57.試合前夜②
夕食を食べ終わった後。今からでも魔法対策を万全にできないかと資料を見返していた時のことだ。
「――村山先輩っ、いますか!?」
どがん、と音を立てて部屋の扉が開いた。扉を殴ったような音がしたのでノックのつもりだったのかもしれないが、返事をする間もなかった。
部屋の入り口でぜえはあと荒れる息を整えているのは坂上だ。
白衣によく似た白い上着を着ている。白い衣という意味では間違いなく白衣か。
「いるけど。そんなに慌ててどうしたんだ、坂上」
「どうしたもこうしたもありません! お話聞きました! 村山先輩と征也くんが試合をするって!」
「おお、耳が早いな」
恰好から察するに坂上が城に戻って間もないはず。なのに噂を聞きつけ俺の部屋まで来るとは。なかなか迅速な行動だと偉そうに評価してみたりする。
今にも胸倉を掴んで問い詰めてきそうな剣幕の坂上に軽く返すと、勢いが一周回った具合に坂上が落ち着きを取り戻してきた。
「噂を聞いて、偶然征也くんと先輩が鉢合わせして、話の流れで場を収めるために先輩が試合を申し込んだんだと思ったんですけど……ずいぶん落ち着いてますね、先輩。準備が整ったから申し込んだんですね?」
「いや全然。心理的に魔法を使いづらくはできたけど、魔法を使用不可にはできなかったんだよね」
「ならどうしてそんなにのんきなんですかっ!」
魔法対策に用意していた資料数枚を軽く放りながら言うと坂上が叫んだ。
思わず苦笑いしてしまう。
坂上も日野さんも俺を過大評価している。
常に計算ずくで動いているわけではないし、計算ずくで動き続けられるほど頭がよくない。計算ずくで動いたとしても計算を間違えていることなんてしょっちゅうで、感情の抑えだって効かない。
正しく計算して的確に行動できるほど賢い人間だったら、チート能力なんかなくても四ノ宮やお姫様と良好な関係を築いて順風満帆な異世界生活を営んでいるはずだ。
ここまで走ってきて、問い詰めたり大声を出したせいで疲れたのか。坂上は大きく息をついた。
その拍子に俺が投げた資料を拾い、軽く目を通す。坂上はすぐに概要を理解した。
「……これが魔法を封じる方法なんですか?」
「より正確に言うと魔力を誤作動させる魔法だよ」
四ノ宮に魔法を使わせない方法はいくつか考えられた。
たとえば契約。日野さんがお姫様とかわしたような契約を結ばせれば魔法の使用を禁じられる。
たとえば喉を潰す。ダイム先生は勇者を移動砲台として運用することを想定していた。そのため無詠唱で魔法を使う訓練よりも、詠唱を用いて魔法を確実に発動させる訓練を優先していた。敵の近くで戦うなら魔法を使う早さも重要になるが、遠くから広域攻撃魔法を放つだけなら魔法を確実に成功させる能力が重要になる。そのため喉を潰せば四ノ宮はほとんどの魔法と使えなくなる。
たとえば人質。四ノ宮付きのメイドでも盾にすれば巻き込むような魔法を使えなくなるだろう。
一つ目は契約にこぎつける難度が高すぎるため却下。下手をすれば顔を合わせただけで殺し合いに発展しそうなくらいだし。
二つ目は要検討。喉を潰される前に魔法を使われる可能性もあるため否推奨。
三つ目は四ノ宮の発言に正当性を与えてしまうため論外。
そして四つ目。魔法封じの本命だったのが、坂上が読んでいる資料に載っている魔法だ。
坂上は俺が放った資料を集め、読み進めていく。
「これは……魔法陣ですか。一定範囲内の魔力を冷気に変える術式?」
「だいたいそんな感じ。大事なのは勝手に魔力に反応して術が発動するようになってるとこね」
用意していたのは魔力無効化の研究過程で編み出されたという魔法陣のひとつ。それを改造して使おうと思っていた。
この世界において魔力は万能のエネルギーであり、最大の武器だ。
