空中都市
会合が終わったので、お土産を渡してしまおう。
スライムちゃん達に石鹸を渡した。喜んでくれた気がする。ただ、口から体内にとりこんだから、ビジュアル的にどうかと思う。
ついでに洗濯を頼んだ。お土産効果でタダになるかと思ったが、そんなことは無かった。ポイントカードのポイントも増えないらしい。えこひいきは無いようだ。
次はドワーフにお酒を渡そう。
「おう、なんじゃ? まだ、工房を建てておらんので加工は出来んぞ?」
「いや、お土産を持ってきた。ほら、アンリから渡すといい」
アンリがドワーフ殺しを渡した。アンリが持つとかなり大きい瓶に見える。
「私はアンリ。これは鍛冶をしてもらうための心付け。よろしくお願いします」
アンリが頭を下げると、ドワーフのおっさんはびっくりしたようだ。だが、数秒後には笑ってアンリの頭を乱暴に撫でた。
「おう、お嬢ちゃんからこんなものを貰えるとはな。ありがたく頂戴しよう。儂の名はグラヴェじゃ。こちらこそよろしく頼む。ところで嬢ちゃんの何を鍛冶するんじゃ?」
ドワーフのおっさんがそう聞くと、アンリがこちらを見た。そういえば、ミスリルの剣は亜空間に入れたままだ。亜空間から取り出して、ドワーフに見せる。
「この剣をアンリにあげたのだが、むき出しなので鞘がほしい。あと、アンリには大きすぎるので、丁度良いようにカスタマイズしてほしいのだが」
「ほう、ミスリルの剣か! だが、嬢ちゃんには早いんじゃないか? 危ないと思うがの?」
「大丈夫。ミスリルの剣はいざという時にしか抜かない。使用上の注意も守る」
「ふーむ、それなら、嬢ちゃん。儂に最初から作らせんか? この剣は良いものだが、いわゆる中古品じゃ。フェルからミスリルを受け取れることになっているから、嬢ちゃん専用に新品の武器を作ってやるぞ?」
「専用……!」
アンリがものすごく喜んでいる。そういう姿を見ると、年相応に見える。
「おうよ。嬢ちゃんの意見を取り入れた、嬢ちゃんだけの武器じゃ。その分、時間は掛かるがな。どうするかね?」
「アンリの意見を取り入れる? もしかして変形したりできる?」
そこに目をつけるとは。私の武器も変形するからな。あれはいいものだ。
「変形? そういうギミックを入れたいのか? 物によるがそういうのも可能じゃな。蛇腹剣のように剣が鞭のようになるものもあるし、元は一本なのに二本に分かれる剣とかもある。まあ、試行錯誤は必要じゃがな」
アンリが両手のこぶしを上にあげた。
「アンリの時代が来た」
そう言った後に、アンリがこちらを見上げてきた。
「フェル姉ちゃん。せっかくお土産でくれたけど、ロマン溢れる剣を作って貰いたい。いい?」
「かまわん。どちらでも私は約束を果たしたことになるだろうからな。だったら、好きな物を作って貰え。自分専用の武器というロマンは私にも分かる。ただし、作って貰ったら大事にしろよ?」
「家宝にする。秘宝の永久欠番。殿堂入り」
大事にするという意思は伝わった。
「じゃあ、そういう形で作ってくれるか?」
「おう、色々と準備があるからすぐにとは言えんが、嬢ちゃんの意見を取り入れた最高のものを作ってやるぞ。腕が鳴るわい」
日用品が得意と言っていたが、それなりに武器なども詳しいのだろうか。アンリの期待に応えるのは大変だと思うが、頑張ってもらいたい。
その後、ドワーフに包丁や針、腕輪とメイスも改めて頼んだ。だが、工房がいつ頃出来るのか分からないから時間が掛かりそうだ。工房が出来たら改めて頼みにこよう。
さて、畑ですることも終わったな。次はどうするか。
「リエル、アンリ、一通り案内が終わったんだが、二人はどうする?」
「俺はもういいぜ。村はほとんど回ったんだろ? 以前、フェルが言った通り、いい男がいなかったぜ……」
まあ、そんな事だろうとは思ってた。
「今日の社会勉強は終わり。これから家に帰っておじいちゃんとダンジョン設置の交渉をする」
頼むから暴力に訴えるなよ?
