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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第四章

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ヤト

 

 姿を真似る。身体能力はそのまま。さらに能力制限なしか。だが、魔力までは真似することはできないようだ。少なくとも私ほどの魔力は持っていない。


 それにしても、コイツのやりたいことが良く分からない。単純に魔族の身体が欲しかっただけか? それとも何かあるのだろうか?


「私の姿で何をするのかは知らんが、魔族は人族と友好的な関係を結ぼうとしている。人族に敵対行動をとると言うなら殺すぞ?」


「怖いですね。ですが、殺せますか? 私はこの体の身体能力を百パーセント引き出せるんですよ?」


「試してみるか?」


 転移してボディブロー。だが、相手のパンチで弾かれた。初めての経験だ。ちょっとびっくりした。


「貴方の攻撃パターンは記憶から見せてもらいましたよ? 本来なら分かっていても対処できませんが、この体なら別です。ふふ、素晴らしい身体ですよ!」


 褒められてはいるのだろうが、うれしくないな。さて、どうするか。こっちも制限を解除してぶちのめそうかな。私の顔でへらへらされるのもなんか嫌だし。


「フェル様、本気でやっていいかニャ?」


 先程、吹っ飛ばされたヤトが怖い顔をして言ってきた。


「大丈夫か? というか、何でそんなに怒ってる?」


「ウェイトレス服を汚したニャ。万死に値するニャ」


 そこは嘘でも、私を真似ているのが不快だからとか言って欲しい。というか、その服で戦うな。防御力が低いだろ。


「やれやれ、魔族の身体能力を見ましたよね? 貴方じゃ勝てませんよ? 噂通り獣人は馬鹿なんですか?」


「身体能力だけで勝てると思っている方が馬鹿ニャ。それに転移出来ないフェル様なんて雑魚ニャ」


「ちょっと待て」


 え? そんな風に思われてるのか? 転移できなくても強いぞ……強いよな?


「魔族が雑魚ですか。魔族の力を知らないと見える。いいでしょう、私はドッペルゲンガーですが、魔族の力を見せてあげますよ」


「お前も獣人の力を知らないようニャ。教育してやるニャ」


 そんな事よりも私が雑魚であることを否定してほしい。ここはドッペルゲンガーを応援するべきだろうか。


 そんな私の考えをよそに、ゆらり、とスローモーションのようにヤトが動いた。視覚や体感時間を狂わせる陽炎とか言うスキルだったか? なぜか見てしまい、いつの間にか近寄られると言う嫌なスキルだ。


 ヤトがドッペルゲンガーのそばにいた。そして、いつの間にか持っていたナイフでドッペルゲンガーを刺す。


「え?」


 なぜか刺されてからドッペルゲンガーが驚いた。いつまで見てるんだ? というか、ヤトの奴、私の姿を躊躇なく刺したな。ちょっとは葛藤があったりしないのだろうか? もしかして、普段から刺したいと思ってる?


「グアアアアァ! 何を、何をしました!」


「刺しただけニャ」


 そういうことを聞いたんじゃないと思うぞ? どうやって刺したのか、という問いかけだと思う。


 ドッペルゲンガーは刺された場所を抑えながら、ヤトから距離をとった。ヤトはそれを追いかけなかった。まさかいたぶるつもりか? 私の姿をしているのに? ヤトとは後でちゃんと話をしよう。


「なぜ! なぜ、そんなナイフで魔族の体に傷をつけられるのですか!? ふざけないでください!」


「ふざけてるのはお前ニャ。貫通スキル付きのナイフを躱さない方が悪いニャ」


 貫通スキルか。あれは防御力無視攻撃だからな。私でも痛い。確か「窮鼠噛猫」とかいうナイフだったかな? しかし、ヤトが使っていいのだろうか? 名前的に。


「あ、貴方の名はなんと言うのですか?」


「いまさら名乗りかニャ? 黒猫族のヤト、ニャ」


「ヤト、ヤト……」


 どうしたのだろう? ヤトの名前を言いながらブツブツ言っている気がする。もしかして、私の記憶からヤトの情報を得ようとしているのか?