戦争をする上で魔力は欠かせない。地球で言うところの化石燃料兼火薬と言っても過言ではない。
もしも敵の魔力だけを一方的に封殺する方法を独占できれば大陸平定も夢ではない。それどころか世界を支配するという妄想が現実味を帯びてくる。
世界中のあちこちで魔力を封じる方法は研究されてきた。
しかし、魔力とは生命力と幻素が結合して生まれるエネルギー。それを無条件に無効化する術式は開発されていない。
そんな中で別のアプローチをする人々が現れた。
魔力を無効化するのではなく、思い通りに使えないようにすれば結果は無効化と変わらないのでは、と考えた研究者たちだ。
今回使おう考えていたのは、彼らが編み出した魔法の改造バージョンである。
「それはもともと、魔法陣の上に存在する魔力全てを冷気に変換する術式だったんだ。ダイム先生に手伝ってもらいながらちょっといじって、体外に放出した魔力だけ凍らせる魔法にしようと思ったんだけど……結果はお察し。間に合わなかった」
俺は魔法陣の構築についてかじった程度の知識しか持っていない。いじったと言っても、いくつかの魔法陣を無理やりくっつけただけ。効率は悪い。
ダイム先生に頼めば即座に完成させてくれるだろうが、そこまで頼るのはどうかと思う。
ちなみに、基になった魔法陣は実用化されていない。構造上の欠陥が多すぎて研究者が他のアプローチに鞍替えしてしまったとか。
理由を聞いて納得したが、使いどころはけっこうあるんじゃないかと思っている。
「あれ、でも魔法陣を使うには魔力がいるんじゃないですか? 村山先輩は魔法陣の起動ができないはずじゃ」
「その辺は改造済み。……ああ、これだ」
足元にあった資料を拾って渡す。
それを読んだ坂上の眉間にしわがよった。
「……これ、ほとんど呪いじゃないですか」
「そ。呪いの応用。術者じゃなくて、魔法陣に乗った人の魔力で起動するようにした。ついでにトラップの要領で発動条件を仕込んでみた」
呪いは成立した瞬間から呪われた対象の魔力を使って効力を発揮する。
つまり、一度成立させれば俺に魔力がなくても効力が持続する。
代表的な魔法トラップの仕組みは、大気中の魔力を使って発動待機状態を維持し、トラップの発動条件を満たした存在が近寄ると起動する、というものだ。
ふたつを組み合わせて、展開すると大気中の魔力を使って発動待機状態になり、一定以上の魔力の持ち主が乗った場合に対象の魔力で対象を凍らせる魔法陣を作ってみた。
凍らせる対象の魔力をさらに限定するところで行き詰ったが、呪いの魔法陣自体は完成していた。
実用性は低い。
まず対象が魔法陣の中にいてくれないと効果が発動しない。即死系のトラップならともかく、一瞬で全魔力を凍結させることはできないので、魔法陣に気付かれて範囲外に逃げられたら意味がない。
加えて通常の魔法トラップよりはるかに複雑な動きをするために不発率が上がりがちなうえに設置コストがバカ高い。
ダイム先生曰く、これを一個設置するコストで十個は通常の魔法トラップが仕掛けられるとか。
「……まあ、無駄になったけど」
試行錯誤して途中までできあがったのに、完成する前に用いる予定だった要件を招きよせてしまった。
さすがに体内の魔力も凍らせる魔法陣のままでは四ノ宮も使用を受け入れるまい。
とはいえこの魔法陣を使わないおかげで試合に使える手札が増えたから、結果オーライと言えなくもない。
「この魔法陣はおいておくとして、先輩。ちゃんと勝ち目はあるんですよね? だから試合なんて持ちかけたんですよね?」
「ははは、坂上、俺に勝ち目のないケンカを売る度胸があるように見えるか?」
「見えないですけど」
「……ここはちょっと肯定してほしかったな」
即答の断言だった。
自分で言っておいてアレだけど、姑息さを肯定されたみたいで切ない。
