表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/717

約束

 

 とりあえずパンを二つ買った。余計な出費だ。


「フェル、この料理、トマトがかぶってるな。サラダの上に乗ってるトマトは貰っていいか?」


「いいわけないだろう。パンを二つ食っておいて、さらにたかる気か?」


「フグを解毒してやったろ? パンは正当な報酬だ」


「だから殴るのは勘弁してやったんだ。感謝しろ」


 ニアが厨房から出て来てパンを渡してくれた。早速食べよう。ベーコンエッグが冷めてしまう。


 ベーコンエッグの黄身を潰すかどうか迷っていると、リエルが座りながらニアを見上げていた。


「えーと、ニアだっけ? 昨日食った料理は絶品だったぜ! あれだけのものは聖都でも食ったこと無かったと断言できるぞ」


「そいつはありがとうよ。うちは基本的に西側の料理だから、口に合うか心配だったんだがね」


「全く問題ねぇよ。昔、どっかの国王が連れてきた料理人よりも遥かに美味かったぜ」


 ニアはかなり喜んでいるように見える。自信はあるだろうが、やはり褒められるとうれしいのだろう。


「あまり口に出して言わないが、私も美味いと思っているぞ」


「フェルちゃんは顔に出るから分かってるよ」


 以心伝心というやつだろうか。違うか。フェイスコンタクト? なんか違うな。まあいいや。そうだ、お土産の件を伝えておこう。


「ニア、お土産があるのだが、まだ出来ていない。もう少し待ってくれ」


「お土産が出来ていないって、どういうことだい?」


「昨日、ドワーフを連れてきただろう? あいつにニアの包丁を作ってもらうつもりだ」


「そうなのかい? そりゃありがたいが、高いんじゃないのかい? 無理しなくていいんだよ?」


 ミスリルはタダで手に入れたものだ。鍛冶の手数料は作成後に余ったミスリルを渡すことで相殺した。元手は掛かっていないから、実質無料だな。


「問題ない。世話になっている礼だ」


「なんだか悪いね。ありがとうよ」


「礼はいらない。これからも美味い料理を作ってくれ」


「そいつは任せな。じゃあ、アタシは仕事に戻るよ。ゆっくりしていきな」


 ニアは厨房に戻って行った。これから料理の仕込みをするのだろう。昼と夜の料理が楽しみだが、結婚式の料理も楽しみだ。多分、豪勢なものなのだろう。待ち遠しいな。


 だが、今は未来の料理よりも、目の前の料理だ。


 さっそく食べようとすると、リエルがパントマイムをしていた。


「フェル! テーブルに結界を張りやがったな! 料理が取れねぇだろ!」


「そのための結界だ」


 そう何度も取られるわけにはいかん。




 相変わらずの美味さだ。黄身が二つもあったし、今日はいい日になるだろう。


 よし、お土産を渡しつつ、村を回ってみるか。仕事も探さないといけないからな。


「なあなあ、今日は何をするんだ? 暇なら村を案内してくれよ」


「爺さんに頼め。それにシスターの仕事はどうした?」


「今日は休みにした。爺さんに頼もうとは思ったんだが、なんか張り切っているから邪魔したくねぇんだよ」


 教会の仕事って休みがあるのか? なんとなく年中無休の気がするけど。それに爺さんの邪魔をしないのはいいが、私の邪魔してるのはいいのか? まあ、村を回るつもりだったから、そのついでに案内してやるか。


