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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第四章

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魔物会議

 

「ニア姉ちゃん。小銅貨三枚でお酒を買える?」


 食後の余韻を楽しんでいたら、アンリがそんなことを言い出した。ドワーフのおっさんに持っていくお土産か。


「子供のうちからお酒なんて駄目だよ? アンタ達、変なことを教えたんじゃないだろうね?」


 濡れ衣だ。変なことを教えているのはディアだけだ。


「お酒は二十歳になってから、だから飲まない。欲しいのはドワーフおじさんへのお土産。鞘を作って貰うから」


「そういうことかい。でも、さすがにお酒は小銅貨三枚じゃ買えないね」


「残念。でも、手ぶらで行くのは気が引ける」


 しっかりしたお子さんだ。村長の教育だろうか。


「アンリちゃん。私も腕輪を作って貰うんだ。私もお金を出すから一緒に買おうか?」


 そういえば、ヴァイアもミスリルの腕輪を作って貰う予定だったか。


「いいの?」


「もちろん。アンリちゃんのお土産に便乗させてもらうだけだからね!」


 いいお姉ちゃんだな。


「俺もメイスを作って貰う予定だったな。だが、金がない。俺は気持ちだけで」


 駄目なお姉ちゃんだ。


「私は針を作って貰うけど、それはフェルちゃんのお土産だからね。フェルちゃん、よろしくね?」


 駄目なお姉ちゃん、その二。


 私は余ったミスリルをくれてやる立場だから、そういうのは不要なんだが。だが、気持ちよく仕事をしてもらうためにもお土産は必要か。それに金はある。


「ニア、ドワーフが好きそうな酒は置いてあるか? 私が金を出すから売ってくれ。アンリ、ヴァイアとの共同購入だ」


「そうかい? それなら、『ドワーフ殺し』だね。大銀貨一枚だよ」


「いや、亡き者にしてどうする。お土産だぞ?」


「そういう名前なだけで、そんな効果はないよ。ドワーフが死んでしまうほど、アルコール度数が高いという意味さ。他にも『ドラゴン殺し』とか、『不死鳥』とかあるけど、お勧めはしないね」


 よくわからないが、ニアが勧めるなら間違いないだろう。買いだ。


「わかった。『ドワーフ殺し』を売ってくれ。ドワーフのおっさんに渡す」


「まいどあり」


 ニアが厨房に入って行った。お酒を持ってきてくれるのだろう。


「フェル姉ちゃん、これを受け取って」


 アンリが小銅貨三枚を渡してきた。


「いや、それはいい。アンリの心意気に打たれた。全額私が払おう。それはいざという時のために取っておけ。もちろんヴァイアもいいぞ」


「フェル姉ちゃんが恰好良く見える……!」


「いままでどう見えていたのか言ってみろ。怒らないから」


 アンリは答えてくれなかった。




 お酒を買って宿を出る。ディアとヴァイアはギルドと店にそれぞれ帰っていった。


「よし、次は畑に行こう」


「正直なところ、畑を案内されても困るんだが、暇だから行ってやるぜ」


「今日は会合を開く日。そろそろ時間だから早く行った方がいい」


 会合? そんなものがあるのか。初めて知った。というか、畑でやるのか?


 とりあえず、三人で畑に向かった。




 畑では村の奴らが畑仕事をしていた。会合があると聞いたが、特にそれらしき事はしていないようだが。


「フェルちゃんにアンリちゃんじゃないか。えーと、もう一人はシスターのリエルちゃんだったかな?」


「おう、昨日から世話になってるぜ。よろしくな! 怪我したら教会に来いよ。治してやっから。その代わり、教会に寄付してくれ」


 治療院みたいなことをするのか? タダで寄付を募るよりはマシだな。


「はは、そうなのかい? じゃあ、その時は頼むよ」


 そのまま畑仕事に戻ろうとしている。会合は無いのだろうか?


「会合があると聞いたのだが?」


「会合? そんなものは無いけどね?」


 不思議に思ってアンリを見ると、逆に不思議そうな顔をされた。


「フェル姉ちゃん、会合はあっち」


 アンリが指でさした方を見ると、小屋の前で魔物達が座っていた。そうか。あっちの事か。


「そういえば、たまに魔物達が集まって何かやってるね」


「邪魔したな。向こうに行ってみる」


 早速、借りている北側の畑に行ってみよう。嫌な予感がする。




 小屋の前に着いた。


 どうやら、オークとカブトムシ以外の魔物がすべて集まっているようだ。なぜかドワーフのおっさんもいた。


「何をしているんだ?」


「なぜか連行された。儂は魔物ではないのじゃが?」


「まあ、新参者だから連れてこられたのかもな。だが、それは後だ。ちょっと問題が発生している」


 会合はいいだろう。魔物同士の交流も必要だ。新しい魔物達も居るから挨拶も必要だろう。


 だが、納得できないことがある。


 なんでスライムちゃんが四匹いるのだろうか?