準備不足のせいで確度は下がったが、それでも勝ち目は十分にある。
そもそも、魔法さえ使わせなければ錬気なしでやりあえる相手だ。
さすがに錬気なしで勝つのは難しいだろうが、対策を立てて錬気を身に付けた今、よほどの下手を打たなければ負けるとも思わない。
「冷静に現状を把握できる人だって信用しているんですよ。だからそんな落ち込まないでください」
「……むう」
苦笑いする坂上の言葉にうなってしまう。
年下女子にフォローされて、フォローと分かっていても嬉しい自分が悲しい。
「話を戻しますけど、勝算はあるんですよね」
「そりゃもう。なかったらケンカなんか売れない」
しっかりと肯定する。
確実に勝てるとは言えない。断言するには準備不足な感が否めない。
だが、どうせ百パーセントの勝利なんてありえないのだ。優勢でも戦ってる真っ最中に足元からモグラが現れて足を取られる可能性だってゼロではない。考えていたら何もできなくなる類の可能性だが。
話の流れで予定を早めてしまったが、挑む踏ん切りがついたことはよかったと思っている。
「そですか。じゃあ大丈夫ですね。あまり長居してもいけませんし、わたしは部屋に戻ります。お邪魔しちゃってごめんなさい」
「……そうだな。あんまり夜更かしするのもよくない。おやすみ、坂上」
「はい、先輩もおやすみなさい」
まるで重大な心配事が解消したかのように、坂上は晴れやかな笑みを浮かべていた。
どこにそれほど安心できる要素があるんだか、と思いつつ、俺も笑って見送った。
扉を開けて、部屋を出る直前。
「……それと、先輩」
坂上が振り向いて声をかけてきた。
机に向かおうとしていた体を坂上の方に向け直す。
「征也くんを殺さないでほしいっていうのと、もういっこ。お願いがあるんです」
「それは、どんな? できる限り聞くけど」
「ケガ、しないでください」
坂上は端的に言った。
「あんなになった先輩を治すの、もう嫌ですから」
聞きようによってはひどく冷たい言葉を残して坂上は小走りに去っていった。
キィ、と蝶番が音を立て、扉が閉まった。
―――
夜も深まってきたが、全く眠れる気がしなかった。
坂上が去った後も机に向かい、魔法封じの魔法陣の改良策を練ってみたが、まるで案が浮かばない。
この段階で完成していないものを本番で使えるはずがないと自分に言い聞かせて資料を机の上に軽く投げる。
日が落ち切ったころに点けたランプの火に資料が触れそうになって慌てた。
坂上に言った通り、勝算はある。
魔法を使われてもその場をしのぐ用意はある。四ノ宮が暴走しても最初の一撃を防げば坂上や日野さん、ゴルドルさんたちがどうにかしてくれるはず。
無詠唱で使えるような弱い術なら錬気を全力で具現化すれば耐えきれるだろう。
そうでない強力な魔法なら詠唱している間に喉を潰せばいい。
魔法ナシでの殴り合いなら十中八九勝てる。
思い上がりではないはずだ。遠目にではあるが、何度か四ノ宮とバスクの訓練を盗み見て動きを確認したところ、前回の試合からさしたる進歩は見られなかった。錬気を使えるようになった今なら勝てると思う。
もしも俺が試合を見守る第三者だったとしたら、村山貴久が勝つ方に持ってる甘味の大半を賭けられる。
だが、俺は第三者じゃない。当事者だ。
不測の事態はいくらでも考えられる。
戦力の分析があっていたとしても、四ノ宮がご都合主義的に覚醒しないとも限らない。
外部から妨害を受けて、できた一瞬の隙に殺されてしまう可能性もある。
考えても意味がない可能性だと分かっている。頭の隅に留めて警戒しているくらいしかできないのだから。
そもそも、可能性がゼロじゃないというだけの話。ほぼ確実に取り越し苦労に終わる。
分かっていても、そんな心配が頭の中にこびりついて消えてくれないのだ。
