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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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親友

 

「あんた達、どこに行ってたんだい? 料理が出来てるよ」


 宿に戻ってきたら、料理がテーブルの上に乗せられていた。


 不覚。出来立ての料理を口にしないとは。


「すまない。ギルドに行って念話による連絡をしていた。料理は早速いただく」


 料理を見ると焼き魚だった。シンプルイズベスト。魚はこれが一番だ。焦げたところが最高だからな。


 そして付け合わせのダイコンおろし。あえて言葉にするならパーフェクト。これがあって初めて焼き魚は完全となる。ニアはいつでも分かってる。


 よし、頭からかぶりつこう。




 食後にヤトが水を持ってきてくれた。この後、ミノタウロス達に食事を届けるようだったので伝言を頼むことにした。


「ヤト、すまないがカブトムシに、明日、リーンの町に行くように伝えてくれないか」


「分かりましたニャ」


 詳細を伝えると、ヤトは食事を持って外に出ていった。これで手配は終わったかな。


 やることが終わったので、ふと周囲を見たら、ドワーフのおっさんが村のやつらと楽しそうに酒を飲んでいた。社交性に富んでいるのかな? まあ、問題なさそうだから放っておこう。


 さて、どうするか。お土産とかあるけど今日はもう遅い時間だから配るのは明日にしよう。色々疲れたから、今日はゆっくりするべきだな。


「おー、フェル、ここにいたか」


 リエルが宿に入ってくると周囲から色々と聞こえてきた。


「美少女だ」

「金髪……!」

「あれはいい狩人になる」

「捕食者というイメージが湧いたぞ?」


 リエルは入り口から遠慮なく歩いてきて、私たちの座っているテーブルに相席した。


「なんだよ、お前らメシ食っちまったのか? 俺を待てよ」


「別に一緒に食べる必要はないだろう? 爺さんとの話は終わったのか?」


「おう、終わった。とりあえず、俺は普通のシスターとして振る舞うことにしたぜ」


 聖女だって言っても誰も信じないだろうしな。私は今でも信じてないぞ。


「えー? リエルちゃん、シスターなんて出来るの?」


「あん? 馬鹿にしてんのか? 俺だってシスターぐらい経験あるっつうの。掃除してればいいんだろ?」


「シスターに謝って!」


 私でも分かる。リエルにシスターは無理だな。とはいっても、この村で何かすることがあるかと言えば、ないようなきもするけどな。だいたい、爺さんはいつも何をしていたのだろうか。


「そういえば、よく爺さんの後ろ盾になったな。あのとき爺さんがいきなり女神教批判をしたから驚いた。だが、リエルが名前を使っていいとか言い出したのはさらに驚いた。元々、女神教に不信感があったのか?」


