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76.襲来

 それは、突然現れた。


『ごきげんよう、人族諸君。いかがお過ごしだろうか』


 陽が落ち始める頃。いつもと変わらない一日を過ごしていたフォルトの街に、異形の影が落ちた。

 軍服をまとい剣を提げた体のシルエットは人間。しかしその頭部は人間とは似ても似つかない。極彩色のフクロウのようだった。


『きっと平和な時を過ごしていたと思う。我々魔族は、しばし侵攻の手を緩めていたのだから』


 城の門前広場に現れたそれは非常に大きかった。頭から足までの高さが城と同程度。

 実体ではなく幻だ。自らの存在を広く、大きくアピールするための演出である。


『しかし、平穏の時は終わりだ。準備は整った。我らは侵攻を再開する』


 朗々と響き渡る声。異形の幻。

 どちらも人々に恐怖を与えるに十分なものだった。

 大きく派手な幻は人の目を引き、不思議と響き渡る声は街まで響く。

 城から離れた場所にいた住民すらも、その姿を見て、その声を聞いた。


『人族諸君。我らは今度こそ姫様を奪還する。この者の死を以て、あらためて宣戦を布告しようではないか』


 巨大な極彩色の鳥人間が手を動かすと、同じく巨大な人間の幻が現れた。

 全身血まみれ。虫の息。放っておけばそう遠くないうちに死んでしまうだろう状態のその人は、フォルト兵たちを束ねて最前線で魔族を食い止めていた兵団の統率者であった。

 あとほんの一押しで死んでしまいそうなその人を、鳥人間は遥か上空へと放り投げた。

 巨大な幻影が浮かび上がり、フォルトの中ならどこからでも彼の姿を見ることができた。

 その下。鳥人間は腰の剣を抜き放ち、上に構える。

 重力により落下を始めたその人。演説に気付いていた人々は固唾を呑んでことの結末を注視した。

 鳥人間の剣が統率者の腹に刺さる。


 その瞬間。


『――なッ!?』


 剣を掲げた鳥人間の姿が大きく横にぶれて姿が消えた。

 何があったか鳥人間は魔法を維持できなくなり、幻が消えた。

 鳥人間が姿を消し、魔法が解けるまでのほんの刹那。

 拳を振り抜く黒髪の少年が投影されていた。


―――


「だぁクソ、師匠、もうちょい速度落としてくれないと何やっても当たる気がしないんですけど!」

「そこをどうにか当てるために知恵と力を尽くしなさいよ、と!」

「のわっ!?」


 攻撃を受け流し体勢を崩したところに叩きこまれる師匠の攻撃を体をひねってなんとかかわした。

 本日夕方。ヨギさんこと師匠が訓練の相手をしてくれるそうなのでお願いした。

 しかし案の定。この人速すぎる。教わった斬撃、重撃、衝撃を駆使しても攻撃が掠りもしない。

 言われた通り知恵を絞って応用技を作ってみても有効打はナシ。

 その上相手はまだまだ本気を出していないと言われたら心のひとつやふたつぽっきり折れる。もう慣れたけど。

 訓練場に残っていた真面目な兵士もこちらを見て唖然としてる。お師匠は狂的に速いから仕方ないと思う。

 そんなふうに数日ぶりに師匠と模擬戦をしている時だった。


「……ん? タカヒサ、なんか変な感じしない?」

「? ええと……あ、今まで感じたことのない魔力の気配がします」


 唐突に師匠の動きが止まる。好機と見て仕掛けるも普通に防がれ、よそ見をしたまま話しかけられた。

 屈辱と言えば屈辱だが、なんかもう慣れた。この人は別次元だと諦めることにした。


 それはそうと攻撃を中断。魔力感知に集中する。

 バカでかい魔力が四つ。これは勇者四人。次いで、件の初めて感じる魔力の気配。ジアさんとお姫様のかなり大きな魔力に、師匠、ダイム先生たちの大きめの魔力がいくつか。

 ぱっと誰か分かる大きさの魔力がこれだけ。普段城にいる人らはよく感知に引っかかるので覚えた。

 師匠が言っているのは初めて感じた魔力のことだろう。


「誰か城に派遣されて来たんですかね」

「そうかしら。これだけ大きな魔力、普通に訪問してきたならもっと前に気付いていいような気がするんだけど」

「ですね。……でも、ちょっと覚えのある魔力です。どこだったっけか」


 記憶の中から感覚を呼び起こす。完全に同じでなくてもいいので近い魔力の持ち主。魔力感知なんて覚えてから三か月も経っていない。思い出せる範囲のはず。俺が感じたことのある魔力は基本的に城の中だけ。探知すれば見つかるか?

