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55.接触は突然に

 昼下がり。俺は城の廊下を歩いていた。

 お姫様にお茶会に呼ばれ、参加した帰りである。ちなみに会と言いつつ参加者は俺とお姫様だけ。お茶はジアさんが用意してくれた。

 そこで雑談したり、愚痴を聞いたり、外の話を聞いたりした。

 今のところ、俺はあまり城の外に出たくない。試合の一件で俺は住民に悪い印象を持っているし、向こうからしても俺は幼女虐待のハズレ野郎。魔力がないことは知れ渡っている。

 安全とは言い難く、訓練や勉強、休む時間を削ってまで行きたいとは思わなかった。観光したいなら石を投げられてもよけられるくらい強くなってからでいい。


 お姫様とのお茶会は楽しいとは言い難い時間だった。そもそも大嫌いなやつと顔を見合わせているだけで気分が悪い。参加したのはお姫様に疑われないため。戦況も聞いておきたかった。

 ジアさんがいくらか甘いものを用意してくれていたのも幸いし、途中退席はしなかった。

 とはいえ居心地が悪かったわけではない。ジアさんのサポートがあったし、お姫様も気を使ってきた。

 可愛い女の子に優しくされたらくらっと来てもおかしくないと思うが、お姫様に関してはその手の感情を欠片も抱けない。

 本当に、見た目だけならどこぞのラノベのヒロインで通るのに。惜しい。

 中身がまともでなくてもこっちに干渉してこなければ観賞用にはなったのに。

 そんなわりと最低なことを考えていた罰なのだろうか。


「ほら、こっちにね――」


 聞き覚えのある声を聞いた。

 反射的に魔力感知を発動させる。

 十万級の魔力がふたつ、近づいていた。

 まずい、と思った時にはもう遅い。廊下に隠れる場所はなく、分岐も遠い。ダッシュで逃げても本気で追われたら逃げ切れない。背中を斬られて終わりだ。

 気が付いていないふうを装って、自然体のふりをしてそのまま進む。

 ちょうど、曲がり角。ふたつの気配と接触する。


「――――ッ!」

「……あっ!」

「おっと」


 初めに四ノ宮が反応した。虚ろだった目に暗い光が宿る。

 四ノ宮は跳び退った。襲いかかってこなかっただけ上等な判断力だろう。いきなり魔法や剣で殺しにかかってくることも予想はしていたが、そこまでいかれていなかったらしい。腰に剣を提げていないので、そのせいかもしれないが。