「まあ、普通なら不信感だらけなんだよ。大抵の奴は洗脳されちまうから、おかしいとも思わないだろうけどな」


 リエルがニヤニヤとした顔でディアを見ていた。ディアは横を向いて取り合っていないようだ。


「まあ、爺さんも考えがあって、俺の前で女神教の批判をしたんだけど、そんなことはどうでもいいよな。まず、メシだメシ。おーい、ねぇちゃん、注文いいか?」


 丁度、ヤトが外から戻ってきたようだ。ヤトはリエルから注文を受けると厨房に向かった。


「なあ、今の獣人だよな? 俺、初めて見たぜ」


「私の部下のようなものだ。迫害するような真似をしたら、宿からたたき出すぞ?」


「しねぇよ。大陸の東側って獣人がほとんどいないから珍しかっただけだ。西側は結構多いらしいけどな」


 大陸の西側か。そういえばウル達はどうなったのかな。


「おまちどうさまですニャ。ワイルドボアのステーキですニャ」


「待ってました! じゃあ、女神教のカードで払うぜ」


 リエルはカードを取り出してヤトに渡した。


 受け取ったヤトはカードを見てから顔を横に振った。


「うちはキャッシュだけニャ」


「嘘だろ? え? マジで? 俺、硬貨とかもってねぇけど?」


 ヤトはカードをリエルに返してから、料理を持って帰ろうとした。


「いや、待て、待ってくれ。えーと、そうだ、フェルが払う」


「寝言は寝て言えよ? だいたい、領主から報奨金を貰っただろうが」


「いや、あれはリーンの町で女神教のカードに預金しちまったから手元にはねぇよ。俺、硬貨は持たない主義だ」


 いつの間に。だが、それなら引き出せばいいじゃないか。


「リエルちゃん、この村、女神教のカードでお金を引き出せないよ? ギルドにある魔導金庫は冒険者のギルドカードだけしか使えないし、教会にも女神教用の魔導金庫はないでしょ?」


「え? じゃあ、俺の金はどこで引き出すんだ?」


「だから、村じゃ引き出せないんだってば」


 リエルはカードと料理を交互に見比べていた。そしてゆっくりとカードをしまう。


「頼む! 女神教に寄付してくれ! なんか無一文になった!」


「女神教が魔族に寄付を頼むな。というか教会への寄付を横領する気か」


「私、女神教じゃないし」


「……えへへ」


 三者三様に断った。ヴァイアはなんか違うけど。


「なんだよ、お前ら。友達だろ? いや、むしろ、親友? その親友の俺が困ってんだぞ? おごってくれよ」


「親友どころか、友達でもないぞ。良くて知り合いだ」


「そうだよ。私とフェルちゃんとヴァイアちゃんは親友だけどね!」


「いや、お前らも知り合い程度だぞ?」


「酷いよフェルちゃん! あ! あれだね! ツンデレ! まだツンなだけだよね! いつデレてくれるの!」


 私にツンデレ疑惑があるのか。とても嫌だ。


 そしてヤトが困ってる。料理をどうするのかだけでも決めてほしいよな。いざとなったら私が食べよう。


「俺とフェルとヴァイアは親友だぜ? なんといっても恋バナしてるからな!」


「そのくらい、私もしてますー」


 いつの間にかどっちがより親友かの話になっている。さっき、友達でもないと言ったんだけどな。


「じゃあ、これならどうよ! 三人で一緒に風呂に入ったぜ?」


「ぐっ! フェルちゃん! 私達も一緒にお風呂入ろう! そうだ、温泉に行こう!」


 もう、帰っていいかな?


「これでダメ押しだな! 今日、俺とヴァイアは雑貨屋に下着を買いに行ったぜ?」


「むむむ! フェルちゃん! ヴァイアちゃん! 私なら下着を作ってあげるよ!」


「ちょっと待て。今日、ヴァイアと下着を買いに行っただと?」


「おうよ! 朝っぱらに雑貨屋に行って、ヴァイアの下着を買って来たぜ! 対ノスト用の裸エプロン装備だな! まあ、バタフライが無かったから、スコーピオンって感じの――あ!」


 三人がヴァイアの方を見た。顔を真っ赤にして、ちょっと震えている。そしてヴァイアは何事も無かったように亜空間から、そこそこ大きな石をテーブルの上に出した。


「ヴァ、ヴァイアちゃん? この石はなに?」


「どうやら爆炎地獄の魔法が付与されているな。かなり危険な魔法だぞ。ヴァイア、これがどうかしたのか?」


 ヴァイアはゆっくりと深呼吸をした。


「皆を殺して、私も死ぬ」


「やめろ」


 その後、ヴァイアをなだめるのに大変だった。そして、代金は私が払うことになった。解せぬ。




 いつもの部屋に戻ってきた。なんとなく落ち着くな。


 親友かどうかに関しては、私以外の三人が熱い議論を交わして、最終的には四人全員が親友という事になった。当事者の意見を大事にしてほしいのだが。まあ、いいか。


 とりあえず、依頼されていた仕事は終わった。達成依頼票はまだ貰っていないが、あの様子なら問題なく貰えるだろう。


 しかし、リエルが聖女か。どうでもいいけど理由が分からんな。特に知りたいとも思わないが、もしかしたらリエルには何かあるのかな?


