アビス
普通の住居型ダンジョンでいいのに、ダンジョンコアが変なことをしている気がする。
「今の命令は取り消しだ。普通の住居型、えっとシェルターで管理してくれ」
「その命令は受けられません」
「なんだと?」
どういう事だろうか? ダンジョンコアが逆らったとか言う話は聞いたことない。もしかして謀反?
「現在実行中の命令を停止するには、マスターの命令が必要です」
「マスターって誰だ? 私じゃないのか?」
「声紋情報からライブラリを検索中……確認しました。マスターはアンリ様です」
落ち着こう、クールだ。こういう時はツボを押すと良い、と聞いたことがある。……畑にツボなんかない。むしろ、あったら押さずに割る。いかん、色々と混乱している。
とりあえず深呼吸だ。シンプルイズベスト。よし確認しよう。
「なんでアンリがマスターなんだ?」
「最初の命令をしたのがアンリ様だからです。……再構築、完了しました。現在のタイプはアトラクションです」
最強で最高のダンジョンを作れ、と言う命令の事だろうか。もしかして刷り込み? そしてダンジョンが何かに変更された。
「アンリ、普通の住居型でダンジョンを再構築するように命令してくれ」
「絶対に嫌」
断固たる拒否。そこまで拒否するようなことだろうか。
「最強で最高のダンジョンでなくてもいいだろう? 普通の住居で問題ないじゃないか」
「家族が住む家は最強で最高であるべき。それ以外は認めない」
魔物達がちょっと涙ぐんでる。ノリがいいと言うかなんというか。それとも本気で感動しているのだろうか。大体、どこに泣く要素があった。最近、従魔達のことが良く分からない。
「お前の家族思いは分かった。だが、そもそも最強ってなんだ? イメージだけで語っているんじゃないのか?」
「最強は最強。誰にも負けないダンジョンのこと」
ダンジョンが誰にどうやって勝つんだ?
「命令を確認しました。誰にも負けないダンジョンにします。同タイプの疑似永久機関を確認中」
「やめろ」
「その命令はマスターしかできません」
なんだろう、このイラッとする感じは。
「なあ、アンリ。もし、変なダンジョンになって、魔物達が住めない状態になったらどうする。普通こそが最高なんだぞ?」
なんとか説得してダンジョンコアの怪しい動きを制限せねば。なんというか、とんでもないことになりそうな気がする。
「普通なんて駄目。最強で最高。みんなも分かってくれる」
周囲の魔物達は頷いた。ものすごいアウェー感。大半が私の従魔なのに。
「同タイプの疑似永久機関が判明しました。メビウス、パンドラの二つです。現在の利用者数はメビウスが約一万、パンドラが約二千になります。当面はパンドラを目標に利用者数の増加を目指します」
地下庭園メビウスってアトラクションというものだったのか。あそこは色々な魔物に襲われるけど、魔都ウロボロスよりはマシだったはずだ。それに魔族や獣人が住んでいるしな。なら、アビスも住めるかな。
パンドラっていうのは初めて聞くな。人界にあるのだろうか? 魔界にはないと思うが。
「あと、ダンジョンはどんどん大きくして。それと家族が住むから快適にしてあげて」
「命令を確認しました。拡張機能の制限を解除します。滞在する生命体に合わせて階層の環境を変化させます」
考え事をしていたら、いつの間にかアンリが命令をしていた。色々と手遅れな気がする。これはもう仕方ないな。メビウスの前例もあるし、全く住めない、という状態にはならないだろう。物事には妥協って必要だ。
「アンリ、とりあえず納得してやる。ただ、ダンジョンがどういう状態になるか分からない。変な状態になったら絶対に変更させるぞ?」
妥協はするが譲れない一線というものはある。そこだけは押さえなくては。
「もちろん。一番大事なのはみんなのこと。何かあればすぐに命令する」
なら、大丈夫かな。ものすごく心配だけど。
「そうだ。もう一つ命令。手抜きは駄目だけど、無理はしないで。アビスも同じ村に住む家族だから」
はて? 反応がない。どうした?
「……命令を確認しました。アンリ様のために全力をつくします」
あれ? なんかものすごい感情的に答えたような気がしたけど、気のせいかな?
「初期の命令を確認しました。以降、制御ルームで対応します。アンリ様と一定の権限を持つ方のみ、制御ルームへの入室が可能です」
「私は一定の権限を持っているんだよな?」
「持っています。アンリ様より権限は低いですが」
なんで、わざわざアンリより低いと言ったのだろうか?
なんだろう? コイツといい従魔達といい、最近、私の扱いが酷くなっている気がする。もしかして、私は駄目な上司なのだろうか? それともアンリのカリスマパワーがすごいのか?
「では、失礼します」
ひし型の水晶が透ける様に消えた。おそらく制御ルームに転移したのだろう。
いつのまにかダンジョンコアがいたところに地下に向かう階段があった。それなりの大きさがあるな。これなら大狼も入れるだろう。
「フェル姉ちゃん、入ろう。視察しないと」
「そうだな。最初ぐらい見ておかないとな。お前達も来るだろう? 住むなら早めに行って、いい場所をとった方がいいぞ?」
魔物達が我先に、という状態でダンジョンに入って行った。ただ、スライムちゃん達だけは残っていた。どうしたのだろう?
行かなくていいのか聞いてみると、「アンリ様の護衛をします」と言った。まず、私の護衛ではないだろうか。言わないけど。
まあいい。とりあえずダンジョンに入ろう。
階段を下りると、最初は何もない広間だった。エントランスみたいなものかな。
「明るい。なんで?」
アンリが何もない広間を見渡してから、キョロキョロしだした。ダンジョンの中に光があるのが不思議なようだな。
「ダンジョンコアが作ったダンジョンに入るのは初めてか? この光もダンジョンコア、ああ、いや、今はアビスか。アビスが光を作ってる」
「すごい。どうやって作ってるの?」
「詳しくは知らん。開発部の奴らが言うには、ダンジョン内の生命体、つまり私やアンリも含まれるんだが、その生命体から魔力を少しずつ吸収しているらしい。その魔力を使用して光を作ってる」
もしかしてアビスに聞けば教えてくれるのだろうか?
「アビスはすごい」
そうだ。単純にすごい。旧世界の技術というのは想像を超えている。どうやったらこんなものが作れるのか。
そしてこれだけのものを作れるのなら、どうして旧世界の奴らはいなくなったのか。うーん、ロマンだな。いつか調べてみたい。
「フェル姉ちゃん、どうかした?」
「ちょっと考え事だ。どうやら通路から奥に行けるようだな。行ってみるか?」
広間から一つだけ奥に行けそうな通路がある。そこを指してアンリに聞いてみた。
「うん。これが私の第一歩。探検デビュー。初戦は白星で飾る。失敗は許されない」
「そうか。何言っているかわからんが、負けないように頑張れ」
アンリは魔剣七難八苦を構えた。本当に何かと戦う気か。従魔達を襲うなよ?