「一応、今日は村を回るつもりだったから、勝手についてくるのは問題ないぞ」


「そうこなくっちゃな!」


 食器を片づけてから二人で宿を出た。まずは村長の家だな。




 村長の家に来た。まずはアンリにお土産を渡さないと。ちゃんと渡さないと、後で何をされるか分からん不気味さがある。


「たのもー」


 家の中に入ると村長がいた。どうやらお茶を飲んでいたようだ。あれは熱いやつだ。魔眼を使わなくても分かる。


「おや、フェルさんにリエルさん。どうされました?」


「アンリに用があって来た」


「村を案内してもらってんだ。俺はついでだな」


「そうでしたか。おーい、アンリ。フェルさんが来ているぞ」


 少し待つと、部屋の奥にある扉が開き、アンリが出てきた。


「フェル姉ちゃん、おかえりなさい。アンリは大人しくしていた。約束は守ったと胸を張って言える。フェル姉ちゃんは約束を守れる大人?」


 それはお土産の催促か? まあ、そのつもりで来たのだから問題はないのだが。


「私だって約束は守る」


 そう言って、亜空間からミスリルの剣を取り出した。


「おお」


 めずらしい。アンリが目を見開いて驚いている。それに嬉しそうだ。


 それはいいのだが、取り出してみて問題があることに気付いた。鞘がない。しまった。剣を奪う時に鞘も持ってくるべきだった。


「このままでは渡せないな」


 アンリは露骨に嫌そうな顔になった。


「大人はいつもそう。欲しい物を直前で取り上げて、いう事を聞かせる交渉に入る。足元を見る大人には絶対に負けない」


 村長の方を見ると苦笑いをしていた。よくやる手なんだろう。アンリは荒んでいるな。


「落ち着け。そうじゃない。この剣はもうお前のものだ。だが、見ての通り鞘がない。そこでだが、昨日、ドワーフがこの村に来たことを知っているか? そいつにアンリ用の鞘を作ってもらおう。むき出しだと危ないからな。それともアンリ用に剣をカスタマイズしてもらうか? ちょっと剣のサイズが大きいからな」


 そういうと、アンリが勢いよく足にしがみついて来た。痛いのだが。


「フェル姉ちゃんはずるい。そうやってアンリの心を弄ぶ。白旗を上げるしかない」


 なんだかよく分からないが、勝手に降参してくれたようだ。私の勝ちだが、何の勝負だったのだろう?


「フェルさん、よろしいのですか? ミスリルの剣なんて高額なものでしょう? それに子供に持たせる物ではないと思いますが」


 村長が心配なのも分かるが、アンリなら大丈夫だろう。


「値段に関しては心配しなくていい。アンリ、これを使って危ない事はしないと約束できるか?」


 それを聞いたアンリは大きく頷いた。


「約束する。いざという時にしか剣は抜かない。ピーマンを出されたときはちょっと考える」


 ピーマンが食事に出ると、いざという時に近いのか?


「そうか。村長、そういう事だからアンリから取り上げるなよ」


「致し方ありませんな。分かりました。アンリが約束を守る以上、私も取り上げたりしません」


 とりあえず、これでいいだろう。ドワーフのおっさんに会ったら話をつけよう。


 よし、次は冒険者ギルドに行くか。と、思ったら、アンリがリエルを見上げているな。どうしたのだろう?


「私はアンリ。お姉ちゃんは誰?」


「おう、俺はリエル。教会でシスターやってんだ。よろしくな!」


 リエルはアンリの頭を撫でた。そういうのを見ると、まともそうに見えるから不思議だ。


「リエル姉ちゃん。アンリの部下にしてあげようか?」


「格好いいお兄ちゃんとかいるか? 紹介してくれるなら部下になってもいいが?」


 子供相手に何言ってんだ?


「お兄ちゃん?」


「アンリは一人っ子のはずだ。兄弟を見たことはない。それに子供相手にそういうこと言うな。お前みたいになったらどうする」


「聖女になったら、家族に喜ばれるだろうが!」


「聖女の方じゃない。捕食者の方だ」


「アンリは一人っ子です。兄弟はおりませんぞ」


 村長が強い口調で言ってきた。ちょっと慌てた感じもするが、どうしたのだろう?


「そりゃ残念。じゃあ、部下の件は無しだな。だが、友達ならなってやってもいいぜ?」


「分かった。リエル姉ちゃんは友達。困ったことがあったら、助けてあげる」


「じゃあ、女神教に寄付してくれないか。金が無くて困ってんだよ」


 子供に寄付を頼むな。なんというかリエルは教育に悪いな。とっとと連れて行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