 そういえば、ディアも女神教の関係者だったんだな。しかも洗脳されていたとは。道理で積極的に女神教を潰したいわけだ。でも、カミングアウトしたおかげなのか、随分、清々しい感じになった。だが、それに比例してウザさが倍増している気もする。面倒だな。


 ヴァイアは随分とポンコツになった。早くノストとの決着がついてほしい。一応、下着の話を暴露されて、現実に戻ってきた気はする。しかし、下着を買ったのか。しかもバタフライじゃなくてスコーピオン……。想像したくもない。


 さて、眠ってしまいたいが、やらなくてはいけないことがまだある。


 まずは魔王様に報告だ。


 扉をノックすると、念話用の魔道具が鳴った。早速ボタンを押して念話を開始する。


『やあ、フェル。どうしたんだい?』


 久しぶりの魔王様の声にちょっとうれしくなった。


「はい、依頼が終わりまして村に戻りました。その報告です」


『それはお疲れさま。うまくいったのかな?』


「はい、色々ありましたが、無事に依頼は達成しました」


『それは良かった。こっちの方はまだ駄目でね。しばらくかかりそうだよ』


「なにかお手伝いを……そうでした。ドワーフと知り合いになりました。村に一人、連れてきています」


『すごいね! もしかしたら一緒にドワーフの村まで来てもらうかも知れないから、仲良くなっておいてね。しばらくしたら、またフェルを呼ぶから』


「承りました」


『他には何か報告があるかな?』


 何かあったかな? そうだ、結婚式がある。参加されるだろうか?


「実は村で結婚式があるようです。参加されますか? 食事は食べ放題らしいです」


『結婚式か。そうだね。時間が空くようなら参加させてもらうよ』


 なんだろう? 少し声のトーンが落ちたような? 気のせいかな?


『他には何かあるかい?』


 とくにはない。だが、男性としての意見を聞いておきたい気もする。かなり不敬だが。


「魔王様、男性としての意見を伺いたいのですが」


『珍しいね? なんだい?』


「裸エプロンをどう思いますか?」


『ロマンだね』


 質問の意図を聞かずに即答。流石と言わざるを得ない。


「ロマンですか」


『そう、チラリズムを計算にいれたダイレクトアタック。男なら必中。クリティカルは免れない。だけど、もろ刃の剣だね。必中ではあるけど、やったほうもダメージを受ける。むしろ、やった方のダメージが大きい。なんといえばいいかな。玉砕覚悟の特攻。食うか食われるか。死して屍拾うものなし。僕個人の意見としてはお勧めしないね。トラウマになるかもしれない』


 魔王様とは思えない程の饒舌だ。


「いえ、私がやるわけではありません。親友、あ、いや、知り合いが男の気を引くためにやりそうなので、成功確率はどんなものかと」


『そうなんだ? これは普通、結婚後にすることだよ? 付き合っていないなら高確率で引かれるね。だけど、相手が誠実な人ほど効果的かもしれないよ。自分のためにこんなことまでしてくれるなんて放っておけない、という考えに至るかも知れないからね。それこそ、お付き合いを飛ばして結婚までいっちゃうかもしれないね』


「相手しだいだと?」


『相手がいるならどんなことでもそうだけどね。さて、ちょっとこっちの方でやることがあるからそろそろ切るよ』


「はい、申し訳ありません。どうでもいいことを聞いてしまって」


『親友の事なんでしょ? どうでもいい事じゃないよ。応援してあげなよ。それじゃ』


「はい、ありがとうございました」


 魔道具のボタンを押して、念話を終了した。


 話は聞いてみたが、結局勧めるべきかどうか判断できないな。そもそも私が考えることじゃない気もするが。でも、仮にも親友らしいからな。うーん?


 まあ、いいや。もう時間も遅い。体を洗って日記を書いて寝よう。そうだ、裸エプロンはロマンだと書いておこう。


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