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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第四章

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結婚式の宣誓

 

「まずは新郎新婦の入場。おめぇら舌打ちとかすんなよ」


 なんだろう? リエルが普段の悪い笑みではなく、微笑みながら言っているから違和感が半端ない。


 教会の扉を村の奴らが開けると、結婚男が出てきた。結婚女は一緒じゃないのだろうか?


 結婚男は普通に歩いて祭壇の前に移動した。リエルはその間に祭壇の後ろ側に移動したようだ。今気づいたが女神教の爺さんも祭壇の近くに立っている。まあ、リエルだけだと心配だよな。


 今度はアンリが教会から出てきた。籠を抱えているが何が入っているのだろう?


 アンリが歩き出すと、籠から何か取り出してまき散らした。どうやら何かの花びらのようだ。これは正規の手順なんだよな? 間違ってはいないと思うのだが、なにかしでかしそうでハラハラする。


 アンリが花びらをまき散らしながら歩くと、今度は結婚女が村長と教会から出てきた。それを見た皆は歓声を上げた。


 あれが花嫁衣装か。全体的に真っ白だ。ヒラヒラは多いが歩きにくそうな感じはしない。顔の部分にヴェールが掛かっているがかなり薄そうだから見えないという事もないだろう。なるほど、ディアが言うだけはあるな。私にはセンスがないが、確かに綺麗に見える。


 結婚女が村長と腕を組み、ゆっくりと歩く。なんだろうな。意図的にゆっくり動作しているのだとは思うが、それ以上に時間が遅く流れている感じだ。アンリがまき散らした花びらも滞空時間が長く舞っている気がする。


「綺麗なものだね」


 魔王様がそう言ったことに遅れて気づいた。慌てて魔王様の方を見る。顔は笑顔だが、どこか寂しそうだ。ここは聞いてみるべきだろうか? よし、女は度胸だ。ここは踏み込むべき。


「はい、確かに綺麗です。ですが、魔王様。魔王様はとても寂しそうに見えます。結婚式を見るのは苦手とおっしゃっていましたが、改めてその理由を聞いてもいいでしょうか?」


「寂しそう、か。そうだね、寂しいんだろうね。僕には結婚に特別な思い出がある。あの頃が一番幸せだった、と思ってしまうんだよ。そして、あの頃の知り合いにはもう会えない。そう思うと寂しくなる。メンタルが弱いということかな?」


「そういうことでしたか。その、申し訳ありません」


 なんという失態。知らなかったとは言え、魔王様にそのような思いをさせてしまうとは。


 ふと、頭になにかを乗せられた。どうやら魔王様が私の頭に手を乗せてくれていたようだ。やばい、声をあげそうになった。


「今まではそうだった。でも、今日はフェルが一緒だろう? 結婚式に対する新しい思い出が出来たからね。過去は過去で幸せだったけど、今日は今日で楽しいよ。さあ、おめでたい日にそんな辛気臭い顔をするのはよくない。笑顔で楽しもうか」


 なんだか逆に気を使わせてしまった感じだ。だが、魔王様はさっきよりも楽しそうにしている。多少は寂しさが紛れたのだろうか。それならいいのだが。


「おーし、それじゃ精霊を召喚すっから。何が出て来ても文句言うんじゃねぇぞ!」


 いつの間にか結婚式が進行していたようだ。ステージの上には結婚男と結婚女が祭壇の前にいた。これから精霊を召喚するようだ。


「どんな精霊が来るのでしょうか?」


「術者の魔力にもよるけど、一番近くにいる精霊だろうね」


「さあ、精霊よ、姿を現せ!」


 リエルが水晶玉のようなものに魔力を込めると、上空に魔法陣のようなものが浮かび上がった。


 その魔法陣から落ちてくるように、輝く人型の何かが出てきた。あれが精霊なのだろうか。すごく眩しい。


「あれは光の精霊だね。珍しい精霊なんだけど、運がいいね」


「よく分かりませんが、そういうものですか」


「おい、精霊。まぶしすぎる、光を抑えてくれ」


 リエルが精霊に向かってそういうと、徐々に光が収まっていった。まだ光っているが直視できない、というほどじゃないな。


 精霊には性別がないとか聞いたことがあるけど、見た感じ女性の造形だ。


「私は光の精霊。人族よ。私に何を望む?」


 精霊がそう言うと、感嘆の声が広がった。魔王様が言う通り珍しい精霊なんだろうな。


「この二人が結婚するから、宣誓の問いかけを頼む」


「心得た。汝、健やかなるときも、病めるときも――」


「魔王様、あれは何でしょう? 随分と喋っているようですが」


「誓約内容を説明しているんだね。どんな時も一緒にいて、どんなことがあっても相手を敬いますか、という内容かな」


 なるほど、死ぬまで一緒という誓約だからな。ちゃんと確認しないと危ない。


「――誓うか?」


 どうやら誓約内容の朗読が終わったようだ。精霊はまず結婚男の方に問いかけたみたいだ。


「誓います」


 次に精霊は結婚女の方を向いた。何も言わないが、誓うかどうか問いかけているのだろう。


「誓います」


 精霊は頷くと、掌を上にして両手を広げた。良く見えないが、掌の上にあるのは指輪だろうか?