 浅野は全身で「やってしまった」という内心を表している。どことなくユーモラス。浅野には俺に四ノ宮をけしかけるメリットはない。本当に予想外だったのだろう。

 俺は震えそうになる足と緊張に暴れまわる心臓を気力で抑え込んで、ぶつかりそうになった二人をなんでもないふうに避けた。


 結果として普段通り(に見えるはず)の俺。そんな俺を血走った目で睨みつける四ノ宮。間であたふたする浅野という構図が出来上がった。


「村山……お前……!」

「よう四ノ宮、元気そうで何よりだ」

「心にもないことを言うな!」

「失礼だな。心にもなくないのに」


 目が合うなり嫌そうに目を背けた四ノ宮に本心を告げる。

 四ノ宮には今後たっぷり働いてもらいたい。心が壊れて使い物にならないとかいったら役立たずにも程がある。

 軽く流した俺に腹が立ったのか、四ノ宮の周りで魔力がスパークする。

 ばちばちと閃光を走らせる姿は間違いなく臨戦態勢。幸いなのは、魔力が溢れているだけで魔法が発動する様子がないことか。

 しかし、その殺気立った視線は、こちらの対応次第で即座に襲い掛かってくると思わせるに充分だった。


「ちょっと征也、落ち着いて、ね?」


 浅野が暴走寸前の四ノ宮の背に手を当てなだめにかかる。

 よし、頑張れ浅野超がんばれ。今はまだ対四ノ宮の準備が完璧ではない。この場を浅野が収めてくれればそれがベストだ。

 期待を込めて浅野を見やると、落ち着くようにと背中をさすっていた手ごと、四ノ宮に振り払われた。

 これも予想していなかった展開なのだろう。突然振るわれた暴力に浅野は力なくしりもちをついて唖然としている。

 これはどうにも、駄目っぽい。


「うるさい、夏輝」


 なだめられるどころか火に油を注いだようで、四ノ宮は浅野をも睨みつける。

 さぞ凶悪な視線だったのだろう。浅野はひっと喉を鳴らしてうつむいてしまう。

 それを見て、自分の頭に血が上ったことを自覚した。

 どうしてなのか考える間もなく口を開いていた。


「ずいぶんかっこいいな、勇者様」

「……なんだと?」


 四ノ宮はおっかない視線を浅野からこちらに移した。

 言葉に込めた毒を感じられる程度の知性は残しているらしい。これだけ分かりやすく皮肉られて気付かないようならもう終わっているか。


「いや? 圧倒的に有利な状況で反則までして反撃喰らうような勇者サマは八つ当たりまで一味違うと思ってな。そこに痺れぬ、憧れぬ」

「馬鹿にしているのか!」

「え、言わなきゃ分からない? お前秀才って設定じゃなかったけ? ……ああ、勉強のできるバカってやつか」

「ふざけるなっ!」


 鼻で笑ってやると四ノ宮は面白いように激昂してくれた。

 やはり反射で使えるほど魔法が身に付いていないのだろう。まっすぐ殴りかかってきた。

 横に回ってかわしつつ息をつく。

 よかった。これで魔法を使うるようなら、殺すかとっておきを使うしかなくなるところだった。


「ふざけてるのはどっちだよ。これ以上人に濡れ衣着せて恥を上塗りするつもりか?」

「うるさい! この卑怯者め! 洗脳の魔法なんてどこで身に付けた!」

「いや、身に付けてないし」


 お姫様はえらく四ノ宮から俺へのヘイトをあげてくださったらしい。

 魔力をスパークさせた追撃の拳が迫る。俺はそれを後ろに跳ぶことで躱した。勢い込んで四ノ宮は追撃をかけてくるが、それも読み通り。

 四ノ宮の動きは速いが単調。というか、速いと言っても強化魔法を使ったシュラットと同程度。見慣れた速さだ。簡単にかわせる。

 攻撃を避けながら感知を使ってもうひとつの大きい魔力の方に向かう。


「俺は魔力がないんだぞ。なにをどうしたら洗脳の魔法なんて使えるんだ」

「黙れ卑怯者!」


 ガキかこいつ。癇癪起こしやがって。

 かわしながら考えてしまう。

 今なら四ノ宮は丸腰。そのうえ冷静さも完全に失っている。

 指を目に突っ込んで脳ミソ抉れば簡単に殺せる。

 右手の指先に錬気を集め、具現化して、これを目に突っ込むだけで――


「……自分で決めたとはいえ、めんどくさ」


 錬気で作った爪を消し、右手を下げる。

 ここで四ノ宮を殺すのはうまくない。

 殺してしまったら今後利用できなくなってしまう。

 死なない程度に痛めつけて拘束、というのは俺の技量では難しい。もしも四ノ宮が自力で回復魔法を使えるとしたらほとんど不可能だ。


 のちの安全を考えるならここで殺してしまうのがベストかもしれない。お姫様への嫌がらせとしても相当なものだろう。

 だが、殺さないと坂上に宣言してしまった。四ノ宮殺害はお姫様への嫌がらせにはなっても嫌がらせ止まりになってしまう。

 できれば四ノ宮の報復予防策をもっと練って確実なものにしておきたかったが、そうも言ってはいられない。こうして四ノ宮と出くわしてしまったのだから。

 人生、ままならないものだ。厄介ごとがやってくるのは決まって準備不足な時である。


