さきちゃんかわいいよね
「ねねねね、今週末、空いてる? ちょっと買い物に付き合ってほしいんだけどさ」
さきちゃんだ。すぐ前の席に座ってるショートカットでちょっとボーイッシュなシュミしてるかわいい女の子。
けっこう背ぇ高いんだよね。わりとかっこいい系のかわいい系。後ろの方の席で教壇が遠いから授業中わりと邪魔。今は放課後だからいいけど。
椅子に座ったまま足上げてクルッて回って背もたれにあごのせながらこっち見てる。
もう、そんなことしたらパンツ見えちゃうよ。チラッと見えた。気がする。
「ねぇったら、ちょっと話し聞いてる?」
ごめんごめんと謝りながら聞いてるって返す。困った眉がかわいい。
「じゃあどうなのさ。空いてるの?」
いいよ、空いてる。
というかさきちゃんのためだったらなんだって蹴っとばして空けるし、たとえ心臓止まったって行くし。ね、さきちゃん。
「良かった。じゃあ駅前のあの信号で10時ね。たのんだよ!」
うん、10時ね。と確認する前に跳ねるように立ち上がって走って教室でてっちゃった。
椅子ガッターンって。まばらに残ってた周りの人がビクッてしてる。あわてんぼだなぁ。ま、そこもさきちゃんらしいけど。
さて、10時だ。
土曜か日曜か言ってなかったし朝か夜かも聞いてないけど、多分、土曜の朝10時じゃないかなって思ってボケーって立ってる。
特に予定ないから待ちぼうけでもそれはそれで。
駅前にはトラックか何かがごっつんしてびみょーに傾いた信号があるんだよね。
その信号はなぜかずっと修理されてなくってそれが私達の目印になってる。ちょっと面白いよね。
というかケータイで連絡取ればいいんだけど、まぁ、適当でいいんだよそのへんは。
「ごめん!遅くなった! いや~布団が離してくれなくってさー」
15分遅刻。ま、いいけど。さきちゃんらしいし。
さて、店へ向かいますか。どこ行くか知らないけど。
ところで何買うの?
「え~~~っと、うーんと、まぁ、あれだよ。あれ。ね?」
あーはいはい彼氏にプレゼントする物を一緒に選んでほしいと。
「や、や、違うって!ていうかなんで知ってるの!」
違わないじゃんって言うとあっ……って顔赤くして黙っちゃった。かわいい。
彼氏かー、そうかー。あてずっぽだったけど、うーん。妬けちゃうぞ。
「顔こわいよ」
おおう。私はかわいい、私もかわいい……
なんだかんだで革製品店に入った。
ベルトでも買うのかなと思ったらアクセサリーコーナーへ。キーホルダー系かぁ。結構するんだなぁ。
これなんかどうって聞いてくるけど私は革製品にロマンを覚える感覚はないんだよね。布系が好き。
なんでもいいんじゃないかなって言ったら悲しそうにこっち見てる。
誰から渡されたかが大事だよって言ったら嬉しそうに手元見てる。
単純すぎる……まぁそこがさきちゃんらしいんだけど。
散々悩んでから焦げ茶色でわりと大きめでシンプルなキーホルダーというかキーケースというか、そういうのを買った。
焦げ茶色って革製品は大体そんなような色な気がするけどとにかく焦げ茶色なんだよ。焦げてる感じ。
なんでそれにしたか聞いたらバイク乗りだからバイクに鍵さした時に周りに傷がつかないように、だって。
でっかくてアメリカンなバイクらしいから革も合うんじゃないかな。多分。
こういうところの丁寧さというか、察しの良さというか、思いやる心というか、ちょっと真似できない。すごい。
うーん、ところでこれ、私の居た意味ってあったんだろうか。
店を出てから誰に渡すの?やっぱり1週間後のクリスマス?って聞くとためらいがちにうんって。
いやそうじゃなくて。
「だって、そんなん言えるわけ無いじゃん」
プンスコしながらさきちゃんが言う。むー、でかいバイク持ちってことは多分年上でバイトをガンガンやってるか仕事持ち。
まぁそんなもんなのかな。それにあんまり興味が無いのも事実かな。掘り返せば出てきそうだけどやめたげよう。私はやさしいのだ。
で、クリスマス当日、多分ちょっと遊んでディナーでも約束してるんじゃないかなと思って15時くらいからさきちゃんを探す。
このくらいの時間なら落ち合って時間つぶしで歩きまわってる頃じゃないかという希望。
さきちゃんあわてんぼだからなにか面白いことに、いや、大変なことになっていたらイケないからね。うん。
私はストーカーではない。けっして。遠くから見るだけだよ見るだけ。大丈夫だいじょうぶ。
分厚い曇り空の下、とりあえず電車で数駅、繁華街の駅前へ。いない。
大通りを早足で端から端まで。いない。
ちょっとした路地や目についたお店も覗いてみる。いない。
うむむ、あてを外したかな。もしかしてバイクで走りだしたのかなぁ。そうするとどうしようもないんだけど。
地元駅に戻って考えるか。定期の範囲だから電車賃かからないし。
と思ったらよく見たら駅前のベンチにさきちゃんが居た。
さっき目の前通ったのにやたらと目立つひょろ長い変な銅像の前だからそっちに気を取られてた。
ありゃ、涙目。どうしたんだろ。フラれた?
