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8.メイドさん

「わかったよ、お姫様。今さらここで四の五の言っても仕方がないし、ある程度は手伝うからさ。そのかわりに元の世界に帰すのは保証してくれよ?」

「! はい、もちろんですわ! ありがとうございます、ムラヤマ様!」


 友情ごっこが一区切りついた頃合いを見計らってそう言うと、お姫様は手を叩いて喜んだ。

 まったく現金なことだ。




 そんなわけで戦うことが決まった俺たちは城の中を歩いていた。占い師が準備を整えて待機している部屋に向かっているのだ。

 なんでも占いによってその人に秘められている魔力の量や特殊技能がわかるんだとか。

 特殊技能。ゲームで言うところのスキルみたいなものらしい。こちらでもスキルとかアビリティとか呼ばれている。英語はどこからやって来た。

 たとえば『剛腕』というスキルを持っている人は普通の人よりはるかに力が強くなる。

 『詠唱短縮』のスキルがあれば詠唱を一部省略して素早く魔法を使うことができる。


 このようにスキルは戦闘において多大な恩恵をもたらす。

 生まれ持ったスキルがあれば訓練によって習得できるスキルもあるらしい。

 訓練で習得できるスキルの代表として、剣術や槍術、弓術がある。それぞれ特定の武器を持っている時に武器の能力を強化してくれるんだとか。

 生得的なスキルには再生能力や血を猛毒に変えるものなんかが該当する。

 こちらはそれぞれ所有者によって微妙に性質が違うため扱いが難しい。

 しかし強力ではあるため、戦う才能として反射速度や体格よりもスキルが重要視されるそうな。

 ちなみにスキルには魔力を消費して発動するものとそうでないものが存在する。

 魔力を消費しないスキルの多くは自動で発動するものだ。

 魔力を消費するスキルは任意で発動するものがほとんどだ。

 生得的なスキルは魔力を使って発動するものが多いらしい。その人固有の魔法みたいなものなんだろーか。


 そんなような話をお姫様と地球人四人組の背中を見ながら聞いていた。

 質問に答えてくれていたのはメイドさんである。

 列の先頭でお姫様と談笑している四ノ宮を見る。

 ……さぞ強力なスキルを持ってるんだろうなあ、アレ。

 まあいいや。あれがチート丸出しな壊れスキルで魔王軍を殲滅してくれればさっさと帰れる訳だし。

 さすがにそれが俺に向けられることはないだろうし。

 ……ないよね? お姫様をイジメた罰として剣の錆にしてくれるー、とか言わないよね?

 そうなったら俺じゃあ勝てないよなあ。

 噂だと剣道や格闘技でも相当強いらしいし、運動能力がアホ高いらしいし。そもそも体格が違いすぎるし。

 うん、俺は強力な逃亡系スキルを持っていることを期待しよう。


「……大変申し訳ありません」


 そんなことを考えながらいざというときに逃げる方法を考えている時だった。

 隣を歩くメイドさんから声をかけられた。

 というか謝られた。


「えっと、何がです?」


 ぶっちゃけこの人に謝られるような覚えがない。

 俺が総スカン食らってる時も心配したような目で見てくれていた。

 何かやらかしたら庇うくらいはしてくれたかもしれない。

 感謝することはあっても謝られるようなことは何もないはず。

 むしろこんな世界滅べとか言ったことを謝ったほうがいいのでは。


「ムラヤマ様の意思を無視し、この世界に召喚してしまったことです」

「はい? それでなんであなたが謝るんです?」


 意味がわからねえ。

 あのお姫様には謝られる覚えがあるが、この人は召喚には無関係だろう。


「確かにわたくしが召喚の儀を執り行ったわけではありませんが、主の暴挙を止められなかったのは我々侍従の責任です。きっとムラヤマ様のご家族も心配されていることでしょう」


 おお、真面目。

 これがメイド魂というものか。家事雑事をこなすだけではなく主の指導も兼ねていたりするのか。

 地球じゃあその辺は執事の仕事だというような話を聞いた覚えがあるけど。

 ここは異世界だしうろ覚えの知識でものを言うべきではないか。

 ていうかこの人、さらっと主の行動を暴挙と断言しなかったか?


「わたくし自身、勇者様の力を借りる以外の現状を打破する方法を提案できず、暴挙を止めることができなかったのです。恥知らずにも召喚が成功したことに安堵もしています。……現実として、我々の力では抵抗もささやかな延命にしかならないのです。ムラヤマ様が不本意に召喚されたことは承知いたしております。ですが、何卒こらえてお力を貸していただきたいのです」


 言ってる内容はお姫様から聞かされたものと同じ。

 けれど、彼女から聞くと切実さがより際立って聞こえた。

 お姫様が勇者召喚が成功したことに高揚して、浮かれた調子で話していたのと違って神妙な面持ちだからかもしれない。

 俺も戦うことは承知した。安心させるように厳かに返事をしようと思った。

 彼女の次の言葉を聞くまでは。


「召喚を止められなかった責任は侍従の中でも最も姫様に近い場所にいるわたくしにあります。どうか罰を下すならわたくしにお願いいたします。他の子たちに屈辱的な罰を与えるのはどうか――」

「ちょっと待てい」


 なんかえらいこと言ってないかこの人。


「別に俺はあなたたちに怒ってなんかいないですよ? それに罰がどうとか、俺にそんな権利はないでしょう?」

「いえでも、ムラヤマ様は勇者であらせられますし」

「だから俺は勇者じゃないですって! しかも屈辱的な罰って俺が何をすると思ってんですか!」

「……わたくしの口からは、とても」

「言えないようなことをするとでも!?」

「やはりムラヤマ様も男性ですし。ぽっ」

「ぽっ、とか口で言ってんじゃねー!」


 小声で怒鳴ってみた。俺の中の真面目ムードが爆発四散した。

 すると今まで無表情だった顔に楽しげな笑みが浮かんだ。


「ふふ、冗談です」


 どうやらからかわれていただけらしい。

 なんでまた俺がこんなことをされてんだ。

 疑問が顔に出ていたのか、メイドさんが答えてくれた。


「他の方と違いムラヤマ様は攻撃的な雰囲気をまとっておられたので、どんな方なのかわたくしが直に確かめてみたかったのです」


 攻撃的って……

 確かにさんざん怒鳴り散らしたが。ケンカ腰だったし。


「ですが、話してみてわかりました。ムラヤマ様は攻撃的な人ではないのですね。周りのあまりの危機感のなさに怒っていただけで」

「いやまあ確かに連中に苛立ってたのは認めますけど、苛立ったら怒鳴り散らす程度には攻撃的だと思いますよ?」

「御しやすいと思われないために声を大きくして威嚇していただけなのに? 粗暴な振る舞いも周りの反応も、全て計算のうちなのでしょう?」


 言葉に詰まる。

 読まれていたらしい。

 全て計算ずくだというのは買いかぶりもいいトコなのだけど。


「わたくし、姫様専属のメイドを務めております、ジアと申します。今後ともよしなに」


 一瞬だけ歩みを止め、優雅に一礼された。

 どうやら油断のならない人に目を付けられてしまったらしい。

 ……美人の気を引けたと思って自分を慰めることにした。

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