 もう少しか、と再度感知をすると、巨大な魔力は間近にあった。

 どうやら向こうも気付いてこちらに向かってくれていたらしい。

 俺の背後から烈風が放たれる。

 唐突な衝撃に、殴りかかってきた四ノ宮が後ろに吹っ飛ばされる。四ノ宮は空中で受け身を取り、こちらを睨みつけるが、


「征也っ! 何をしている!」


 風を放った張本人、日野さんが四ノ宮の前に立ち塞がる。浅野も四ノ宮の後ろに追いついてきた。

 これでこの場は問題ないだろう。


「お前はまだ頭が冷えていないのか、征也」

「……リコ。頭が冷えてないって、なんだよ」

「なんだよ、とは?」

「だっておかしいだろ!? そいつはちっちゃい子を虐待するようなやつだぞ! それどころか、魔法で洗脳して、盾に使ったんだ! どうしてそんなやつを庇うんだ!」

「……はあ?」


 怒りをあらわにする四ノ宮に対し、日野さんは呆れと困惑を見せる。

 おおかた、お姫様にいろいろ吹き込まれたのだろう。

 虐待していたという噂は真実。チファが俺を庇ったのは魔法で洗脳されていたからとか。

 きっと、もっともらしく何度も刷り込まれたのだろう。

 予想通り過ぎて逆に悲しくなってくる。

 あんまり賢いやつを敵に回したくはないが、ある程度賢くないと会話が成り立たない。

 願わくば会話ができる程度のバカであることを。


「あのねえ、征也――」

「あ、日野さんストップ」

「え?」


 はあ、と溜め息をついて四ノ宮に何か説明しようとしていた日野さんを遮る。

 話の流れ的に俺が無実であることを伝えようとしたのだろう。

 ありがたいことだが、今は困る。ここで何か言っても四ノ宮を逆上させるだけ。

 日野さんがいる方に来たのはいざという場合のストッパーが欲しかったからだ。

 誤解を解いてほしいわけではない。


 驚いたようにこちらを向いた日野さんを手で制し、前に出る。


「なあ四ノ宮。もう一回試合をしないか?」

「村山くん!?」


 そして、提案する。

 日野さんは声を上げ、追いついて戸惑いながらも話の流れを見守っていた浅野は訳が分からないといったふうに目を白黒させている。

 おおかた日野さんは俺がもっと姑息なやり口で四ノ宮を倒すと思っていたのだろう。

 誤解である。手段を選ばなければ四ノ宮を倒すことは難しくないが、それだとあとあと面倒が残る。

 一度戦った手ごたえ、ダイム先生にもたらされた情報。そのあたりを勘案してみれば、魔法さえ使わせなければ四ノ宮は倒せない敵ではないと分かった。

 とはいえ、ただ勝てばいいのではない。逆恨みされても鬱陶しい。俺が四ノ宮を有効活用するにあたって、今みたいな短絡バカでいられても困る。

 日野さんや坂上、浅野の話を聞く限り、今の短絡的な暴走を繰り返す四ノ宮は本来の四ノ宮ではないのだろう。

 どうにかして復讐にボコり倒しても怨みを買わないように立ち回りつつ四ノ宮の目を覚まさせる必要がある。

 それも、四ノ宮が正気に戻るように俺が仕向けたとお姫様にバレないように、だ。


 自分で考えてあまりの面倒くささに頭を抱えた。

 まず、四ノ宮の目を覚ますためにはどうすればいいのか不透明。

 夜討ちをかければ四ノ宮を倒すことは難しくないが、それでは禍根が残る。

 これ以上怨みを買わないようにしようにも、お姫様のせいで何もしなくてもヘイトが上がる。

 いっそバカになって四ノ宮をぶっ殺すのが一番いいのではないかと思ったものだ。


 それでも短気を起こしてはいけないと考えて、思いついたことがある。

 が、確実とは程遠い。うまくいけば全部が好転するが、成功率は高くない。

 だが、他にいい方法も思い浮かばなかった。

 そもそも四ノ宮という相手がいる話。どれだけ作戦を詰めたところで確実なんてありえない。

 保険をかけられるだけかけて、とりあえずやるだけやってみる。最悪殺すにしても思いつきを試してからでも遅くないはず。


 もちろん、ここは日野さんに頼って撤退という選択肢もある。

 既に喧嘩を売ってしまった今では『あった』と過去形にするべきか。

 曲がり角でぶつかりかけた直後。四ノ宮は虚ろな目をしていた。

 しかし今では義憤と憎悪に爛々と目を輝かせている。

 浅野の説得で退いてくれるようなら暴走はしないと思えたが、退くどころか逆上する始末。

 ここで引き上げたとしても、俺という明確な敵を見つけた四ノ宮がどう動くか。想像に難くない。

 何の準備もできていない状態で不意打ちされるくらいなら、この場で挑んでできる限り準備を整えた方がいい。


「……試合、だと?」

「そう、試合。こないだ、お前が俺にふっかけたのと同じ形式で、同じルールで。……お前が俺を殴りたいのと同じで、俺だってお前に腹が立ってるんだ。けど、いつまでもいがみあってたって不毛だろ? だからここらで一回、きっちり決着を付けようじゃないか」

