商売
「冒険者になったのにギルドに依頼が一つもないってどういうことだ?」
「落ち着いてフェルちゃん! 拳に魔力が集中してるよ!」
そうだ、落ち着こう。クールだ。こういう時は素数を数えるべきだと聞いたことがある。でも、素数ってなんだ?
「よく考えてフェルちゃん。この村には冒険者がいなかったから依頼がなかったの。でも、今日、ここに新しい冒険者が生まれた。これからは依頼がざっくざくだよ!」
そうだろうか。先ほど、村の人たちは自分のことは自分で出来るから依頼しない、とも言っていたようだが。
「しばらく様子を見てよ。私もフェルちゃんが冒険者になったことを言いふらすから。そうすれば依頼が来るよ」
「わかった、信じよう。人族のことは私より遥かに詳しいだろうしな」
「うん、依頼が来たら知らせるから。全部フェルちゃんにまかせるよ!」
そりゃ、冒険者が私しかいないからな。なんかこう、納得いかない感じもするが、魔族と人族の文化の違いかもしれないしな。
「ものすごく納得いかないが、しばらく様子をみよう。依頼があったら教えてくれ」
そう言ってギルドを後にした。次は雑貨屋だ。
すぐ隣だから移動は簡単だな。
「たのもー」
「い、いらっしゃい」
確かヴァイアという名前だったはずだ。相変わらずオドオドしている。確か魔法が使えないことを話題にするのは駄目だったはず。見える地雷は踏まない。
「魔界から持ってきたものをお金に換えておきたい。ちょっと見てもらえないか。それとそんなにオドオドしないでくれ。殴ったりしない」
「う、うん、頑張る」
深呼吸した。そんなにか。
「じゃあ、物を見せて」
空間魔法で亜空間にしまっていたものを取り出した。最初に取り出したのは一本の剣だ。大昔、魔界に来た勇者が持っていたというものだ。聖なる波動が強すぎて、ちょっと魔族には気持ち悪い。魔界の宝物庫を管理している奴から適当に処分してほしい、と渡された。早く手放したい。なんか呪われそう。
亜空間から剣を取り出したときにヴァイアに驚かれた。剣を見るともっと驚かれた。数秒見ただけで顔を横に振った。
「ごめんね。これは買えないよ」
なんでだろう。人族にとっては価値がありそうなものだけど。
「これ、聖剣だよね。国宝級だから値段がつかないよ」
どこまでも役に立たない剣だ。金属にも戻せないし、亜空間の奥の方にしまっておこう。
「じゃあ、これはどうだ?」
以前、魔界で暴れたドラゴンの牙だ。当時の魔王が倒したらしい。重いし硬いし使い道がないので、これも魔界で渡された。
「この村のお金を全部集めても買えないよ……ドワーフさん達なら、高く買ってくれるかも。金属以外でも物の加工が得意だから」
沢山あるし、亜空間を圧迫するから売り飛ばしたいんだが、これも駄目か。
なら、魔道具とかならどうだろう?
「これならどうだ?」
禁術メテオストライクが使える魔道具だ。使うと範囲に巻き込まれて死ぬけど。
「亜空間内に封印して二度と出さないで」
駄目だった。
「買ってもらえる基準がわからん」
「もっと普通のものなら」
普通、普通……普通ってなんだ? 異常の反対だよな? 今までの物は普通じゃないのか。私の考える普通は普通じゃない? 哲学的な考えが必要なのか?
「店の商品を見てみて。値段も教えるから」
なるほど。店に置いてあるものを見てから考えれば良いのか。早速見てみよう。
「この瓶に入っているものは何だ?」
「それはポーション。薬草を煎じて液体にしてる回復薬。小銀貨一枚だよ」
聞いたことがある。魔界だと薬草をそのまま食べるから、こういうのは無いな。いや、そういえば、宝物庫にもエリクサーというポーションに似たようなものがあった気がする。あれなら売れただろうか。
「これは何の魔道具だ?」
「火をつける魔道具だね。使い捨てだから安いよ。大銅貨一枚」
メテオストライクは駄目だが、火をつける程度なら大丈夫なのか。同じ火をつける魔道具なら大丈夫だろうか。辺り一帯、火の海になるけど。魔界の宝物庫にあった気がする。
「これはなんだ? 何の魔力も感じないが」
「それはただのモップ。床掃除につかうものだよ。売り物じゃなくて店の備品」
床掃除か。そういえば、宿屋で見かけたような気がする。掃除をする道具なのか。
……ほかにも色々と商品のことを聞いて、よく分かった。
ここで売れるようなものは持ってない。持ってきているものは人界では価値が高すぎるようだ。まいった。どうしよう。夜盗退治の報奨金がもらえるまでお金がない。冒険者ギルドの依頼に賭けるしかないかな。
「商人さんがこの村を通るから、その人達ならフェルちゃんの物を買えるぐらいお金を持っているかも」
お前も私をちゃん付けで呼ぶのか。まあ、いいけど。しかし、商人か。いつ来るかわからないが、ソイツらに売れるならそれでもいいかな。
さて、もうお昼になるし、一度、宿屋に戻って昼食を食べるか。
「色々勉強になった。また来る」
「うん。今度は何か買ってね」
そういえば、二日連続でただの冷やかしだった。しかし、お金が無いのだから仕方がない。お金が手に入ったら何か買おう。教えてもらった中ではモップが気になる。でも、売り物じゃなかったか。
雑貨屋を出ると、いきなりディアに捕まった。
「仕事の依頼が来たよ!」




