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2.都市ヴァルハラ

※8/28 加筆修正

 

 ≪B.O.O≫プレイヤーは、ゲームを起動した最初の段階で一つの選択を求められる。

 自分たちが所属する勢力決めだ。


 ≪都市艦≫―――それは、かつての大戦で汚染され荒廃した地上世界を捨て、空に逃れた人類が拠り所とする超級規模の巨大艦だ。

 現在、第一から第十二までの都市艦が存在おり、それぞれが百万人規模のプレイヤーを内包する巨大コミュニティとして機能としている。


 所属勢力を決定した後は、基本的にプレイヤーは各都市艦における計画、行動方針に従ってゲームをプレイする。これら都市に対してプレイヤーが資金またはアイテムを提供する事で、都市そのものの機能を充実させ、見返りとして各プレイヤーに対して様々な恩恵が与えられるわけだ。

 戦術殻の強化にかかる費用や武器、弾薬などのアイテムの買取・売却額への補正、都市内部での発言権や個人ランクなどもこれに影響される。


 ある種の会社と従業員のような関係。もしくは都市という名の通り、住民税とそれに対しての福利厚生と考えればいいのか。

 もちろん、あくまでゲームである以上は個人に対して遊びの幅を狭めるような事を強制させる事は出来ないわけだが、最終的には都市に対してある程度従事した方が後の為になる。

 

 簡潔にまとめるなら、プレイヤーが稼ぎ都市に納める、都市の機能が充実しプレイヤーの戦力増強、プレイヤーはより効率的に稼げる、より多くの資金が都市に納められる。エンドレス。こういうサイクルになるわけだ。



「――――つまり何が言いたいのかってーと、もうちょいしっかり稼いで来てくれないとこっちも困るってわけよ」


「「…………」」


 ≪第九航空都市艦・ヴァルハラ≫商業区。

 ≪B.O.O≫全プレイヤーが必ず利用する、戦術殻を強化するための唯一の施設である≪ドヴェルグ工房≫や、アイテムの売買を担当する≪タタラ・ワークス≫が存在しているエリア。


「いいかあ、一人一人の稼ぎは少なくても、十万人のプレイヤーがそれなりの額をそれなりの頻度で都市に落としてくれりゃあ膨大な数になる。

 俺が言うのもなんだが、うちの都市は常に資金難なんだ。別に毎週毎日のように大金を納めろなんて言わないが、それでも月一程度の感覚で入れてくれないと色々と困るんだよ」


「ええー」


「すみません……」


 ≪ドヴェルグ工房≫手前の広場に二人の少女がうんざりした面持ちで説教を受けていた。

 短く切り揃えた黒髪に獣の耳と尻尾を生やしたアバターのベート、尖った耳とドレスの様な服を纏ったアバターのアルルーナ。

 そして、今まさに二人に対してくどくど小言を零しているのは、背丈だけならば二人より更に低い少女だった。


 二十四時間、昼夜を問わず人通りが途絶えることのない場所だが、三人に対して衆目からの関心は薄い。と言うより、あまり関わらないようにしているのか。

 当然と言えば当然か。

 相手がヴァルハラ都市における最高位プレイヤーの一人であり、都市最強ギルド≪グラズヘイム≫のギルドマスターなのだから。


 一昔以上前の魔法使いのイメージそのままのマントと三角帽子と左目の眼帯という狙い澄ましたかのようにあざといアバター。

 彼女の名はウォーダン。

 その幼い見た目と違い、≪B.O.O≫でも最古参に当たるプレイヤーである。


 ベート達はレックス狩りから帰還した後、入手したアイテムを売却するために商業区を訪れ、待ち伏せていた彼女に捕まった。

 「見つけたぞじゃりん子ども!」と、不意をつかれたために逃げる暇も無かった。

 その外見を裏切る粗暴な口調で、やれプレイヤーの心得やらヴァルハラの現状やらを事細かに―――それも多分に愚痴混じりの―――伝えていた。


「お前らも実力だけなら、もう中級者って名乗っても良いくらいなんだからな?