「はっ、そんな試合を受ける理由がどこにある。この場でお前を倒して、それで終わりだ」

「倒すってのは殺すってことか?」

「なっ!」


 四ノ宮は目を見開いた。


「そこまでは言っていないだろ!」

「でも、ルールなしの戦いで敵を倒すって言ったら殺すことじゃないのか? 言っとくが、仮にこのまま戦って負けたとしても、俺は生きてる限り報復を狙うぞ。それをお前が終わらせるには、俺を殺すしかないわけだが」

「っ、それは……」


 極論だけれどこれでいい。四ノ宮がルール無用の残虐ファイトに忌避感を持つように誘導する。

 幸い、四ノ宮は俺を殺そうとまでは思っていないようだ。

 気絶した俺を聖剣で斬ろうとした理由も、自分が殺されかけて錯乱していたとかそんなところだろう。


「だから、きっちりルールを決めて、後腐れなく決着を付けよう。結果を問わず、試合の件はそれで終わり。――どうだ?」

「…………」


 提案するも四ノ宮は渋い顔をして反応を示さない。

 何か裏がないか疑うような表情をしている。

 ……そうやって疑う頭があるなら、初めからお姫様たちの言葉も疑えっつうの。

ここらで爆弾を投下してやるか。


「まあ、無理にとは言わない。魔法を使わなきゃ格下相手にも勝てないような腕だもんな。チビリの勇者さまは」

「ッ!」


 これほど安い挑発にも関わらず、反応は劇的だった。

 知性の色をにじませていた四ノ宮の顔は怒りと羞恥で真っ赤に染まる。野郎の赤面とか見ても面白くもない。

 そんなザマでよく飛びかかってこなかったと逆に関心してしまう。

 静観していた日野さんも声を上げた。


「私は反対だ。準備だってまだ万全じゃないんだろう? 試合を挑むなら勝率を可能な限り上げてからでも遅くない」

「心配してくれてありがとう。でも、あんまり先送りにするのもよくない。こうして鉢合わせることもありうるわけだし。だったらさっさと決着をつけたほうがいい。なあ、そう思わないか? お前だって名誉挽回したいだろ?」


 言って、四ノ宮に同意を求める。


「……名誉、挽回?」

「そう。ハズレの勇者にちびらされて名誉返上したお前の汚名をそそぐチャンスだぞ?」


 揶揄すると四ノ宮の顔がゆがむ。やはりチビリという言葉はなかなかクリティカルらしい。


「……いいだろう、その試合、受けてやる!」


 第一関門、クリア。四ノ宮はあっさり試合に乗ってくれた。


 この条件で試合を受けてしまうことがそのまま四ノ宮の偽善の証明だ。

 本当に誰かのためを思っての行いならその人を救うまで決して諦めないはず。

 それなのに、こんなふうに負けたら諦めると言えてしまう。

 自分の納得のために戦っているくせに、それを誰かのためと声高に叫ぶ。

 これを偽善以外に何と言う。


「そうこなくっちゃ。そうと決まれば場所と時間はどうする?」

「場所は、あの広場でいいだろう。それに試合なんて今すぐ始めれば……」

「アホか。人を集めなきゃお前の名誉挽回にならないだろ。……明日の昼でどうだ? お姫様に声をかけりゃ兵士くらいなら召集できるんじゃねえの」

「……わかった。明日の正午、城門前の広場で決着をつける! 逃げるなよ!」

「はいはい。それじゃあまた明日な」

「あ、征也、待って!」


 いきり立って踵を返した四ノ宮の背を見送る。浅野は縋るようにその背を追った。

 試合に引っ張り出すことには成功。今すぐおっかけて四ノ宮の背中にドロップキックしたら面白そうだけど、そこはこらえる。

 さあて。予定は早まったが、やることは変わらない。

 四ノ宮撃滅戦、スタートだ。


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