 探る気配の範囲を広げると、謎の気配によく似た魔力がヒットした。


「……あ! これ魔族の気配です! なんかノイズがかってる、嫌な感じのする気配。魔力の大きさは今回の魔族の方が上ですけど、ノイズはこないだ捕まったヤツの方が強いです」

「魔族!? 前線を突破してきたっていうの? ……あんまり信じたくないけど、もう前例があるものね。ないとは言い切れないか。その気配、もっと深く探れる?」

「師匠もできるでしょう。門の近く、城の屋根の上ですかね。あ、門前広場に同じ魔力がもうひとつ。こっちは微小ですけど」

「普通は大まかな位置と大きさしか分かんないものよ。……あ、これね。あたしはこいつを確認しに行くわ。タカヒサは城の連中に伝達をお願い」

「多分いらないです。ダイム先生たちがさっきから慌ただしく動いてますんで」


 他にも普通サイズの魔力もバタバタ動いてる。城の連中も気付いて対処を始めているのだろう。


「みたいね。じゃああたしと――」


 師匠が何か言っている最中。変な魔力が大きく蠢いた。

 すると門前広場に大きな何かが現れた。

 巨人じみた巨体のせいで訓練場からでもよく見える。人間と同じ体つきで服装もジアさんに借りた軍服によく似ている。

 ただし、頭が違う。見た感じは冠のような羽のついたフクロウ。よく見れば手も鳥の足のような形状をしていた。


「……なんですかアレ」

「……魔族ね。見まごうことなき魔族ね」


 唐突な登場に俺も師匠も呆然と見上げてしまう。

 魔族というのは人間離れした外見の生き物らしい。獣人とかも魔族という括りなのだろうか。そもそも獣人とかエルフとか存在するのだろうか。


「っと、こうしてる場合じゃないわ。行くわよ、タカヒサ!」

「了解!」


―――


『ごきげんよう、人族諸君。いかがお過ごしだろうか』


 城に着いたころ。魔族は話を始めていた。

 魔族はどこにも隠れていなかった。城の中で一番高い塔の屋根に立ち、そこから魔法を行使して巨大な幻を作っている。

 はてさて何を話すつもりやら。


『きっと平和な時を過ごしていたと思う。我々魔族は、しばし侵攻の手を緩めていたのだから』


 周囲を見渡すと四ノ宮と浅野がいる。城門側から現れたゴルドルさんが兵士たちに指示を与えている。


『しかし、平穏の時は終わりだ。準備は整った。我らは侵攻を再開する』


 魔族の言葉はつまり、宣戦布告。

 最近、魔族は砦に籠っていたと聞いた。

 それがとうとう動き出す。

 宣言を聞いた人々の表情が変わる。驚愕、衝撃、不安。様々だ。

 この宣言に対しアストリアスは。フォルトは。どのような対応をするのか。

 実際に聞いてみることにした。

 魔力感知に引っかかった大きな魔力のもとに向かう。


「や、お姫様。ジアさんもこんにちは」

「……ムラヤマ様」


 お姫様は難しい顔でこちらを見て、ジアさんは無言で頭を下げる。

 お姫様は自室近くの廊下から外を見ていた。この城は単純化するとロの字型をしており、内側に廊下がある。

 お姫様の部屋は四階にあるが、二階、三階と順々に昇っていけば問題なくたどり着けた。

 中庭に面した廊下からでも巨大な幻影はよく見えた。


「なんかあれ、魔族らしいけど。宣戦布告してるっぽいけど。どうするつもり?」

「……どうするも何も、戦いますわ。そうでなくてはアストリアスは滅ぼされてしまいますもの」

「そりゃそうか」


 戦争をふっかけられたなら防衛するのが当たり前。説得でどうにかなる相手ならともかく、相手はアストリアスの領土の半分近くを奪ったという魔族。交渉でどうにかなるラインは越えてしまっているだろう。

 無血開城、即時降伏という例もないではないが、選ばれるのは勝ち目が到底ない場合や予想される被害が大きすぎた場合。

 日野さんに捕まった魔族を見るに、降伏が被害を最小に抑える方針とは思えない。

 師匠の話では魔族全てが殺戮狂というわけではないらしいが、兵士になっているような連中は殺人嗜好の連中が多いとか。

 降伏したらどうなるか。考えたくもない。

 となれば戦いだ。どっちが勝つにせよ血が流れる。


『人族諸君。我らは今度こそ姫様を奪還する』


 姫? 奪還?

