手伝い
「今、言ったよね? 『何かあったら言ってくれ』って。あれは嘘なのかな?」
ディアが首をかしげて覗き込むように顔を見てきた。誰も居なかったら殴ってた。命拾いしたな。
「嘘ではないが、ちょっと休憩したいと思っていた。いや、休憩する。今日は店じまいだ」
「フェルちゃん、よく聞いて」
ディアはかなり真面目な顔をしている。もしかして結構大事な事なんだろうか?
「私達、親友だよね? 私を手伝う権利をあげるよ?」
なんて奴だ。だが、私も昨日、悲鳴を確認するときに同じ手を使っている。ここで無視するわけにはいかないか。面倒だな。
「仕方ない。何を手伝えばいい?」
「そうこなくちゃ。まずギルドに来てよ。そんなに大変な事じゃないから安心して。ほとんど立ってるだけだから」
楽なことなら手伝ってやるか。ダラダラやっていても時間が掛かるだけだからな。スパッと終わらせる。
「いいだろう。私の手に掛かれば、あっという間だ。完璧に遂行して見せる」
「お、やる気になってくれたね? じゃあ、行こう!」
ディアに連れられてギルドに入った。詳しくは聞かなかったが、何を手伝うのだろう? ギルドの仕事なのか?
「ちょっと待っててね、今、準備するから」
なにやらカウンターの内側でゴソゴソと準備をしているようだ。時間が掛かるかもしれないから、椅子に座って待っていよう。
「アンリ、そろそろ降りてくれ。椅子に座りづらい」
アンリが背中から降りたので椅子に座った。そしてアンリが膝に座る。一連の動作に隙がない。拒否する暇がなかった。
「フェル姉ちゃん、なんのお手伝いをするの? アンリも手伝う?」
「何をするのかは知らん。だからアンリが手伝えるかもわからん」
「剣を振る手伝いならやれる気がする……!」
「そんな手伝いがあるか。……いや、冒険者ギルドならあるのか?」
どうなんだろう? ほとんど立っているだけでいいとか言っていたが、何かの的じゃないよな? それならリエルの腹がいい的だ。それに罪悪感もなく殴れる。
「お待たせ! じゃあ、手伝ってね!」
「その前に聞いていいか?」
「なんでも聞いて?」
「その大量の服はなんだ?」
カウンターに服が何着も置かれている。派手な物もあるし、質素な感じの物もある。なんというか、統一感がないな。
「これは明日の結婚式でオリエさんが着る服だね」
オリエ? 確か結婚女の名前だった気がする。明日の結婚式で着るのか。
「その服がなんで大量にあるんだ? ギルドで借りていたわけじゃないんだろ?」
「私がオリエさんから預かって、サイズを調整していたんだ。大体は終わっているから、着てもらって全体のバランスを見ながら微調整するんだよ」
「そうなのか。だが、私は裁縫とかできないぞ?」
針に糸を通したことも無い。いつか練習しないといけないかもしれないが、それは今じゃない。遠い未来の話だ。
「それは期待していないよ」
「じゃあ、何を手伝うんだ? 微調整するのはディアなんだろ?」
「さっき言ったよね? 着てもらって全体のバランスを見ながら微調整するって」
確かに聞いた。だが、調整というのは裁縫の分野だ。私はできない。話がかみ合っていないような気がする。
「フェル姉ちゃんがこの服を着るの?」
「うん、そうだよ」
「ちょっと待て。なんで私が着るんだ。本人に着てもらえばいいだろう?」
「オリエさんは、ロミットさんの看病をしているし、明日の準備で色々と忙しいみたいだからね。オリエさんの背格好に似ているフェルちゃんに着てもらって調整したいんだよ。大丈夫だとは思うけど、ちゃんと見ておかないとね」
ロミットというのは結婚男のことか。まだ本調子じゃないのか。傷は塞がっているんだからポーションをガブのみさせればいいのに。
それはともかく着たくない。なんとか別の奴にやらせよう。
「背格好は似ているかもしれないが、もっと似ている奴はいるだろう? ヴァイアとか」