「……はあ。こんな状態じゃあ勝てる勝負も勝てなくなりそうだな」
溜め息をついて背もたれに体重を預ける。
体調は悪くないが、精神状態がよくない。
このままでは試合前夜に神経が擦り切れてしまいそうだ。
甘味を摂って気分を変えようとかっぱらった砂糖ツボを取り出して、匙を舐めようとしていると、こんこんと控えめなノックが響いた。
「? どうぞー」
とっくに日は沈み、城にいるほとんどの人が寝ている頃合いだ。誰かと思いつつも返事をする。
嫌な感じはしない。魔力もさほど大きくない。扉が開いた瞬間にコロされるなんてことはないだろう。
「失礼します」
扉が開く前にかけられた声にそんな心配も霧消する。
声の主はチファだった。チファが俺をどうこうするなんて考えられない。それに、仮に裏切られたとしてもチファなら諦めもつく。何か仕方ない事情があったのだと思える。
部屋に入ってきたチファはパンと果物が乗った小さなプレートを持っていた。
眠いのか目をしぱしぱさせたチファはえっちらおっちらプレートを運び、机の端に置いた。
「タカヒサ様、夜食です。よかったらどうぞ」
どこか得意げに、真っ平らな胸を軽く張りながらプレートを指し示すチファ。
いつもなら間違いなく寝ている時間に、わざわざ起きたのか。それとも寝ないで準備していたのか。
どちらにせよ、ささくれ立っていた心が和むのを感じる。
チファニウムとかそんな感じの癒し成分でも出しているのかもしれない。
「ありがとうな、チファ。……いただきます」
パンをかじり果物を口にする。甘味とわずかな酸味が口いっぱいに広がり、みずみずしさが喉に染みる。それほど喉が渇いていたことに今さら気付いた。
机に置いていた水差しからコップに水を注ぎ、煽る。
いくらか気分がすっきりした。
夜食を食べ終えて一息つくと何かを期待したようにこちらを見るチファと目があった。
その頭にぽんと手を乗せてやる。
「美味しかった。おかげでもうちょっと頑張れる。ありがとなー、チファ」
「はい! お力になれて何よりです」
元気よく返事をしたチファの頭をぐりぐりと撫でる。
うーあー、と変な声を出しながらもチファは笑っていた。
チファの髪は固くてごわついている。日本よろしく整髪料もないのだから当然だ。さらさらの髪なんて、貴族やそれに類する身分の金持ちでなければありえない。
手に伝わるチファの髪の感触は、とても滑らかとは言い難い。
けれど俺にとっては無性に懐かしい手触りだった。
どういうわけか、気力が湧いてくる。
みっともない姿は見せられないという気持ちが強くなる。
四ノ宮との試合に向けた不安感が消えたわけではない。剣術の試合と言って魔法を使うようなやつが相手なのだから、ろくでもない手を使われる恐れがある。
だが、それがなんだ。
四ノ宮は俺よりあらゆるスペックが優秀だろう。剣術も魔法も、単純な身体能力すらも四ノ宮に劣っている自覚がある。
しかし、負けていないと自信を持って言えることもある。
俺はさんざん弟に張り合ってきた。
弟は四ノ宮に負けず劣らず特別な人間だ。
そんな弟に対抗し、負けないために手を尽くしてきた。
格上相手とやりあった経験では、絶対に負けない。
頭を撫でていた手をおろし、立ち上がる。
「よし、チファのおかげで元気が出た。でももう遅い。チファは早く寝なさい」
「ええー。でも、何かお手伝いできることがあるかもしれませんし」
「俺ももうちょっと考えを詰めたらすぐに寝るよ。これ以上起きてたら明日に障る。ちゃんと寝て、明日に備えなさい」
「……はーい。寝過ごしてタカヒサ様が勝つところを見損なっちゃったら大変ですもんね」
チファは俺が試合に勝つことをまるで疑っていなかった。
無邪気な信用が背に重く、俺の笑顔はわずかに引きつってしまったと思う。