 日野さんが捕まえた魔族は、魔族の目的は殺戮だと言っていた。

 けれどフクロウ魔族の目的はそうでないらしい。

 魔族の目的が人族にさらわれた姫様の奪還というなら、そっちに組する選択もありうる。


「あんなこと言ってるけど、心当たりは?」

「ありませんわよ。我々人族は千年前に魔族に滅ぼされかけて以来、復興を目指しておりますの。魔族から攻撃されることはあれど、人族から魔族に攻撃をしかけたことはありません。人族同士の争いもあるのに魔族に手を出す余裕なんてありませんわ。どこぞの国が魔族の姫君をさらっているというなら返還するよう国を挙げて要求いたします」

「魔族と戦争になったらほぼ確実に矢面な立地だもんなあ、この国」


 心底嫌そうに言うお姫様。本当に思い当たる節がないようだ。

 ジアさんに視線をやると、ジアさんも頷いていた。お姫様の言葉は事実らしい。

 お姫様の言葉を頭から信じるつもりはないが、真実味があることも確か。


 現状、人族が魔族に喧嘩を売っているとは考えづらい。

 魔族を滅ぼせと人族が一致団結しているならまだしも、他の国も勇者を召喚していたりと足並みがそろっていない。

 魔族が敵という共通認識があったとしても人族で団結して戦うところまでは到達していないのだろう。

 実際に人族と魔族にどれだけの戦力差があるのか知らないが、領土の半分近くを奪われているアストリアスの現状から考えるに、魔族は一国では対処しきれない戦力を持っていると見て間違いない。

 政治の話は分からないが、アストリアスがさらわれた魔族の姫とやらに心当たりがあるなら返還するか、返還されるように動くだろう。その期間は攻撃をやめてもらえるよう魔族と交渉もするはず。

 高度に政治的な判断とか言われたら俺では想像も及ばないが。


「となるとアレさんの目的は何なんだ?」

「言葉を信じるなら魔族の姫君の奪還。あるいはそれすら戦争を起こすための大義名分かもしれませんわ」

「……単純に疑問なんだけど。魔族が人族に戦争ふっかけるのに大義名分なんて要るのか?」


 ファンタジー的ゲーム脳で考えると魔族が人族に戦争を仕掛けるのは義務に近い。

 ここがゲームの世界でない以上、そこまで単純ではないだろうが。


「士気を上げるか、国民を納得させるためでしょうか」

「日野さんが捕まえた魔族と話したら、人を殺したくて仕方ないから兵士になったって言ってたけど。兵士は人を殺したい志願兵ばかりで構成されてるらしいぞ。それなら国民の納得とかいらなくね? 士気なんて何もしないでもうなぎ上りだろうし」

「では、彼が言うことは全くのでたらめと? 先ほども申し上げましたが、わたくしたちは魔族の姫君をかどわかしてなどおりませんわよ」

「……むう。あのフクロウ魔族も嘘を言ってる気はしないんだよな」

「何か根拠がおありですの?」

「勘」


 久しぶりにこのやり取りをした気がする。

 具体的な証拠も根拠もないが、お姫様もフクロウ魔族も嘘を言っている感じはしない。

 どちらも嘘を言っていないとしたら。お姫様以上の権限を持った誰か、あるいは他国が内密に動いている場合。あるいはフクロウ魔族が姫とやらを人族にさらわれたと勘違いしている場合か。