「じゃあ、一旦戻ろう。畑仕事の邪魔になるからな」
一度宿に戻ってこれからどうするか考えよう。
広場に戻ると、アンリはそのまま家に帰ると言った。
「今日はとてもいい日だった。でも、これからが勝負。皆のためにも必ず勝って見せる」
「無理するなよ」
アンリは手を振って家に帰って行った。背中から強い意志を感じる。だが、ダンジョンを作るなんて許可は下りないだろう。気を落とすなよ。
「さて、俺はどうすっかな?」
「教会で掃除でもすればいいんじゃないか? シスターだろ?」
「今日は休むって決めた。絶対にやらねぇ」
変なところで意思が固いな。ディアに似たものを感じる。
「おい、あれって」
リエルが空の方を指して、顔を引きつらせた。
指した方を見るとカブトムシが飛んでいた。もしかするとノストを連れてきたのかな?
カブトムシがゆっくりと広場に着陸した。荷台には四人ほど乗っているようだ。一人はノスト。他の三人は以前村に来たことのある兵士達のようだ。
「良く来たな。空の旅はどうだった?」
「思ったよりは快適でしたが、やはり怖いですよ」
ノストはそう言いながらも笑っている。思ったよりも問題はないのだろう。だが、残りの三人が涙目だ。
「お前たちは宿に部屋を取って休むといい。私は村長にしばらく滞在する旨を伝えてくる」
ノストがそう言うと三人の兵士達はフラフラしながらも宿に向かった。
「では、私は村長に挨拶に行ってきます」
「そうか。後でヴァイアの店にも顔を出してやってくれ。挙動がおかしくても気にしないようにな」
「ええと? よくわかりませんが、分かりました」
さて、私は宿に戻るか。夕食には早いが特にすることも無いからな。
「リエル、私は宿に戻るが、お前はどうする?」
「ああ、俺も行く。喉が渇いたから、なにか飲み物をおごってくれよ」
「水を奢ろう。タダだから」
宿に入ると、兵士達が一つのテーブルを囲んで怖い怖いと言っていた。なにやらトラウマになってしまったようだ。
そしてそれを聞いたリエルは頷いている。
「人は空を飛んじゃいけねぇんだよ。自然の摂理的な問題があるぜ?」
「そうか。まあ、無理に乗せるつもりは無いから、移動には馬車とかを使ってくれ。この村では馬車どころか馬すら見たことはないがな」
「まあ、特にどこかへ行くわけじゃないからな。馬がいなくても問題はねぇよ。それに、しばらくは村でゆっくりさせてもらうぜ。聖都からここに来るまで結構大変だったからな」
捕まったりしていたからな。ただ、聖都か。聞いてみようか。
「聖都ってどんなところなんだ?」
「んー? 女神教の総本山だな。白一色って感じの都だぜ? そういえば空中都市というのがあるな。絶対に行きたくねぇが」
「なんでだ?」
「いや、それはお前、カブトムシと同じ理由だよ。人は、空を、飛ばない」
そういう事か。どういうものなのかは知らないが、おそらくカブトムシが飛ぶ高度よりもさらに高いところにあるのだろう。だが、そうなると不思議だな。どうやって行くのだろうか?
「確か、教皇だけが空中都市に行けるんだよな?」
「良く知ってんな。確かにその通りだぜ。四賢でも行けねぇんだ」
「どうやって行くんだ?」
「詳しくは知らねぇ。転移装置というものがある、とか聞いたことはあるが、見たことはねぇな」
転移装置? 確か世界樹の中にもあった気がする。それを使って行くという事は、そこに女神がいるという事なのだろうか。村長も空中都市には女神がいるらしいとか言っていたし、可能性は高いな。
「女神に会ったことはあるか?」
「いや、ねぇよ。そもそも実在するかどうかも分からねぇだろ? 一応、教皇が空中都市で会っていると言っているが、眉唾だな」
「聖女の立場でも、実在するかどうかは分からないのか」
「そうだな。見たことねぇ奴を信じるほどお人よしじゃねぇよ」
なんで女神教に入信したんだ。聖女として、いや、女神教の信者として問題発言だぞ。まあ、その分、リエルを信用できるとも言えるが。
「いい男なら会わなくても信じるけどな! 信じる者は救われるって言葉知ってるか?」
前言撤回。コイツは信用しちゃ駄目だ。