 いつまでも最低金額だけ納めてその場凌ぎでやってたらランクだって上がらんし、強くなるにも限界がある」


「「はいはい」」


「返事は一回でいい」


「「はーい」」


「伸ばすな!」


 おざなりな返事に対して、ウォーダンは深くため息を吐く。

 なまじ二人の実力を知っているだけに、いまだに都市の外で野良ボス相手の低効率な稼ぎ方をしている事に頭を抱える。

 初めてその事実を知った時には軽く目眩がしたほどだ。


「でもですねウォーたん」


 誰がたんだ、という言葉を無視してベートは言葉を続ける。


「あたしたちだって、別にわざとやってるわけじゃないんですよ? ただ稼ぎたくても稼げないという現実がそこにはあるわけでして」


「むう……」


 ベートの反論に対してウォーダンは押し黙る。

 この二人の事情は知っている。と言うよりも、二人が現状このような低効率な稼ぎ方をしなくてはならなくなった原因に彼女も一枚噛んでいた。

 直接的なものではないが、自分が彼女たちの未来を奪ってしまったという思いがあるからこそ、事あるごとにウォーダンはこの少女たちに積極的に絡むようにしていた。


「それにですねウォーたん「ダン!」さん。ベーちゃんもそうですけど、私たちの機体で安全かつ確実に稼げるのがレックスぐらいなんですよ」


「あたしらの機体って地上戦が主体かつ、集団相手だと下手したら雑魚相手でも詰む可能性があるわけで……単体出現でドロップ素材がそれなりに有用な敵って意味じゃあレックス回すのが一番なんですよお」


 少女たちの訴えは、ウォーダンに重く圧し掛かった。

 二人の、という言葉はつまり―――


「―――まだ、お前たちと組んでくれるような相手は見つからんか?」


「駄目ですねえ。一応掲示板でも応募してるんですけど、あたしらの事知っているプレイヤーは近づいちゃあくれませんよ」


「触らぬ神に祟りなしって感じです」


「たまに前評判とか気にしないって人はいるんですけどね。でも基本的にそういう人はギルド所属じゃなくてフリーで動いてるから、毎回タイミング良く組んでくれるってわけじゃないですし」


「そうか……」


 絞り出すように、一言だけ呟く。

 一年前―――全都市中、序列第三位から十位まで零落するという前代未聞の事態を生みだした事件。

 その事件の主犯であり、いまやその事件と個人の両方を指して≪都堕とし≫などと仇名されるようになった槍使いの戦乙女を思い出す。


「……すまんな、俺がもっと上手く立ち回ってりゃあここまで苦労は掛けさせなかったんだが」


「いやいや、あれはうちの馬鹿が勝手にやらかした事ですから! どっちかって言うとウォーたんは被害者じゃないですか!」


「そうですよ。ウォーたんさんが早めに対処してくれたおかげで、私たちは今もこうしてゲームをプレイ出来てるんですから。謝るべきなのは、むしろ―――」


「しかし、なあ……」


「―――ああもう、この話はここまで! やめやめー!」


 重くなった雰囲気を払拭するようにベートが叫ぶ。


「まあ確かに、現状は厳しいですけどこのままで良いとはあたし達だって思ってませんって」


「です! もっと強くなれば今よりも大きく稼げますし、都市の人たちだってそのうち定期的にチームを組んでも良いよって言ってくれる人が来てくれるかもしれません!」


「だから、そのなんだ―――心配はありがたいですけど、あたし達のこともう少し信用してくれませんかね?」


「―――わかった。だが、辛くなってきたら何時でも俺に言えよ。直接の支援は立場上出来ないが、それでもやり様はある」


 ウォーダンはにかりと笑う。


「でだ、話しを最初に戻すが、ともかく金だ! 中級者以上のプレイヤーはしっかり稼いで都市にがっぽり落としてもらわにゃならん! そのためにも―――」


「ああ!! あたしらこれから工房に行くんで! お話はまた今度ー!」


「あはは、ごめんなさいー!」


「あっ、こら!?」



 足早に工房へと逃げ去っていく少女たちの背中を見つめて、やれやれとため息をつく。

 そして、ふと彼女は思う。

 年頃の娘がいる父親・・とはこんな気分なのだろうかと。


 第九航空都市艦≪ヴァルハラ≫の代表であり、ギルド≪グラズヘイム≫マスター。

 外見は幼女、中身は大人という矛盾の塊、≪戦神≫ウォーダン。

 中の人は御歳四十になる、れっきとした男性おっさんであった。


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