 なんて考えているうちに魔族が新たな動きを見せた。

 足元から何かを引っ張り出す。幻を投影している魔族の本体はかなり高い位置にいる。角度的に足元は見えていなかったのだ。

 引っ張り出されたのは、人間の死体……ではないな。死にかけだけど生きてる感じがする。


『この者の死を以て、あらためて宣戦を布告しようではないか』

「ちょ、のんきに観察してる場合と違った!」


 宣戦布告であると宣言されてしまったが、ぶっちゃけいまひとつ現実感がないので衝撃はさほどでもなかったりする。

 それよりも死ぬのが先か殺されるのが先か。そんな状況に置かれている人が気になる。

 おそらく男性。司令みたいな人だと思う。ズタボロではあっても服には勲章っぽいものがついていた。


 男性が上空に放り投げられる。

 魔族が剣を抜き、掲げる。

 このままでは男性は串刺しにされて殺されるだろう。


「させるか――――!」


 師匠が動いた。

 ほとんど瞬間移動のような速度。声が聞こえた次の瞬間には、塔の上に立っていた魔族の腕が肩から切り飛ばされた。

 しかし、師匠にやり遂げた雰囲気はない。それどころか驚きに目を見開いている。

 俺も目の前の光景が信じられない。


「手ごたえがない!?」

「ていうか増えてる!」


 切り離された魔族の頭はにやりと笑い、霞のように宙に溶けた。

 俺が感知していたフクロウ魔族は幻だったらしい。城門付近の巨大な幻は微動だにしない。

 とっさに感知の網を広げるが、次の瞬間には魔力の反応が無数に増えていた。

 フクロウ魔族がおとりの幻を大量に作り出したのだ。


「増えたなら全部まとめて叩き斬るだけよ!」


 師匠の姿が消える。フクロウ魔族の頭がほとんど同時に全て飛ぶが、城門前の幻(大)に変化はない。

 師匠の顔に焦燥がにじむ。もしかすると放り投げられた男性は知り合いなのかもしれない。

 魔力感知で本体を察知しようにも潰した端から新しい幻(小)が現れるせいで捉えきれない。反応も幻も多すぎるのでチェックしきれないのだ。

 そうこうしているうちに男性は落下してきている。このままでは数秒ほどで串刺しだ。


「ええい、なら一か八か……!」


 俺だって人が殺されるのを見たくはない。師匠が必死に止めようとしているなら手伝うのもやぶさかではない。

 魔族の幻展開速度と師匠の感知、攻撃速度はほぼ互角。現れたそばから幻は切り捨てられている。

 現れた魔族は全て師匠が斬っているのだ。

 ならば俺がすべきは目に見える魔族への攻撃じゃない。

 幻以外をぶっ叩くこと。


 猶予は数秒。男性が落下して魔族の剣に刺されるまでの一発勝負。

 感知は使わない。どこに隠れているのか考えもしない。

 感知で捕まえられるなら師匠がやっている。理屈で答えを出すには考える時間が足りない。

 師匠が通っていない場所で、魔族がいそうなところはどこだ。

 全ては直感の赴くままに。

 ぐだってるヒマはない。ダメでもともと、勘が導く通りに動け!

 思い切り廊下を蹴って飛び出す。

 目標は城門の上。なんとなくもやっとする感じ!


「喰らえ魔族、村山デスナックル!」


 適当な技名を叫んで殴りかかる。相手を仕留めることが目的なら技名を叫んで居場所を知らせるなんて下策の極み。

 けれども今回は放り投げられた男性を助けることが目的。勘が外れていてもこちらに気を引いて男性を殺させなければよし。


「――なッ!?」


 何もない場所めがけて振るった拳が何かに当たる。

 手ごたえ、あり!

 勘が外れているというのは杞憂に終わった。虚空目がけて振りぬいた拳は確かに生き物っぽいものにぶつかった。

 ぐにゃっと目の前の空間が歪んで極彩色のフクロウ魔族が現れる。同時に、同じように幻で覆われていたのであろう男性の姿も見えるようになった。

 殴った衝撃でフクロウ魔族は後ろに吹っ飛ぶ。その隙に殺されかけていた男性を回収せねば。

 落下点に回り込んで男性を受け止める。

 ……こういうの、普通は美少女を助けてニコポ的な展開じゃないのかな。何が悲しくてオッサンを抱えなきゃいけないんだろう。

まあ、死人が出ないに越したことはないからいいけどさ。

 彼は死にかけなのでとりあえず錬気――生命力を流しておく。何もしないよりマシだろう。

 殴られた拍子に魔族の集中が途切れたのか。城門前の巨大な幻も消えていた。


「坂上――はまだ治療院から戻ってないか。ジアさん、パス!」

「え、あ、はい! すぐに!」


 このままだと男性は死にそうなので治癒魔法を使えそうな人のところへ向かう。戦闘メイドっぽいジアさんなら何とかできるだろ、多分。

 ひとっ跳びにお姫様の後ろに控えるジアさんのもとへ。怪我人に負担を与えすぎてもいけないので頑張って衝撃を殺す。手近にベッドがあるかも分からなかったのでひとまず廊下に寝かせた。