すぐ近くにたまに私が行く店があるのを思い出し、たまたま会ったという言い訳が立つことを確認してから駆け寄る。
まるで悪魔のようだ。ふふふ……
じゃなくて。
時折鼻水すすりながら要領を得ないさきちゃんの話をまとめると。
まず集合時刻になっても相手が現れなかったそうな。一応もってるケータイで連絡を取ろうとするも圏外または電源がピー。
んでずっと待ってたけど来ないから探しまわってたけど結局見つからないし来ないし。
まぁアレだよね。残念でしたまた明日。
でも無断欠勤はよろしくないなー。ね?
「釣り合わないのは分かってたし、しかたっ、仕方ないよっ」
あーあー。だめだこりゃ。
クソ野郎のことは忘れて今日はおねぇさんとおいしい物でも食べようねぇ。
「うっく、ぐす、……うん」
よぉーーーしよしよしよし。あたまなでなでぐりぐり。
「もうっ、やめてよ」
うむ、やっぱりさきちゃんは笑顔がいいね。かわいいかわいい。
あとで私が探しだしてぶち殺しておくから電話番号とか頂戴ねぇ。
ってことでさきちゃんと2人で隠れ家的で小洒落た雰囲気で客の少ない甘味処で高級スイーツ食べたりした。
貯めに貯めた私のバイト代が唸りを上げた。
年越して2週間もすれば授業にも慣れてくるわけで。
今日は晴れ。教室の窓越しに見る積もった雪が輝いて眩しい。試験?知らんなあ。
カンペ作っとけば大丈夫でしょなんて思いながら鞄に教科書詰め込んでて気付いた。
あっ、そうか。クリスマスさきちゃんと一緒に過ごしたことになるのか。今気付いた。
そういえばそうだ。うわ、嬉しい。今になってスゴイ嬉しくなってきた。ふふふ。
私が変な顔してるとさきちゃんがクルッと回って顔を覗いてくる。パンツ見えちゃうってば。
「なに企んでるのさ」
さきちゃんも変な顔だ。別の方向で。にらみ顔もかわいい。
や、企んでないよ思い出し笑いって言うと変なのって。どうせ変ですよう。
「あ、いつもどおりか」
だって。ぷんぷん。
とにかく、なんだかんだあったけど吹っ切れたみたいでよかった。
さきちゃんには笑顔でいてもらいたいよね。
キーホルダーは近所の河原で開催した大晦日BBQ大会(参加人数2人)の際に火の粉として天に登っていった。
でも雪の中でのBBQはやめようと2人で誓った。
グーで殴ろうと思ってたバイク男は見当たらないけど、てことはどっか行ったんだろうしまぁいいやって。
でも見つけたらグーだ。顔面にグーだ。待ってろよ。そんで現彼女の前で浮気者って叫んでやる。顔知らないけど。
まぁ、私はさきちゃんが居ればなんでもいいんだけど。
「ん? なんか言った?」
ううん、なんでも。
クレイジーサイコレズ