部屋に戻ろうとするチファの足取りがあまりにもおぼつかなかったので、俺も付き添うことにした。
すると案の定、チファは寝ぼけ眼で注意散漫。何もないところでこけそうになった。
とっさに受け止め、背負ってやる。なにやら抵抗していたが無駄である。チファ程度の重量は背負えば楽勝。錬気を使えば片腕で抱えてやれる。
背負って歩き始めるとすぐにチファはおとなしくなった。
抵抗を諦めたのかと思ったらうっすら寝息が聞こえてきた。
この歳の子がこの時間まで起きているのはきつかったらしい。
なるべくゆっくり、チファに衝撃を与えないように丁寧に部屋に運ぶ。
チファはマールさんと相部屋である。部屋に着くと、扉の隙間からわずかに光が漏れていた。
いつもより控えめにノックをすると寝間着姿のマールさんが扉を開けてくれた。
仕事中はまとめていることが多い髪もほどけていて、とても無防備な印象を与える格好だった。
マールさんはチファを背負う俺を見て全てを理解した様子。黙ったまま、微笑みながら部屋の中に入れてくれた。
俺もマールさんも無言のまま、チファをベッドに横たえた。
服も着替えさせた方がいいかもしれないが、さすがに俺がするのはまずい。マールさんに任せることにする。
布団をかぶせて、しばらくふたりでチファの安らかな寝顔を眺めて、俺は部屋を後にする。
去り際、耳元を口に寄せたマールさんに、
「あんまり心配させないであげてね」
とささやかれた。
唐突な近さに気が動転し、ちゃんと返事ができた自信がない。
―――
「チファも坂上も。簡単に言ってくれるよなあ」
部屋に戻ってベッドに腰掛け、愚痴ってしまう。
まるで勝って当たり前のように言う二人。
当の俺は四ノ宮との試合にさんざん怯えていたというのに。
どうして俺が勝つと思えるのか。その根拠を問いただしたい。
力を抜いてベッドに体重を預ける。見上げた天井は見慣れたもの。
これほど俺が不安だというのに、いつもとなにひとつ変わらない。
当たり前だ。俺がどれほど不安がっても、自信を持っていても、それで変わることなんてほとんどない。
せいぜい、近くの人からどう見られるかが変わるだけだ。
「……だからこそ、負けられないよなあ」
口をついたのはそんな言葉。
彼女たちが、俺が勝つと思った根拠は計算なのか信用なのか判然としない。
冷静な計算の結果、俺が勝つと考えてくれたなら大歓迎だ。
当てを外してしまったとしても、お前らの計算が間違っていただけだと言える。
できれば計算の経過と結果を見せてもらいたいくらいだ。自信につながるかもしれない。
信用というなら嬉しいが、手放しには喜べない。
ぶっちゃけ重い。自分で確信を持てないことに確信を持たれても困る。
勝手に期待されて、勝手に失望されてしまったら、きっと辛い。
過剰な期待も信用も、無い方が楽なのだが。
「こんだけ信用してくれる人がいるのに、みっともないところは見せたくないもんな。オトコノコとして」
どうせ負けられない戦い。彼女たちから信用されたものだと思い込むことにした。
久しく誰かに期待なんてされていない。
たとえ重くても、信用を背負って応えてみたい。
そんな願望があった。
ただでさえ精神的に追い込まれている時に余計な荷物を背負う自分に笑ってしまう。
けれど、これでいいのだと思う。
背水の陣というか、毒を食らわば皿までというか。
きっと、今の俺に必要なのはそういった開き直りだ。
今更じたばたするのはやめ。
いつも通り戦えば勝てる相手と戦うのに、勝手に根を詰めて自爆するなんてそれこそ馬鹿馬鹿しい。
夜食を食べてお腹もくちくなった。
なんやかんやで今日は疲れた。
ゆっくり休んで、明日に備えるとしよう。
目を閉じることしばし。
異世界に飛ばされて以来、健全この上ない生活を送っていた俺の体は、すんなりと眠りについた。




