナリアストーンと一緒にとりあえず買っておこう。


「二つともくれ。えっと他には――」


 そんなこんなで、必要になりそうなものを購入した。全部で小金貨一枚以下だった。魔道具って高いと思うんだけど、割り引いてくれたのかな。


 いや、途中、ノストとの惚気的な話も入ったから、その謝罪による割引だろう。付き合った私は偉いと思う。いや、今も付き合っているのか。小説のネタにするとはいえ、暗記できるぐらい聞かされているんだが。


「それでね、ノストさんが作ってくれた料理が――」


「その話は三回目だ。もういい」


「じゃあ、私の服を褒めてくれたことを――」


「それは五回目だ」


 はやく解放してくれないかな。


 そんな風に思っていたら店にディアが入ってきた。


「ヴァイアちゃーん、一緒に森の妖精亭で夕食を食べよー。あれ、フェルちゃんもいたんだ?」


「いいタイミングだ。ヴァイア、食事にしよう」


「そうだね、続きは食後だね」


 そんなこと言ってない。


 三人でヴァイアの店を出ると外はもう薄暗くなっていた。


 疲れた。食後もまだ話が続くのかと思うとちょっとげんなりする。だが、一応、事前準備は終わった。ポーションとかも買ったし、準備万端といえるだろう。


 出来れば早めに休みたいのだが、まだ最後の問題が残っているから駄目だな。


「あれ? フェルちゃん、あれってカブトムシ?」


 ディアが指さす方を見ると、カブトムシが飛んでいるのが見えた。かなりフラフラと飛んでいるようだが……?


 よく見ると、人っぽい物を宙づりにしている。もしかして、総務部の奴か?


 しばらく待つとカブトムシは着陸した。魔族も地面に降ろしたようだ。なんで荷台を使わなかったのだろう。


 連れてきた魔族は気を失っている。仕方ない、起こすか。


「おい、起きろ」


 頬を軽く叩く。少し待つとうめき声をあげながら目を覚ました。


「はっ! 空を飛ぶなんて聞いてない! どうしてもというなら私を倒してから――あれ?」


「大丈夫か?」


「あれ? フェル様? 私は一体……?」


 何があったか知らないが、ちょっと混乱しているようだ。そんな様子をディアがジッと見ている。


「ねえねえ、フェルちゃん、この人って魔族?」


「そうだ。ニアの治療のためにアイテムを持ってきてもらったんだが」


「む! フェル様! そこの女たちは人族ですね!」


 スッと立ち上がり、マントを翻して人差し指でディアとヴァイアを指した。


「私は魔王軍総務部総務課、美人受付嬢のルネ! 死にたくなければ美味しい食べ物を持ってきなさい! 肉を希望!」


 殴った。


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