「情報を見つけましたよ! 貴方は……えっと……ウェイトレス?」


「看板娘ニャ」


 ドヤ顔だ。だが、それは初耳だ。いつの間に。


「馬鹿にしてるのですか! そんなわけないでしょう! もっと別の記憶を……!」


 やっぱり記憶を見ているのか。一瞬で記憶のすべてを理解するのではなく、思い出すような感じなのか?


「ま、魔王軍強襲部隊隊長……? し、漆黒のヤト……?」


「そのチューニ病な二つ名はもう捨てたニャ」


 なつかしいな。ダンジョンで魔物暴走が発生した時は、他の獣人達を率いてボスの魔物に突撃していた。多くの魔物を屠っても、返り血を浴びないヤトは、どんな時でも黒猫なので、漆黒という二つ名がついた気がする。


 なんだろう? ディアがちょっとそわそわしている。あれか。ブラッディニードルに近い物を感じたか。


「これは予想外ですね。ですが、貴方の情報は確認しましたよ! 今度はこちらの番です!」


 ドッペルゲンガーが一瞬で間合いを詰めると、ヤトに向かってパンチを繰り出した。


 だが、ヤトは難なく躱している。結構速いパンチなんだけどな。


「私の方が速いのになぜ当たらないのです!」


「フェル様と同じか、それ以上の身体能力を持っていても、使い方が駄目ニャ。攻撃が単調過ぎて読めるニャ」


 そういうのを教える必要は無いと思うのだが、心を折りにいってるのかな。


「馬鹿な! この体さえあれば私は!」


「終わりニャ」


 ヤトはナイフでドッペルゲンガーの胸を一閃した。何の躊躇もない。自分が切られたみたいで、なんか痛くなってきた。


 切られたドッペルゲンガーは膝をついた。切られた胸を押さえてうずくまっている。


「どういう事ニャ?」


 ヤトがナイフを見て首を傾げている。どうしたのだろう?


 その一瞬の隙を突いて、ドッペルゲンガーは右足で、ヤトに足払いをしてきた。ヤトはバク転してそれを躱す。


 ヤトとの距離が離れた瞬間に、ドッペルゲンガーが煙に包まれ、鳥に変身した。逃げる気か?


 飛ぶのを警戒していたら、鳥はノスト達の方へ高速で向かった。ノスト達の前に転移して、鳥をパンチで殴る。


 ノスト達を守れたのはいいが、鳥のドッペルゲンガーを殴ったせいで距離が離れすぎた。殴られた勢いを利用して、空へ逃げたようだ。


「す、すみません、フェルさん。私のせいでアイツを……」


 ノストが謝ってきた。相変わらず真面目な奴だ。


「そんなことはない。逃げられたのは、パンチの力加減が良くなかったからだ。もう少し軽く殴るべきだったな。だが、安心しろ。アイツには探索魔法の印を付けてある。いつでも追える」


 しかし、アイツはヤトに胸を切られて致命傷だった気がする。でも、かなり元気だった。そういえばヤトが首を傾げていたな。


「ヤト、何があった?」


「アイツの胸を切った時、血が出なかったニャ」


 血が出ない? 痛みは感じていたようだが、ドッペルゲンガーってそんな魔物だったろうか? 特殊なドッペルゲンガーだから他の能力があったりするのかな?


 とりあえず、これから追うか。私の姿で変な事をされたら困る。


 アイツを追おうとしたら、ディアに止められた。


「フェルちゃん、まずはさっきの奴の事を調べない? 魔物事典に書いてあるかもしれないよ?」


 そうだな。もしかしたら何か分かるかもしれない。有無を言わさずボコボコにしてもいいけど、情報は大事だ。


「分かった。調べるだけ調べてみよう。それとヤト」


「はいニャ」


「なんで私の姿に対して、躊躇なく刺したり切ったり出来るんだ? それに転移できなければ私が雑魚ってどういうことだ? ちょっと話そう。宿の裏に行くか?」


「そういえば、掃除中だったニャ。その話は後ニャ」


 ヤトは陽炎スキルを使って逃げた。


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[一言] 転移できないフェルは雑魚…
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