「お互いの左手薬指につけるがいい。もし、この結婚に異議があるならその行為を阻止するのだ」


 もしかして、異議があるなら力づくで止めるのか? 結構バイオレンスだな。とはいえ、誰も阻止するつもりは無いようだ。二人はそのままお互いの指に指輪を付けた。


「最後に誓いのキスを」


 おう、聞いていた通り、人前でするのか。


 結婚男が結婚女のヴェールをめくる。結婚女は目をつぶり少し上を向く。二人の顔が近づき、そしてキスをした。凝視するものではないのだが、魅入ってしまった。あと長い。待っている方の身になれ。


 そう思ったところで二人は離れた。お互い照れてる。こっちも照れるんだが。


「これで二人は夫婦だ。光の精霊がそれを認めよう。幸多からん事を祈る。では、さらばだ」


 精霊の光が増していき、目を開けていられない程になった。しばらくしてから目を開けると精霊は消えていた。光の精霊が普段どこにいるか知らないが、元の場所に戻ったのだろう。


 しばらくすると、村の奴らから歓声が上がった。「おめでとう!」とか「幸せにな!」とか「爆発しろ!」とか声が聞こえる。爆発?


「よし、おめぇら! 堅苦しいのはここまでだ! この後は祭りだ! 飲んだり食ったり、騒ぎまくれ!」


 さらに歓声が上がった。あれでこそ、いつものリエルだ。悪い顔をしている。正直、微笑みモードのリエルは気持ち悪かったから戻ってくれて助かった。


「はーい、その辺りの人はどくニャ。机を出すニャ。忙しいから協力をお願いするニャ」


 ヤトが広場の東側に机を出し始めた。そしてその机の上に料理を出し始めた。おお、ニアが作った料理を亜空間に入れていたのか。


 他にも結婚男と結婚女の座る場所を作ったり、ステージ上の祭壇を片付けたりと色々やっている。働き者だな。


 よく見ると、ヴァイアもステージの上で色々準備しているな。


「この後は何をするんだい?」


「なにかステージで出し物をするらしいです。あと、これからは食事が食べ放題です。なにか取ってきましょうか? おすすめはアップルパイです」


「いや、食べ物はフェルが好きなものを食べるといいよ。僕のお腹はすいていないからね。せっかくだから出し物とやらをじっくり見るよ」


「分かりました」


 とりあえず、魔王様のそばに仕えておく。最初に見た時のように寂しい感じはしないな。あとは出し物が面白い物だといいのだが。笑った魔王様を見たい。


 そうこうしている内に色々と準備が整ったようだ。ステージの上に村長が出てきた。


「では披露宴を始める。だが、その前に説明しておこう」


 何の説明だろう? 早く始めてもらいたいのだが。


「今回の結婚式に多大な貢献をしてくれたのはフェルさんだ。シスターを連れてきたり、食材を提供してくれたり、魔物の脅威を排除してくれた。ぜひとも感謝を伝えておきたいと思う。ありがとう、フェルさん」


 なんてことを。さらし者じゃないか。


 周囲から「ありがとう、フェルちゃん!」とか感謝の声が聞こえてくる。いたたまれない。魔王様がいなかったらメテオストライクしてたぞ。


「いや、まあ、その、気にするな。楽しければなんでもいい。私の事はいいから、早く出し物を見せてくれ」


 とりえあえず、当たり障りのない事を言っておく。感謝されると背中が痒くなるからやめてほしい。


「そうですな。では、早速始めよう。最初はグループ名ニャントリオンによる出し物だ」


 村長がステージからおりると、一度垂れ幕が閉じた。ニャントリオンってなんだろう?


 少し待つと垂れ幕が開いた。


 ステージの上には三人が立っていた。ディアとアンリとヤトだ。


 ヤトが中央にいる。ディアがその左、アンリがその右で、二人はヤトよりもちょっと後ろだ。三人とも足を肩幅に広げて、後ろで手を組んでいる。下を向いているので表情は見えない。


 三人ともおそろいの服だ。なにかこう、きらびやかな感じの服。だが、問題はそこじゃない。ディアとアンリに猫耳と猫尻尾がついてる。


 そしてヤトが顔をあげた。


「今日からアイドル冒険者としてデビューするニャ! 応援よろしくニャ!」


 歓声が上がった。


 あの強襲部隊隊長は何をしているのだろうか?


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