「魔物がこれだけいると壮観だな! でも、なんでフェルはそんな難しい顔してるんだ? 従魔なんだろ?」


「ちょっと黙っていてくれ」


 心を落ち着ける時間がほしい。


 どんな答えが返って来ても受け入れるだけの度量を見せないと。


 よし、大丈夫だ。ジョゼフィーヌに聞いてみよう。


「なぜ、スライムちゃんが四匹いる?」


 なぜか、ものすごい不思議な顔をされて、「増えました」という回答をくれた。しかし、その後に何も続かない。


 最初に結果を伝える。間違いではない。だが、過程は大事だ。むしろ今回はそこが重要。


「どうやって増えた?」


 さらに不思議な顔をされて、「頑張りました」という回答をくれた。


 何をどう頑張ったのか。これは聞いてはいけないのだろう。世の中には魔法で説明できないことがたくさんある。そのうちの一つなのだ。聞くのは諦めよう。


 増えたスライムちゃんが一歩前に出て来て挨拶してきた。アンリに。ついでに私にも。


 話を聞いてみると、名前はマリーと言うらしい。いきなりのネームド。何をどうやったら進化するのだろう。これが頑張った成果なのだろうか。他にも色々聞いてみると、仕事は財務管理だそうだ。言葉は分かるが、何を言っているのかよく分からない。


 顔合わせが終わったので、これから会合を始めるようだ。


 ジョゼフィーヌが木箱を持ってきた。アンリが木箱の上に乗ると宣言した。


「第三回魔物会議を始める」


 拍手が起きた。もう三回目なのか。


「なあ、なんでアンリが仕切ってるんだ?」


「アンリがボスなんだ。私より偉いらしい。アンリをいじめたりしたら、この村では生きていけないぞ」


「マジかよ」


 というわけで会合が始まった。




 まずは、新しく来た魔物達が挨拶した。ドワーフ、シルキー、バンシーがそれぞれ、得意なことを説明していった。それらをベースとした仕事をするらしい。


 最後にキラービーが立ち上がり自己紹介をした。そして「ハチミツを作りたいので花が欲しい」と言った。


 私がなぜかと聞いてみると「ハチミツを作るのには花の蜜が必要なんです」という回答をくれた。


「なんだ。じゃあ、ハチミツじゃなくて、ハナミツじゃないか」


 そう言った直後、キラービーに、ものすごい詰め寄られた。


 キラービーに「あれはハチミツなんです! 原料は花の蜜ですが、蜂が集めるからハチミツなんです!」と涙ながらに訴えられた。プライドがあるようだ。従魔契約が無かったら刺されていたかもしれない。


 思ったことを言っただけなのに、傷つけてしまったようだ。言動には気を付けないとな。


「花の蜜なら、ヒマワリかアルラウネからもらえばいいんじゃないか?」


 今度はヒマワリとアルラウネが下を向いて震えだした。どうした?


 どうやらセクハラになるらしい。羞恥で震えていたようだ。花に蜜を貰うのはセクハラになるなんて、そんな花界のルールは知らん。


 だが、謝罪はしよう。禍根を残すわけにはいかない。


 そして、この会合に出て分かったことがある。私は発言しない方がいい。黙ってみていよう。




 最後に住居についての話になった。さすがに小屋だけでは厳しいらしい。シルキーやバンシーのような人型でも宿に泊まるにはお金の問題があるので、新しい住居を作ることになった。


「魔物と言えばダンジョン。ダンジョンは作れない?」


 アンリの提案に周囲から感嘆の声が上がる。


 ジョゼフィーヌが「ダンジョンコアがあれば簡単に作れます」と言って、私を見てきた。他の魔物達も私を見る。


 ダンジョンコアを用意しろという事だろうか? 確かに魔界には未使用のダンジョンコアがある。だが、この村にダンジョンの入り口を作って良いのだろうか?


「村長に聞いてからだ。村長の許可が無ければ駄目だぞ。待て、全員で行こうとするんじゃない。それは脅しに近い行為だ」


 ぞろぞろと魔物達が村長の家に行きそうだったので引き留める。


「アンリ、ここはボスとして村長と交渉してくれ」


 面倒だからアンリに任せよう。多分、村長も許可は出すまい。


「任された。この魔剣を使う時が来た」


「暴力に訴えるなよ? それは最後の手段だ」


 こうして、第三回魔物会議は終了した。


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