 ジアさんも面食っていたが、すぐに処置に取り掛かった。


「――よくやったわ、タカヒサ!」

「ふぅむ、強い者がいますね。私では勝てそうにない」


 背中に師匠の声を聞いて振り返る。

 残像でも残しそうな速さで師匠がフクロウ魔族の背後に回っていた。

 勝てそうにないと言う魔族に慌てた様子はない。

 師匠の速さはこいつも目にしたはず。にも関わらずこの余裕は何なのか。

 なんて考えている間に魔族の手足が切り落とされていた。

 ――あ、でもダメだ。

 直感が囁く。

 その正しさを証明するかのように切り刻まれた魔族の姿がぼやけて消えた。

 なんという早業。師匠が斬りかかるまでのわずかな時間にデコイの幻と入れ替わり、見抜けないように偽装までしていたのだ。


「こちらも厄介な。これでも永く永く生きた身。隠蔽と偽装には自信があったのですが……」

「いっ!?」


 中空からフクロウ魔族が現れる。突然目の前に出現した極彩色に面食らう。

 悠長に眺めている場合ではなかった。いくら師匠がいるとはいえ魔族を倒したわけではないのだ。

 とっさに居合よろしく抜き打ちするが、相手は殺す気の師匠を相手にして生き残っている魔族。どこかゆったりとした動きで躱された。


「我が名はビスティ。偽り欺く者。我が幻を看破したる貴殿の名は?」

「……ジョン」


 フクロウ魔族の名前はビスティと言うらしい。

 名乗りをあげてこちらの名前を訊く相手に嘘を言うのはマナー違反かもしれないが、目をつけられても困る。適当な名前を伝えた。


「ほう、ほうほう、先ほどムラヤマなんちゃらと言っておりましたが……まあいいでしょう。ではジョン。参考までに、いかにして我が幻を見破ったかお聞きしても?」

「勘」

「……ふぅむ。敵に話すはずもありませんか」


 正直に答えたのに言い渋ったみたいに解釈された。

 まあ、普通は相手の技を見破る方法なんて教えないわな。俺も相手が対策できる方法で見破ってるなら絶対に言わない。


「……さて、そろそろ潮時ですかね」


 話している間にもビスティが展開している無数の幻が師匠の手によって切り刻まれている。俺と話している幻もサクサク斬られている。いくつか幻はなくとも濃いめの魔力が漂う場所もあって、師匠はそこも刻んでいるが今のところ全てハズレ。

 ビスティは幻を作り出すにも隠蔽するにも魔力を使っている。隠れる限界が来る前に逃げるつもりなのだろう。


「潮時だって聞いてお前を逃がすと思う?」

「逃がさないよう努めるでしょうねえ。ですが努めることと実現することはまた別ですよ」


 ビスティが身をひるがえす。

 なんとなく無駄なことを悟りながらも斬りつけると、案の定。柔い泥に剣を突っ込んだような感触がするだけだった。

 直感で居場所を探ろうと試みると同時。八方からビスティの幻が迫ってきた。

 幻によって視界を埋められ、幻影に紛れて尖った氷片が飛んでくる。

 ところどころ錬気では防ぎきれない大きさのものが混じっている。迎撃に集中しているとビスティ本体の気配が遠ざかった。


「本日のところは退かせていただきます。ですが、我ら魔族の軍勢を引きつれもう一度この場を訪れましょう。それまでせいぜい、足掻けばよろしいかと」


 一通り幻と氷を蹴散らした俺の頭上にビスティの幻がいた。

 本体の気配はない。なんとなく、もう城にはいないと感じた。

 師匠も同じなのか忌々しげに宙に浮くビスティの幻を睨みつけている。


「では、失礼」


 フクロウと人間を足して二で割ったようなカタチをした極彩色の魔族、ビスティは混乱をまき散らすだけまき散らして姿を消した。


なんとかパソコンの充電器を調達できました。

焦って更新したので見直しが足りない気もするので、そのうち手直しするかもです。

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