「ヴァイアちゃんは胸が規格外でしょ。服が破れちゃう。フェルちゃんなら余裕があるから大丈夫だよ」
「喧嘩なら買うぞ? 年中無休で受け付けてる」
「売ってないから買わないで。時間が惜しいから早くお願い。それにさっき『完璧に遂行して見せる』って言ったよね?」
言ったことは言った。しかし、嫌だ。ヒラヒラが多すぎる。ウェイトレス服の比じゃないものが多い。
「ごめんね、フェルちゃん。結婚式に使う服だから万全を期したいんだ。今日はお昼を奢るから手伝ってよ」
他人の結婚式なのに意外と頑張っているんだな。仕方ない。個人的な理由なら絶対に受けないが、結婚式を成功させたいという気持ちからなら、手伝わない訳にはいかないか。
「分かった。心意気を買おう。手伝ってやる。お昼は特盛で奢れよ?」
「スペシャル盛で奢るよ。じゃあ、早速これを着て」
服を渡されたのだが、ここで着替えろという事だろうか。
「更衣室とかないのか?」
「私とアンリちゃんしかいないんだから、恥ずかしがることないよ?」
「じゃあ、目を潰そう。リエルなら治せると思うから見えないのは一時的だ」
「ナチュラルに怖いこと言わないで。それじゃ服の微調整が出来ないでしょ? そっちの部屋なら鍵も掛けられるから更衣室として使えるよ」
部屋に入り鍵をかける。早速着替えよう。
だが、この服はなんなのだろう? ヒラヒラが多いし着づらい。全体的に白と黒の二色しかない。結婚式のことを良く知らないが、こういうのを着ていいのだろうか?
とりあえず着たから、問題ないか確認してもらおう。部屋の鍵を開けて外に出る。ディアとアンリがこっちを見た。
「着てみた。問題ないか?」
「かわいい」
「アンリ、そういう感想を求めているわけじゃない。問題がないか聞いたんだ」
「ちょっと歩いたり、動いたりしてくれる? 服に引っ張られたりしないかな?」
珍しくディアが真面目だ。仕立屋の店を開きたいとか言っていたし、その方面に関しては真面目なんだな。いつもその半分ぐらいは真面目にしていればいいのに。
動いてみたが特に引っ張られたりはしないな。動きが阻害されるようなこともない。意外といい腕をしているのだろうか。
「特に問題ないと思うぞ。ところでこの服はなんなんだ? あまり見ない服だな?」
「ゴスロリだね」
「ゴス……?」
「語源は良く知らないんだ。結婚式の最中にダンスをするんだけど、その時に着るんだって」
ダンスの時に着る服なのか? 吸血鬼が着る服のように思ったが。猟奇的な感じの本の挿絵にあった気がする。
「全体のバランスも問題なさそうだね。じゃあ次はこれね」
別の服を渡された。白を基調に青が多少使われているようだ。
「これはなんという服だ?」
「セーラー服だね。水夫さんの服らしいよ。食事するときに着るって言ってたかな。ウェディングドレスが汚れたら大変だしね」
「ダンスといい、食事といい、結婚式の最中に何度も着替えるのか? 大変だな」
「お色直しって言うらしいよ?」
着替えに名前があるのか。人族って変わってるな。
微調整が終わった。昼前には終わったが、体感時間はかなり長かった気がする。何着も着たからだな。だが、やり遂げた。これで自由だ。
問題があった部分はディアがその場で直した。中々の手並みだったが、着ている状態の服にハサミを使ったり針を使ったりするのは良くないと思う。怖かった。
あまり乗り気ではなかったが、終わってみればこういうのも悪くない気がする。それに欲しい服が見つかったし。
「この服と同じものが欲しいの?」
「ああ。作れるか?」
「特別な生地が必要だね。持ってきてくれれば作れるよ」
「わかった。布を見つけたら持ってくる」
どこで売っているか知らないが、見つけたら買おう。いや、絶対に見つけるのだ。
「フェル姉ちゃん、何の服が欲しいの?」
「ジャージだ」
着心地が最高だった。あの服に包まれて寝たい。




